魔王&勇者編 後日談⑤ 説明回 上 ~世にも奇妙な声を添えて~
案の定というべきか、それとも衝撃的なというべきか、そんな開門シーンを目に焼き付けられた後、ハジメ達は狭いトンネルを進んでいた。
前には先導してくれているブラウ・ニーベルがいる。
モデル歩きだ。
すっごく腰がくねくねしている。鋼鉄より固そうな尻がふりふりしている。水着みたいな冒涜的な衣装が、めっちゃ食い込んでいる。パタパタしている小さな羽を無性に引き千切りたい。
「あ、あの……皆さん、どうして目を瞑りながら歩いているのですかコフー?」
アウラロッドの戸惑いに満ちた疑問に、ハジメ、光輝、浩介の三人は綺麗にハモりながら答えた。
「「「修行」」」
「そ、そうですか」
目を閉じても危なげなく歩く点は流石なのだが……
アウラロッドは思った。むしろ、現在進行形で苦行を積んでいるのでは? と。だって、三人とも時々うすく目を開けては苦悶の表情を浮かべて直ぐに閉じる、ということを繰り返しているから。
「ハッ!? やべぇ。今、気が付いたんだが……もしかして、この先に待っているのは妖精郷じゃなくて筋肉魔境じゃないのか?」
「「!?」」
筋肉妖精巫女のインパクトのせいで、なんとなくの流れのまま妖精の都に向かっているが、もし辿り着いた先が筋肉妖精オンリーの都だったなら……
光輝と浩介の足が止まった。もちろん、ハジメも止まる。まるで、目の前に不可視の壁でも存在しているみたいに。エガリ&ノガリマザーが「おう、早く進めよ」と押してくる。
「好奇心は我が身を滅ぼす……くっ、確かにあんたの言う通りだな、女神」
「分かっていただけて嬉しいのですが、なぜか釈然としませんコフーッ」
微妙な表情になっているアウラロッドの代わりに、ブラウ・ニーベルがしゃなりと振り返った。腰の動きが実に艶めかしい。
「あらやだ。そんなわけないでしょう? 妖精の姿は千差万別よ。こんなぽっちゃりさんは私達ニーベル一族だけね。恥ずかしいわん」
「あくまで〝ぽっちゃり〟で通す気か……」
ジト目になるハジメに、ブラウ・ニーベルのウインクがバチコンッと返される。意識が飛びかける。
「実際、妖精は妖魔や神魔の願いから生まれることがほとんどですコフーッ。元になった妖魔達の存在の大小にも影響されるのでコフーッ、姿形も寿命も本当に様々ですよコフーッ」
アウラロッドの説明に安堵を覚えつつ、ふと湧いた疑問をハジメが口にする。
「そう言えば、女神」
「コフ?」
「神魔の類いも存在するってことだったが、実在する伝承の場合、同じ存在が二体存在することになるのか?」
たとえば、地獄の悪魔。浩介が「そう言えばそうだな……」と頷く。
「存在する場合もあれば、存在しない場合もありますコフーッ」
「どういうことだ?」
「この世界に生まれる存在は、想念の流入によります。ですが、伝承の存在が実在する場合コフーッ、その想念は当然ながら実在へと向けられるのですコフーッ」
「……なるほど。天樹の類いが引き寄せ流すのは、あくまで行き場なく漂う想念だけということか」
今すぐマスクだけでも剥ぎ取ってやりたい衝動を堪えつつ、ハジメは「存在する場合ってのは?」と尋ねる。
「多くの人が抱く想念ならコフーッ、どうしたって余剰は発生します。ゴフッ。それらはこちらの世界へ流入し、他の世界の伝承に組み込まれる形で生まれることが多いですゴッ、コフーッ」
「なぁ、外に出るまでマスク外したらどうだ?」
イヤイヤッと首を振り、ササッと光輝の横に逃げるアウラロッド。そんな女神に苦笑いを浮かべつつ、光輝が「もしかして」と口を開いた。
「なぁ、南雲。確か、エヒトは人々の信仰心を力に変えていたよな? それって、もしかして想念に干渉していたんじゃないか?」
「ああ、あり得るな。実際、想念だとか念素と理解していたかは分からないが……」
「ちょっと待てよ、南雲、天之河。……エヒト、この世界で復活するんじゃねぇの? もういないし、決戦で殺したのは世間的には〝悪エヒト〟だろ? 〝善エヒト〟はまだ信仰されてるぞ」
「いや、ウーア・アルトが枯れた状態なら流入しないだろ」
「あ、そうか。……そう考えると解放者グッジョブになるのか?」
ハジメ達の会話に小首を傾げつつ、アウラロッドは、
「流入する想念が高まりコフーッ、その〝エヒト〟という方がこの世界で命を得たとしても、人格まで同じになるわけではありませんよゴフーッ」
先程の実在する伝承の場合も同じです、と補足を入れる。
要は、能力と姿形だけ似通った別人ということなのだろう。と納得しつつ、それはそれで……と光輝は敬意の見える目をアウラロッドに向けた。不審者ルックでコフコフッしているので直ぐに残念な者を見る目になったが。
