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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリーⅡ

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クリスマス特別アフターストーリー 南雲家の小さなサンタさん

 曇天からちらほらと雪が降る十二月も中旬を過ぎた頃。厳しい寒さに対抗すべく、こたつと暖房がうなりを上げる中、南雲家の面々はあったか特製シチュー(具材が地球の秘境に潜んでいたUMA)に舌鼓を打っていた。

「そろそろクリスマスだな……。ミュウ、今年はどんなクリスマスプレゼントがいい?」
「みゅ?」

 UMAだが物凄く美味しい肉を口いっぱいに頬張って、まるでリスのようになっている愛らしい娘にハジメが尋ねる。

 ミュウはもきゅもきゅと急いで何かの肉を呑み込むと、ちょっとだけ考える素振りを見せてから満面の笑みで答えた。

「パイルバンカー!」
「……」

 思わず笑顔のまま固まるパパ。確かに、去年は遊園地で数々のアーティファクト兵器をプレゼントしたが、こうも曇りのない純粋な笑顔で粉砕兵器をねだられると、流石に返答に困る。

 絶句したハジメの様子を却下と捉えたらしいミュウは、しょぼんとする。そして、遠慮がちに、上目遣いで、ハジメの様子を窺うように別の物をねだった。

「ヒュベリオンでも、いいの」

 破壊力が上がっていらっしゃる。いったい、何を遠慮したのだろう、この子は……。

 ハジメとミュウのやり取りに菫や愁が肩を震わせ必死に笑いを堪えている。ユエやシアは呆れ顔で、ティオは感心しているようだ。そんな中、見兼ねたレミアが娘に代わって弁解を口にした。

「すみません、あなた。この子ったらまたとんでもないおねだりを……。どうも、最近やっているゲームに影響されているみたいで」
「ゲーム? パイルバンカーや太陽光集束レーザーが欲しくなるゲームって、いったいなんだ?」
「近未来を舞台に戦争をするネットゲームみたいですよ」

 ハジメが、「そうなのか?」と疑問を乗せてミュウへと視線を向ける。ミュウは手を指でっぽうの形にすると決め台詞らしい言葉をキメ顔で言った。

「全てを真っ赤に染め上げてやるぜ! なの」
「今すぐ没収だっ。父さん、ミュウのPCに制限をかけるぞ! 強力なやつだ! 後で手伝ってくれ!」

 きっと、ヒュベリオンを贈った次の日には、どこかの地形が変わっているのだろう。戦慄の表情を浮かべたハジメが慌てて愁に助力を求めた。

 が、当の愁は菫と一緒に「ひゅぅっ、ミュウちゃんカッコいい!」と煽っている。そして、ミュウもまた「酷いのパパ! やっと核が手に入ったの! 次の戦争で使うの楽しみにしてたのに!」と恐ろしいことを言っている。

 ハジメはハジメで「そんなもん拾っちゃダメだろ! ペイッしなさい、ペイッ!」と何故か言い返している。ミュウはほっぺをぷくっと膨らませた。ご不満らしい。

 どうやらクリスマスプレゼントの話は分が悪そうだと感じたハジメは、取り敢えず戦略的撤退を図った。……神すら真っ向から殺しにかかる魔王様は、娘とのプレゼント論争から逃げたのだ。

 ごほんっと咳払いして話題の転換を図るハジメパパ。

「あ~、そういえばミュウ。べるふぇごーる達の調子はどうだ? 変形機構は正常に作動しているか?」
「うん! あれはすごいの! ガションッガションッて、すごくカッコいいの! それに他のアーティファクトも思ってたとおりなの! 流石、パパ! ありがとうなの!」
「そうか。そりゃあ良かった。しかし……危ないものはないから特に気にせず普通に作って渡しちまったが、結局、何に使うつもりなんだ?」

 話題の転換を図れたことにホッと安堵の息を吐くハジメは何気なく尋ねた。というのも、一週間ほど前に、突然ミュウに強くおねだりされたことがあったのだが、それが生体ゴーレム達に変形機構をつけて欲しいというものと、どこぞのスパイ御用達となりそうな幾つかのアーティファクトだったのだ。

