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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅢ
324/549

トータス旅行記④ 王妃様へ贈る魔王の黒歴史

前回までのトータス旅行記


・ヘリーナが魔王のものになっていそう

・ランデルが白崎母娘に轟沈させられるが、根性を見せる。

・リリアーナはブラック上司。騎士団長も魔王のものになりそう。

・ヘリーナが、ルルアリア王妃の支度ができたと呼びに来た←今ここ


 ハジメ達がヘリーナに案内されてやってきたのは、王宮にある小さな庭園だった。


 以前の、咲き乱れる様々な花や芸術的な剪定を施された木々はない。小さな子供にとっては絶好のかくれんぼ場となった広さもない。


 けれど、復興への熱意にほてり続けた心に、ふと涼風を吹かせて安息を与えるような、どこか優しい雰囲気を感じさせる庭園だ。


 そんな庭園の中程に置かれた真白の長テーブルを囲むハジメ達。紅茶とスイーツを前に、陽気に誘われるようにして明るい声を響かせている。


「まぁ、菫様ったら。それ以上おっしゃると、ハジメ殿が立ち直れなくなってしまいますわ」


 コロコロと、口元に手を添えて上品に笑うのは十年後のリリアーナ……と見紛う美女だった。


 ルルアリア・S・B・ハイリヒ――リリアーナの母にして、このハイリヒ王国の現国母だ。


 今年で三十四歳になるのだが、長テーブルの上座にリリアーナと並んで座っている姿は、まるで姉妹のよう。リリアーナと同じ優しく穏やかな雰囲気を纏っている。


 もっとも、リリアーナと異なり、そこは王妃故というべきか、まさに貴婦人の中の貴婦人と表現すべき品位と威厳が溢れ出している。


 これで、夫であるエリヒド国王の死や、王都の崩壊、そして復興に関連する忙しさで心身共に疲弊しており、以前に比べいろいろ減衰して見えるというのだから、娘であるリリアーナの将来は実に楽しみなところだ。


「何を言いますか、ルルアリア様。うちの子が義理の息子になるのですから、もっともっと知っておいてほしいことが山ほど――」

「母さん、そろそろ黙ってくれ」


 切願じみたハジメの声が、嬉々としてしゃべり続けようとした菫の言葉を遮った。


 菫が「ここからが良いところなのに」と不満そうに視線を転じれば、そこにはなんだか満身創痍な感じでテーブルに突っ伏すハジメの姿があった。


「俺のことで王妃殿下が知っておくべきことがあったとしても、それは断じて俺の黒歴史じゃあないだろう」


 そう、自己紹介と軽い雑談が終わった後、ルルアリアが実家でのハジメの様子を聞いたときから今まで、菫はずっとハジメの黒歴史――庭でかめ○め波を放とうと裂帛の気合を見せていた幼少期から、謎の組織に狙われていると強く実感していた年少期を経て、前のめりに倒れるまでッゲームを止めないッ中高等期のあれこれを語り続けていたのだ。


 途中、ハジメがインターセプトしようとしたのだが、愁がインターセプトをインターセプト。更に、昔のハジメのことならどんなことでも知りたがりな嫁~ズが、持てる技の全てでハジメを封じたので、結局、ハジメの魂が抜けるまで語られてしまったのだ。


 そうして、魔王の意外な、可愛らしい(決して痛いとは言わない)過去を実母から聞いて、必死に笑うのを堪えているメイドさん達と、魂が飛んでいきそうなハジメの様子から、とうとうルルアリア自身が救いの手を差し伸べたというわけだ。


 ルルアリアは、楽しそうに微笑みながらもさらりと話題を転換した。魔王様から救世主を見るような感謝の眼差し!


「それにしても、菫様や愁様がお優しい方で安心致しました。他の皆様も想像していた以上に良き方々で、娘の未来の幸せを確信致しましたわ」

「いやぁ、それほどでも……ありますね!」

「はっはっはっ、リリィちゃんのような良い子なら大歓迎ですよ!」


 王妃相手に、まったく物怖じしない菫ママと愁パパ。


 自己紹介のとき、王妃の溢れ出る気品と威厳に、智一達は恐縮しっぱなしだったというのに、この二人だけ初っ端から瞳が輝いていた。


 異世界の! マジもんの王妃様と出会った! ありがてぇありがてぇ! 