「神魔や神獣の類いを一人で封じるなんて、アウラの本気は凄いね」
「勇者様、私がとてつもなく強いというより、この世界においては絶対的優位にいるから可能なことコフーッなのです。ゼェゼェ」
「……アウラ。呼吸が辛いなら、やっぱりマスク外したら? 遂に話しきる前にコフッてるじゃないか」
「大丈夫です、勇者様ヒュッ、ゴフッ。むしろ、なんだか妙に落ち着くのですコブーッ」
それはそれでどうなんだ……と思いつつ話の続きを促すと、アウラロッド曰く、この世界の存在は総じて念素により構成されており、アウラロッドは天樹の化身として、その念素に干渉できるのだという。
指先一つで消滅も生誕も自由――というわけではないのだが、たとえ他世界の最高神や戦神、あるいは邪神や大悪魔と称される存在であっても、この世界の生命である限り、相対すれば大幅に力を殺ぐことができるのだという。
それこそ、この世界の女神――最高神たる理由ということなのだ。
「まぁ、それでも他世界神話の子達を封じるのに力の大半を使ってしまっているので、結局、この有様ゴブですが……フゥッフゥッ」
自嘲気味にコフ~と項垂れるアウラロッドに、ブラウ・ニーベルが我慢ならんっとばかりに声を荒げた。筋肉がもりもり隆起する。否、自称脂肪が硬化する。
「卑下なさらないで、女神様! ニーベル一族は知っているわん! 代々語り継いでいるもの!」
「うっ、ブラウ・ニーベル、もう少し声を抑えて……」
「五千年前、前任の女神様にアウラロッド様が選ばれた時、既にどうしようもない状況だったのでしょう!? 前任の女神様はアウラロッド様に丸投げしたのよ!」
「い、いえ。天樹との適性的にコフッフ、神話存在を丸ごと抑えられるのが私しかいなかっただけで、決して丸投げしていったわけでは……」
とは言いつつも、女神を引き継いだ時、既に終焉を遅らせることしかできないレベルに詰んでいたのは事実。
実のところ、女神とは天樹との適性値が高い妖精から選ばれるところ、先輩女神が規定通りの任期ではなく、もう少し早い段階で交代してくれていたら……と思わなくもない。
しかも、普通の妖精に戻った先輩女神は、普通に家庭に入って寿命を全うしているし……
いや、当時はアウラロッドにバトンを渡すしかない状況だったし、女神の力を失った前任者に何ができたわけでもないのだが……
自分は五千年も働きづめ……
奴は温かい家庭で奥さん……
「くそが……」
「アウラ!?」
勇者召喚でようやく少しできた余裕の中、湧き上がった五千年越しの気持ちが言葉になって転がり出た。暗黒面がアウラロッドに囁きかける……こっち来いよぉ。
光輝が慌てながら話題を逸らしにかかった。
「そ、そう言えば、妖魔達が正気を失って伝承に引きずられているってことだったけど、伝承が人を守るような〝善〟のものだった場合もあるんじゃないのか? 彼等はアウラロッドの力になってくれたりは……」
「狂ってしまった彼等の第一の欲求はコフーッ、とにかく自身の源流たる想念の確保です。正気ではありませんから、たとえ伝承が〝善〟であってもゴブゴブーッ、理性的に味方になってくれたりはしませんゴフッフーッ」
なのに、戦い方は伝承に近づくので厄介なのだと、マスクを指でちょっぴり持ち上げるアウラロッド。新鮮な空気うまし。
なるほど……と納得している間に、ちょうどトンネルの終わりが見えたきた。扉の類いはなく、明るい光が見えて――
「おぉ……」
「綺麗だ……」
「外の荒れっぷりとは雲泥の差だ……まさに、妖精郷だな」
まず目に入ったのは、巨大な樹。天樹をそのままスケールダウンしたようなそれが、広大な空間の中央に存在していた。
緑生い茂る枝葉は瑞々しく、幹から水が溢れ出し滝を作っている。流れ出る水は地上で泉を作り、そこから幾本もの川が草花と木々の合間を縫うようにして流れている。
そして、大小様々な木造家屋、木の洞をそのまま使ったような住居が所狭しと並び、天樹の内壁は段々状になっていて、そこにも上から下へと家屋が設けられていた。
薄暗さはない。中央の巨木や内壁の一部が粒子を振りまくような光を帯びていて、まるで幾つもの木漏れ日に満たされた森の中のような様子だ。
まさに、水と緑の都というべき光景が広がっていた。
「なるほど。本当にいろいろいるんだな」
ハジメが目を細めて安堵と共に呟く。
視線の先には、淡い燐光を撒きながら空を飛び交う者や地上を行き交う者達がいた。
鳥は当然、犬や猫、果ては獅子や熊といった獣、エルフのような細身の人型に、掌サイズの小人。マリモやら光の玉、極めて透明に近い水のような存在。魚類もいれば、綿菓子みたいな姿も。
