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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリーⅢ

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ありふれたアフターⅢ メイドでございます


「いやぁ、すみませんね。こんな時間に。それもお仕事をお邪魔してしまったようで」

 ペコペコと頭を下げながら、しきりに恐縮した様子で部屋にやって来たのは、特徴のない中年の男だった。

 スーツや髪型など身だしなみは整っているのに、全体的に緩い雰囲気を纏っていて、自然と相手の警戒心を解いてしまいそうなところがあった。

「そっちこそ大変だな、服部さん。労働基準法の適用外なのが公務員の辛いところだな」
「いえいえ、私など大したことは。それどころか、まさかこんな綺麗なメイドさんに迎えて頂けるとは、疲れも吹き飛ぶというものですよ」

 微笑みながら、案内してきたヘリオトロープを横目で見る〝帰還者対応課〟と帰還者達(基本的にハジメ)との窓口を担っている服部幸太朗。

 一見すると人の良さそうな顔だが、ハジメやリリアーナは彼の目の奥が鋭い光を放っていることを見抜いていた。緩い雰囲気に反して油断ならない人物なのだ。

 それは、ハジメとの窓口役を既に一年以上にわたって担い続けているということからも分かることだ。ハジメ達と関わっていれば胃痛に悩まされることは必須であり、前任者達は大体三ヶ月持てば良い方だった。

 ちなみに、〝帰還者対応課〟というのは、関係各所が協力体制を築いてできた新部署である。管轄は一応、警察の警備部になるのだが、公安調査庁やら外務省やら、政府の関係各所から人員が出向して密に連携を取りつつ総合的に対応できるようになっている。

 過去の〝帰還者騒動〟であれこれ手を出したり、あちこちの部署が動いたりした結果、手痛すぎるしっぺ返しを食らったことから作られた部署だ。

「それで、話っていうのはさっきの連中のことだと思うが……」
「ええ、ええ。その件です。お詫び申し上げますよ。ご迷惑をおかけする前にこちらで対処するつもりだったんですが、想像以上に早く動いたもので。いや、これは言い訳ですね。それで、詳しい事情をですね――」

 説明しようとして、その前にハジメが片手を上げて制止したことで服部は口を噤んだ。一気に嫌な汗がぶわりと噴き出る。「すわっ、魔王にまた政府がやらかしたと誤解されたんじゃ!?」と顔に出ている。

「そこまで短絡的じゃないから、そんな青い顔しないでくれ」
「は、はは。顔に出てますか? 私もまだまだ未熟者ですね」

 ハンカチで額に浮いた汗をふきふき。錠剤タイプの胃薬を手慣れた感じで口に入れる。

 ハジメは、そんな服部のよく見る光景に苦笑いしつつ、ヘリオトロープへ視線を向けた。

「どうやら連中について話があるようだ。下で待ってる服部さんの部下を連中のところへ案内してやれ。俺とリリアーナはこっちから話を聞く」
「承知しました。菫様のお仕事の方はいかがなさいますか?」
「それだ。本来なら阿呆の相手より母さんのアシスタントの方が重要なんだが……」

 菫が首をぶんぶんと振っている。リリアーナを狙って外国人部隊が強襲して来ようとした上に、公安の人間が事情を携えて訪ねて来ているのだ。「締め切りの方が重要よ!」と我を通すような感性は流石に持っていない。

「というわけだ。リリィのことだし、服部さんの方が現状を全体的に把握していそうだしな。俺達が直接事情を聞く。その間、こっちの作業を頼む」
「御意。念の為、人員を追加しても?」
「任せる」

 ポンポンと話が進んでいく。リリアーナは、「はいはい、どうせ私の意見は聞かれないんですよね。それどころか質問もスルーなんですよね。あはは~」と遠い目をして呟いている。

「そういうわけですので、菫様」
「は、はい! なんでしょうメイドさん!」

 恭しい態度で声をかけられて、菫がテンション高めに返事をする。紅潮した顔と若干荒い鼻息が彼女のインスピレーションを刺激しまくっているのは明らかだった。次回作は戦闘メイドさんが主人公になるかもしれない。

「僭越ながら、お手伝いさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ! と言いたいところだけど……大丈夫?」

