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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅣ
368/544

クリスマス特別編 集う、サンタクロース・フォー!

時間がなく三時間ちょいで書いたものなのでかなり雑な出来ですが、よろしければクリスマスのお供に!

なろう民の皆さま、メリークリスマスです!



 世間がクリスマス特有の空気で色づき賑わう中、切羽詰まった様子で裏路地を駆ける者がいた。


 裏路地でたむろしていた不良っぽい若者達が、その走ってくる相手を見てニヤッと嗤う。


 なぜか。


 可愛らしいサンタの格好をした美人の女性だったからだ!


 そう、この黄昏の時に裏路地を必死の形相で駆ける者とは、サンタコスのお姉さんだったのだ。


 何を急いでいるのか。お仕事が終わってパーティーに行く途中? それとも、スカートサンタなんて格好なものだから、よからぬ輩に目を付けられて追われているのか……


 たとえば、俺達みたいな? と、自分達に道を塞がれて引き攣った表情を見せるサンタお姉さんに、若者達が下卑た眼を向ける。


「よぉ、お姉さん。そんな格好で何をして――」

「ああもうっ、それどころじゃないのに!」

「え? あ?」


 苛立ちと悲壮感たっぷりの声が迸ると同時に、サンタお姉さんの蹴りが閃いた。


 まったく躊躇いのない上段蹴りが、若者の側頭部に炸裂。「あびゃ!?」と奇怪な悲鳴をあげてぶっ飛ぶ。更に、一閃二閃と虚空を薙ぐ美しい蹴りが若者達を鎧袖一触に薙ぎ倒す。


「そ、そこで大人しくしててくださいね!」


 なんて言って、白目を剥く若者達を置き去りに駆け去っていくサンタお姉さん。


 一人、気絶しなかった若者が文句を言おうと口を開きかけるが……その時には既に姿が見えず、あまりの速さに気持ちの向けどころを失い「くそっ」と悪態を吐く。


 そして、硬直した。


 本能が、動くな、息を潜めろと命じたかのように。凄まじい悪寒が全身を駆け抜け、一気に体の熱を奪われたみたいに錯覚する。


 直後、何者かが若者の前を通り過ぎた。若者はその時、たとえようのない恐怖を味わいながらも、自分を褒めてやりたい気持ちに駆られた。本能的に目を閉じ、何も見なかったことを。


 確信に近い何かがあった。もし目を開いていたら、その通り過ぎた何者かを見ていたら、きっと自分はただではすまなかったに違いない。精神的にも肉体的にも、と。


 表通りの喧噪が微かに聞こえる。それにどうしようもなく安堵を感じながら、若者は全て忘れてしまおうと、体の欲求に従い意識を手放したのだった。






 一方、若者を華麗にぶっ飛ばしたサンタお姉さんは、その強さに反して――


「ひぃいいいいっ、来てるぅ! すっごい追って来てるぅ! いやぁああああっ」


 と、泣きながら遮二無二走り続けていた。同時に、


「バカバカバカッ、バカドライバーッ!! クリスマスの夜に仕事ってだけでも泣けるのにぃ! なんでこんなことになってるのよぉ!」


 なんて愚痴まで飛び出す。そうでもしないと、今の状況的に恐怖で正気を失いそうなのだ。そして、そうなってしまえば一巻の終わりだという確信があった。


 なので、もっと愚痴る。


「前からなんか怪しいと思ってたよ! だって、帽子深く被りすぎだもん! 絶対見えてないのに普通に運転してるし! 尋常じゃないくらい無口だし!」


 手に持つ随分と古びた革袋をギュッと握り直す。中には怪しげな……というか、見ただけで吐き気をもよおす〝書物〟が入っている。


「何が〝何度も奴等から逃げ切った君の脚力と体力なら、きっとこれを届けられる〟よ! やっぱり関係者なんじゃない!」


 会社の同僚であるドライバーの男性とクリスマスイベントツアーの仕事に従事していた際、その彼が唐突に「まずいな……」と呟いたかと思ったら、どこから取り出したのかその革袋に包まれた書物を渡してきて、指定の場所まで届けてくれと言ってきたのである。


 当然、仕事中だし意味分からないし……と、拒否したサンタお姉さんだったが、彼は言ったのだ。「君が届けないと……みんな死ぬが?」と。じゃあ捨てましょうよ! と反論すると「捨てるともっとたくさん死ぬが?」と再反論。