半透明の羽が生えている者もいれば、いない者もいる。
感動的でファンタジーな光景だった。……その分、ニーベル一族の異様さが際立つが。
ただ……
「……随分と静かな都になってしまいましたねゴブッ」
アウラロッドが沈んだ様子で――見た目が不審者なので推測だが――呟く。
確かに、活気があるとは言い難い静けさが漂う都だった。決して雰囲気が暗いとか、誰も彼も元気がないとか、そういうわけではない。
ただ、そう、敢えて言うなら……
「死期を悟った老人みたいだな……」
光輝の言葉通りだった。
妖精郷は、そこで生きる者達は、ただただ物悲しい達観と穏やかさに包まれていた。
「……いつだったかしらね。誰かが言ったのよん。女神様が戦い続けないといけないのは、自分達が存在するからだって。けれど、自殺なんてしたら余計に悲しませるだけだから、何もできないなら、せめて、これ以上新たな命を育むことなく、緩やかに、穏やかに滅びようってね」
「っ、そんな……そんなこと私は望んでいませんっ」
「ええ、分かってるわ。でもね、好きな人の役に立てないって、ただ見ていることしかできないって……想像以上に辛いのよん」
「……」
それが数千年も続いて、心が折れそうで。
そんな中で、ふと誰かが口にしたその提案は、アウラロッドの頑張りを知っているからこそ声を大にして賛同する者こそいなかったが、暗黙のうちに共有されてしまった。
結果、ここ千年で新たな妖精は生まれていない。残っているのは特に寿命の長い種だけなのだという。
ぐっと拳を握って俯くアウラロッド。今更ながらに、恐がって交流を絶ってしまったことが悔やまれる。
「……誰が悪いわけでもないよ。みんな、ただ疲れすぎてしまったんだ」
「勇者様……」
きっと、光輝の言う通りなのだろう。人より遙かに長い命を持っていても、きっと、この世界も、そこで生きる者達も、そして女神も、疲れすぎてしまったのだ。
「ブラウ・ニーベルさん、家に案内を。早く話し合いをして、行動を起こさないと」
「うふっ、了解よん! それと、あたしのことはブラウたんって呼んでちょうだい!」
バチコンッとレールガンより凶悪なウインクが光輝に飛ぶ。勇者、一瞬白眼になる。
そんな光輝を浩介が支えてやりつつ、ハジメ達はブラウ・ニーベルの後についていき、ようやく妖精郷の天辺近い場所に設けられている木造家屋へと到着した。
「今、お菓子とお茶を用意するわん。適当に座ってちょうだいな」
「……他の筋肉、じゃなくてニーベル一族は?」
警戒するハジメの質問に、ブラウ・ニーベルがフリッフリの純白エプロンをつけながら答える。
「姉妹は他の門と街中を守ってるわん。トラブルが皆無というわけではないから、基本的に拠点で待機してるのよん」
「争いが苦手なんじゃなかったのか……」
「苦手よん。だから怖くって泣いてしまうのだけど……そうするとみんな、直ぐに仲直りしてくれるのよん。優しいでしょう?」
「ニーベル一族だけは泣かせてはいけないってゴブブッ、確か言われてましたゴブッね」
「それは俺達と同じ心情なんじゃないのか? というか、女神。いい加減、その変質者ルックを解除しろよ。なんかゴブり始めてるし、ゴブリン化してるじゃねぇか」
「ゴブッ!?」
少しショックを受けた様子を見せつつも、アウラロッドはしかたなくサングラスとマスクとフードを外した。
ハジメ達は、より凶悪な姿になったブラウ・ニーベルの方へ視線を向けないようにしながら、大きな木製の長テーブルに座った。
広いリビングを改めて見回せば、ぬいぐるみと生け花の類いで溢れている。カーテンやカーペット、ソファーなどは桃色や白色で統一されており、実に乙女な雰囲気。
「雫の部屋みたいだな」
「え? 八重樫さんの部屋こんな感じ?」
「ああ、本人は隠してるから、天之河達幼馴染みと家族、俺とユエ達以外には秘密だろうが」
「今、まさに暴露したけどな」
光輝が困った顔になり、浩介は「俺、斬られないよな?」と少し青ざめる。
そこへ響いてくるブラウ・ニーベルのご機嫌な歌。なんか隠し味は妖精の粉~的な歌詞が聞こえてくるのだが……いったい、何を入れているのか。
極力気にしないようにしながら、ハジメは事情説明の口火を切った。
「さて、ようやく腰を落ち着けたところで、いろいろ聞かせてもらおうか」
アウラロッドは神妙な表情でこくりと頷き、そうして語り始めた。世界を救う術と、ハジメ達の望む世界の話を。
「ちょっ、ちょっと待って。情報量が多すぎるわ、一度整理させてちょうだい」
シンクレア王国王宮のテラスに、雫の戸惑い混じりの声が響いた。アウラロッドの説明をしばらく聞いた後のことだ。