 そういえばと、今更ながらに気になって尋ねたハジメだったが、向けた視線の先で、笑顔で返答してくれると疑わなかった愛娘は……

「……へ、平和活動に役立てる、の」
「……」

 何故か視線を泳がせて、ふわりとした答えを返した。先程、世界を真っ赤に染め上げてやりたいと言っていた口で、挙動不審に平和活動を口にする幼女。ハジメパパの目は自然とジト目へ。

「……」
「……」

 ジト目のハジメパパがジ~と見つめる。挙動不審なミュウが更に視線を泳がせる。

 ジ~。そわそわ。ジッ~~。ビクンッ、そわそわ。

「……まぁ、別に無理には聞かないけどな」
「んみゅ」

 なんだかんだ言って、ミュウは馬鹿な使い方をしないと信頼しているハジメは、少しの苦笑いを浮かべて追及の視線を外した。ミュウはホッと安堵の息を吐きつつ、信頼してくれるハジメパパにふにゃりと頬を緩める。ハジメもまた、ふんわりと微笑んだ。

「……ほんと、似た者親子」
「ですねぇ。話題の逸らし方とか、逃げ方とか。年々似てきますよねぇ」
「というか、ご主人様は自覚がないのじゃろうか? ゲーム以前に、ミュウの物騒な言動のほとんどがご主人様の受け売りなんじゃが」
「うふふ。ミュウにとって、ハジメさんは憧れでもありますから」
「だからってパイルバンカーとかレーザー兵器を欲しがる小学生なんて普通はいないけどね。流石、私の孫!」
「それな! 俺の孫は、その辺の小学生とは格が違うんだ」

 ひそひそと話し合う嫁~ズと南雲夫妻の言葉に、なんとなく居た堪れなくなったハジメとミュウはシチューに集中することで聞えていないふりをする。そんな父娘の息の合った行動に、食卓は笑いに包まれるのだった。

「……プレゼントはともかくとして。クリスマスの日、ミュウはどこか行きたいところはある?」

 ユエの質問に、ミュウは「う~ん」と悩み始めた。去年と同じ遊園地がいいだろうか? それともお友達やパパの部下(クラスメート)達を呼んでパーティーするのがいいだろうか?

 うんうんと唸りながら、どんなクリスマスがいいか頭を捻るミュウ。そんな様子を見て、ハジメは笑いながら提案する。

「なんなら、イブの日から泊りがけでどっかに行くか? 海外とか、異世界とか」

 ミュウが望むなら、どこにだって連れて行ってやるぞと張り切るハジメパパだったが、今日はどこまでも娘からカウンターを食らう日らしい。

「あ、それは無理なの」
「? 無理? 嫌じゃなくて?」
「なの。イブの日は一日予定があるの」
「友達と遊ぶのか?」

 UMA肉を口に入れながら尋ねたハジメは、

「遊びじゃないの」

 ピタリと止まった。イブの日に、友達と遊ぶわけでもなく、家族と過ごすわけでもない。しかし、遊びでない予定がある。それも丸一日の。ツーと、嫌な汗がハジメパパのこめかみを流れた。

「ミュウ。予定ってなんだ?」

 何故か、隣で笑いを堪えているユエに疑問を抱く余裕もなく、パパは「まさか」という想いで聞いたが、

「……パ、パパには内緒なの」
「なん……だと……」

 カランッと、ハジメがスプーンを取り落とした。その表情は愕然としている。今まで一度もなかった、〝愛娘の隠し事〟にハジメパパは動揺を隠せない!

「しょ、正直に言うんだ、ミュウ。その予定の中で人に会うんだろうが、それは女の子だよな?」
「……いろんな人に会うから、もちろん、男の人もいるの」

 ハジメの精神にクリティカルヒット。愛娘が、イブの日に男と会う! それも、〝男の子〟ではなく〝男の人〟だっ。OK、久々に出番だぜパイルバンカー。うちの娘を狙う変態ロリコン野郎には、素敵なスクラップタイムをプレゼントだ!

