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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅣ
374/551

魔王&勇者編 悪化?否、深まったのだ!




「時間を稼いでください! 統合コアを特定します!」


 轟音と高笑いで震える戦場に、G10の言葉が響き渡った。


 統合コア――聞き覚えのない言葉である。が、ハジメも光輝も卿も、その意味を問うことなく瞬時に察した。


 ハジメは魔眼で、光輝と卿はサングラスで、巨大な流体金属型機兵〝統合天機兵〟の異常さを確認していたから。


 そう、天機兵唯一の弱点たるコア――それが星の数と表現すべきほど無数に内包されていることを。


 ハジメの弾丸がそのうちの一つを撃ち抜くが、天機兵一体分くらいの範囲が崩壊して流れ落ちただけで、それも直ぐに再生してしまう。圧倒的質量と無数のコアが、天機兵に戦場での絶対的優位を与えているのだ。


 だが、無敵ではない。おそらく、これだけの天機兵を統合し一体の機兵として運用するためのコアがあるに違いなく、それこそが統合コアということなのだろう。


「レディの頼みとあっては断れん! よかろう! この深淵卿の深き闇にて――」

「G10、時間は?」


 誰かが何か言っている気がしたが、今はそれどころではないので無視。


 ハジメは、横殴りに襲ってきた極太の丸太の如き触手に対し、そのコアの一つを撃ち抜いた。ドパッと触手の一部が崩れ、アーチ状の回避空間が出来上がる。そこをリンボーダンスのように身を仰け反ることで通り抜けつつ、端的に質問を飛ばした。


「解析完了まで六百秒です」

「ふははっ、たったの十分だと!? それならば時間稼ぎと言わず、このアビスゲートが倒して――」

「三百でやれ」

「無茶を言いますね。ですが、やって見せましょう!」


 ちょくちょく会話の間に変なノイズが割り込んでくるが、ハジメもG10も気にしない。


「来るぞっ! 備えろ!」


 光輝が鋭く警告を発する。


 統合天機兵が発していた青白い光が、頭頂部の一点に集束していく。直後、その場所が筒のような形状に変化。集束されたエネルギーが、まるでSFに出てくる宇宙戦艦の砲撃の如く放たれた。


 視界を埋め尽くす壁のようなエネルギー砲撃を、最初に狙われた卿が横っ飛びで回避する。


「フッ、我が深淵を前に光など無意味――」

「疾っ」


 視界の端で誰かが回避からの流れるようなターンを決めているようだったが、ツッコミを入れたいのを辛うじて我慢して、光輝は伸長する抜刀術により触手の砲塔を根元から断ち切った。


 横薙ぎにされたエネルギー砲に追いかけられていたハジメは、砲撃が指向性を失って無意味に天井へ吐き出されるのを確認するや否や、精密射撃で頭頂部付近のコアを六つ同時撃破する。


 エネルギーが集束している場所をごっそり崩壊させられれば暴発は必至。更に抉り取られるようにして統合天機兵の頭頂部が吹き飛ぶ。


 もちろん、その程度で停止するわけもなく、飛び散った流体金属はすぐさま壁を伝って天井や床から統合天機兵のもとへ戻り、頭頂部も瞬く間に再生していく。


 そして、その再生の間も触手による槍衾のような攻撃は続いており、同時に、


「チッ、鬱陶(うっとう)しいっ。エガリ、ノガリ、出入り口を閉鎖しろ!」

「「イ゛ィ゛」」


 なだれ込んできていた上界機兵部隊による連携攻撃が襲い掛かってくる。


 ぬるりと接近してきた剣機兵二体が左右からハジメを襲う。突機兵とは比べ物にならないほど柔軟で流麗な動きだ。


 輝く高熱ブレード二本を、ハジメはドンナーとシュラークの銃口で受け止め、そのまま引き金を引く。


 いかなSF世界のブレードといえど異世界製最高強度のリボルバー銃を即時に溶断などできるはずもなく、吐き出された弾丸により二振りのブレードは弾かれ宙を舞った。


 剣機兵二体が、逆手の高熱ブレードを間髪入れず横薙ぎにしてくる。が、その時には既に、ハジメの体は回転しながら地を這うほどに沈み込み、回避と同時に真下から頭部を穿つ弾丸が放たれていた。