ハジメは苦笑い気味に映像を止める。見れば、ユエ達もモアナ達もみな必死に頭の中を整理しているようだった。
「あと少しだぞ?」
「既にお腹いっぱいですよ」
シアがウサミミをうねんっとしながら言う。それほど、ウサミミにしたことのない新たな情報が多かったのだ。
ティオが腕を組みつつ、片手の人差し指で頬をトントンッとタップしながら思案顔でまとめる。
「ふぅむ……ご主人様の推測通り、異世界は九つあり、大樹もまた全ての世界に存在する。更に、それらを支える根本の世界があるわけじゃな」
「……ん。根本の世界を〝真界アストラル〟、大本の大樹を〝世界樹〟。各異世界の大樹の総称を〝世界樹の枝葉〟と呼ぶ」
「ハジメくんが名付けたんだよね。アウラロッドさんの女神様用語だと私達にはイメージしづらいから」
「ああ、そうだ。地球の伝承を参考にしてみた。なんつっても、アウラロッドの根本世界の説明が、いかにもだったからな」
曰く、そこはただ一本の想像を絶するほど巨大な樹があるだけの世界なのだという。
ハジメは茫洋とした目を虚空に投げながら諳んじた。
「――天は地となり、地は天となる。時は流れると同時に遡り、生と死は無限に循環する。過去・現在・未来は意味を失い、全ての可能性が集束する永遠の世界」
そうして、アウラロッドは言った。
辿り着けば、望む全ての解が与えられる。だが、それは小さな器に大瀑布の水流を注ぎ込むようなもの。人の身には、否、たとえ神格を有する存在であっても到底耐えられず、望んだ瞬間に破滅する、と。
故に、
「〝大いなる世界の記録庫〟……アウラロッドのような化身でも自ら辿り着くことはできず、また望んではならない禁忌の世界」
まるで、地球で言うところのアカシックレコードみたいだろ? と苦笑い気味に肩を竦めるハジメに、ユエ達はどんな表情をすべきかと困ったような雰囲気になる。
もちろん、モアナ達は知り得ないワードだが、言葉尻から想像の埒外にある世界だというのは察せられて、思わず身震いしている。
「もしかすると、九つの異世界とは全く異なって、〝星〟ですらないのかもしれないな」
「……概念的な世界ってこと?」
「アウラロッド達化身は、化身となる際、何か果てしないものと繋がったような感覚になるらしい。だが、世界樹から格別に知識を与えられたりはしないそうだ。アウラロッドも、初代天樹の化身から口伝で伝えられてきたことを前任者から受け継いだだけで、実際に行ったことがあるわけじゃないらしいしな」
ハジメが嘆息と共にそう言えば、途中から呆けていた龍太郎が乱暴に頭を掻きむしった。
「取り敢えず、よく分からねぇけど、なんかすげぇ場所ってことでいいんじゃね? 聞いてるだけで、俺は頭が痛くなってきたぜ」
「龍くん、図書館に入っただけで気分が悪くなるもんね。つまり、そういうことだよ」
「ああ! 流石、鈴! 分かりやすいな!」
流石は脳筋の彼女。簡潔な説明に長けている。
「まぁ、坂上の言うことも間違っちゃいないな。アストラルのことは、その程度の認識でいいさ。どうせ好奇心と趣味の範疇だしな」
「ハジメさん、マッド根性発揮して突撃したあげく、頭パァになって帰ってきたりしないでくださいよ?」
「お前は俺をなんだと思ってんだ」
「家族の制止もスルーして研究に没頭し続けた結果、私のジャーマンスープレックスを受けて一時的に頭がパァになる人です」
前科たっぷりのハジメは、そっと視線を逸らした。
気を取り直すように、雫が苦笑しながら「え~と、九つの世界は確か……」と話を進めた。鈴と龍太郎が視線を虚空に彷徨わせつつ、指折り数えていく。
「え~と、地球は〝地球〟だよね。それで、地球にあったはずの〝世界樹の枝葉〟は〝王樹〟って呼ぶことにしたんだっけ?」
「〝トータス〟と〝大樹〟はそのままで……地獄も〝地獄〟のままだな。で、地獄のは〝魔樹〟だったか」
二人して、その視線を浩介へ向ける。実は、そのネーミングだけは浩介の発案だからだ。魔王の出身世界と隣接世界の大樹なんだから、合わせて〝魔王樹〟とかどうよ、と。
冴え渡る厨二的発想力に、映像を見ていた全員が生暖かい目になったのは言うまでもない。なので、浩介は今、椅子の上で三角座りをし、膝に顔を埋めている。こんな俺を見ないで……
「ルトリアさんの世界は、〝星霊界〟と〝星樹〟でしたね。シンプルで分かりやすいです」
「妾と迷い込んだ世界は〝天竜界〟で、〝竜樹〟じゃな。うむ、確かに分かりやすい」
「後は、主が苦労された機械の世界――こちらは〝機工界〟と〝聖樹〟、アウラロッドの世界は〝妖精界〟と〝天樹〟となります」
これで七つ。それから……ん? 今、誰がしゃべった? とユエ達が思考の渦から顔を上げる。が、その前にハジメが続けたので意識が逸れる。