 みたいな感じで。ルルアリアの表情が少し引き攣っていたのは言うまでもない。


 智一が、ちょっと遠慮がちに口を開く。


「その……王妃様は、娘の相手が他にも女性と関係を持っていることに不満などお持ちではないのでしょうか?」

「ちょっと、あなた」


 薫子が夫を窘めるように小突く。香織が瞳孔の収縮した目で父を見やる。智一さん、だらだらと冷や汗を流す。


 そんな智一に、父親としての思いを見て取ったルルアリアは小さく微笑みながら答えた。


「元より、地位ある者は妾や愛人を囲うものですし、王侯貴族ともなれば側室を迎えるのも当然のことですわ。夫――エリヒドが、側室を持たなかったことの方が珍しいのです」

「む……なるほど、王侯貴族とは確かにそういうものだというイメージはありますね」


 智一が渋い表情で頷く。納得し難い……。王女である娘が正妻ですらないなんて! という感じで味方を増やせないかと思ったのに……。と、思っているのが丸わかりだ。


 般若さんステンバ~イ。収縮アイの香織から変なオーラが立ち上る。


 父娘の日頃の攻防を察してルルアリアはますます笑みを深めつつ、隣に座るリリアーナの頭を優しく撫でた。


「本来、この子に恋愛結婚の自由はありません。国益とならない婚姻は、王族としての責務に反します。断じて認めるわけには参りませんわ」


 現代の日本ではまず耳にしない価値観。それをきっぱりと厳しく言い切ったルルアリアに、智一達は思わず息を呑んだ。


「ですが、幸いにも娘は、〝神殺しの魔王〟に恋をし、受け入れられたのです。恋愛と国益が両立し、それどころか考え得る限り他の追随を許さない良縁ですわ。たとえ正妻でなかろうと、反対する理由など全くございません。ハジメ殿は、それだけこの世界にとって大きな存在なのです」


 神殺しの魔王にして、救世主でもあるハジメは、どの国の王族よりも上に位置するというのがトータスの人々の共通認識だ。故に、たとえ側室だろうと、それどころか愛人であろうと、それは比類なき栄誉であり、幸運である……と考えられているのだ。


 なんだか複雑な表情をしている智一を余所に、ルルアリアは「それに……」と続けた。


「わたくしが不甲斐ないばかりに、この子には随分と苦労をかけてきました。一人の母としては、国益など気にせず好いた殿方のもとへ行ってほしいと思うのです」

「お、お母様は不甲斐なくなどありません。私は苦労をかけられたなどと思ったことはありません!」


 心底、申し訳なさそうにするルルアリアに、リリアーナは手を握り締めながら否定の言葉を返した。


 確かに、国民に対する人気と群集心理の掌握という観点から、表立って活動していたのはリリアーナだ。帝国へ外交に出たのもリリアーナである。


 しかし、国王や重鎮亡き後の混乱する王国で、貴族達をまとめ上げていたのはルルアリアだった。政務に関しても、大部分を担っていた。国王代わりがリリアーナであっただけで、今まで通り縁の下の力持ち的役割をしていたのはルルアリアだったのだ。


 言い募る娘に慈しむような表情を向けつつ、そんなわけだからリリアーナがハジメの正妻でなくとも思うところはないのだと言い切るルルアリア。


「それに、この子はこう言いますけれど、多くのものを背負わせていたのは事実なのです。厳しく育てたせいか、すっかり責務第一になってしまって……いざ政略結婚したとしても、この子ったら仕事仕事で上手く夫婦生活を送れないのではないかと心配すらしていたのですよ」