 漫画家のアシスタントがやるような仕事の経験を、異世界のメイドさんが持っているはずがない。

 メイドスキーとはいえ、そこはプロの漫画家だ。素人を入れて作画に問題が出るなど論外。確認すべきことはきっちりしなければならない。

 だが、ヘリオトロープは全く動じない。美しく微笑むと、

「お任せを。こんなこともあろうかと、ロードから全て仕込まれております。即戦力を期待して頂きたく」
「ハジメったら、異世界のメイドさんに何を仕込んでるのかしら。嬉しいけど!」
「なお、菫様の作品は全て拝読済みでございます。私達フルールナイツの間でも大人気でございまして、一同、菫様には深い敬意を抱いております。故に、お手伝いさせて頂けるのはロードにご命令を頂くのと同等の誉れにございます」

 ぐっと握り拳を握って力説するヘリオトロープさん。実はフルールナイツどころか、トータスの王宮のメイド達の他、貴族の令嬢の間でも空前の少女漫画ブームを巻き起こしている。

 販売元はサウスクラウド商会。直接の販売は販売関連の大半を請け負っている提携商会であるユンケル商会だ。

 ヘリオトロープのキラキラした瞳から真実と本気度を感じ取ったのだろう。珍しくも菫が照れた様子で頬を染めている。日本でもスミレ大先生扱いなのだが、業界の人達にそう呼ばれるより嬉しそうだ。

「……私のお手伝いはしたことないのに。ヘリーナのあほぅ」

 元王女が何か呟いていた。幼少の頃から傍にいた侍女を取られた気分なのだろう。完全にいじけている。

 聞こえているのかいないのか、ヘリオトロープは華麗にスルーして、フィンガースナップを一発。

「サルビア」
「はい、団長」

 アシさん達と、ついでに服部さんがビクッと震える。いつの間にかヘリオトロープの後ろにメイドさんが増えていた!

 ダークブラウンの髪をシュシュでまとめてお下げにした可愛らしいメイドさんだ。ヘリオトロープと同じヴィクトリアンメイド風の衣装に身を包み、ほんわり微笑んでいる。

 彼女を見て、いじけていたリリアーナがくわっと目を見開いた。

「もうこの際、どうやって現れたのかは問いません! でも、これだけは言わせてください! 貴女、サミーアさんですよね!? ユンケル商会のモットー会頭のお孫さんの! こんなところで何をしてるんですか!?」
「メイドでございます、リリアーナ様」

 そりゃそうだ。メイド服だもの。と、菫達が心の中で同意する。

 そういうことを聞いているんじゃないの! と頭を抱えるリリアーナに、ハジメが端的に説明した。

「フルールナイツ序列五位。物資管理と情報管理を担う隊長格だぞ。もちろん戦闘能力も申し分ない」
「商人の娘さんがなんでぇ!?」
「全てはロードに見出して頂いたおかげにございます」

 実は、ハジメとは何かと縁の深いユンケル商会のモットー・ユンケルが、少しでもハジメとの実質的な繋がりを確保しておきたくて送り込んだ人材だ。下心を隠さず言うなら、「可能なら嫁にして頂いて、魔王陛下と身内としての繋がりを持ちたい」というわけである。

 当然、ハジメもモットーの商人魂は知っているし、その思惑も察していたのでサルビア――本名サミーア・ユンケル(十七歳)のアプローチなど無視していたのだが……

 フルールナイツ構想を練っているとき、ヘリオトロープの候補者リストに彼女の名があり、試しにいろいろ試練を与えてみたところ中々の逸材だったのだ。

 ちなみに、サミーア自身には政略結婚の道具にされたという認識はない。彼女もまた商人魂を受け継ぐ者で、魔王の周辺や異世界(地球)に金の匂いを嗅ぎ取り自ら志願したのである。

 が、フルールナイツのメンバーに選抜され試練を受けていく間に、紆余曲折を経て生きがいと魔王への忠誠を持つに至っている。

 フルールナイツは序列十位までを隊長とし各隊長格に部下がいる構成なのだが、元々本職が戦闘職であった者達の幾人かを抑えての序列第五位という時点で、彼女の有能さと、そこまで努力した原動力である忠誠心の厚さが分かるだろう。

「それでは菫様。私とサルビアがお手伝いさせて頂きます」
「分かったわ。まぁ、ハジメが仕込んだのなら腕の方も心配なさそうだし、よろしくお願いするわね」

 ヘリオトロープとサルビアは深く頭を下げ「お任せください」と言った後、「先輩の皆様、至らぬところがありましたら、どうぞ容赦なくご指摘ください」と、アシさん達にも深々と頭を下げた。