「エヒトが元々いた世界も、存在自体は確認した。奴は滅びたと言っていたが、星自体は健在みたいだ。これは〝厄災界〟〝怨樹〟と名付けた」
「エヒトへのヘイトが溢れ出たネーミングね。まぁ、厄災に見舞われた世界だし、世界樹の枝葉が健在なら、星を滅ぼされて怨念くらい抱いてそうだけど」
「だろ?」
雫の苦笑いに、ユエ達も同じような表情になった。続きを引き継ぐように、今度はクーネがツインテをひょこひょこさせながら手を上げた。
「クーネ達の世界が〝砂漠界〟と〝恵樹〟ですか……魔王様、抗議します! いずれクーネが緑溢れる世界にするのですから、〝自然いっぱい界〟とか、いっそ〝クーネ界〟がいいと思います! 絶対にその方がいいと、クーネは断言しますよ!」
「素晴らしい提案だわ、クーネたん! 戴冠式に合わせて、世界名も〝クーネ界〟と公表しましょう!」
女王の地位を譲ってから、どうにもポンコツ臭がしないでもないモアナを置いて、しっかり者で男前な近衛のリーリンが難しい表情になる。
「そんなことより、この世界のフォルティーナ様の恵樹があるなら、それを探すべきではありませんか?」
リーリンの言葉に、スペンサー達が頷いた。知識深いリーリンの実父リンデンが思案顔で言う。
「遙か西の果て、陽の沈むその場所に恩恵もたらす巨木ありと、確か伝承にありますな。戦争の中で多くの書物が失われてしまったのが悔やまれますが……いずれにしろ、西は長きにわたって〝暗き者〟達の領域でしたから、もし伝承が真実であっても、おそらくは……」
「だが、リンデンよ。フォルティーナ様は実在する。光輝殿の召喚が何よりの証拠だ。であるなら、〝世界樹の枝葉〟もまた健在であると考えるのが自然ではないか?」
ぷるぷる震える宰相のブルイットお爺さんの言葉に、「確かに……」と頷く一同。
それに対し、ハジメがあっさりと答えを出した。
「あるぞ。〝恵樹〟は健在だ。だが、距離的には星の反対側と言えるくらい遠い。十中八九、この大陸の外だな」
星樹ルトリアが、北の最果てにある孤島に存在したように、恵樹フォルティーナもまた最果ての隔離された場所にあるのでは? という推測は、羅針盤から伝わる感覚からして間違いないだろう。
「ただ、この世界は人も自然も減りすぎた。さっき、多くの書物も失われたと言ってたし、完全に忘却された伝承も多いだろう。必然的に想念の総量自体が減少してるはずだ。もしかするとフォルティーナ自身も弱っているかもしれない」
「そうですね……魔王様、どうかご助力を……」
恵樹フォルティーナの正確な位置が分かるのは、羅針盤を持つハジメしかいない。仮に、フォルティーナが託宣で導いてくれたとしても、クーネ達だけでは、まさに果てしない旅になることは必定。
クーネの天恵術〝再生〟は有効だろうが、シンクレア王国の立て直しこそ急務の今、そんないつ終わるともしれない旅に女王が出るわけにはいかない。
そんな思いを込めた懇願に、答えたのはユエの方だった。
「……クーネ、忘れた? ハジメは最初から〝世界樹の枝葉〟全てを復活させるつもり」
「あ……そうでした。それこそが妖精界を抜本的に救う手立てでしたね」
映像で見聞きしたことを興奮と憂慮のあまり忘れていたクーネが、恥ずかしそうに頬を赤らめた。こういうところは八歳の女の子らしい。
ティオが、微笑ましそうにクーネを見ながら情報整理の方へ話の内容を軌道修正する。
「結局、妖精界が真に滅びを回避するためには、想念の流入を戻す必要があるわけじゃな? そのためには、〝世界樹の枝葉〟を復活させる必要があると」
「ああ、そういうことだ。その時間稼ぎのために、俺達はまず、妖精界の東西南北に存在する〝小天樹〟の復活に動いたんだ」
アウラロッドが説明した妖精界を救う方法は、大きく二段階に分けられていた。
第一段階が、かつて、妖精界の澱んでいく想念を少しでも浄化し循環させるために前任女神が生み出したもの――大陸の四方に枝分けして配置した〝小天樹〟を復活させること。
既に現存するのは北と東のみで、西と南はそこにあった生き残りの都と一緒に、妖魔達によって朽ちてしまっていた。
再度復活させる余裕など、天樹の守護から離れられないアウラロッドにはなく、じり貧状態だったわけだが……
これをハジメ達が復活させられれば、少なくとも天樹が存在する大陸においては、妖魔達も、ある程度、正気を取り戻せるという。
そうして、妖精界滅亡の時間稼ぎをしている間に、各世界の〝世界樹の枝葉〟を復活させていくことで想念の流入量を戻し、根本的に救うというわけだ。
「とはいえ、〝世界樹の枝葉〟を復活させても想念自体が少ない世界も多そうだからな……いずれにしろ、妖精界の完全復活には相応の時間がかかるだろう」
