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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリーⅡ

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ありふれたアフターⅡ 魔物共、未知を追う


 大海原を西へと疾走する影が二つ。

 どちらも異常な姿であった。むしろ怪奇現象だった。

 一つは海の上を走っているウサギだ。正確には、赤黒い波紋を広げる空中の力場を足場にしているのだが、極めて海面に近いことと、その速度が尋常でないが故に、まるで海を割っているかのような波飛沫が上がっている。

 だが、ウサミミを海風にふぁっさふぁっささせているイナバは、そういう固有魔法を持った魔物なのだろうと、海にいる理由はさておき、まだ納得できる範囲に違いない。

 問題は、その相方の方だ。

『……旦那。それは反則ちゃう?』
『うるせぇ。便利なんだからいいだろ』

 チラリと併走する相方――人面魚の魔物リーマンを横目に見やったイナバは、リーマンがそれを取り出した瞬間から湧き上がっていたツッコミ魂を、とうとう我慢できずに漏らした。

 キィイイイイイイッという独特の音が響き渡る。抑えているとはいえイナバの速度に追随する速度をリーマンに与えているそれ。

 見た目はデルタ型の戦闘機を彷彿とさせる。恐ろしいほどに滑らかな海上迷彩のボディは海の抵抗力を限りなくゼロに近づけているのだろう。後方へ流れる波紋が美しい。船首にペイントされた牙剥くサメのようなペイントは作製者の茶目っ気を感じさせる。

 船体の中央付近にコックピットらしき場所があり、その中には水が満たされていてリーマンがすっぽりと収まっている。推進機らしき部分が船尾についており、一見するとウォータージェット推進の方式に見えなくもないのだが、噴出しているのが水ではなく銀色の粒子という点で間違いなく普通ではない。

――水空両用型小型潜水艇 トリアイナ(v.2)

 魔王が命の恩人(?)に送った、海洋最強最速のアーティファクトである。

『もう海の魔物ちゃうんやん。飛んでるやん。キラキラ粒子やん。空飛ぶ人面魚ってなんやねん。シュールすぎるって』
『だから、うるせぇって。一応、潜水艇だ。空()飛べるんだ。俺ぁ、海の男だ』

 何となく気まずいのか水で満たされたコックピットの中で明後日の方向へ視線を逸らすリーマンさん。

 ちなみに、このリーマン専用潜水艇(?)は、リーマンの念話能力と連動しており、起動から操縦まで、リーマンの意思一つで行える。加えて、リーマンの鱗の一部は変成魔法と生成魔法の複合技により生体鉱物と化しており、それ自体が〝宝物庫〟の機能を有したアーティファクトだったりする。

『まさか旦那自身、魔改造されとるとは……恐るべし、王様』
『いらねぇって言ったんだけどなぁ。『リーさんは何かと面倒事に巻き込まれるタイプだから、俺の心配を軽減するためだと思って受け取ってくれ』ってよ、ハー坊のやつが頼みやがってよ。よくしてもらってんのは俺の方なのになぁ。まったく、立場が滅茶苦茶だ。あんな風にハー坊に頼まれちゃあ、おっちゃんは断れねぇよ』

 感謝以外に向けるもんがあるかよ? と、リーマンはどこか困ったようにヒレを竦める。

 イナバは「確かに」とウサミミを竦めながら同意した。そのなびくウサミミに取り付けられたイヤーカフスも、イナバがお願いしたものではなく、全ては武者修行のため強者に挑み続けるイナバへの心配り。

 魔王様は、人間には割と厳しいが、魔物仲間には結構優しいらしい。

『ちなみに、そのキラキラしてるんはなんなん? 魔力とちゃうやろ? 地球産? なんかめちゃ強力な力を感じるんやけど……』
『ん? ああ、これな。俺もよく分からん。数年前にな、ハー坊の野郎この世界とも地球とも違う世界に迷い込んだらしくてな。空と竜の世界だったらしいんだが、そこのエネルギーらしいぞ。いろいろ改良して、こういう乗り物は重力操作より使い勝手がいいってんで最近改良してくれたんだよ』
『ほへぇ~。空と竜の世界かいな……流石、王様。どこでも行くなぁ。やっぱり王様の傍におんのが、一番面白そうやなぁ』