 アシさん達は揃って、「こちらこそよろしくお願いしますぅ!」と何故か一糸乱れぬ動きで敬礼を返す。

「服部様」
「おぉ!? わ、私ですか? なんでしょう?」

 まさか自分に声がかかるとは思わなかったのだろう。服部が、中年のおっさん顔をポッと染めている。

「外で待機していらっしゃる部下の方のところへ、プリムラという名の私の部下を向かわせました。捉えた者達の場所に案内させます。ロードの命により、私達の方法で情報は聞き出しますが、ご協力のほど、よろしくお願い致します」
「りょ、了解です。今、部下に連絡しますので」

 ヘリオトロープさんは、いつ、どうやって部下に連絡したのだろう。まぁ、魔王のメイドだし、な~んにも不思議じゃないか~。と内心で思いつつ、服部は携帯を取り出して一緒にやって来た部下達に連絡をし始めた。

 そこで、リリアーナが若干投げやり気味な様子で尋ねる。

「……ちなみに、そのプリムラさんという方は……やっぱり私の知っている人ですか?」

 少し考えて、ハジメが答えた。

「知ってるぞ。本名はフィリム・ザーラー――」
「ははっ、今度は現神殿騎士団長の妹さんですかぁ~」

 若干壊れ気味のリリアーナ様。友人知人が、知らぬ間に超人メイド集団のメンバーと化しているのだ。

 その有様は、どことなくかつてのシアを彷彿とさせる。そう、温厚で優しい家族がヒャッハー集団へと変わってしまったと知った時のシアに。

 ちなみに、現神殿騎士団長とは、元愛ちゃん護衛隊の隊長だったデビッド・ザーラーのことである。

 神話決戦は、世間的にはエヒトの名を騙る邪神一派の仕業ということになっているので、人々の聖教教会への信仰心はそのままだ。なので、復興に合わせて教会も建て直しが図られている。

 デビッド達、元愛ちゃん護衛隊のメンバーは、その新生聖教教会の騎士団を纏めているのである。もっとも、その信仰心の九割は〝俺達の女神〟に捧げられているのだが。

 そんな新生神殿騎士団の団長様には、実は妹がいる。元修道女で、祈ることで魔法全般に対し高い能力を発揮する天職〝祈祷師〟を持つ魔法のエキスパートだ。

 だが、長年兄とは折り合いが悪く、総本山の信仰の在り方に疑問を抱いたため辺境へと飛ばされていた。

 神話決戦では聖歌隊にも参加し、そこでデビッドとも肩を並べて戦ったことでわだかまりはなくなり、王国復興時には政務に励むリリアーナを教会関係者としてよく補佐していたのだ。

 いつの間にか戦闘メイドに転職していたようだが。ちなみに序列は第六位である。

「あ~、よろしいですかね? どうやら、うちの部下がプリムラさんと合流できたようで、連中のところへ向かうようです。いやぁ、普段冷静な部下がえらく動揺してましたよ。ブロンド髪の美人メイドがいきなり車の窓をノックしてきたもんだから、頭がおかしくなったのかと思ったと」
「まぁ、夜中に金髪メイドがいたら自分の目か頭を疑うわな」

 服部の苦笑いに、ハジメも苦笑いを返す。

「それじゃあ服部さん。向こうの部屋で詳しい話を聞かせてくれるか?」
「ええ、そうさせてもらいましょう。少々厄介なことになってましてね。本音で言うと、南雲さんの力をお借りしたいところではあったんですよ。もちろん、私の個人的な願望ですが」

 政府的には、魔王一派には極力何もしないで欲しいという考えなのだが、「それだと難題を処理するの私達現場の人間じゃん! 勘弁してよ! 胃に何個穴空けりゃあいいのよ!」と、服部個人は思っているらしい。

 さりげなく再び錠剤胃薬を口に放り込んでいる服部を連れて、ハジメと未だ遠い目をしているリリアーナは別室へと入っていった。





 別室にて聞いた話を要約すると、どうやら先程襲ってきた連中以外にも、複数の国から諜報員または部隊が送り込まれて来ているらしい。

 目的は言わずもがな。リリアーナという世界に出来上がりつつある巨大な組織の旗頭に対する本格的な情報収集又は排除だ。

 ただの企業のトップというだけなら話も違ったのだろうが、新興宗教じみた思想を根本に置いた世界的組織となれば、各国が危惧するのも頷ける話ではある。

 とはいえ、随分と急な話だ。ネットワークが組織として成立する前に何らかの手を打ちたいという考えは分かるが、それにしても各国の動きが急すぎる。

 その点に関して、服部が冷や汗を流しながら説明したところによれば、どうやら政府の一部のお偉いさんがやらかしたらしい。

 リリアーナが魔王の関係者で、その魔王と直接やり取りする窓口があって、一応とはいえ友好関係を築けているのだから、リリアーナの組織をなし崩し的に日本の所属にしてしまおうと画策したとのこと。