 無言で立ち上がったハジメに不穏な気配を感じたのか、ミュウは残りのシチューを掻き込むと「ごちそうさま!」を言って、ステテテーとリビングを出て行ってしまった。余りに素早い動きに、動揺中のハジメパパは声をかけることもできない。

 と、思ったら、リビングの入口からミュウがひょこっと顔を出した。そして、ハジメをジ~~~と見つめると、

「パパ。イブの日、ついてきたり、ミュウのこと調べようとしたら……もう、口きかないの」
「ごふっ!?」

 ハジメの膝が砕けた。再びステテテーと自室へと駆け込んでいったミュウを止めることもできず、四つん這いのまま微動だにしない。ダメージは深刻だ!

「神殺しを言葉一つで打ち砕く……ふむ。後にも先にも、こんなことができるのはミュウだけかもしれんのぅ」
「あはは~。ハジメさん、ミュウちゃんにはある意味で、ユエさんよりも弱いですからねぇ」

 能天気に笑うティオとシアに、ユエ達も同意するように頷いた。

 と、次の瞬間、ハジメがガバッと立ち上がった。そして、焦燥と憔悴を感じさせる表情で、

「南雲家集合! 第、第……何回目かの南雲家緊急家族会議を開催するぞ! 議題は娘にまとわりつくゴミカス野郎についてだ!」

 当然、みんな普通に食事を続けるのだった。




 クリスマスイブ当日。

 異世界トータスの王宮では、特に何かあるわけでもなく日常的に業務がなされていた。忙しく文官達が動き回り、あるいはデスクにかじりついて書類を処理している。

 そんな王宮の一室――ハイリヒ王国国王執務室で、まだまだ雰囲気もデスクのサイズもしっくりと来ない少年陛下がうんざりしたような表情でペンを走らせていた。

「陛下、そろそろご休憩にされますか?」
「む。いや、もう少しやろう。姉上が不在なのだ。その間に仕事が溜まってしまったらばつが悪すぎる。というか、姉上はこんな量の仕事を、いつもどうやってあんな短時間で片づけるのだ?」
「普通に処理していらっしゃいますよ? ただ、ひたすら速いだけで」
「……即位して執務にもつくようになって、仕事にも慣れて来た最近、よく思うのだが……姉上は人間だろうか?」
「……陛下。リリアーナ様に怒られますよ?」

 秘書官の困ったような声音での忠告に、リリアーナの弟にして、今代のハイリヒ王国国王陛下――ランデルは「はぁ」と深い溜息を吐いた。「姉上、早く戻って来ないかなぁ」と思いながら。

「確か、〝くるしみます〟という地球のイベントに招待されたのだったな。あいつ直々の迎えに随分と浮かれている様子だった」
「陛下、〝くりすます〟でございます。それでは楽しいはずのイベントが、地獄の拷問イベントになってしまいます」

 憎いあんちくしょうを想って朝からはりきっていた姉を思い出し、ランデルは深い溜息を吐いた。初恋のあの人を奪ったどころか、敬愛する姉までも毒牙にかけたあの男を、ランデルは「いつかぶっ飛ばす」と誓っている。心の中で。決して口にはしない。

 苦虫を噛み潰したような気持になっていたランデルだったが、ふと、とある人物を思い出してポツリと呟いた

「……余も、行ってはダメだろうか?」
「ダメです」

 秘書官にばっさりと切り捨てられた。ランデルは「しかしなぁ」「でもなぁ」と、何やらそわそわ、もじもじしながら煮え切らない態度を取っている。そんな少年陛下の内心を知っている秘書官は、溜息が外に出ないよう抑え込みながら説得の言葉を口にしようとした――

 そのとき、

「メリーッ!! クリスマーーーースッ!! なの!!!」
「ひぃっ!? なにごと!?」

 突如、執務室の窓がバンッと勢いよく開け放たれ、そこから弾丸のように赤い影が飛び込んできた。ランデルはまるで女の子のように、両腕で自分を抱き締めながら飛び上がる。秘書官も突然の事態にビクンッとなりつつも、侵入者から陛下をお守りせんと飛び出そうとして、