 そうして、一応~と中身を確認して、サンタお姉さんは全てを悟った。


 あ、これダメなやつだ。過去に何度も経験してる理不尽なあれだ。泣き喚こうが頭をかかえようが、全力でどうにかしないと自分も周りも惨たらしい感じになるやつだ……と。


 とはいえ、そんな爆弾よりヤバイ物を運送業者でもなければ、まして探索○でもない自分(自称)に渡される理不尽。〝そっち〟の関係者なら、確かに驚異的な生存率を誇る自分はそれなりに知られているから分からないでもないが……


 しかし、叫ばずにはいられない。


「私はっ、私はーーっ、ただのバスガイドなのにぃーーーーーっ!!」


 クリスマスの夜に、クリスマスイベント・バスツアーのガイド役に若いんだからとサンタコスで駆り出され、なのにお客様がイベントでキャッキャッうふふしている間の休憩時間に、帽子を深く被りすぎなバス運転手に冒涜的でおぞましい書物を「後を頼む」と託され、人間だろうけどなんかヤバイ気配を発している何者かに追われるというこの理不尽。


 それは泣きたくもなる。


 全力疾走しながらスマホを見れば、目的地まではまだまだある。駅五つ分くらいだろうか。その先に、絶対に前が見えていない運転手が連絡した知人とやらが急行してくれているらしく、その人に渡せばあとはどうにかしてくれるらしいが……


「たどり着ける気がしないよぉ」


 比較的に広い道へ飛び出す。視界の端にピットリと寄り添っているカップルが見えた。


 泣きたい。


 そのカップルが、裏路地からアスリートも真っ青な素晴らしい猛ダッシュを決めてくる必死な形相のサンタお姉さんに「ヒィッ」と悲鳴を上げる。


 号泣したい。


 涙でにじんだ視界に、スマホにぶら下がる綺麗な水晶が目に入る。前に正気度をガリリッと軽快に削ってくれた修学旅行生達からのお礼の贈り物だ。困った時に願えば救いがあるかもしれないお守りらしい。


 それに少しだけ心の余裕を取り戻す。別に、本当に超常的な力でも発生して助けてくれるなんて思ってはいない。


 確かに、彼等の中心的人物で、このお守りをくれた男の子はやたらと貫禄があるというか、クラマの魔王伝説を話した途端、生徒達が一斉に彼を見たり、実際、なんか魔王じみた感じではあったけれど、それはそれ、これはこれだ。まさか、本当に何か起こるわけがない。


 そんな夢想をしていては死んでしまう。現実は現実だ。とはいえ、接して見れば気の良い学生達の心遣いは、追い詰められた心に確かな安らぎを与えてくれる。


「あ、諦めないっ。今回も生還して、それで――あの運転手の眼球に唐辛子スプレーを空になるまで直撃させてやるんだぁーーーっ」


 腰のホルスター――もといポケットから極甘コーヒー牛乳のパックを取り出し、片手でストローを抜いて差す! 流れるように糖分を補給! バスガイドサンタさんの体力が回復した! 更に速力が上がった!


 だが、気勢を上げようとも、やはり現実は現実。不意に、今まで自分を守り通してくれた本能が警鐘を鳴らしまくる。


 ゾワッと首筋が粟立つ感覚に、バスガイドサンタさんは咄嗟に前方へ身を投げ出した。


 頭上を何かが通り過ぎ、ビルの壁が壊れる音が響く。同時に、固いアスファルトの感触に突いた手が痺れるのを感じる。痛みを根性でねじ伏せ、そのまま錐揉みでもしているみたいに転がり――


「メイド喫茶はいかがですかぁ~? 独り身の皆さ~ん! クリスマスにウサミミメイドサンタと楽しい時間を過ごしませんかぁ! 今ならクリスマス特別割引――う゛ぇ!? サンタさん!?」

「わわっ、ごめんなさぁーーーいっ」

「――げぼらぁ!?」


 通りでビラを配っていたツインテールのウサミミメイドサンタ――ミニスカメイドっぽい衣装が紅白のサンタ服カラーになっていて、別途ウサミミが装着されている――な少女を吹き飛ばしてしまった。


 ウサミミメイドサンタが、体をくの字に折り曲げ、少女が出しちゃダメな感じの悲鳴をあげながらぶっ飛ぶ。そして、そのまま通りの向こう側にあった街灯に背中から激突。今度はエビぞり状態になって地面に落ちた。