 イナバさんとリーマンさんは知らない。その世界のエネルギーは基本的に有限であることを。にもかかわらず、トリアイナはエネルギー切れを起こさないという異常を。その原因が、機体に搭載された〝小さな星〟であることを……

 数年がかりの研究の末、ついに彼の魔王さんは、人類の命題の一つを完全に掌握し、小型化や量産化が出来るようになっていたのだ!

 ちなみに、トリアイナと同じく魔改造された某元戦艦は、宇宙だろうが次元の海だろうがどこでも飛べる豪華客船に生まれ変わっており、某女王様達へのお披露目も済んでいたりする。

 その際、成長した女王様が再会した魔王様に感極まってあれこれしたりして、紹介された嫁~ズと一悶着あったりしたのだが……

 何故かやたらと気が合ったらしいワーカーホリック王女様の執り成しで事なきを得ていたりする。

 同乗した元クラスメイト達は「愛人に止まらず、まさか現地妻まで!?」「魔王はどこまで行く気なんだ……」と戦慄の表情を浮かべていたとか。

 さて、大海原にあって異質でありながら呑気な会話に花を咲かせているイナバとリーマンだったが、次の瞬間、同時にその場を離脱した。

 イナバは踏み込みの衝撃で水柱を立てながら。リーマンは急旋回しながら。

――オォオオオオオオオオオッ

 一瞬前までイナバ達がいた場所を、先のサンドワームの如く大口を開けて海中より強襲したのは巨大な海蛇だった。

 獲物なく、バクンッと虚しく閉じられる顎門。飛び出した巨大な海蛇の魔物がギロリと視線を獲物へ向け――

『チェストォーーッ!!』
『元気の良い奴だ。そらよ』

 飛来したのは白き砲弾。空気が破裂するような音を響かせて加速したイナバの跳び蹴りが海蛇の横腹を半ばまで爆砕し、その巨体をくの字に折り曲げる。

 思わず悲鳴を上げかける海蛇だったが、その前に飛来した火線を引く飛翔体――小型ミサイルの直撃を頭部に受けて爆炎と血肉の花を咲かせた。

『血気盛んな奴やな――うおっ!?』
『チッ。なんだこいつら』

 いつものようにウサミミふぁさっをしつつ海面付近に着地しようとしたイナバだったが、直後、飛び出してきたカジキマグロのような魔物の強烈な突きを食らいそうになる。

 それをトリアイナの機銃によって横合いから殴りつけ吹き飛ばすリーマンだったが、そのリーマンをおびただしい数の同型の魔物が強襲した。

 イナバの衝撃波や飛脚刃が次々とミンチに変えていき、リーマンは念話を利用した搭載兵器――衝撃超音波で蹴散らしていく。

 だが、リーマンが顔をしかめて零した言葉通り、魔物達の行動は明らかに異常だった。

 カジキ型の魔物だけでなく、ありとあらゆる魔物が不利になることも厭わず海面上のイナバ達めがけて襲いかかってくる。

『ちょい、旦那! ワイの感覚に、もの凄い数の反応があんねんけど!? これいつものことかいな!?』
『んなわけねぇだろ! こんな数、初めてだ! ったく、今度は一体、どんな面倒事が起きてるってんだ』