この砂漠世界しかり、地獄や天竜世界、厄災世界に機工世界もまた、想念を生む〝人〟の存在が少なすぎる。地獄と厄災世界以外は復活の兆しが見えてはいるが。
「まぁ、地球の王樹とトータスの大樹復活でそれなりに持ち直すだろ。地球は特に想念の宝庫だしな」
「……ハジメ、あくどい」
ユエのジト目がハジメに突き刺さった。シア達も同じだ。
なぜか。
それは、〝世界樹の枝葉〟の復活計画において、現存するが弱っている世界はハジメが対応するものの、地球や地獄のようにそもそも失われている世界においては、アウラロッドが対応する点にある。
ティオが呆れ気味に口を開く。
「弱った〝世界樹の枝葉〟には恩を売り、一から復活させた場合はアウラロッドに〝対価〟として干渉権を譲らせる……ご主人様よ。お主、全ての〝世界樹の枝葉〟を掌握する気かえ?」
つまり、そういうことだった。〝世界樹の枝葉〟が復活した後、化身が選定ないし生まれた場合、その者が果たして干渉権を認めるかは分からない。
ならば、アウラロッドに女神の権能を以て復活させることで、その〝枝葉〟の創生者としての権能をも保有させ、それを以て〝ルトリアの宝珠〟のような干渉用の神器というべきものを創らせようと考えたわけだ。
もちろん、ルトリアのように渋々創ったようなものでなく、その〝枝葉〟専用の白紙委任状ばりに強力な干渉用神器を。
それなら、アウラロッドがたとえ女神でなくなったとしても、それがある限りハジメの干渉権は変わらない。かもしれない、というわけである。
「アウラロッドさん、めっちゃイヤイヤッてしてましたよね……」
「また、約束破るんだぁ~って責められて、最終的に泣きべそかきながら承諾してたよね……」
「ハジメ……アウラロッドさんにも、もう少し優しさを分けてあげてもいいと思うわよ?」
「いえいえ、あれでこそ主ですよ。全ての世界を掌握する日も近い。超楽しみ」
「南雲君、無限の魔力まで手に入れたのに、いったいどこに向かってるの――あれ? 今、誰がしゃべって――」
鈴がキョロキョロするが、その前に、暗黒面から滲み出るような声が響いて気を取られる。
「……あの女――じゃなくて女神、光輝と一緒に戻ってくるのよね……」
おや? 何やらモアナさんの様子が……
「お、お姉ちゃん?」
「女神としての最後の仕事を終えたら、なんだったかしら? ふふ、光輝と何になるって言ってたかしら?」
実は、映像を見ながら始終テーブルと椅子をガタガタさせていたモアナ。涙目でハンカチを噛み締め、「な、何よ、あの女! 光輝にベタベタして!」と嫉妬に塗れていたのだ。
その傍らでは、リーリンが「ライバル? 私は一向に構いません。元女王も元女神も、まとめて蹴散らすのみッ」と闘志を燃やしていたりする。
その嫉妬と闘志がピークに達したのは、アウラロッドの乙女な展望を聞いた時のことだ。
モアナが口にした〝最後の仕事〟の後のことである。
そう、アウラロッドさん、世界救済を機に、遂に退職する決心をしたのだ!
妖精界がひとまず落ち着き、〝世界樹の枝葉〟復活の旅に光輝と出るのなら、きっと異世界に適性者はいるはず。見つけ次第、その者に女神を譲り、そして――
「モアナ様、夫婦です。先輩女神のように、退職して光輝さんの家庭に入りたい的なことを遠回しに言いやがってました。光輝さんは聞こえないふりをしてましたが……一度、シメないといけませんね」
「そうね! どっちが上か教えてやらないとね! 女神がなんぼのもんよ!」
「私の風がうなりを上げますよ! 来るならこい!」
光輝を巡って略奪愛宣言だとか、裏切り者~っと罵倒したりだとかしていた元主従が、再びタッグを組んだ瞬間だった。
幸せになりたいブラック女神の受難は、退職後も続きそうである。
「そ、そう言えば魔王様! 結局、〝勇者〟とはなんだったのですか? 聖剣も何か関係があるのですよね?」
姉と側近の有様に、自分の将来を思ってか少々引き攣り顔のクーネが、話題を逸らすように声を張り上げた。
「映像をストップしなきゃ次にその話に移っていたんだが……まぁ、さくっと説明しとくか。アウラロッドの奴、憧れのタレントを語るファンみたいというか、推しを語るオタク並に余計な説明を入れまくってたからな」
趣味に関しては饒舌になってしまう点、自分もまた同じ人種なので苦笑いを浮かべつつ、ハジメが簡潔に説明した。
それによると、勇者とは、〝世界樹の枝葉〟の守護者となる資質を持つ者のことなのだという。
つまりはアウラロッドのような〝世界樹の枝葉〟の化身と同じなのだが、化身の場合、最後の砦でもあるので原則的に〝枝葉〟から離れることができない。