 リリアーナがギョッとしたようにルルアリアを見た。


 同時に、ハジメ達の脳裏に、先程会った騎士団長さんの姿が過ぎる。まるで、ブラック企業に心身共に追い詰められた哀れなOLのような有様だった騎士団長クゼリー。


 ハジメが頷きながら言う。


「なるほど。確かにリリィだと、朝、夫を起こすときの第一声が『さぁ、お仕事の時間ですよ!』だったりしそうだよな」

「……ん。仕事中も『え? 休憩ですか? さっき五秒もしたじゃないですか』とか言いそう」

「あり得るね。リリィって、休日って言われても『休日? 無知ですみません。ちょっと辞書で調べてきます』とか言いそうだもんね」

「むしろ、旦那さんに休日デートに誘われても、『休日だから楽しいお仕事をしているんじゃないですか』とか真顔で言いそうですぅ」

「リリィ……お仕事デートは、流石に旦那さんが可哀想よ……」

「リリアーナさん。教師の私が言うのもなんですが、この国にも労働基準法とか取り入れた方がいいと思いますよ」

「みなさん、私のことなんだと思ってるんですかぁっ!」


 口々に残念嫁扱いするハジメ達に、リリアーナは流石に心外だと咆えた。長テーブルをペシペシと叩いて、自分は健全な乙女であり、至極真っ当な王女であると猛抗議する。


 しかし、実際に、王女としての責務を優先してハジメについて地球に来なかったのだ。行動が彼女の抗議から説得力を根こそぎ奪う。


「うぅ、お母様! お母様からも言ってください!」

「そうですわねぇ。確かに今は、ずっと女の子らしくなったように思うわ。ふふふ、あの日、貴女が帝国から戻ってきた日、会議の場で延々とハジメ殿を語り出したときは、あらあら遂にこの子も恋を知る日が来たのね! と年甲斐もなくはしゃいでしまいましたもの」


 恥ずかしい過去を思い出したのか「うっ」と言葉に詰まるリリアーナ。ユエがすかさず「その話、詳しく」と先を促す。


 ルルアリア曰く、帝国での〝ハウリアの乱〟が終わり、フェアベルゲンでの用事を済ませた後、王国に帰還したリリアーナは、報告と今後の方針を固める会議に出席したおり、延々とハジメに対する愚痴を語ったのだ。


 が、それも最初だけのこと。愚痴は次第に惚気のような語りに変わったのだ。


「確か、危ないところを颯爽と助けてもらったのよね? それで、その後のパーティーでは、婚約者だった皇太子を押しのけてダンスの相手をしてもらったのだったかしら? 皇太子が睨んでいるのも構わず、自分の手を取って、全く困ってしまいましたって言っていたわよね?」


 ハジメ達がバッとリリアーナを見た。リリアーナはサッと視線を逸らした。


 ハジメがリリアーナの手を取ったのは事実。皇太子であるバイアスそっちのけでダンスをしたのも事実。しかし、微妙に事実が抜けている。まるで、ハジメが皇太子からリリアーナを奪おうとしているように聞こえなくもない。


「似合っているとドレス姿を褒めていただいたとも、それは嬉しそうに語っていたわね」

「あ、あの、お母様? もう、それくらいに――」


 ユエ達の視線が気になるのか、あせあせっとした様子でルルアリアの袖を引っ張るが、ルルアリアは楽しそうな表情のまま更に続ける。


「それに、何があっても守ってやる的なことを言ってもらえたと語っているときのリリィと言ったらもうっ、今まで見たことのない、それはそれは可愛らしい真っ赤な顔で……あれこそ恋する乙女の顔でしたわ。わたくし、娘のことながらドキドキしてしまって」