 吐き捨てるように愚痴を零している間にも、サメや蛇、イカなど海にまつわる怪物級の魔物が次々と現れる。

 空中戦においてイナバが海の魔物に後れを取ることはないだろうと、一度戦線離脱して潜水を行ったリーマンは、そこで更に盛大な溜息を吐いた。

 海中で、魚群が螺旋を描くように、種々の魔物がひしめき合っていたのだ。種類の異なる魔物同士が、互いを殺し合うこともなく密集するなど、本来ならありえない光景。

 更に、西の方からぞくぞくと魔物が押し寄せてくる。

 それはまるで、海の魔物によるスタンピードだ。西から押し寄せる魔物の津波だ。

『こいつぁやべぇぞ。この数が一斉に押し寄せたら、ハー坊の防衛機構があるとはいえ、エリセンでも耐えられねぇ』
『魔物が互いに争わず押し寄せる――なんとまぁ、懐かしくも思い当たる現象やなぁ』

 一秒一殺と言わんばかりに、海上より攻撃可能な魔物を逃さず全て駆逐していくイナバが、何とも言えない声音でリーマンの念話に答える。

 確かに、まるで神話決戦時における魔物の行軍だ。

 イナバとリーマンの脳裏に嫌な想像が過ぎる。

『何が起きてるのかは分からねぇ。だが、少なくとも今俺達がすべきことは明白だ。違うかい?』

 リーマンの問いかけに、イナバは口元を裂いてニヤッと不敵な笑みを浮かべる。

『ワイはそこまで人間を守らなっていう考えはない。せやけど、ククッ。ここは戦場。よりどりみどりの敵がひしめく、ワイの戦場や。全部蹴り飛ばしたる。最後に立ってるんはワイや。結果、人間が助かるんやったら、まぁ、そらええことや』
『……はぁ。分かった分かった。俺は適当に漏れた奴等を片付けっから、好きなだけやってろ、この戦闘狂め』

 呆れたような表情で魚雷の槍衾を放つリーマン。

 イナバはリーマンの言葉を聞くと更に機嫌良く笑い声を上げた。

『はっはーーッ!! 流石、旦那! 話が分かる! ほな、海の魔物共! いっちょ誰が一番強い魔物か、決めようやないか! さぁ、どっからでもかかってこんかぁ~~~~~いっ!!』

 戦闘ウサギの戦声が木霊する。赤黒い波紋を伴って四方上下に伝播する!

――固有魔法 舞闘狂乱

 本来一種族に一つのはずの固有魔法。蹴りウサギであるイナバの固有魔法は〝天歩〟だ。空中に足場を作り、高速で移動し、あるいは脚力を増大させ、衝撃や飛刃を発生させるなど、移動や脚撃に関する固有魔法。

 だが、数奇な運命の下、特異な進化を遂げたイナバは後天的にいくつかの固有魔法を会得することに成功している。

 その内の一つが、〝舞闘狂乱〟。いわゆるRPG系でいうところの〝挑発〟みたいなものだ。敵の敵愾心を増大させ、己へと向けさせる。

 海の底まで届いた波紋状の挑発は、美味そうなウサギを狙う魔物達を戦いの狂乱へと誘った。

――ォオオオオオオオオオオオオオオッ
――ガァアアアアアアアアアアアアアッ
――ギィイイイイイイイイイイイイイッ

 無数の咆哮が大海を震わせ、海面を圧力で弾けさせる。

 わざと海面付近にたたずむイナバを狙って、螺旋描く魔物の群れが一斉に襲いかかった。

 噴火でもしたのかと見紛うような海面の盛り上がり。直後、全方位から一斉に魔物が突進する。

『シャオラァアアアッ!!』

 ウサミミによる倒立と高速回転による全方位回し蹴り。ブレイクダンスじみた技は、放射状に魔物達を吹き飛ばす。ピンボールのように吹き飛んでいく魔物達。

 イナバの真下から巨大なサメ型の魔物が飛び出してくる。

『叩き返したらぁっ』

 ウサミミをぴょん! 反動で反転したイナバの華麗なる前方宙返り。それにより放たれるかかと落とし。

 飛び出したサメの頭部が割れる。ついでに海も割れる。衝撃の範囲内にいた魔物が中身を攪拌されて血反吐を撒き散らす。

『オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!』

 飛び出しては吹き飛び、飛び出しては吹き飛ぶ。海面上のイナバを中心に、まるで全方位に向けて機銃掃射でもしているかのように魔物が飛んでいく。水切りのように海面をビッタンビッタンと跳ねては飛沫を上げて藻屑と化す。

 イナバを取り囲むように無数の触手が全方位から包み込んできた。クラーケンと呼ぶべき体長三十メートルはある正真正銘の怪物だ。

『上等ッ』

 触手の包囲網から、イナバは飛び――出さない。小さな跳躍と共に上下反転。力場を蹴って目指すは海中!