 結果、その動きを各国に掴まれて、万が一、組織が日本に属することになっては困ると一斉に動き始めたのだという。

「ほんっと~~~に、申し訳ない!」

 平身低頭する服部さん。最近、少し頭頂部がさみしくなってきたと嘆いていたのだが……なるほど。

 ハジメは、そんな服部に妙な哀愁と敬意を覚えて苦笑いしながら首を振った。

「のど元過ぎればなんとやらって言うしな。そろそろ帰還者騒動の時の痛みを忘れて、〝ちょっとくらい〟〝これくらいは……〟と、ちょっかいかけてくる連中が出てくるだろうってことは予測してた。服部さん達が内々で対応してくれる限り、こちらからは行動に出るつもりはないから、まぁ、よろしく頼むよ」
「はぁ、そう言って頂けると助かります。対応の方は既にしておりますので何卒ご容赦の程を」

 あからさまにホッとした様子を見せた服部は、ものすごく自然な動作で胃薬を口に入れた。まるで、フリス○のCMのように流麗な手つきで、直接ケースから錠剤を投げ飛ばし口に入れている。

 これまた、服部に哀愁を強く感じさせる要素だった。どれだけ胃薬を飲み慣れているのか。そして、一日にどれだけ飲むつもりなのか。

 なんとも言えない目で服部を見ているハジメに代わり、リリアーナが労るような表情をしつつ尋ねた。

「それで、服部さん。服部さん達は、これからどのような事態になると予想されていますか? 私としては、大変面倒な事態になると予想してしまっているのですが……」
「その予想は的を射ていますよ。こちらで確認した限り、既に三カ国の人員が入国済みです。他にも四カ国が明確に動いていますね。どの国も理想は正確で詳細な情報の収集でしょうから、一先ずは監視合戦を望むと思いますが……」
「俺が許さないなぁ」
「ええ、南雲さんが許さない。しかし、それでは世界的組織になりつつあるトップの情報が何もないことになる。〝得体が知れない〟というのは最も恐ろしい事態です。故に、彼等はその恐怖を甘んじて受け入れるか、それとも手を打つか、その選択を迫られることになる。お分かりと思いますが……」
「また、余程痛い目に合って割に合わないと骨身に刻まれるまで、前者を選択することはないだろうな。そんなのは国の選択としてあり得ない」
「そういうことです。理想は、リリアーナさんの排除又は誘拐の際に他国同士が争って同士討ちしてくれることですが、まぁ、理想なんてものは書物の中の言葉ですからねぇ」

 監視生活を受け入れてやる選択肢など、ハジメ側には皆無だ。そして、ある程度の情報を渡してやったとしても、今度は「この提供された情報は本当なのか?」と、やっぱり監視されるだろうことは目に見えている。

 なので、十中八九、服部の言う通り、各国の部隊は〝監視が尽く無効化される〟と理解した時点で強硬手段に出るだろう。

 げに恐ろしきは、そのような決断をする各国ではなく、そのような決断をせまるほどに看過しがたい影響力と勢力を現在進行形で広げているネットワークの――引いてはリリアーナの存在だろう。

 なんとなしに、ハジメと服部の視線がリリアーナへ向いた。先程までとは異なる理由で遠い目をしているリリアーナがいた。

 その顔には分かりやすく「ただ困っている人を助けたかっただけなのに。基本、他力本願なのに……どうしてこうなったの」と書いてある。

 ハジメと服部は同時に生温かい目を向けて、同時に視線を逸らし見なかったことにした。

「しかし、あれだな。そうなると、数日中には連中が俺達の周りにたむろすることになるわけか」
「……本来ならそうなる前に全て対処したいところですが……申し訳ない。魔王課の――ごほんっ、失礼。帰還者対応課とてしましても、正直、時間も人員も足りないのが実情でして」
「おい、今、魔王課って言わなかったか? もしかして、そっちではそれが通称なのか?」
「外交的対応も既に始めてはいますが、効果は期待しない方が良いでしょう。我々としましては町中でのドンパチだけは避けたく、不測の事態にも備えてリリアーナさんには人気のない場所に是非とも避難して頂きたい、というのが提案といいますか、本音であるわけです」

