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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれた番外編 世界のアビスゲート卿から

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外国って、こえぇ

「はぁ゛ぁ゛ぁ゛~~~~~」

 温かな日差しの降り注ぐ昼過ぎ。とある町の一角にある木製の玄関やテラスが可愛らしい喫茶店に、ゾンビの呻き声が響き渡った。もっとも、その冥界から響いてきたかのような呻き声に対して、ギョッとしている人は皆無だ。

 テラスで可愛いケーキを食べさせ合っているカップルも、一人タブレットを弄っているビジネスマンらしき男性客も、彼にコーヒーのおかわりをついでいる美人なウエイトレスも、ちょうどテラスの前を通りかかった犬を散歩させているお爺さんも、誰一人気にした様子はない。というか、気がついている様子はない。

「ぁ゛ぁ゛ぁ゛~~~~~~」

 再び、呻き声が響き渡った。やはり誰も気にしないが、気にされていない呻き声の主も、気にされないことに慣れているようで、人目もはばからず、遠慮なく呻いていた。

 ついでに言えば、そのゾンビモドキは、喫茶店のテーブルに顔を突っ伏し、両手で頭を抱えていた。なにか、取り返しのつかない失敗をして人生そのものを嘆いているような様子だ。

 一応、どこぞの研究所から逃げ出し、市井に紛れ込んだゾンビなどでないことは、彼の前に置かれた喫茶店のロゴの入りグラスに入った飲み物や、まだ手が付けられていないがきちんと注文したらしいサンドイッチにより明白だ。

 と、そのとき、ゾンビモドキのテーブルに置かれていたスマートフォンが、某大作RPGにおける魔王戦のBGMを流し始めた。その着信音に、ピクリと反応したゾンビモドキは、顔を突っ伏したまま手を這わせてスマートフォンを取った。

 そして、やっぱり顔を上げないまま耳元にやって通話状態にする。

「……は゛い゛」
『なんだ、その声。今にも死にそうな声だな』
「ああ、死にそうだよ。羞恥心がオーバーフローを起こして……」
『……察した。またやっちまったのか、遠藤』
「やっちまった……やっちまったよ、南雲。俺はもう、ダメかもしれない」
『遠藤……』

 電話口の向こうから、通話の相手――今回の、オカルト狂信者集団ヒュドラの殲滅依頼をした南雲ハジメは、浩介の精神的ダメージを察して呆れたような、あるいは同情するような声音で名を呼んだ。

 そして、

『まぁ、それはいいとして――』
「よくねぇよ! あっさり流すなよ! もっと同情してくれよ! 労ってくれよぉ! 同じ痛みを知る心の友だろう!?」

 あっさりと流されて、浩介は悲しみの余りゾンビから人間への回帰に成功した。がばちょ! と突っ伏していた顔を上げると、海を越えて届けと言わんばかりに、魂の雄叫びを上げる。

『そうは言ってもな。俺の場合、ハウリアにやられている被害者って立場が強いが、お前の場合、最近は自分からだろう? 前までは、ちょっとした小競り合いくらいでは大丈夫だったろうに。それとも、今回の件、そんなに難しい案件だったか?』
「うぐぅ。痛いところをぐっさりと……。そりゃあ、別にヤバイってほどのことじゃあなかったけどさ……戦闘となると、つい……。前にゲートを開いてもらってハウリアとしばらく過ごしたせいかな。なんだか、一緒に過ごす時間が増えれば増えるほど簡単に“なっちまう”ような……」
『アビスゲート卿に、か』
「その名を言うなぁ!」

 ゴンッと痛そうな音を立てて、浩介が再びテーブルに突っ伏した。

――遠藤浩介

 元勇者パーティーの斥候役にして、異世界トータスの歴史に刻まれた神話決戦において、神の使徒を相手に無双を誇った最強の暗殺者。……喫茶店のテーブルに突っ伏して、呻き声を上げながら羞恥心に悶えている姿からは、全く想像できないが。