「って、ミュウ様!?」
「なにぃ!? ミュウだと!?」

 侵入者の正体を見て驚愕の声を上げた。ランデルもデスクの影でぷるぷるしていたのを素早く取り繕うとミュウへと視線を向ける。

「いいえ、ミュウではありません。サンタクロースです!」

 赤と白の衣装を着たミュウは、なるほど、確かにサンタの恰好をしていた。足元がミニスカでショートブーツ、随所にフリルともふもふのポンポンがあしらわれた可愛らしい衣装ではあるが、へにょんとしたサンタ帽や白い大きな袋を背負っている点からも、確かにサンタさんだ。

 家族が作ってくれたミュウ専用サンタコスを、まるで見せびらかすようにくるりと華麗なターンを決めて、横向きにしたピースを目元にパチンとウインクする。まるで、どこぞのアイドルのようなキメポーズだ! キラッ☆という擬音とエフェクトが幻視できる!

「か、かわいい……」

 男ランデル。キラッ☆に一発KOらしい。陶然とした様子でミュウを見つめている。

 どうやら陛下が使い物にならないらしいと察した秘書官は、王宮の警備はいったい何をしているのか……。いや、魔王陛下の娘だ、なんでもありだよね、ハハ。と内心で呟きつつ、疲れの滲んだ声音で尋ねた。

「ミュウ様、いったいどうされたのです? リリアーナ様と〝くりすます〟を楽しまれる予定では?」
「ミュウじゃないの。サンタなの。サンタは、クリスマスにプレゼントを配るの」
「プレゼント、ですか?」

 秘書官が首を傾げ、未だにぽ~としているランデルを尻目に、ミュウは白い袋をがさごそと漁る。そうして取り出されたのは綺麗に包装された包みが二つ。

「メリ~クリスマス! サンタから、よい子の二人にプレゼントなの!」
「ミュ、ミュウが余に贈り物を? うぅ、ミュウ、そなたという奴は……」
「おや、私にもですか? ふふ、これはなんとも嬉しいサプライズですね」

 プレゼントを受け取った秘書官は目を丸くしつつも嬉しそうにプレゼントを受け取った。どうやらクリスマスというイベントに則って、ミュウがプレゼントを配り歩いているらしいと察したのだ。日ごろの疲れが吹っ飛んだような、実にほっこりした表情をしている。

 一方で、ランデルは、「ミュウが余にプレゼントを。わざわざ世界を越えてまで余のために……。ハッ、まさか、ミュウは余のことが!?」などとほざいている。

「それじゃあ二人共、お仕事頑張ってなの! サンタは他の人達にもプレゼントを配って来るの!」
「はい、ミュウ様。プレゼント、ありがとうございました」

 秘書官とミュウが和やかにお別れの言葉を交わしていると、熱に浮かされたような表情のランデルがハッと我に返った。

「ま、待つのだ、ミュウ!」
「?」
「そ、そのだな。あれだ。……よかったら、今日は余と過ごさぬか? 余が直々に、お返しのプレゼントを用意してやろう!」

 秘書官から「お前、空気読めよ。っていうか、他の人にもプレゼント配るって、今言ってたろ」と視線でのツッコミが入る。少年陛下は秘書官の様子にも気が付かず、ミュウを引き止めるのに必死だ。

 頬を染めながら、ミュウサンタをチラチラと見つつ、あれやこれやと話しかけている。

 これだけで、初恋を見事に散らせたランデルが、またもや難儀な恋に陥っていることが察せられるだろう。奴に連れられて王宮に遊びにくるミュウと何度か接する内に、比較的に年も近く、他の同年代と違ってフレンドリーに接してくれる彼女に、ランデルはチョロッと墜ちていたのだ。

 そんなランデルの様子に首を傾げていたミュウは、その内心の感情までは知らずとも、ランデルが自分を引き止めようとしていることを察して、にっこりと微笑み――

 その笑顔にぱぁっと表情を輝かせたランデルに言い放った。

「ランデルは、目つきがいつもえっちぃから嫌」
「!?」

 ビシリッと固まったランデルに、ミュウは笑顔のまま追撃!