 敵が膝から崩れ落ちるのには一瞥(いちべつ)もくれず、ハジメは更に、飛来した砲機兵のレールガンに弾丸を当てて軌道を変更。


 光輝の受け流し技に対抗でもしたみたいに、見事、回り込んでいた剣機兵の分隊を吹き飛ばす。


 と、そのハジメに触手槍の雨。木の葉のように揺れながらギリギリで回避するも、それは最初から足止めにすぎなかったらしい。地に突き立った無数の触手槍は回収されることなくそのまま硬化し、金属の檻となってハジメを閉じ込めてしまった。


 そこへ絶妙なタイミングで、触手ごとハジメを轢殺せんと盾機兵が高速で突進してくる。


「フッ。お困りか? 魔王殿」

「困ってねぇよ。いや、困ってる。主にお前の言動で」


 盾機兵が停止した。真上から降ってきた卿によって、頭部に二本の高熱ブレードを突きさされて。


 どうやら、先程ハジメが弾き飛ばした剣機兵のそれを、空中で無意味にスピンしながらキャッチした卿が、そのまま盾機兵に突き立てたらしい。


 卿は「フッ」と笑いながら高熱ブレードを引き抜き、華麗にターンを決めつつハジメを囲む硬化触手檻を溶断。直後、輝きを失った高熱ブレードをスタイリッシュに放り投げ、キメ顔で言う。


「ふむ、やはり持ち手を選ぶか……〝高熱ブレード(虚魂之業火)〟を取り上げて使えるのはせいぜい五秒程度のようだ。ククッ、つまり十二分ということであるなっ!!」

「テンション高けぇよ。あと勝手に名付けるな。ハウリアの悪いところだぞ、次期族長」


 ちょっと体を斜めに傾けつつ、五指を開いた右手を顔の前に、左手は背中の小太刀に添えて香ばしさアピールしている卿。ハジメの精神力がガリガリと削られていく。


 直後、弾丸と触手の嵐が襲い掛かってくる。卿と左右に分かたれる形で回避したハジメは、自分の心を守るために指示を飛ばす。


「遠藤」

「深淵卿と! またはアビスゲートと呼んでくれたまえ! 我が盟友よ!」

「お前の小太刀やクナイじゃあコアに届かせるのはキツいだろう。上界機兵の排除をメインにしろ」

「敵の能力に区別なく、深淵は全てを呑み込む。だが、魔王陛下の勅命とあらば、深き闇の名に誓い――」

「ありがとよ。じゃあ頼んだ」

「フッ。我が常闇の妙技をとくと――」

「エガリ! ノガリ! 遠藤をサポートしろ!」

「よかろう! 小さき魔王の配下達よ。我と――」

「「イ゛ィ゛!!」」


 最後まで聞かない! だって、聞けば聞くほどダメージを負うから! 毒ダメージのように! 毒ダメージのように!


 最後まで聞いてもらえない卿は、けれど、まるで堪えた様子がない。それどころか、魔王の勅命だと喜々とした様子さえ見せている。


 一度は敵に迎合する必要を感じるほど、元より彼の魔力は限界スレスレのはずなのだが……疲れた様子もまるで見えない。むしろ、テンションが上がっているっぽい。


 物言わぬ機兵部隊相手に、ずっと痛々しい――ではなく、仰々しい口調で何かを話しかけたり、いちいち決めゼリフを吐き出したり、無意味に香ばしいポーズを取ったり、技名を声高に叫ぶが魔法が使えないので結局何も発現しなかったり、「喰らうがいいっ、勇者をも超える我が至高の斬撃を!」とか言いながら普通に飛び蹴りしたり……


「南雲ぉっ! お前、遠藤にいったい何をしたんだ!? 俺が旅に出る前より悪化しまくってるじゃないか!!」

「ひ、人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ。お前、ほら、前からあんな感じだろ」

「機兵の精鋭部隊が混乱するほどだったか!?」


 確かに、上界機兵の皆さんが徐々に混乱を深めていた。


 彼等はグレードが高い故に、敵を分析する能力にも優れている。戦えば戦うほど攻撃手段や行動パターンを読み取り、より効率的な戦いができるようになるのだ。


 なる、はずなのだ。


 けど、深淵卿相手にはそれが通じない! だって、言動がめちゃくちゃだから! 