 華麗にハジメの質問をスルーし、申し訳なさそうな表情で提案を口にする服部。

 ハジメがもの凄く嫌そうな顔をしているが、それは提案に対してではなく、きっと服部がポロリと零した対応課の別称の方だろう。

 警察庁警備局魔王課……。確かに、そんな警察機関は嫌だろう。

「私は構いませんよ。確か、融通できない予定もなかったはずです。私達の感知しない場所で小競り合いが起きたときが心配ですから」
「そうだな。散発的にうろちょろされるのも面倒だ。一箇所に集めて、まとめて片付けた方が各国への印象も良いだろう」
「では、その方向で話を進めさせて頂いても? 場所としましては、我々が所有する証人保護のための隠れ家をいくつか用意していますので、そちらを使って頂ければ良いかと」
「流石、服部さん。仕事が早いな」

 ハジメの称賛の言葉に、服部はこの日初めて、作り笑いと苦笑いと引き攣り笑い以外のホッとした笑みを見せたのだった。

 その後、詳細を詰めた話が終わった頃、プリムラと共に服部の部下がやって来て襲撃者達の素性や目的、今後の予定などの情報を共有した。

 根こそぎ搾り取ったようで、どんな方法を使ったのかまでは聞かなかったが、服部の部下達のプリムラへ向ける畏怖の眼差しを見ると……聞くべきではないことだろう。

 プリムラは、一応、元とはいえ心優しいシスターさんだったのだが……

「ハジメさん……地球で自重を心がけている分、トータスの方ではっちゃけてませんか?」
「……」

 悲しげな目でプリムラとハジメを交互に見やってそんなことを言うリリアーナに、ハジメは何故か言葉に詰まって視線を逸らしたのだった。

 ちなみに、ヘリオトロープとサルビアはアシスタント業を完璧にやり遂げた。

 仕事の道具を、借りるのではなく自前で用意し、しかも袖の中からシャキン! と出したり、胸元やスカートの中から出したりするので、菫達は終始盛り上がりながら楽しく仕事ができたようだ。

 職場の雰囲気を良くすることも忘れない、完璧なメイド達であった。





 その翌日。

 とある県の山奥にある立派なロッジに、南雲一家の姿があった。

 周囲は自然豊かな山林で、直ぐ近くには清涼な川が流れている。

 服部が用意した被保護人用の隠れ家だ。人里から十分に離れているし、多少の騒ぎが起きても気が付く者はいないだろう。

 山の紅葉もまだ残っており、観光地、療養地としての意味でも隠れ家的な場所だ。

 秋も終わりのこの季節に、物騒な事態への対応をしなければならない南雲家への、服部なりの配慮なのかもしれない。

 なお、菫や愁だけでなく、今はレミアやティオなども忙しい身ではあるのだが、全員、無理を通してでもスケジュールを空けて来ていた。家族が狙われているのだ。当然だということだろう。

 ハジメはロッジの外に出て周囲を見渡した。紅葉の残る美しい森の景色も、夜になれば表情を一変させるに違いない。リリアーナを狙う者達がやって来ることを思えば、夜の森は彼等にとって格好の隠れ蓑で、襲われる側にとっては酷く恐ろしい闇となる。

 だが、そんな森を眺めながら、ハジメは不敵な笑みを浮かべた。

 そして――宣言した。

「さぁ、それじゃあ――――バーベキューするぞ~~~!」
「「「「「「「「「「おお~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 テンション高めで答える南雲一家。満面の笑みを浮かべており、その手には沢山の食材が!

「パパ! はやくぅ! はやくぅ! お腹ぺっこぺこなの!」
「あらあらミュウったら。そんなに喜んで……」
「うむ、少し無理をしたが、秋最後の家族旅行のためにスケジュールを空けて良かったのぅ」
「……ん。今年はみんな忙しくて中々家族旅行できなかったから」
「ユエはあんまり忙しそうじゃなかったけどね」
「……香織。そういうこと言うとまた取っ組み合いの喧嘩になるから。あぁ、ほら、ユエがファイティングポーズ取ってるじゃない! ってこら! 香織もネギを構えないの!」