 通りを歩いていた人達が硬直する。エビぞりのままエビのようにビクビク痙攣しているウサミミメイドサンタと、彼女をそんな有様にしたタックルの犯人――四つん這いのバスガイドサンタへ視線が集まる。


 普通に見たら、完全に事故現場。あるいは殺人現場である。それくらい、やばい勢い&背骨の曲がり方だった。


 バスガイドサンタさん、青ざめる。追手に対する恐怖より強い恐怖に表情筋がこれ以上ないほど引き攣る。


 誰もが突然の事態に呆然としている中、一足先に我に返ったバスガイドサンタさんは慌てて声を張り上げた。


「だ、大丈夫ですかぁーーーっ!?」

「大丈夫です!」

「うそでしょ!?」


 まさかの丈夫さ。ウサミミメイドサンタな少女は、ツインテールをぶるぁああああっと荒ぶらせつつ、普通に起き上がった。ちょっとぬるりっとした動きで。


「ほ、本当に大丈夫ですか? ごめんなさい! 私のせいで――」


 おろおろしながら謝罪と心配をするバスガイドサンタに、ウサミミメイドサンタは片手を突き出し、もう片方の手でツインテールをふぁさっとやって「ふっ」と笑った。


「サンタお姉さん、大丈夫ですから気にしないでください。この程度、ソウルシスターズであれば蚊に刺されたようなものですから」

「言っている意味がまるで分からないですけど、とにかく良かった! 絶対に背骨が折れてるはずの角度でエビぞってたけど、無傷なんて凄いですね!」

「お姉様の怨敵である先輩に対抗するため、日頃から鍛えてますからね!」

「やっぱり意味が分からないけれど、本当にごめんなさい!」

「同じサンタのよしみです。許します!」


 流石、ソウルシスターズの切り込み隊長。魔王から可愛がられる後輩ちゃん。頑丈なうえに、お姉様を狙う怨敵以外にはとても寛容だ。


 とはいえ、配っていたアルバイト先のビラが散乱してしまっているのはいただけない。


 愛しのお姉様にクリスマスプレゼントを贈りたくて、しかし、にっくき先輩へのブービートラップにお小遣いを使い果たしてしまい、どうにか臨時日雇いのアルバイトを見つけたのだ。ビラを文字通りばらまいたなどと知られては、クビになってしまう!


「あの、お姉さん。できればビラだけでも一緒に拾ってくださると――」

「危ないっ」

「――ぐぇぁ!?」


 ウサミミメイドサンタ――改め後輩ちゃんサンタは、本日二度目のぶっ飛びを経験した。


 路地から飛び出した何かがムチのようにしなり、彼女の腹をぶっ叩いたのだ。くの字になって吹き飛び、やっぱり街灯に背中から激突してエビぞりになる後輩ちゃんサンタ。


 そこへ、「きゃぁっ」と悲鳴が。


 エビぞりピクピクしながら、それでも視線を転じれば、直ぐ傍にズザザザーッと吹き飛ばされてくるバスガイドサンタの姿が見えた。


「だ、大丈夫ですか!? いったい何が――」


 どう見ても後輩ちゃんサンタの方が大丈夫じゃない感じなのだが、ぬるりっと体勢を戻しながらバスガイドサンタさんを案じる。根は良い子なのだ。魔王限定で問題行動が目立つだけで。


 しかし、そんな後輩ちゃんサンタの心配する声に、バスガイドサンタさんは答える余裕を持っていなかった。吹き飛ばされた痛みだけが原因ではない。そんなもの、極甘コーヒー牛乳さえあればどうとでもなる。そして、常日頃からポケットの中の極甘コーヒー牛乳の貯蔵は十分なのだ!


 故に、バスガイドサンタさんが焦燥する理由は一つ。


「くっ、奪われたっ」


 そう、届けなければ大勢死ぬらしい〝書物〟を、それが入った革袋を、追手に奪われてしまったのだ。


 見てみれば、路地から黒衣の男が姿を見せている。生気のない、青白い白人男性だ。細身で不健康そうでもある。その腕には革袋が抱えられていた。


 後輩ちゃんサンタは、当然ながら事情などまるで分からない。けれど、その男が自分達を襲ったこと、そして見ているだけで不安になるような不気味さだけはしっかりと感じ取っていた。