「我が秘剣! 受けてみよ!」とか叫ぶなら小太刀使えよ! なぜ納刀してまで蹴る!?っていうか、そもそも言ってることが意味不明なうえに、技名はもっと意味不明で、しかも同じ技名なのに毎回違う技が出るって何事!? なぜそこでポーズを取った!? いったいどんな理由でターンした!? まるで分析できない!


 なんて、機兵達の、延いてはこの戦いを高みの見物しているであろうマザーの、混乱しきった心の声が聞こえてきそうである。


 そこには確かに、魔王と勇者の超絶技巧の方がまだマシだったと思えるような深淵が広がっていた。


「どうせいろいろ無茶ぶりしたんじゃないのか?」


 統合天機兵が体表に無数の円錐型の棘を作り出し、それを戦車砲並みの威力で飛ばしてくるのを斬って逸らして凌ぎながら、光輝が疑わしそうに言う。


「そりゃあ、まぁ、いろいろ依頼したりはしたけどな……うん、俺は悪くない」


 部屋の隅で必死に解析作業しているG10に、統合天機兵から飛び出した高波のような流体金属が襲い掛かる。


 その間に割って入り、魔眼で即座に捉えた二十個のコアのうち十二個を正確無比に撃ち抜くハジメ。


 高波に大穴が開いて、ハジメは流体金属の穴をくぐりながら跳躍しつつ反転。高波の背後に出ると同時にドンナー&シュラークのシリンダーを弾帯(ガンベルト)の弾丸下部で転がす。


 そうすれば、左右同時に親指で弾かれた弾帯の弾丸がシリンダーへと冗談のように収まりリロード完了。


 高波が内包する残りのコアを撃ち抜き、更には空中にあるハジメに襲い掛かった別の触手のコアも破壊する。


 流体金属が飛び散る中、ハジメは何事もなかったかのように言い訳を続ける。


「なんというか、そう、悪いのは地球なんだ」

「星のせいにする奴なんて初めてだぞ!?」


 流石は魔王様。責任転嫁のスケールがでかい。


 いつの間にか床に広がっていた液体金属から剣山のように円錐の棘が飛び出してくるのを紙一重で回避した光輝がツッコミを入れるが、ハジメは銃撃を硬化で弾かれ渋い表情になりながら言い募る。


「地球が意外にファンタジーでな、それが遠藤を追い詰めた結果なんだ」

「嘘だな」

「あいつ今、ラナの他に三人、恋人がいるからな? 天才金髪美少女博士と凄腕オタク美人捜査官とドジっ子最強エクソシストだ」

「嘘だろ!?」

「お前がいない間に、人が怪物化したり、地獄の悪魔が地球を支配しようとしたりしてたんだよ」

「嘘だと言ってくれ!」


 そんな地球は嫌だ! と光輝が頭を抱える。頭上を触手の槍が通り過ぎる。故郷のファンタジー化と、友人の恋愛事情への言葉にできない心理的衝撃とモヤモヤ感を刃に乗せて輪切りにしてやる。


「あんなに、お前に挑むくらい遠藤は一途な奴だったのに……ラナさんは――」

「ちなみに、ラナはあと三人は嫁がほしいと言っている」

「やっぱりハウリアかっ」

「む? 呼んだかね、我が友よ!」

「呼んでない!」


 深淵卿は、自分が次期ハウリア族族長であることを深く自覚しているらしい。フッと笑う姿、妙に腹立たしい。


 ついでに、「人ってのは、変わっちまうもんなのさ」みたいな表情をしている魔王も、なんだか妙に腹立たしい。


 と、その時、空間が青白い光で煌々と照らされた。


 どうやら、機兵団百体を相手でも百度は殺し切っているであろう飽和攻撃をしていながら、ハジメ達に対し一向にダメージを与えられないことに、統合天機兵が痺れを切らしたようだ。全身を輝かせ、青白い光のラインを今までの比ではない速度で走らせ始める。


 と、思った次の瞬間、


「くっ」

「まずいっ」

「ぬぅっ、やりおるっ」


 三者三様に声が漏れた。閃光が走ったのだ。スパークの閃光が。指向性を持たず、敵味方を問わない逃げ場ゼロの放電攻撃。


 三人が、この場にあって何が最重要かを忘れるわけもなく、それぞれハジメは外付け可変盾を、卿はクナイを、光輝は伸長させた聖剣を避雷針代わりにG10への放電を防ぐことには成功している。