内外の厄災や、その世界の生命の営みの中での争いなどで世界のバランスが狂い始めた時、化身の手足となってバランサーの役割を担うのが〝勇者〟なのだ。
だから、化身が助力を求めて召喚を行えば必ず勇者に繋がる。また、世界樹が資質を認めた存在であるから、勇者は世界の隔たりを素通りできてしまう。その副作用的な効果で、無差別で世界に孔を穿った場合も、勇者のもとに繋がることが多いのだとか。
「で、その資質こそ、〝たった一人の大切な存在を切り捨てても、その他大勢のために身命を賭せる者〟らしい。まさに、あいつだな」
雫達は「なるほど」と納得顔になり、モアナ達は納得の中にどこか悲痛さと深い想いを湛えた表情を見せた。
少しの間、静寂が漂った。けれど、決して嫌なもののない静けさであったのは、やはり、ハジメの表情のせいだろう。
呆れているようにも、感心しているようにも見える。不機嫌そうで、けれど、どこか笑っているようにも見える、なんとも表現の難しい不可思議な表情。
釣られるようにして、自然と誰もが穏やかな気持ちになって、一呼吸おくように紅茶へ手を伸ばした。
喉を潤し、ふと、ユエが小首を傾げた。
「……ん? ハジメ、ハジメ」
「なんだ?」
「……それならどうして、シアは召喚された?」
ユエの疑問に、「あ、そう言えば……」と香織達の視線が一斉にシアへ向く。事情を知らないモアナ達が首を傾げているので、ティオが簡潔に説明し、それを待ってハジメは推測を口にした。
「たぶんだが、ルトリアが勇者召喚を強く拒んでいたからじゃないか? だから、勇者以外の場所に孔が開いた」
「ああ、ルトリアさん。人類滅ぼす覚悟ガン決まりでしたもんね……」
「う~む……しかし、ご主人様よ。それは光輝が召喚されない理由にはなっても、シアが召喚された理由にはなっとらんぞ?」
「そうか? あいつ以外が召喚されるなら、それこそ遠藤がマザーに召喚された時みたいに明確な指定でもしない限り、シアのところに開くのは別に驚かないぞ? 昔、お前が言ったことじゃねぇか。たぶん、それが理由だろう」
「む? ……ああ、そういう」
モアナ達や、浩介まで頭上に〝?〟を浮かべる中、かつて、直接その言葉を聞いた香織が朗々と歌うように口にした。
「――怯えながら一歩を踏み出し、泣きべそを掻きながら戦い、愛した者と、友の傍に立ち続けた。妾からすれば、光輝も、それどころかご主人様ですら、その称号には不相応。真に〝勇ある者〟とは、シア・ハウリアのことである――だったね」
「おっふ」
シアのウサミミがぺたりと前に折り畳まれる。そのまま前に垂れたウサミミで目隠し。雫のポニテガードならぬ、垂れウサミミガードを発動。
「世界樹の枝葉が求める資質じゃあないかもしれないが、お前、なんだかんだでお人好しだからな。結局、切り捨てられなくて連中に手を貸してたし、ルトリアにも正面からぶつかって心をかわしてたしな」
「さしずめ、準勇者といったところかの?」
「シアシア、南雲君に染められてなかったら普通に勇者になってたりして」
「あり得るわね。これも魔王に堕とされたということなのかしら?」
「うさ~」
「……シア、今まで、そんな擬音出したことない。恥ずかしいの? ねぇねぇ、恥ずかしいの?」
「ユエがシアを弄ってる! 珍しい……」
「……シア、かわゆす」
ユエにつんつんっとされて、シアはますます恥ずかしそうだ。
そんなユエとシア、そしてさりげなく参加している香織にほっこりした表情を見せつつ、ハジメは最後に補足を入れた。
「ちなみに、聖剣だが……想像通り、大樹から生み出されたものらしい。大樹の底の底、根底に近い場所では根と地下鉱石が融合しているようでな、それを主材料にしているようだ」
「なるほどね。だから、ハジメは聖剣のメンテナンスくらいしかできなかったのね」
かつて、聖剣の改良をしようとした時、ブラックボックスが多すぎて、結局、ハジメは経年劣化を修繕して聖剣本来の力を発揮できるようにした以外では、外付けオプションを付加することしかできなかった。
「ああ、聖剣に干渉しきれなかったのは、大樹素材も混じってたからだな。……一応言っておくが、アウラロッドみたいに化身が自ら変化したものじゃないぞ。あれはアウラロッドの頭がおかしいだけだ」
「……それじゃあ、意思があるように見えたのは気のせい?」
「いや、意思は宿ってる。古すぎるせいか俺達じゃあどうあっても言葉を交わせなかったんだが、アウラロッドはある程度なら意思疎通できたんだ」
曰く、宿っているのは初代大樹の化身ウーア・アルトの意思。