「取り、返さないと……」


 バスガイドサンタさんが四つん這いからググッと足に力を入れて立ち上がる。極甘コーヒー牛乳を袖口から取り出し補給する。


 その傍らで、後輩ちゃんサンタは周囲の異常に気が付いた。


「あれ? なんで人が……」


 さっきまで後輩ちゃんサンタの事故現場に騒然としていたのに、いつの間にか人がいなくなっている。否、まだいるにはいるが、この騒動にもかかわらずそれを無視するように、あるいは気が付いていないかのように背を向けて歩き去って行く。


 何かおかしなことが起きている。それだけは理解し、そして、後輩ちゃんサンタは、去って行く人達の中に頼りになる先輩を見つけて立ち上がった。


 ただし、それは魔王な先輩ではなく――


「ウサせんぱーーーーいっ!! こっち! こっちですーーーっ!!」


 小柄な体からは想像もできない大声が通りに響き渡った。


 そうすれば、そのアルバイト先の〝ウサ先輩〟――後輩ちゃんサンタと同じ、けれど、そこはかとなくベテラン臭漂うウサミミメイドサンタさんは、この場に来た理由を今思い出したみたいにハッと振り返り、目を丸くした。


 そのウサミミメイドサンタ先輩という属性のすし詰め状態みたいな先輩へ、後輩ちゃんサンタは叫ぶ!


「ひったくりぃ! その男! ひったくりですーーぅ! その革鞄、取られましたぁーーーっ!!」


 途端、目の色を変えたウサミミメイドサンタ先輩は――


「この町で良い度胸だぴょんっ!!」


 直後、姿を消した。と見紛うほどの速度で猛ダッシュ。一瞬でトップスピードに乗って男に急迫する!


 男が煩わしそうに振り返り、片手を振った。途端、黒いムチのようなものが凄まじい勢いでウサ先輩に迫る。


 バスガイドサンタが思わず叫ぶ。


「危ないっ」

「当たらなければどうということもないぴょん!」


 ウサミミメイドサンタ先輩、ムチを回避。どうやったのか、トップスピードで走りながら鋭角にターンを切って。


 男が僅かに目を見開く。そして、その時には既にウサミミメイドサンタが懐に。


「――〝スクリュ○バイト〟ッ! だぴょん!!」


 刹那、スピンしながら男の真横を駆け抜けるウサミミメイドサンタ先輩。ヒーロ着地みたいな香ばしいポーズを取る彼女の手の先には――


「流石、ウサ先輩! アキバの生きる伝説! 伊達に語尾がぴょんじゃありません!」

「う、うそ。あの一瞬で奪い取ったんですか!?」


 確かに、革袋が握られていた。相手が抱えるボールに手をかけた状態で、スピンすることにより強引に奪い取る某アメフト漫画の技だった。メイド風サンタコスのウサミミお姉さんなのに。


 ウサミミメイドサンタ先輩は、そのままダッシュで後輩ちゃんサンタとバスガイドサンタさんのもとへ。


「物は取り返したぴょん。取り敢えず、警察に連絡しましょうぴょん」

「ぴょ、ぴょんは絶対なんですか……」

「……ある人達に、ウサミミメイドとしての未熟さを突きつけられたぴょん。常在ぴょん場だぴょん」

「ぴょんが渋滞起こしてませんか?」


 何はともあれ、書物を取り戻せたバスガイドサンタ。


 しかし、脅威は未だ去っていない。むしろ、一般人が二人……いや、逆くの字に背骨が曲がっても無傷で立ち上がったり、超人的な動きでヤバイ男を出し抜いたり、一般人というより逸般人というべきかもしれないが、それはともかく、〝こっちの世界〟を知らない者を巻き込んでしまったのは事実。


 そして、その危機を示すように、男の雰囲気が変わった。


 ぞわりっと、名状しがたい寒気が全身を襲う。


「っ、なんですか、あの人。なんかヤバくないですか?」

「そ、そうぴょんね。たまにエンカウントする、店の子に執着する自称紳士さんよりヤバイ感じっぴょんね」

「あ、あのお二人とも、助けていただいてありがとうございました。ここで別れましょう」


 これ以上巻き込むわけにはいかない。ここからは一人で逃げないと……


 そう悲壮な決意と、何度もしてきた覚悟を決めるバスガイドサンタさん。


 もはや、二人のメイドサンタさんを救うには、これしかない。けれど、果たして見逃してもらえるかは未知数。超耐久型メイドさんと高速機動型メイドさんなら、相手をするのが面倒だと見逃してもらえる可能性は低くはないと思うが……