「パパが言ってたの。そういう男には近づいちゃいけませんって。だからランデルは、あんまり近づいちゃダメなの!」
「かはっ」

 男ランデル。国王になっても膝を突く。胸を抑えて四つん這いになった陛下に、秘書官から同情の眼差しが送られる中、ミュウは「ばいばいなの~」と言いながら窓から飛び降りて行った。

 後の王宮では、可愛いサンタからのサプライズプレゼントに喜ぶ使用人達や兵士、騎士達の声と、「あの野郎(魔王)っ、いつかぶっ殺してやるぅううううっ」と八つ当たり気味な少年陛下の泣き声混じりの絶叫が響いていた。



 ザシュッと、斬撃の鋭い音が響き、一体の凶悪な魔物が両断されて崩れ落ちた。

「ふぅ。これで最後かな?」

 呟いたのは額に浮いた汗を手で拭った青年――天之河光輝だ。紆余曲折を経て、いくつかの異世界を救った彼は、今でもこうして一冒険者として人々の脅威を取り除く活動に精を出している。

「光輝さん、お疲れ様です」
「こっちも終わったわよ、光輝」

 深い森の中、雑草をかき分けて現れたのは、光輝のパーティメンバーにして、異世界の元女神様と元女王様だ。これまた紆余曲折を経て、今は光輝を取り合う女狩人でもある。

「ああ、二人ともお疲れ。怪我は、ないな」
「大丈夫ですよ。この程度の魔物に後れを取るほど、女神の力は小さくありません」
「元、女神だけどね。そして、確かに小さいのは力じゃなくて胸よね」
「あ? 消し炭にしますよ? 女王(笑)」
「お? やれるもんならやってみなさいよ、駄女神」

 いつも通り、光輝を挟んで元女神と元女王とは思えないメンチの切り合いをする二人に、光輝は死んだ魚のような目になりながら少しずつ距離を取り始める。

 と、そのとき、光輝の気配感知が凄まじい速度で接近する正体不明の存在を感知した。

(っ、速い!?)

 光輝が、二人に警戒を呼びかけようと口を開こうとしたのと、それが上空から落ちて来たのは同時だった。

 ズンッと地を揺らして着地したのは、

「ト、トナカイ?」

 思わず、光輝が呆ける。

 そう、トナカイだった。真っ赤なお鼻の。ただし、体長が三メートルはある超巨大な。

 真っ赤なお鼻のトナカイさんは、呆ける三人を僅かに見つめたあと、ガパリッと口を開いた。そこには光輝的にすごく見覚えのある凶悪な代物が……

「なんでここにいるぅ!?」

 そんなことを叫びながら、咄嗟に二人を抱えて射線から退避した瞬間、ドパンッとこれまた聞き慣れた炸裂音と閃光が迸り、光輝達の背後から接近していた、光輝も感知していた敵を吹き飛ばした。

 未だに呆然としている元女王様と元女神様を脇に下ろした光輝は、頬を引き攣らせながら機械仕掛けの死神トナカイさんを見やる。すると、

「メリ~~、クリスマスぅ!」
「ミュウちゃん……。君か」

 がっくりと項垂れた光輝に、トナカイの背からひょっこりと顔を覗かせたミュウサンタは、ぴょんと飛ぶと、空中三回転ひねりをしながら華麗に着地した。

「こんなところで、どうしたんだい? その恰好は……あぁ、今日はクリスマスか」
「そうなの。今年一年は、いい子にしてたっぽい勇者さんに、サンタからご褒美のプレゼントなの!」
「はは、なるほど。……グリムリーパーに乗って登場するサンタか……流石、南雲の娘」