 自ら不利な海中へと飛び込んだイナバは、海中に足場を作って〝縮地〟の上である〝爆縮地〟――その更に上である〝縮地・神通脚〟により、海中の抵抗力を強引に吹き飛ばしてクラーケンの脇を通り抜けた。

 獲物を追うべく、緩慢な動作で振り返ろうとするクラーケンだったが、

『サービスや。生まれて初めての空の旅ぃ、存分に楽しんでこいやぁっ!!』

 イナバは蹴った。クラーケンを。海ごと。

 海面が隆起する。直後、轟ッという爆音と共に海が上空へとカッ飛んだ。否、正確には打ち上げられたクラーケンに纏わり付く海水がそう錯覚させただけなのだが、海水が振り落とされるよりも速く打ち上げられたため、端から見ると海の一部が丸ごと空へ飛んだように見えるのだ。

――くぇええええええええ~~~~

 きっと生まれて初めて上げたであろうクラーケンの悲鳴。

 ああ、お空はなんて蒼いのだろう! 

『堪能したか? お代はおどれの命で十分や』

 おや? いつの間にかお隣にウサギさんが……

 クラーケンの意識は空の彼方へと吹っ飛んだ。

『おおい、イナバ。いつまで遊んでんだ。結構こっちにも流れてきてんぞ。俺達を無視してエリセンの方へ流れる奴もいる。各個撃破しかできねぇなら、こっちで片付けちまうぜ?』
『む? なんやせっかく喧嘩売ったのに、あんま効いてないんかい。やっぱり奇妙やなぁ。まぁええ。ほんならもっと本気で喧嘩売ったらぁ!』

 イナバより『もきゅ~~~~~~~~~っ!!』という勇ましい雄叫びが!

――固有魔法 舞闘狂乱 派生之一 〝生存狂闘〟

 イヤーカフスの一つ。昇華魔法による強化をもたらす能力により、限定的に生じる派生固有魔法だ。舞闘狂乱の数倍、相手の戦意を滾らせ、闘争の宴へと身を投じさせる。

 イナバと海中で侵攻を食い止めているリーマンを無視してエリセン方面へ向かおうとしていた魔物の一部が、進路を変えてイナバ直下の海面へと集まってくる。

 まるで食べ物をねだる鯉が水面下であふれるかのようにひしめき合う魔物達。

『とっておきや。たらふく喰らって逝け』

 赤黒い魔力がうねる。イナバの真っ白な体毛に、薄らと脈打つ赤黒い線が浮き出始めた。

 宙を蹴って更に上空へと駆け上るイナバ。遙か上空でくるりと反転。上下逆さの状態で、〝縮地・神通脚〟を発動。一瞬で音速の壁を突破したイナバが、更に空中で反転。下方に向けられた足は――

『真っ赤に燃えて、弾け飛べ』

 その言葉通り、イナバの両足が業火に包まれている!

――固有魔法 万象纏脚 

 後天的に手に入れた二つ目の固有魔法。それは、イナバの脚撃を、属性魔法の付加によって威力強化すると共に、属性固有の効果を付与するというもの。

 高高度から、音速降下しつつ、超高熱の脚撃をもって――

『爆☆砕ッ!!』

 する!