 そうして、ジリジリとバスガイドサンタさんが下がり、男が一歩を踏み出して緊張感が膨れあがったその時、


「お困りか? なの」

「「「え?」」」


 バスガイドサンタさん達が足を止める。男も突然現れた気配に思わず足を止める。


 全員の視線が、声の方――人々が去って行った通りの先に向いた。


 そして、目撃した。


「トナカイっ!? ナンデここにトナカイ!? それにちっちゃいサンタさん!?」


 そう、ポニーサイズの真っ赤なお鼻をしたトナカイと、そのトナカイが引くソリの上に仁王立ちする――


「ミュウちゃん!?」

「あ、あなたは! ウサミミ伝道者さん達にボスと呼ばれていた人の娘さん!」

「ああっ、そういえば! あの魔王っぽい生徒さんをパパと呼んでいた子!」


 え? と後輩ちゃんサンタとウサミミメイドサンタ先輩とバスガイドサンタが顔を見合わせる。あれ、私達、意外に〝あの人〟関係で繋がりがある? と。


 そこでバスガイドサンタは気が付いた。そういえばこのツインテサンタさん、見たことがある! 魔王っぽい生徒さんに電柱に縛り付けられても自力でぬるぬるっと脱出して、走行するバスをダッシュで追いかけてきたちょっとあれな感じの子だ! と。


 ちなみに、ミュウがサンタの恰好をしているのは、イブの日にプレゼント配りをしていたのだが、その配りきれなかった一部の人の分を届けた帰りだったからだ。そうして急いで帰宅していたところで、死神トナカイさんが感知した不穏なこの状況を見かねて介入したのである。


「もう大丈夫なの!」


 ミュウサンタはキメ顔で、某深淵卿を参考に香ばしいポーズを決めた。


「ミュウが来た! なの!」


 ルーちゃん! このおかしな空間、元に戻しちゃって! と命じれば、途端、人がいなくなる不穏な空間が、もとの空気に戻る。人の喧噪が徐々に近づいてくる。


「ミュ、ミュウちゃん! 危ないから下がってください! そこの男は危険人物です! というか、こんな時間に一人なんですか!? 先輩はどうしたんです!」


 後輩ちゃんが良識的な忠告とツッコミを入れるが、その瞬間、男が次から次へと現れる変な連中(男からすれば)にうんざりしたように腕を振るった。標的は当然、バスガイドサンタさん。


 だがしかし、再びしなった鋭いムチ――実際は触手――は、バスガイドサンタを害する前に防がれた。トナカイの角に弾き返されて。


「え、うそっ、いつの間に!?」

「ルーちゃんを舐めてもらっちゃあ困るの。最速のトナカイとは、ルーちゃんのことなの!」


 いや誰だよ、というツッコミは心の中で。まさか、本名ルシファーという、本物の大悪魔とは思いもしない。クリスマス限定で悪魔の王は、良い子な人々にプレゼントを運ぶ最速のトナカイに転職するのだ!


 喧噪が戻り、人々が徐々に近づいてきていても、男が撤退する気配はない。秘匿より強奪を優先しているようだ。


 男が正体不明のトナカイと幼女に警戒の眼差しを向ける。ジリリッと構えを取る。


 相対するのは、四人のサンタさん。


 聖夜に、奇蹟なのか喜劇なのかよく分からない邂逅が果たされた四人のサンタは、というかサンタコスで勢揃いしたこと自体が奇蹟だが、それはそれとして、果たしてONETEAMとなってこの危機を乗り越えられるのか……


 と、そのとき、不敵に笑うミュウサンタが行動に出た。


「くらうがいいの! 必殺――!」


 ババッと香ばしく手を突き出す。ポチッと押す。トゥルルルルッとコール音が鳴る!


「――〝パパに連絡〟!!」


――ミュウ? どうした? そろそろ帰ってくるはずだろ?

――パパ助けて! 変質者なの!