「もうやめてぇっ」


 当時を思い出して頬を染めるルルアリアに、リリアーナはそれ以上に頬を真っ赤に染めて懇願した。


 確かに、守ってやる〝的なこと〟を、ハジメが言ったのは事実。


 しかし、


「おい、リリィ。俺は確か、あのとき――」

「そうですよっ、ちょっと盛りました! 文句ありますか!? ごめんなさい!」


 切れ気味で白状した王女様。乙女心的に、どうしてももう少し美談にしたかったのだ。出来心というやつである。


 香織が微妙な顔をしてリリアーナを見る。


「なんていうか、あれだね。嘘は言っていないけど、わざと誤解を生むような語りをするところ、煽動するときのハジメくんそっくりだね」

「……ん。教会とか神の真実(笑)の原案者と編集兼実行者だから」

「ある意味、最強の煽動者カップルですかねぇ」

「ま、まぁ、乙女なら誰しも恋エピソードは盛るものですよ」


 香織、ユエ、シアの、特に隠すことのないヒソヒソ話に、リリアーナはテーブルに突っ伏した。


 シアだけ一応慰めの言葉をかけているが……おそらく仲間意識からだろう。シアもよく馴れ初めを聞かれてつい言ってしまうのだ。


――ハジメさんと出会ったときどう感じたか? 脳を揺さぶられるような衝撃や、全身が硬直するような痺れを感じました! あと、お空をカッ飛ぶような心地でしたね! まさに運命です!


 みたいな感じで。


 羞恥で悶えるリリアーナを、ルルアリアはどこか面白そうに眺めている。どうやら、大体全部察した上で娘をからかっていたらしい。


「ところで、皆様の今後の予定をお聞きしてもよろしいかしら? できることなら、歓迎パレードなり、パーティーなり催したいのですが……」


 歓迎パレードをしたいなどと言われて、菫達がギョッと目を剥いた。イメージするのは、ディズニー○ンドのパレード。たくさんの民衆に囲まれる中、手を振りながらストリートを進む自分……


 真っ先に表情を引き攣らせた薫子が、隣の智一に目配せしながら遠慮を口にする。


「そ、それはちょっと……ね、ねぇ、あなた」

「あ、ああ。あまり大袈裟にするのも……悪いしな」


 一般庶民の感性からすると、そんなパレードの主役を張るのは勘弁らしい。昭子も高速でコクコクと頷き、白崎夫妻に追従する。


「そうだな。目立つのは苦手だな」

「八重樫は影に生きる――ごほんっ。一般庶民だからな」

「あまり多くの人に顔を覚えられるのは困りますわねぇ」


 一般庶民の感性から……微妙に違うっぽいが、鷲三、虎一、霧乃も渋る様子を見せた。


 雫が家族にジト目を向けている。今、思いっきり〝影に生きる一族だから〟とか言いかけたわよね!? と言いたげな感じだ。


「皆様、人前にでるのはあまり好まないようですわね? わたくしとしては、国民にとって皆様のお姿を一目でも見ることは大きな励みになると思ったのですが……」

「う~ん、楽しそうですし、私は全然OKなんですけどね。ねぇ? あなた」

「おお。一生に一度の経験だしな! ドンと来いって感じだな」


 南雲夫妻だけノリノリだった。智一が、「こいつ、信じられん!」みたいな目で愁を見ている。


「あのだなぁ、南雲愁。前から言おうと思っていたが、いい歳をした大人が、そうやって好奇心だけでなんにでも首を突っ込むのはどうかと思うぞ」

「智一君。君は肝っ玉の小さな男だなぁ。そんなだから、香織ちゃんは俺の方に懐いてくれている――」

「それを言うなぁっ! 表出ろっ、この野郎!」


 いつも通り取っ組み合いの喧嘩に発展しそうな愁と智一を諫めつつ、薫子が頑張って辞退の意思をオブラート包んで言葉にする。


「王妃様。お言葉ですが、私達を見ただけで国民の励みになれるとは……娘やハジメ君達ならともかく、私達はただの家族ですし、本当に一般庶民ですから」

「……なるほど。少し認識に差があるようですわね」

「差、ですか?」

「ええ、最初にはっきりとお互いの立場を明確にしておくべきでしたわ。当たり前になっていたので、失念しておりました」


 ルルアリアは軽く謝罪した後、首を傾げる薫子達に説明した。


「そもそも、皆様は、立場でいえばわたくしより上なのですよ?」

「え? ハジメ君や娘の香織が、ではなくですか?」


 コクリと頷くルルアリアに、いまいちピンと来ていないらしい薫子達。


「当然ですわ。菫様、愁様、智一様、薫子様、鷲三様、虎一様、霧乃様、昭子様――皆様、神の使徒たる方々のご家族ですのよ? この世界の者からすれば、等しく天上人なのです」