 そんなさりげなく最強格である彼が、こうして真昼の喫茶店でダメな人になっている理由は、言うまでもなく昨夜の一戦にある。そう、戦闘において発現してしまった、あの痛すぎる厨二な言動だ。

 なぜ、こうして今にも豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまいたいとすら言いたげな精神的ダメージを受けると分かっていて、あんな厨二をフルドライブで行ったのか。そこには、やんごとなき理由がある。

 その一つがこれだ。

===================================
遠藤浩介 17歳 男 レベル:92
天職:暗殺者
筋力:800
体力:940
耐性:450
敏捷:1700
魔力:560
魔耐:560
技能:暗殺術[+短剣術][+隠蔽][+追跡][+投擲術][+暗器術][+伝振][+遁術][+深淵卿]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ][+顕幻][+滅心]・影舞[+水舞][+木葉舞]・重力魔法・言語理解
===================================

 技能の詳細としては、[+短剣術]から[+暗器術]まではそのまま意味で、[+伝振]は空気の振動や壁の振動などから離れた場所の会話や音を拾う、いわゆる、聞き耳技能であり、[+遁術]とは、逃走に使う魔法に限り適性補正がかかるというもの。

 [+幻踏]は気配を残したり、自分に残像を重ねて姿をぶれさせるというもので、[+夢幻Ⅲ]は幻の分身を三人まで発生させる技能、そして[+顕幻]は、分身に実体を持たせる技能だ。[+滅心]は、隠形をする際、呼吸や心音、気配などはもちろんのこと、精神の揺らぎまでフラットな状態にする隠形補助の技能である。

 “影舞”は、浩介がよく使う壁を走る技能だ。立ち止まることはできないが、勢いがある限りは走り続けることができる。派生の[+水舞]は水面バージョン、[+木葉舞]は宙に舞う木の葉などを一瞬の足場にして跳躍などができる技能である。

 さて、お分かりだろうか? さりげなく、見た目からして毛色の違う技能が紛れていることに。それこそが、おそらく、あの神話決戦の折りに目覚めたであろう暗殺術の終の派生にして、浩介の羞恥心がマッハになった原因。

――深淵卿(アビスゲート卿)

 ステータスプレートによる説明はこうだ。

 効果:凄絶なる戦いの最中、深淵卿は闇よりなお暗き底よりやって来る。さぁ、闇のベールよ、暗き亡者よ、深淵に力を! それは、夢幻にして無限の力……

 この説明を見た瞬間、浩介がステータスプレートを全力でペイッしたのは言うまでもない。ついでに、足でゲシゲシしたのも言うまでもない。

 まず効果の説明が説明になっていないというのが意味不明であるし、そもそも戦場においてたまたまつけられた二つ名(?)が、そのまま技能名になっているというのも意味不明だ。というか説明文が痛すぎる。これが、自分の天職の最終奥義だなんて思いたくない。

 しかし、だからといって、せっかく得た力を知らないまま放置というわけにもいかないし、何より、浩介には知らなければならない理由があったので、SAN値をガリガリと削りながら確かめた結果、どうやら段階的な限界突破の効果があるらしいと分かった。限界突破のように爆発的に力が跳ね上がるわけではなく、発動中、少しずつ全スペックが強化されていくのだ。

 しかも、限界突破と異なり、この技能には使用後の強い虚脱感というものがない。まさに、破格の能力と言えるのだった。

 もっとも、まったくデメリットがないのかというと……そうそう世の中は甘くなかった。

 [+深淵卿]のデメリット。それは……

 発動中、言動が強制的に、完全無欠の厨二化(アビスゲート卿化)するというものだったのだ!