 ぼそりと呟いた光輝に、ミュウは「はい! メリークリスマス!」と小包を渡した。ミュウは、未だに呆然としている元女神と元女王様にもプレゼントを渡す。

「ありがとう、ミュウちゃん。中を見てもいいかい?」
「いいけど、ミュウは世界を回っているのでとっても忙しいの。だから、もう行くの」

 ミュウは殺戮トナカイさん――実は中身がべるふぇごーる――に飛び乗ると、「じゃあね、勇者さん! 来年も良い異世界召喚がありますように!」と言って飛び去って行った。

「不吉な祈りをしていかないでくれぇ!」

 光輝の絶叫も虚しく、一瞬で音速に達した悪魔トナカイさんの姿は既になかった。

 大きく溜息を吐いた光輝は、小さなプレゼントの包みを丁寧に開けてみる。なんだかんだ言って、自分にもクリスマスプレゼントを贈ってくれたことに頬を綻ばせながら。

「ん? これは……指輪?」

 箱から出て来たのはペアリングだった。同封されていた小さな紙には、「エンゲージリングです! 好きな人に渡してあげてください!」と丸っこい字で書かれている。

 光輝はぶわっと嫌な汗を噴き出した。

「光輝さん、ありがとうございます。永遠を誓う指輪だなんて、私、嬉しいです」
「光輝? 当然、渡すのは私よね? ね?」

 両肩から、どす黒いオーラを放つ元女王様と元女神様が笑顔で覗き込んでくる。思わず距離を取ろうと縮地を発動しかけるが、二人から同時に肩をガッされた。

「光輝さんっ」
「光輝!」

 ミシリッと、光輝の両肩から嫌な音が鳴る。

 光輝は再び死んだ魚のような目になりながら、三人分のプレゼントを用意しながら、光輝にペアリングを贈ってきた小さなサンタに心の底から叫んだ。

「このっ、魔王の娘めぇえええええええええええっ」

 その後、深い森の中にペアリング争奪戦の轟音が響き渡ったのは言うまでもない。そして、むやみに自然を破壊したとして、光輝が関係各所に頭を下げて回ったのも言うまでもないことだった。




 イギリスは国家保安局の局長室において、

「はぁ~~~」

 そんな深~~い溜息が吐かれていた。それにピクリと眉を反応させたのは冷徹が服を着て歩いているともっぱら評判のシャロン=マグダネス局長だ。

「はぁ~~~~~~~」
「……」

 先程より更に深い溜息が局長室を辛気臭い空気にする。マグダネス局長の額に青筋が浮かび始めた。そこへ、更に溜息の追撃。

「鬱陶しい」
「ひっ!?」

 キレたマグダネス局長がペーパーナイフを投げつける。思わず情けない悲鳴を上げながら咄嗟に頭を振った溜息の主――アレンのこめかみのすぐ横を通り過ぎたペーパーナイフは、そのまま背後の壁にパスンッと突き立った。

「ちょっ、何をするんですか、局長!」
「言ったでしょう、鬱陶しいと。いったい、さっきからなんだというの?」

 局長室を深い溜息で辛気臭くしていた原因であるアレンに、マグダネス局長は冬の外気よりもなお冷たい眼差しを送る。

 アレンはそんな眼差しにビクッとしつつも、理由を口にする。

「いや、だって、そりゃあ溜息も吐きたくなりますよ。局長、今日はクリスマスイブですよ? 世間じゃあ、恋人達がデートしたり、明日に備えてイチャイチャと準備したり、そんな嬉し恥ずかしなイベントを満喫しているというのに、私と来たらこんな場所で朝から晩まで仕事仕事仕事。明日も仕事! これはどういうことですか!」
「どういうこともなにも、あなた以外にも仕事している局員は大勢いるでしょう」
「そうですけどね! でも、パラディさんとか、普通に休んでキャッキャッウフフしているじゃないですか! アビィさん達と、嬉し恥ずかししてますよ! 昨日なんて、既にサンタ帽をかぶって出勤してきたんですよ! もう、あの『明日が凄く楽しみです!』って雰囲気だけで、私の心は限界に……」
「安心しなさい。パラディのサンタ帽は、彼女の目の前で裁断機にかけてやったわ」
「ひどっ。いや、そうじゃなくて、そんなことしても私の虚しさはまったく和らがないわけでして」
「どうせ、恋人もいないのだから何を言っても無駄でしょう。妄想でもしてなさい」
「ひどっ。うぅ、どこかに私に優しくしてくれる女性はいないだろうか……」

 嘆くアレン。そこへ声が響いた。

「そんなこともあろうかと! やってきました、メリークリスマス!」
「おぉおう!?」
「っ」

 思わず銃を抜いてマグダネスの元へ飛び込むアレンと、息を呑むマグダネス。二人して声のした方向、天井を見れば――

「メリークリスマス! シャロンおばあちゃん! それとアレン!」
「ミュウ……」
「ミュウちゃん!?」

 天井の板を外して、逆さまにひょっこりと顔を覗かせているミュウがいた。一応言っておくと、局長室の天井は外れるような構造にはなっていない。厚さ二十ミリの金属板で防護されている。