 海がたわんだ。一瞬後、凄まじい衝撃波が大気と海を円状に吹き飛ばし、強烈な熱波が瞬時に海水を蒸発させる。

 海に出来た一時のクレーター。それはまさに隕石の墜落。

 海面付近にいた魔物の尽くが衝撃波で爆砕され、それなりの深度にいた魔物も浸透する衝撃に中身を潰され身悶える。

 運良く致命傷を免れた、離れた場所にいた魔物も、一部は意識を喪失し、あるいは戦意を喪失して北か西へと死に物狂いで逃げていった。

 突如発生した海のクレーターに、ようやく周囲の海水が流れ込み元の様相を取り戻し始める。激しく波打ち荒れ狂う海。赤黒い血肉が渦を巻いて海を染めていく。

『ふむ。まぁまぁやな』

 ウサミミふぁさっ。全身ずぶ濡れのイナバさんが海中より飛び出し空中で自己評価に浸る。

 そこへ、

『こんの馬鹿野郎ッ!!』
『あべっ!?』

 リーマンが操るトリアイナが、イナバの後頭部に体当たりを慣行した。ゴチンッと痛そうな音が響く。

『ハー坊といい、てめぇといい、もうちょっとおっちゃんの安全に配慮してくれもいいと思うんだけどよ。死ぬかと思ったぞ』
『あ……め、面目ない、旦那。まさか、どっか壊れたか!?』

 先程までの威勢はどこにやら。途端、オロオロとウサミミを揺らすイナバに、リーマンは盛大に溜息を吐いて、ヒレでやれやれする。

『まぁ、大丈夫だけどよ。これ、津波も発生してんぞ。エリセンにはハー坊の津波対策も施されてっからこの程度なら問題ねぇが……もうちょいスマートなやり方はなかったのかと言いてぇ』
『……まぁ、できんことはなかったなぁ。でも、ほら、ワイって燃える魂もってるやん? なら決め技は炎であるべきやん?』
『知らねぇよ』

 リーマンの冷たいツッコミが炸裂。イナバのウサミミはしおれた。

『ま、結果オーライってことにしとくか。あらかた片付いたようだし、残りも逃げてるみてぇだしな』
『う~ん、それにしても、一体、なんやったんやろな?』

 海の魔物のスタンピード。イナバとリーマンがいなければ、きっとエリセンを襲っていたことだろう。未だかつてなかったことだ。

『情報不足だ。ただ、今までの散発的な〝流れの魔物〟による襲撃とは規模が違う。一応、人間達にも伝えておいた方がいいかもな』
『せやなぁ。特にエリセンは、ミュウ殿とレミア殿の故郷やしなぁ』

 とにかく、いったん戻ろうか。そう視線で同意しあったイナバとリーマンは、しかし、魔物の本能が知らせる〝何か〟を感じて、同時に西の方角へ視線を向けた。

『……なんや?』
『……なんだろうな』

 遙か沖の方に、ポツンと見える小さな黒い点。どうも空中に浮遊しているように見える。

 イナバとリーマンは顔を見合わせると、警戒心を引き上げながら黒点の方へと進んだ。

 やがてはっきりと見えてきたものは、四角錐の形をした機械のようなものだった。支えもなく、海面から二メートルほどの高さでピタリと浮遊している。

『なんか王様のあれに似とるなぁ』
『ハー坊のアーティファクト、か? だが、これは……』

 浮遊する謎の物体と言えば、思い浮かぶのは某魔王のアーティファクトだ。だが、イナバもリーマンも断言はしなかった。漠然とではあるが、〝これは違う〟と魔物の本能が感じ取ったのだろう。

 イナバとリーマンが観察しているのと同じように、静かに浮く謎の四角錐もまた、何となくイナバとリーマンを観察しているようだった。

『旦那。これどうする? たぶんやけど、さっきの魔物のことと何か関係してるんちゃう?』
『だろうな。こういうのはハー坊に投げんのが一番だ。取り敢えず、回収しとくか?』