 しかも困ったことに、発動は基本的に任意で可能なのだが、発動する気がなくてもいつの間にか発動しているということがあったりする。単に、浩介の技能の扱いに対する未熟が原因か、あるいは他の要素か……

 浩介自身が言うように、ハウリア族の面々と過ごす時間に比例して、強制発動の割合が増えているようなので、おそらく後者の理由による……のかもしれない。

『前にも勧めたが、技能封じのアーティファクト。本当にいらないのか?』
「うっ。そ、そりゃあ……欲しいけど、さ」

 ハジメの言葉に、浩介は言葉に詰まりながら渋い表情になった。

 以前、自分のあんまりな言動に、それこそ深淵に沈んでいきそうな浩介を見て、「もう見てられねぇ……」と、ハジメは技能封じのアーティファクトの作製を提案したことがあった。見ているだけで、ハジメまで胸がパイルバンカーで打たれているような気になったのだ。

 提案を受けた直後は瞳を輝かせた浩介だったが、すぐに何かに思い当たったような表情になると、苦渋の滲んだ表情で提案を断った。その理由は、

「……ラナが、がっかりするじゃん」
『お前ってやつは……』

 ということだった。

 ラナ――疾影のラナインフェリナ=ハウリア(本名:ラナ、ただのラナ。大事なことなので三回言うが、ただのラナだ)。

 神話決戦の際、自身の能力を――技能も生来の存在感の無さも含めて――全力も全力、本気も本気で行使して隠形していたにもかかわらず、普通に見つけてくれたハウリア族のウサミミお姉さん。浩介が心奪われた女性だ。そして、アビスゲート卿をこの世に生み出してしまった張本人でもある。

 浩介は、アビスゲート卿を封印することで、彼女に愛想を尽かされることを、何よりも恐れているのである。

『まぁ、付き合うのに随分苦労したもんな、お前。いや、あれはもう苦労というレベルを超えているな。いろんな意味で、俺は、クラスメイトの中じゃあ前が一番凄いやつだと思うよ。むしろ、敬意を持っていると言ってもいい』
「そ、そうか? それほどのことでもないと……」
『馬鹿言え。惚れた女に認めてもらうためだからって、単独で【ライセン大迷宮】を攻略した奴がなに言ってやがる』
「あ、ははは……うん。あれは死ぬかと思った。いや、常時アビスゲート卿状態なんて、憤死ものの黒歴史に耐えきれなきゃ、普通に死んでたな」

 そう、ステータスプレートにさりげなく入っていた通り、実は浩介、【ライセン大迷宮】を攻略していたのだ。それも単独で。オカルト集団ヒュドラとの戦いで、普通に天井に立っていた技は、技能による壁走りや、ハジメのアーティファクトによるものではなく、自前の重力魔法だったのである。

 いくら、【ライセン大迷宮】の主である、ミレディ=ライセンが既におらず、彼女の残していったらしい半自律型のゴーレムによる迎撃しかなかったとしても、迷宮のトラップや魔法が使えないという状況は健在だ。また、半自律型と言っても、そこにミレディが操ったときのような戦術性がないというだけで、戦闘能力には些かの衰えもない。

 それを、たった一人、一週間ほどで攻略して戻って来たのだ。常にアビスゲート卿状態となり、身体能力も精神力も、そして香ばしい言動も、いろんな意味で限界突破以上に限界突破して挑んだせいで、身も心も、特に心を! ボロボロにしていたが、それでも五体満足で戻って来たのだ。ハジメ達が驚愕したのも無理はない。

『ほんと、よく生きてたな。かぐや姫が可愛らしく見える鬼畜条件だろ。お前、どんだけあいつのこと好きなんだ』
「そりゃあ、南雲に挑もうと思うくらい?」
『そうだったな……』

 そう、浩介が、決戦終了という物語でいうなら完全なエピローグシーンで、決戦以上の決死の覚悟で大迷宮に挑んだのは、愛しのウサミミお姉さんラナインフェ……ラナに条件を付けられたから。