 実は、アビスゲート卿の紹介で魔王一家と対面を果たしているマグダネス達。当然、ミュウとも面識はある。ただ、何故かマグダネスを気にいったらしいミュウは、そのときから彼女を〝シャロンおばあちゃん〟と呼んで懐いている。

 世界広しと言えど、テロリストも泣いて許しを乞う国家保安局局長を〝おばあちゃん〟と呼ぶのはミュウだけだろう。アレンのみならず、ヴァネッサを筆頭に同行した全ての局員が目を剥いたのは言うまでもない。未だに、局内では伝説の超幼女として語られているくらいだ。

 スタッと、空中で猫のように宙返りしながら着地したミュウに、マグダネスとアレンは何とも言えない表情をする。

 初めてアビスゲート卿と解決に乗り出した【ベルセルク事件】から後、幾つもの事件を経てミュウと会う機会もそれなりにあった。故に、ミュウがただの幼女でないことは百も承知だ。

 だが、並のエージェントでは侵入すらできないはずの保安局の、特別厳重警備されている局長室に易々と侵入されるのは……

「シャロンおばあちゃん! メリークリスマス! 今年もいっぱい頑張ったおばあちゃんに、サンタからプレゼントなの!」
「この天使さんめ」
「局長!?」

 マグダネスは、ただのシャロンおばあちゃんになった。局長室の警備? 保安局のメンツ? 天使の笑顔の前には些細なことだ。

 ふんわりと微笑んだマグダネスに、アレンは目を剥いた。今にも卒倒しそうだ。

 マグダネスがプレゼントを開けてみれば、そこにはシンプルなネックレスがあった。

「あのね、それはね、つけているだけ血行を良くしたり、疲れを取ったりしてくれるの。いつまでも、シャロンおばあちゃんが健康でいられますように!」
「今の言葉だけで、あと百年は戦えるわ。ありがとう、ミュウ」
「いや、局長。それはもう、ただのモンスター――」

 アレンの額に、スコンッと万年筆が突き刺さった。「のぉっおおおおっ」と叫びながら、血の滲む額を抑えてばったんばったんとのたうつアレン。一応、ぶすりと行く前に白刃取りしたので、さきっぽが刺さっただけだが痛いものは痛い。

 そんな涙目のアレンに、ミュウはトコトコと近寄ると、小さな手でアレンの頭をなでなでする。

「君は天使か?」
「サンタです」

 優しくされたことに感動して更に涙目になるアレンに、ミュウは「はい、アレン。メリクリ!」とプレゼントを差し出した。

 小学生に呼び捨てにされている時点で、ミュウの中のアレンの位置がどのあたりにあるのか分かるというものだが、幼いとはいえ女の子からのクリスマスプレゼントに、アレンの涙腺は遂に決壊した。

「うぅ、君があと十年早く生まれていたら、私が絶対に幸せにしてあげたのに」
「寝言は寝て言え、なの」

 感動中のアレンイヤーは、辛辣な言葉を華麗にスルーする。

 アレンは、滂沱の涙を流しながら、薄い封筒を空けた。プレゼントというには、ただの手紙にしか見えず微妙なところだが、今のアレンには関係ない。

 そして、中に入っていた手紙を読んでいくうちに、アレンは更に滝のような涙を流し始めた。

「こ、これは、本当かい? 悪戯とか、ドッキリとかではなく?」
「うん。ミュウは手紙を預かっただけ。後はアレン次第なの」
「ひ、ひ、ひ――」
「ひ?」

 突然、痙攣したように「ひ」を繰り返し始めたアレンに気持ち悪そうな眼差し向けたマグダネスが、そっとミュウを退避させた瞬間、アレンは「ひゃほーーーーーーーーいっ!!」と雄叫びを上げながら飛び上がった。