「そ、そんな大袈裟な……」

「いえ、本当にそうなのです。魔王のご両親である菫様と愁様は言わずもがなですが……特に、昭子様」

「え? 私?」


 いきなり名指しされた昭子が、ギョッとしたようにルルアリアを見る。


「はい。昭子様は、〝豊穣の女神〟であり〝勝利の女神〟でもある愛子様のお母様ですからね。現人神の生みの親ともなれば……教会の方々からしたら崇拝の対象にすらなるでしょう」

「農家の主婦なんですけど!?」


 田舎の主婦。異世界で聖母マリア的な存在となる。


 だし巻き卵ときんぴらごぼうが絶品の聖母様。特売のために、週に四度は片道七キロの道程をママチャリで爆走する強者(つわもの)聖母。


 昭子が、「何かの間違いよね?」と言いたげに愛子を見た。愛子はサッと視線を逸らした。昭子はふらりとよろめいた。「うぼぁ」と変な声を漏らしながら白目を剥きかけている。「お母さぁあああん!?」と、愛子が叫びながら咄嗟に支えた。


 愛子も、民の、特に教会関係者の自分に対する熱狂ぶりを知っているせいか、「パレードだけは本当に勘弁してください!」と涙目でハジメに訴えている。


 ハジメは苦笑いしながらルルアリアに言った。


「王妃殿下。申し訳ないがパレードはなしの方向で頼みます。いずれにしろ、この復興の最中では、人手的にも時間的にもかなり負担でしょう」

「それを押しても実施するだけの必要性と有用性があるのですが……」


 少し困ったように微笑むルルアリア。


「とはいえ、ハジメ殿がそうおっしゃるなら是非もありません。それに元々、ご家族との観光ですものね」

「ええ。向こうの世界の連休を利用して来ているので、それほど時間があるわけでもないんですよ。俺達は学生ですし、親達は仕事もありますから」

「承知しました。ですが、復興が成った暁には、是非、ご家族揃って民にお顔を見せてあげてくださいな。みな、大いに喜ぶでしょうから」

「考えておきましょう」


 どうにか歓迎パレードを回避できたようで、ホッと息を吐く薫子達。ハジメに感謝の視線を送る。と、同時に、王妃とのやり取りを見て両親である南雲夫妻よりしっかりした会話をしているなぁと、パレードができないことにしょんぼりしている菫と愁になんともいえない微妙な眼差しを送るのだった。