 リーマンが〝回収〟と言った直後、謎の四角錐に変化が現れた。

「――yこrrにもkwp? ――hpお、pg~――rうdエヒトbllあ」

 よく分からない言語を発したかと思ったら、びっくりしてウサミミピーンしているイナバと、気怠そうな半眼――は元からだが、それでもどこか驚いている様子のリーマンをおいて、スイ~と西の方へ移動を始めたのである。

『な、なんなんや。しゃべりおったで』
『チッ。面倒なこった。もうちょい家族サービスの時間をよこせっての』

 結構な速度で離れていく謎の四角錐。

 それを見るイナバの目が、徐々に輝き始める。それはまさに、退屈を駆逐する未知への好奇心。魔物のスタンピードに関係しているであろう四角錐の物体が行く先に、闘争の気配を感じているのだ。

『悪い、旦那。ワイは――』
『わかってんよ。行くんだろ? しょうがねぇ、付き合ってやるよ』

 みなまで言わせず、リーマンは人間ならタバコでも吸ってそうな雰囲気で道連れを同意する。

『いや、旦那は残った方がええやろ。危険かもしれへん』
『本当に危険なら、それがどういうもんか、情報を持ち帰らねぇといけねぇ。お前だけ行かせて帰って来なかったら、俺はどうすりゃいいんだ? 俺とお前で行けば、危険に遭遇してもどっちかが足止めして、どっちかが逃げられるだろ』
『いや、しかしなぁ、奥さんとお子さんどうすんねん』

 ポリポリと頭を掻くイナバを横目に、リーマンは視線を東の方へ向ける。魔力が発せられていることから念話を発動しているようだ。

 二、三、何かを話した後、リーマンが衝撃波でも受けたように体を揺らし白目を剥いた。

『だ、旦那!? どないした!? 大丈夫か!?』
『だ、大丈夫だ、問題ねぇ。ちょいと女房の逆鱗に触れただけだ』
『逆鱗って……何言うたん?』
『いや、ちょいと出かける。いつ帰るか分からんから後はよろしくってよ』
『……それ、番がおらへんワイでもどうかと思う言い方なんやけど。で、奥さんはなんて?』
『……帰ってきても、あんたの部屋があると思うな。このダメ亭主、だそうだ』
『……やっぱ帰ったら? 今すぐ』

 リーマンは哀愁漂う小さな笑みを口元に浮かべると、「さぁ、行くぜ。見失っちまう」と行って四角錐の後を追い出した。

 旦那の放浪癖に、奥さんの堪忍袋は既に切れているらしい。果たして帰ってきたとき、リーマンは家族に迎えてもらうことができるのか……

 ちなみに、リーマン一家はエリセン近くの岩礁地帯にある岩をくり抜いて作られた、それは立派な一軒家を所有している。人間で言っても間違いなくセレブな豪邸である。

 先を行くリーマンの後ろ姿を見て、何とも言えない表情をするイナバだったが、ウサミミを竦めると勢いよく後を追い出した。

 大海原を、未知の物体と、未知の何かを確かめるべく進む魔物達。

 その姿はやがて、水平線の向こうへと消えていった。



 その後、数年に渡ってイナバとリーマンは消息不明となる。

 二体とも元々放浪癖があったため、誰も特に気にしていなかったのだが……

 ある日、突然、届いた知らせによって、今回の事件を契機に始まった騒動は、魔王一家を巻き込む大騒動に発展することになるのだった。
いつも読んでくださりありがとうございます。
感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。

今回の話は、いつか書くであろう番外編のフリだったりします。
一応、考えているのは南雲家第二世代達も出てくるお話なんですが……まぁ、当分先ですね。


リーさんに贈呈されたアーティファクト……
一度は空飛ぶ十字架で水族館から連れ出されたリーさんですから、それを自分で操縦できるようになったと思えば普通ですよね。シュールだけど。

イナバの必殺技。
みなさん、ワンピのあの人を思い出しました?
でも、白米はディーグレのあの子を想像して書きました。失墜の踏技「鉄○」のシーンが好きです。
ツインテールもウサミミも変わらないですよね。両方正義です。
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