 そのまま、今にも昇天してしまうのでは思うほどはしゃぎながら、局長室をぴょんぴょんと飛び跳ねている。

「ミュウ。あの手紙は?」
「パパの元クラスメートのお姉ちゃんから。前に事件で少しだけ一緒になったときに、アレンに興味が湧いたんだって」
「……それはまた、随分と……珍しい感性の持ち主ね」

 アレンへのプレゼント。それは、とある異世界召喚組の女子からの連絡先を伝える手紙だった。以前、アビスゲート卿が巻き込まれた事件で、ちょっと関わった彼女は、少しの間、アレンと行動を共にすることがあったのだ。

 年中、恋人ができないと嘆いている実は凄腕のエージェントは、ようやく自分にも春が来たと大喜びだ。

「あ、そうだ。シャロンおばあちゃんには、もう一つプレゼントがあるの」
「あら、何かしら?」

 首を傾げたマグダネスに、ニコニコと微笑むミュウは一枚のメモ用紙を渡した。受け取ったマグダネスは、メモ用紙に住所のみが記載されているのを見て、更に首を傾げる。

「ミュウ、これは?」
「それはね、半殺しにしたテロリストさん達を閉じ込めてある建物の住所なの!」
「え?」
「はい?」

 思わず目を点にするマグダネス。そして、歓喜の踊りを止めて制止するアレン。

 ミュウは白い袋を担ぐと、穴の空いた天井の真下まで行き振り返った。

「テロリストさん達ね、クリスマスに有名人が集まるコンサート会場をボンッするつもりだったみたいなの。だから、ちょっとメッしてきたの。クリスマスに、おばあちゃんがお家に帰れなくなったら大変なの!」
「あ、はい。うん、ありがとう?」
「……ミュウ、ちゃん」

 盛大に頬を引き攣らせるマグダネスとアレンに、ミュウは「では、よいクリスマスを!」と言って天井に飛び上がっていった。そして、次の瞬間、穴の空いた天井は何事もなかったように元通りになった。

 シンッと静まり返る局長室で、アレンが今更ながらに言う。

「……局長。一応、空気を読んで気が付かないふりをしていたんですが……」
「なに?」
「ミュウちゃんのサンタ服。妙にまだらになっていませんでした? まるで、赤い液体が降りかかったみたいに」
「……この住所に人員を送って。早急に。救急車つきで」
「イエッサー。……いつから、サンタの赤は、返り血の色になったんでしょうね」
「……魔王の娘が生まれたときからでしょう」

 僅かに残る血の匂い。クリスマスのサンタは血に飢えている……のかもしれない。




「ふぅ。なんとか全員に配り終えたの。サンタさんは大変なの」

 ゲートで家に帰って来たミュウは、大きく伸びをしながらそう呟いた。日は既に沈み、南雲家からは良い匂いが漂って来ている。

 文字通り、世界中を回って南雲家が関わった人々にプレゼントを配って回ったのだ。ゲートでの移動が可能とはいえ、まだ幼いミュウにはかなりの重労働だった。

 だが、これも、大好きなパパやその部下(友人達)が紡いできた繋がりを、娘である自分が途切れさせないために必要なこと。家族のように大きな力を持たないが故に、誰かに助けてもらわなければ無力であるが故に、自分にできることは、ただみんな大切だと、大好きだと伝えることだけなのだ。

 そして、最後に、もっとも大切な人達に、ミュウはミュウにできる最大のことをするのだ。

 サプライズがしたくて、パパにはいろいろと誤魔化しをしてしまったが……。事情を知っているユエお姉ちゃん達が、きっと上手く説明してくれていると信じて気を取り直す。

 玄関の扉を開ける。途端、ドッタンバッタンとどこぞの魔王が慌てたように駆けて来る音を耳にする。にゅふっと変な笑い声がもれる。ミュウは、溢れる感情のまま、すぅっと息を溜めて、

「ただいま&メリークリスマス! 素敵なプレゼントを贈ってやるぜ! なの!」

 言うまでもなく、南雲家にとっての素敵なプレゼンとは、小さなサンタの大きな愛情だった。
書籍&コミック買ったよ報告、ありがとうございます。
すごく嬉しかったです!
クリスマスのいいプレゼントになりました。

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