 それからしばらく歓談した後、そろそろお開きにしようかとなったとき、菫が一つ、お願いを口にした。


「ルルアリア様。一つお願いがあるんですけど……」

「あら、何かしら? 菫様のお願いとあれば否などありませんわ」


 にっこり微笑みながら答えるルルアリアだったが……


「できれば、墓前に手を合わさせてもらえませんか?」

「――」


 思わず息を呑み、言葉を詰まらせるルルアリア。誰の、とは問うまでもない。


 この場で、ルルアリア本人に頼む相手など一人しかいない。


 そう、亡き国王にして、ルルアリアの夫――エリヒド・S・B・ハイリヒだ。


「リリィちゃんから、亡くなった方々の個人のお墓はまだ整備できていないと聞きました。けど、流石に王様のお墓まで忠霊碑に、ということはないと思うんですけど……」

「……ええ。その通りです。国の威信にも関わりますから、王宮の敷地内に王族専用の墓地がありますわ。夫の墓石もそこに……菫様、ご配慮、痛み入りますわ」


 ルルアリアは、仄かに笑みを浮かべて小さく頭を下げた。


 それに対し、菫は先程までの軽い調子を忍ばせて、真っ直ぐな眼差しをルルアリアへと向ける。


「配慮じゃありませんよ」

「え?」

「これから家族になる方にご挨拶がしたかっただけです」

「家族……」

「はい。亡くなってしまっていても、家族は家族じゃありませんか。王族の方にとっては無礼な考えかとも思ったんですけど、どうやらその心配もないようですし」

「それは……もちろん、菫様はわたくしより立場は上ですから」


 ルルアリアは、当初から纏っていた王妃としての威厳を薄れさせ、少し戸惑うような様子を見せる。菫は、ルルアリアの言葉に、静かに首を振った。


「ルルアリア様が、私達に会うことを切望してくださっていたことはリリィちゃんから聞きました。それは私達も同じです。けれど、私は魔王の母親として、この国の国母に会いたかったわけじゃありません。新しい家族に、会いに来たかったんです」

「菫様……」


 だから、他の者達に比べ砕けた態度で接したのだ。ルルアリアの価値観や考え方が分からなかったから、積極的に話しかけることで探り探り距離感を掴もうとした。


「心からお悔やみ申し上げます、ルルアリア様」

「……ありがとうございます、菫様」


 穏やかな風が流れた。家族として接したいという菫の言葉に、ルルアリアは僅かに瞳を潤ませる。人前で泣くことなどない高貴なる者であるから涙を流したりはしないが、その瞳は何より雄弁に彼女の心情をあらわしていた。


 リリアーナが優しい表情でルルアリアの手を握る。ルルアリアもまた温くなった心を載せて握り返した。


 と、そこで話も一段落ついたと判断したようで、ヘリーナがスッと出てきた。


「ルルアリア様。昼食の時間が近づいておりますが、いかがなさいますか?」

「あら? もうそんな時間?」


 どうやら、相当話し込んでしまっていたようだ。単なる歓待以上にルルアリア自身もお茶会を楽しんでいたらしい。加えて、菫がしゃべりすぎたのだろう。全会話中の3分の1がハジメの黒歴史という点、ある意味、この世界では魔王より強しというべきか。


 結局、このお茶会は昼食会となり、その後、会話は更に弾んだ。基本的にはそれぞれの親が、それぞれの子供の幼少期における黒歴史を暴露する形で盛り上がり、魔王もその最強の嫁~ズも、王都の人々が見れば目を疑うこと確実なほど居心地の悪そうな、あるいは羞恥に必死に耐えるような姿を晒すことになった。


 もっとも、子供達が犠牲を払った分、菫達は随分と親睦を深められたようで、特に菫とルルアリアは、お互いに〝菫〟〝ルル〟と呼び合う仲になった。


 そうして、ハジメを筆頭に香織や雫、愛子、そしてリリアーナが精神的疲労にぐったりとしている中、一行は午後の王都散策に出たのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


体調不良と所用が重なり、今回はただしゃべっているだけの話になってしまいました。

後に修正するかもしれません。

皆さんも、猛暑にはご注意を! 


※7月25日 『ありふれた外伝――零の第2巻』及び『零コミック1巻』が発売します。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)


左は零2巻。遙か過去のメルジーネ海底遺跡がまだ地上にあったときの話です。今回はメイルVSミレディVSラウス(神山の解放者)の三つ巴?的な戦いがあったり……

現代に通じる点も多々盛り込んでいるので、良かったらお手に取ってみてください!

右は零コミック1巻。幼女ミレディが出ます。ミレディとオスカーの邂逅、そしてミレディの過去が明かされるお話となります。


しっかりク-ラーを効かせた安全なお部屋で、暇潰しのお供にしていただければ幸いです。

よろしくお願い致します!



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― 新着の感想 ―
神話っていいよなぁ
ちゃんとトップシークレット扱いしておかないと後々の歴史で誰かの手記としてぽっこりでてくるぞーw
[気になる点] 重箱の隅をつつくような指摘で恐縮ですが、王妃の尊称は「陛下」が正解になります。 トータスは恐らくヨーロッパに似た世界だと思うのですが、ヨーロッパ王室では王妃の尊称はMajesty(陛下…
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