「自殺志願者はどこだ?」

「ひぃ!? 先輩!? いつの間に!?」

「ボ、ボスさん!? どこから出てきたぴょん!?」

「えっ、あぁ!? 魔王生徒さん――じゃなくて、確か南雲ハジメ君!?」


 三者三様に驚くサンタ達の背後に、いつの間にか予兆なく出現した先輩でボスで魔王生徒なハジメ。


 なるほど。瞬時魔王召喚とは、確かに必殺である。


「あ? ……後輩に、超人ウサミミメイドに、修学旅行の時のガイドさん? しかも全員サンタコスって……なんだこの状況」


 ごもっとも。とはいえ、その後の展開は語るまでもない。


 男はあっさりと無力化された。何かおかしな存在に憑かれているっぽかったので捕獲してみるも、その時にはそのおかしな存在は既に消えており、仕方ないので一先ずオカルトの専門家へ預けるために油性マジックで事情を顔に書いて、クリスマスパーティーしているはずの某深淵卿のもとへゲートで転送。


「きゃぁあああああ、浩介ぇ! なんか変な人が空中から出てきた!」

「南雲ぉ! お前だな!っていうか誰だよこいつ!?」

「アッ、コウくん! クレアちゃんが驚いた拍子にこけて、頭から窓ガラスに突っ込んだわ! 道路まで転がって――」

「あ、浩介さん。クレアさんが車に轢かれましたよ」

「クレアーーーーッ!? たぶん無傷だろうけど大丈夫かぁ!?」


 なんて声を聞きつつもさっさとゲートを閉じて、バスガイドサンタさんを護衛しつつ、無事、書物を目標の人物に渡すことができたのだった。


 その後、各々の仕事を終わらせた三人のサンタが、サンタなまま南雲家主催のクリスマスパーティーに招待されたのだが……


 もちろん、日常冒険系女子高生に、超人ウサミミメイド、そして精神力と生存能力チートなバスガイドさんが、特異点ともいうべき南雲家にお邪魔して何も起こらないはずがなく、ここでもまた新たな騒動に巻き込まれるのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


サンタである必要はあったのか、という点。

特になかった。クリスマスネタがなかったんです…雰囲気で楽しんでいただければ!

※バスガイドさん:アフターⅡ 「ありふれた学生生活②③④」より

※超人ウサミミメイドさん:アフターⅢ 「ハウリアがやって来た 中」より


※ネタ

・ミュウが来た! 某ヒロ○カの痺れるセリフです。

・書物 人皮製冷えると汗を掻く…かもしれない。


※いくつかいただきました鈴と龍太郎交際時期&バチカン編の時系列指摘、ありがとうございます!

この点、以前活動報告にアップしました通り、他の時系列の矛盾と同じく書籍化できそうであれば、その時に修正しWeb版はWeb版で残しておきたく思います。もしかすると修正により気に入っていただけていたシーンや会話がなくなってしまうかも…というおそれと、アフター全体の調整に時間がかかり更新が長期で滞りそうだからです。おそらく交際時期の方を前倒しにするとは思いますが、ひとまずWeb版ではこのままいかせていただきたく。混乱させてしまい申し訳ありません!

※もちろん書籍化しない場合は時間ができ次第物語全体を調整して修正しますので、今後とも本作品をよろしくお願いします!


●本日12月25日『ありふれた職業で世界最強 零4』発売です!

挿絵(By みてみん)

最後の解放者リューさんです。見た目はクールで格好いい樹海の女王。でも安心してください。もちろん、中身は問題しかありません!ハジメ時代の某森人族のパワーアップ版みたいな? 

話の内容的には本格的な教会VS樹海&解放者で、遂にミレディVS神の使徒が雌雄を決す!という感じです。他にも現代と繋がるあれこれや、「おや? ミレディとオスカーが何やら良い感じに…」的な話なども。是非ぜひ、お手に取っていただければと! よろしくお願い致します!

特典SSの詳細は活動報告またはオーバーラップ様のHPにて。


※小篇集もぜひ!こちらにもミレディ達が出ます。ミレディ&ユエ、オスカー&ハジメがタッグを組む奇跡の邂逅や、レミアさんの初挿絵&感想等で時折リクエストのあったハジメへの心情変化なども書いています。

挿絵(By みてみん)


●同じく本日12月25日『ありふれた職業で世界最強 Blu-ray②』発売です!

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)

アニメ6話~9話、未放送エピ『ユエの日記帳』を収録。ユエ日記では、ハジメを食べる(意味深)なユエ様、女教師なユエ様、SM女王なユエ様等いろんなユエ様を見られますw お手に取っていただければ嬉しいです!

詳細はありふれた公式HPに(https://arifureta.com/blu-ray/box2/)

未放送エピ(https://arifureta.com/news/news-1837/)


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
その後のクリスマスパーティーでの騒動見てみたいです
バスガイドさん焦ってるとはいえ不良を蹴り倒せるの素でやってんのな…… そしてミュウの躊躇のない手札切りw
結局、この本は冒涜的な魔導書だって事なんだろうか?
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