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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第二章

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大樹の秘密


 深い霧の中、ハジメ達一行は大樹に向かって歩みを進めていた。先頭をカムに任せ、これも訓練とハウリア達は周囲に散らばって索敵をしている。油断大敵を骨身に刻まれているので、全員、その表情は真剣そのものである。もっとも、全員がコブか青あざを作っているので何とも締りがないが……

「うぅ~、まだヒリヒリしますぅ~」

 泣き言を言いながらお尻をスリスリとさすっているのはシアだ。先程から恨みがましい視線をハジメに向けている。

「そんな目で見るなよ、鬱陶しい」
「鬱陶しって、あんまりですよぉ。女の子お尻を銃撃するなんて非常識にも程がありますよ。しかも、あんな無駄に高い技術まで使って」
「そういう、お前こそ、割かし本気で俺の頭ぶっ叩く気だったろうが。しかも、逃げるとき隣にいたヤツを盾にするとか……人のこと言えないだろう」

 少し離れたところにいる男のハウリアが、うんうんと頷いている。

「うっ、ユエさんの教育の賜物です……」
「……シアはワシが育てた」
「……つっこまないからな」

 自慢げに、褒めて? とでも言うようにハジメを見るユエ。ハジメは、鍛えられたスルースキルを駆使して視線を逸らす。

 和気あいあいと? 雑談しながら進むこと十五分。一行は遂に大樹の下へたどり着いた。

 大樹を見たハジメの第一声は、

「……なんだこりゃ」

 という驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。ユエも、予想が外れたのか微妙な表情だ。二人は、大樹についてフェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していたのである。

 しかし、実際の大樹は……見事に枯れていたのだ。

 大きさに関しては想像通り途轍もない。直径は目算では測りづらいほど大きいが直径五十メートルはあるのではないだろうか。明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 ハジメとユエの疑問顔にカムが解説を入れる。それを聞きながらハジメは大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石版が建てられていた。

「これは……オルクスの扉の……」
「……ん、同じ文様」

 石版には七角系とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じものだ。ハジメは確認のため、オルクスの指輪を取り出す。指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じものだった。

「やっぱり、ここが大迷宮の入口みたいだな……だが……こっからどうすりゃいいんだ?」

 ハジメは大樹に近寄ってその幹をペシペシと叩いてみたりするが、当然変化などあるはずもなく、カム達に何か知らないか聞くが返答はNOだ。アルフレリックにも口伝は聞いているが、入口に関する口伝はなかった。隠していた可能性もないわけではないから、これは早速貸しを取り立てるべきか? と悩み始めるハジメ。

 その時、石版を観察していたユエが声を上げる。

「ハジメ……これ見て」
「ん? 何かあったか?」

 ユエが注目していたのは石版の裏側だった。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが空いていた。

「これは……」

 ハジメが、手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。

 すると……石版が淡く輝きだした。

 何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。暫く、輝く石版を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

“四つの証”
“再生の力”
“紡がれた絆の道標”
“全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう”

「……どういう意味だ?」
「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」
「……再生の力と紡がれた絆の道標は?」

 頭を捻るハジメにシアが答える。

「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」
「……なるほど。それっぽいな」
「……あとは再生……私?」

 ユエが自分の固有魔法“自動再生”を連想し自分を指差す。試しにと、薄く指を切って“自動再生”を発動しながら石版や大樹に触ってみるが……特に変化はない。

「むぅ……違うみたい」
「……ん~、枯れ木に……再生の力……最低四つの証……もしかして、四つの証、つまり七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔法を手に入れて来いってことじゃないか?」

 目の前の枯れている樹を再生する必要があるのでは? と推測するハジメ。ユエも、そうかもと納得顔をする。

「はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理ってことか……面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな……」
「ん……」

 ここまで来て後回しにしなければならないことに歯噛みするハジメ。ユエも残念そうだ。しかし、大迷宮への入り方が見当もつかない以上、ぐだぐだと悩んでいても仕方ない。気持ちを切り替えて先に三つの証を手に入れることにする。

 ハジメはハウリア族に集合をかけた。

「いま聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」

 そして、チラリとシアを見る。その瞳には、別れの言葉を残すなら、今しておけという意図が含まれているのをシアは正確に読み取った。いずれ戻ってくるとしても、三つもの大迷宮の攻略となれば、それなりに時間がかかるだろう。当分は家族とも会えなくなる。

 シアは頷き、カム達に話しかけようと一歩前に出た。

「とうさ「ボス! お話があります!」……あれぇ、父様? 今は私のターンでは…」

 シアの呼びかけをさらりと無視してカムが一歩前に出た。ビシッと直立不動の姿勢だ。横で「父様? ちょっと、父様?」とシアが声をかけるが、まるでイギリス近衛兵のように真っ直ぐ前を向いたまま見向きもしない。

「あ~、何だ?」

 取り敢えず父様? 父様? と呼びかけているシアは無視する方向で、ハジメはカムに聞き返した。カムは、シアの姿など見えていないと言う様に無視しながら、意を決してハウリア族の総意を伝える。

「ボス、我々もボスのお供に付いていかせて下さい!」
「えっ! 父様達もハジメさんに付いて行くんですか!?」

 カムの言葉に驚愕を表にするシア。十日前の話し合いでは、自分を送り出す雰囲気だったのにどうしたのです!? と声を上げる。

「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし! ボスの部下であります! 是非、お供に! これは一族の総意であります!」
「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」
「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」
「ぶっちゃけちゃった! ぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!」