 雫が仲裁するも、ユエと香織は野菜を武器に喧嘩を始める。ミュウはA5ランクの肉の塊を頭上に掲げて「おっにくぅ、おっにくぅ!」とはしゃぎ、レミアとティオが同じく微笑ましそうに見ている。

 シアがそんな光景を苦笑いしながら見つつ、テキパキと他の食材の下ごしらえに精を出し、その隣でリリアーナがお手伝いをしている。

「あはは……まぁ、今回の事件はいいきっかけになりましたねぇ。特にリリィさんは飛びっきり忙しかったですし、中々一緒に過ごせませんでしたもの。襲撃様々ですね! あ、そう言えばミュウちゃん、後で川にお魚探しにいきませんか? 指弾しましょ♪」
「シアさん、普通に釣りをしてください! 川が真っ赤に染まってしまいますよ!」

 嫁~ズがテンション高めできゃっきゃっと騒いでいる。

 ……どうやらリリアーナを心配してスケジュールを空けたのではなく、純粋に家族旅行したかっただけらしい。

「……え~と、それでは私は作戦本部の方で待機してますので……」

 実は案内役で同行していた服部が、気負いも危機感も全くなく普通に休暇をエンジョイしている南雲家の面々に「ま、いつものことか」と哀愁を漂わせつつ戻ろうとする。今夜も……カップメンだな。ラ○にしよう、と心の中で呟き、A5ランクの肉の塊を物欲しそうにチラ見しながら。

「おや、服部さん。もう戻られるので? 良かったら食べていってくださいよ」
「そうですよ。しっかり食べて栄養つけないと、どんどん頭頂部が寂しくなっていきますよ?」

 愁と菫から温かい(?)お言葉! 

 バッと振り返った服部は、ハジメへと視線を向ける。あたかも、ごはんを前に「待て!」されたワンコが飼い主の許可を求めるかのような目で!

 ハジメは内心で「この人、ほんと根は油断ならない出来る人なんだけど、なんでこう三枚目というか、時々犬っぽい感じになるんだろうなぁ」と苦笑いする。

「そりゃあ、南雲さん。国家の犬なもんで」
「……ほんと、油断ならない人なのになぁ」

 普通に内心を読み取られたハジメはますます苦笑いしつつ、コクリと頷いて「よし!」と伝えた。

 服部は嬉しそうに「私、炭管理しますよ~」とバーベキューの方へ駆け寄っていく。ついでに「あ、部下にも持ち帰りたいんでパックに詰めてもいいですかね?」と、さりげなく肉を多目に確保しようとしている。

 視界の端で、肉に手を伸ばした服部が「ミュウのお肉に何するかーーなの!」とミュウに投げ技を食らってぶっ飛んでいるのを尻目に、ハジメは秋山の景色を存分に堪能するのだった。
いつもお読み頂ありがとうございます。
感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。

終わらなかった…趣味全開だと話が長くなりますね。あ、いつもことか……
明日はガキ使なので、たぶん無理だと思いますが、可能だったら更新します。
少なくとも元旦には更新しますね! 十二時くらいかな……

それと、「ありふれ零」について、「買ったよ~」「面白かったよ~」とコメやメッセ下さった皆様、
ほんと~~にありがとうございます。
完全書き下ろしなので、がっかりさせていないだろうかとドキドキしておりまして……
とても嬉しかったですし、少しホッとしました。
ドラマCDについても同じく。本当にありがとうございます!

なお、皆さんは「あとがきのアトガキ」は、もうお読みになられましたでしょうか?
オーバーラップ様のHPで、「ありふれ7巻」と「ありふれ零」の紹介部分をクリックして頂くと、
各巻の専用ページに飛びますが、そこに「読者アンケート」があります。
そのアンケートに答えて頂くと、ちょっとした小話を読めます。
7巻は「その頃のミュウ」について、零は「その頃の、食堂のあの子」についての小話です。
よろしければ是非!


今年一年のご挨拶は、明日にでも活動報告で改めてさせて頂きますが、
あとがきでも一言。
なろう民の皆さん、今年一年、一緒に楽しんで下さってありがとうございました!
来年もよろしくお願いします!

PS
ガルドの方で、コミック版と日常版の最新話が更新されております!
ハウリアww てかカムがやべぇってなると思います。
日常はミュウが登場! ミュウの「ですぅ」が白米的にツボでしたw
RoGa先生と森みさき先生にも、感謝の極みです。
是非皆さんも、今年最後のガルドを見に行ってみてください。
+注意+
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