 だがしかし、それ故に直撃を免れず、重傷とはならずとも麻痺による硬直状態は避けられない。


 統合天機兵は、味方であるはずの上界機兵部隊の喪失と引き換えに、絶好の機会を手にしたのだ。


 ゴウッと風をうねらせて、統合天機兵の巨体が丸ごと、G10へと襲い掛かった。それはまるで氾濫する大河の如く。鉄色の激流が、圧倒的質量と尋常ならざる速度でG10を呑み込まんと迫る。


「さ、せるかっ」


 最初に動いたのは、やはりハジメ。〝纏雷〟を有し、元より雷撃に対する耐性が一番高い故に、激流が到達する前に辛うじてG10をかっさらうことに成功する。


 G10は反応しない。ハジメ達を信頼し、処理能力の全てを解析に向けているのだろう。


 約束の時間まで、残り三十秒。


 だが、その三十秒が――長い。


(なんつー動きをしやがるっ!!)


 内心で思わず悪態を吐いてしまうほどに、統合天機兵の動きは凄まじかった。まさに、生きた激流そのもの。


 獲物を捕らえそこなっても、地面にぶつかるや否や間欠泉のように噴き上がり、そのまま弧を描いてハジメを追尾してくる。


(なぜ最初からこの動きをしなかった?)


 G10を脇に抱えながら壁に足をつけ、脚力任せに跳ぶ。間一髪のところで回避。激流が壁を粉砕する。


 空中に躍り出ながら、ハジメの観察眼は答えを見抜く。まるで置いてけぼりでもくらったみたいに、統合天機兵の一部が取り残されていた。なんの動きも見せず、溶けたアイスの如く滴るだけ。


(なるほど。エネルギーの需要と供給のバランスが取れないのか)


 言い換えれば限界突破状態というべきか。エネルギーの過剰消費と引き換えに、数倍の能力を手にする。


 ならば、そのうちに自滅するのではとも思うが、そう簡単にはいかないようで。


「やべっ」


 激流が三又に枝分かれ、更に三体の単一天機兵が天井から滲みだしてくる。おそらく、それである程度、活動時間を引き延ばすことができるのだろう。


 天機兵のコアを同時に撃ち抜き、更には激流の一つもある程度崩壊させるが――間に合わない。


 なので、


「遠藤っ!!」

「応とも!」


 G10をぶん投げる。麻痺からある程度回復した卿が、空中に飛び出しながら見事にキャッチした。


 直後、神速の伸びる抜刀術四連撃が、二つ目の激流を四散させる。が、できたのはそこまで。


 残りの激流が直撃し、ハジメはそのまま天井に叩きつけられた。直撃の瞬間だけ接触部分が硬化したこともあって、まるでドリュッケンを持ったシアのフルスイングでも受けたかのような衝撃が迸る。天井に放射状に亀裂が走り、ハジメの口から「かはっ」と呼気が漏れた。


 久しぶりに受けたまともなダメージ。強靱な肉体にもかかわらず、肋骨にヒビくらいは入れられたかもしれない。


 日本での生活で鈍ったつもりはなかったが、それでも、やはり平和だったのだろう。トータスで帰郷を目指して死に物狂いになっていた頃の、あのヒリつくような感覚が戻ってくるのを実感すると、苦笑いを浮かべずにはいられない。


「南雲っ」

「構うなっ、G10を死守しろ!」


 天井から落下しながらも、光輝の声に怒声を返す。視線の先では、激流が卿を包み込むようにして襲いかかっていた。


 袖口から弾き出した一発の弾丸を、空中でガンスピンリロード。卿を包囲した流体金属の激流へ向けて、逆さまに落ちながら銃撃する。


 そんな状態でも、否、そんな状態だからこそ更に精度を上げた精密射撃が、狙い違わず高速で動くコアの一つを破壊、激流に一瞬の穴を空ける。


「勇者よ! 我が信頼、受けとれ!」

「余裕あるな!?」


 まるで、最初からそうなることが分かっていたみたいに、完璧なタイミングでその穴を通して卿のパスが通った。飛び出してきたG10を光輝がキャッチする。


 同時に、卿も激流を受けて吹き飛ばされ、機能停止していた機兵十数体を巻き込みながら奥の壁に激突する。


 当然、激流は光輝へと瞬時に流れるが……


「イ゛! イ゛!」

「うん、なんとなく何を言ってるのか分かるようになってきた……気がするよ!」


 飛び退きながらアンダースローでG10を投擲。その先にいるのは天井から糸で宙吊りになっているエガリさん。


 飛んできた目標を糸の網で見事にキャッチし、以前、ジャスパーにそうしたように「ノガリちゃんパァ~~スっ!」と「エガリちゃん、ナイパァス!」をして、ノガリへ投げ渡す。