 カムが一族の総意を声高に叫び、シアがツッコミつつ話しかけるが無視される。何だ、この状況? と思いつつ、ハジメはきっちり返答した。

「却下」
「なぜです!?」

 ハジメの実にあっさりした返答に身を乗り出して理由を問い詰めるカム。他のハウリア族もジリジリとハジメに迫る。

「足でまといだからに決まってんだろ、バカヤロー」
「しかしっ!」
「調子に乗るな。俺の旅についてこようなんて百八十日くらい早いわ!」
「具体的!?」

 なお、食い下がろうとするカム達。しまいには、許可を得られなくても勝手に付いて行きます! とまで言い始めた。どうやら、ハートマン軍曹モドキ(・・・)の訓練のせいで妙な信頼とか畏敬とかそんな感じのものが寄せられているようである。このまま、本当に町とかにまで付いてこられたら、それだけで騒動になりそうなので仕方なく条件を出すハジメ。

「じゃあ、あれだ。お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に、使えるようだったら部下として考えなくもない」
「……そのお言葉に偽りはありませんか?」
「ないない」
「嘘だったら、人間族の町の中心でボスの名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」
「お、お前等、タチ悪いな……」
「そりゃ、ボスの部下を自負してますから」

 とても逞しくなった部下達? に頬を引きつらせるハジメ。ユエがぽんぽんと慰めるようにハジメの腕を叩く。ハジメは溜息を吐きながら、次に樹海に戻った時が面倒そうだと天を仰ぐのだった。

「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない……旅立ちの日なのに……」

 傍でシアが地面にのの字を書いていじけているが、やはり誰も気にしなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


 樹海の境界でカム達の見送りを受けたハジメ、ユエ、シアは再び魔力駆動二輪に乗り込んで平原を疾走していた。位置取りは、ユエ、ハジメ、シアの順番である。以前、ライセン大峡谷の谷底で乗せた時よりシアの密着度が増している気がするが、あえて無視するハジメ。反応でもしようものなら前に座っているユエに即バレである。

 肩越しにシアが質問する。

「ハジメさん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」
「あ? 言ってなかったか?」
「聞いてませんよ!」
「……私は知っている」

 得意気なユエに、むっと唸り抗議の声を上げるシア。

「わ、私だって仲間なんですから、そういうことは教えて下さいよ! コミュニケーションは大事ですよ!」
「悪かったって。次の目的地はライセン大峡谷だ」
「ライセン大峡谷?」

 ハジメの告げた目的地に疑問の表情を浮かべるシア。現在、確認されている七大迷宮は、【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】である。確実を期すなら、次の目的地はそのどちらかにするべきでは? と思ったのだ。その疑問を察したのかハジメが意図を話す。

「一応、ライセンも七大迷宮があると言われているからな。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になりそうだし、取り敢えず大火山を目指すのがベターなんだが、どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろ?」
「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか……」

 思わず、頬が引き攣るシア。ライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識であり、つい最近、一族が全滅仕掛けた場所でもあるため、そんな場所を唯の街道と一緒くたに考えている事に内心動揺する。

 ハジメは、密着しているせいかシアの動揺が手に取るようにわかり、呆れた表情をした。

「お前なぁ、少しは自分の力を自覚しろよ。今のお前なら谷底の魔物もその辺の魔物も変わらねぇよ。ライセンは、放出された魔力を分解する場所だぞ? 身体強化に特化したお前なら何の影響も受けずに十全に動けるんだ。むしろ独壇場だろうが」
「……師として情けない」
「うぅ~、面目ないですぅ」

 ユエにも呆れた視線を向けられ目を泳がせるシア。話題を逸らそうとする。

「で、では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」
「出来れば、食料とか調味料関係を揃えたいし、今後のためにも素材を換金しておきたいから町がいいな。前に見た地図通りなら、この方角に町があったと思うんだよ」

 ハジメとしてはいい加減、まともな料理・・を食べたいと思っていたところだ。それに、今後、町で買い物なり宿泊なりするなら金銭が必要になる。素材だけなら腐る程持っているので換金してお金に替えておきたかった。それにもう一つ、ライセン大峡谷に入る前に落ち着いた場所で、やっておきたいこともあったのだ。

「はぁ~そうですか……よかったです」

 ハジメの言葉に、何故か安堵の表情を見せるシア。ハジメが訝しそうに「どうした?」と聞き返す。

「いやぁ~、ハジメさんのことだから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして……ユエさんはハジメさんの血があれば問題ありませんし……どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。ハジメさんもまともな料理食べるんですね!」
「当たり前だろ! 誰が好き好んで魔物なんか喰うか! ……お前、俺を何だと思ってるんだ……」
「プレデターという名の新種の魔物?」
「OK、お前、町に着くまで車体に括りつけて引きずってやる」
「ちょ、やめぇ、どっから出したんですかっ、その首輪! ホントやめてぇ~そんなの付けないでぇ~、ユエさん見てないで助けてぇ!」
「……自業自得」

 ある意味、非常に仲の良い様子で騒ぎながら草原を進む三人。

 数時間ほど走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。ハジメの頬が綻ぶ、奈落から出て空を見上げた時のような、“戻ってきた”という気持ちが湧き出したからだ。懐のユエもどこかワクワクした様子。きっと、ハジメと同じ気持ちなのだろう。僅かに振り返ったユエと目が合い、お互いに微笑みを浮かべた。

「あのぉ~、いい雰囲気のところ申し訳ないですが、この首輪、取ってくれませんか? 何故か、自分では外せないのですが……あの、聞いてます? ハジメさん? ユエさん? ちょっと、無視しないで下さいよぉ~、泣きますよ! それは、もう鬱陶しいくらい泣きますよぉ!」

 ハジメとユエは微笑みあった。
いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

新年、明けましておめでとうございます
今年一年、良い年だといいですね

次回は、土曜日の18時更新予定です
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