エヒトがトータスに降り立ち、その牙を剥き始めて数百年が経った頃に、対抗するために創り出されたそうだ。だが、当時の勇者もウーア・アルト自身も最終的にあえなく敗北し、最後の力でウーア・アルトの魂を移したのだという。
ハジメは、チラッと浩介を見た。浩介もチラッとハジメを見た。二人して頷く。
「ちなみに、アウラロッドと同じで――元女神だ」
「「!?」」
モアナとリーリンの目がくわっと見開かれる。クーネのツインテもぴょこんっと跳ねる。
浩介が追加情報をプレゼント。
「女神さんの力で魂魄の形をほんの少しの間だけ具現化してもらったんだけどさ……黒髪のすげぇ綺麗な女の子だったよ。見た目は十五歳前後のな」
「「!!?」」
モアナとリーリンからずわっと闘気が噴き上がる。クーネのツインテがぶるんっぶるんっと荒ぶり始めた。
「やっぱり直接言葉はかわせなかったけどな、天之河の奴が感極まったみたいに今までの感謝を伝えると、こうふんわりした笑顔を浮かべたんだよな」
「そうそう、ありゃあ、まさに女神の微笑だよ」
「一途とか、献身って言葉が似合う女神だったな」
「天之河の奴、あの微笑を見て赤面してたもんな」
「アウラロッドが危うく邪神になりかけるくらいにな」
「「「……」」」
もはや何も言うまい。モアナとリーリンがガタッと椅子から立ち上がった。戦のウォーミングアップを始める気だろうか。クーネが何やら思案顔だ。絶対、ろくでもないことを画策しているに違いない。
そして、そんなモアナ達を見てクククッと笑いながらハイタッチを決めるハジメと浩介に、ユエ達からは盛大な呆れ顔が送られた。
「トータスにも、歴史上、何人か勇者が存在していましたが、彼女はいつも献身的でした。私ほどではありませんが、母性に溢れる人格者ですよ。聖剣に宿る前も、エヒトに最後まで抗っていました」
「大樹にそんな過去があったんだね……あれ? 今の声……」
「……ん。ある意味、ミレディ達より長くエヒトと戦い続けた存在……ん? 今、誰がしゃべったの?」
香織とユエが同時にキョロキョロ。そうすればティオとシアも顔を見合わせる。
「なんじゃ、さっきからちょくちょく知らぬ声が聞こえとったが……やっぱり気のせいではなかったか?」
「なんでしょうか……微妙にウザい口調というか、雰囲気というか……」
「女の人の声、だよね?」
鈴が怯えたようにキョロキョロする。新情報でいっぱいいっぱいだった頭も、ほぼほぼ整理できて余裕ができたせいか、他の者達も困惑したように声の主を探る。
だが、元より人の出入りなど認めていない固定メンバーでのお茶会だ。
知らぬ声など入るはずもないのだが……
「主、主。そろそろ映像を再開しませんか? 勇者の説明は早送りで、私達の正体、大暴露シーン! ポロリもあるよ! いやんっえっち! を上映しましょう!」
「ポロリどころの話じゃなかったけどな」
全員の視線が、実に楽しげな声の出所をようやく探り当てる。
ギギギッとぎこちなく、まさかという思いで焦点を合わせ――
「ふふふっ、ようやく気が付きましたか? ヴァカめっ!」
実に腹の立つ、両脚の先で指を差すポーズを取ってそんなことを言ったのは何を隠そう、ハジメの頭の上の蜘蛛。
そう、
「エガリさんダヨ!!」
イ゛ィ゛!!と鳴くことしかできなかったはずの、いや、それも本来はおかしかったのだが、とにかく、話せなかったはずのエガリさんだった。
めちゃくちゃ流暢で、かつ、美声である。
しんっと静まり返る空間で、ユエ達はハジメの頭上のエガリさんを穴が開くほど凝視し……
一拍。
「「「「「キャァァアアアッシャベッタァアアアアーーーッ!?」」」」」
まるで、ムンクの〝叫び〟みたいな有様で悲鳴を上げたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。
※ネタ
・ヴァカめっ ソウ○イーターの某聖剣様より。
・キャァアッシャベッタッ 調べたらマクドナルドのCMが元祖らしいです。
・アカシックレコード 厨二好きなら避けては通れない。
※聖剣の改造の件は書籍準拠です。
※ティオのシア勇者発言は8巻準拠です。ハジメ達はトータス旅行時に知った呈です。
※すみませんが、お知らせをさせてください。
7月25日、【原作小説11巻】が発売します!
魔王城編と決戦準備編です。優花や浩介をメインに、クラスメイト達の活躍を加筆しています。番外編はティオの里帰り話です。姫様のせいで阿鼻叫喚の地獄絵図と化す竜人の里をお楽しみいただければと。
特典SS等含め、詳細は活動報告orオーバーラップ様のHPにて! お手に取っていただければ嬉しいです。
http://blog.over-lap.co.jp/tokuten_arifureta11/