 ボール扱いされているG10は、なかなか悲しい有様ではあるが……


「解析完了。統合コアの位置、投影します!」


 時間稼ぎ、完璧に完了。時間にして三百秒ジャスト。G10の仕事も完璧。


 統合天機兵が激流モードを解除し球体となる。無数のコアの中に隠す方法は既に無意味と察し、巨体を圧縮して密度を高めることで防御力を上げることにしたらしい。


 ホログラムの赤い十字線が、その球体となった統合天機兵に重なる。クロスする部分の奥にあるものこそ、奴の心臓――統合コア。


「天之河! 削ぎ落せ!」

「了解!!」


 空間すら両断しそうな斬撃の嵐が、統合天機兵の身を削り取る。密度の高い金属の防壁であっても、異世界で剣聖と称された勇者と聖剣の斬撃に抗えるはずもない。


 そうして、統合天機兵の前部が何枚もの金属板にスライスされ防御力を減じた直後、真紅のスパークが迸った。


「マザー、聞いてるな? ――今、そっちへ行く」


 ドンナーを両手で構えたハジメが、不敵で凶悪な笑みを浮かべた。


 そうして放たれるのは真紅の槍。


 硬化しようとも、電磁加速された異世界製徹甲弾を防ぐには強度が――足りない。


 スパークを纏う真紅の閃光は、寸分も狂わず十字線のど真ん中を射抜き、統合天機兵の硬化したボディを貫いて背後の壁まで穿った。


 しんっとした空気が漂う。


 一拍。


 統合天機兵は、どろりっと溶け出すようにして崩れ去った。


 懸念していたこと――統合を解いた後に単機となった天機兵との第二ラウンドは、どうやらないらしい。明滅するコアが無数に転がるだけ。おそらく、統合天機兵としての運用にエネルギーを使い果たしてしまったのだろう。


 それを確認して、ハジメはドンナーをホルスターに収めた。ふよふよと寄ってきたG10へ称賛の言葉を向ける。


「G10、短い時間でよくやったな」

「恐縮です」


 返答は簡潔で、かつノイズが酷かった。浮遊も不安定になっている。それだけ無茶をしたのだろう。暴走時の亀裂と合わせて、いつ停止してもおかしくないように見える。


「行きましょう、ハジメ様」


 しかし、その声音はむしろ、より強靭になっているように聞こえた。


 ハジメは少し目を細めたが、直ぐに頷いた。


「時間がない。G10、天之河、遠藤。一気に行くぞ」

「はい!」

「ああ!」


 返事がない。一人だけ。


 代わりに、しくしくと悲しげな音が響いてきた。


「まさか、深淵卿、でしたか? 怪我をされたのでは!?」


 G10が心配したように声を張り上げるが、ハジメと光輝は顔を見合わせ、直後、盛大に溜息を吐いた。


 そのまま奥へ行ってみれば、機兵達の残骸の中で三角座りしている人が……


「はいはい、心が痛いのは分かったから、さっさと立てよ」

「遠藤、今はそれどころじゃないんだ。空気を読んでほしい」

「もっと優しくして!」


 はっちゃけまくった心の痛みと、魔力的限界による疲弊と、物理的な体中の痛み(主に胃)。


 しかし、そんな浩介の心の叫びは魔王と勇者に一顧だにされることなく、物理的に引きずられながら、山頂へと続く通路の奥へと消えていったのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
話を聞いてくれない! そんな状態でも卿のやることは変わらない。 流石、深淵卿モードは最強だぜ!
[良い点] すべては「そこには確かに、魔王と勇者の超絶技巧の方がまだマシだったと思えるような深淵が広がっていた」に収束されるほど素晴らしい深淵卿の深みっぷり!特にハジメとの会話部分や、ハジメと光輝の深…
[良い点] 絶対に食事中や満員電車の中で読んではいけない点。 深淵さんの出演する章は免疫療法に採用しましょう。
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