 あの決戦の日から、浩介は、地球帰還までの一か月の間、ラナに対し猛アプローチを行っていた。

 しかし、ラナイ……ラナはハウリア族であり、ハウリア族は例外なくハジメを信望している。それこそ、女性のハウリアならば、ハジメが望めば即その身を捧げるほどに。

 もちろん、ハジメには同じハウリア族にして最強の殴打系バグキャラウサギであるシア=ハウリアがいるので、自らハジメにお情けを貰おうなどという勇者はいない。が、それでもハジメという“ボス”にして、“神すら屠った魔王様”を男の基準にしてしまうので……ありてい言えば、めちゃくちゃ理想が高いのだ。

 なので、当然、浩介のアプローチにもラナは靡かなかった。

「ふっ、私は、“あのお方”に使える影。影に愛などいらないわ……」

 とか、

「あなたも物好きね。触れれば火傷では済まないと分かっていて、私のような危険な女を求めるなんて……」

 とか、

「やめておきなさい。私と共に、深淵よりなお深い、闇の底を歩み続ける覚悟など、あなたにはないでしょう?」

 とか、そんなことを不敵な、あるいは妖しい笑みと共に告げながら。

 何度告白しても、あんまりと言えばあんまりな言動で撃沈する浩介を、ハジメは勇者を見るような眼差しで、シアは凄まじいジト目で(ラナを)眺めていたものだ。

 それでもめげずに、アプローチを繰り返した浩介に、流石のラナもちょっとばかしほだされたようで、最終的にはこうなった。

「……うぅ、そ、そんなに私がいいの? じゃなくて、ごほんっ。それほどまでにこの呪われた身を欲するとは……。でも、私はボスのものだし……じゃなくて、ごほんっ。生憎だけど、我が身は既に“あの方”のもの。だから、ね? 諦めて……じゃなくて、ごほんっ。影は影に、光は光に生きるのが定めというものよ。で、でも、まぁ、ボスみたいに大迷宮を攻略するとか……それか、ボスに傷の一つでもつけられるくらいなら……考えなくもない、かも? じゃなくてっ、ごほんっ。ふっ、それでもこの身を欲するのなら、奈落の王に挑み、見事、勝ち取ってみなさいな」

 もじもじ、そわそわしながらそんなことを言う綺麗なウサミミお姉さん。浩介の胸中に、かつての【グリューエン大火山】の噴火にも等しい爆熱が宿ったのは言うまでもない。

 そう、ラナの出した条件とは、大迷宮の攻略及び魔王ハジメへ一撃入れること……。

 ハジメの言う通り、かぐや姫も「ちょっ、おまっ」とか言いそうな鬼畜条件だったのである。

 しかし、燃え尽きる勢いで熱き恋のパトスを燃やしていた浩介は、周囲の制止の声も聞かず、誰にも気がつかれない内に姿を消して、もっとも攻略の可能性が高く、かつ自分にあった神代魔法を得られる大迷宮として【ライセン大迷宮】を選んで飛び込んだのである。

 それから、一週間。帰らない浩介に、流石に不安が募った永山重吾や野村健太郎の相談もあり、また当事者であるラナも、ちょっと無碍にし過ぎたかも……と視線を泳がせていたことから、既に攻略し慣れたシアが捜索に出ようかとなったそのとき(決して、一週間目にして、ようやく浩介がいないことに気が付いたわけではない)、

 浩介は帰って来た。

 ボロボロではあったが、しっかりと神代魔法――重力魔法を習得して。そして、何故か決戦の後に新たな力を得るという意味不明振りで周囲を唖然とさせつつ、浩介は、そのまま宣言した。ビシリッと指を差し、堂々と、不敵に笑いながら、

「魔王南雲ハジメっ。俺と勝負しろ!」

 と。

 当然、重吾は「浩介ぇ、正気に戻れぇ! 自殺なんて止めろぉ!」と叫んだし、健太郎は「白崎さんっ、綾子ぉ、誰でもいい! 早く回復魔法をっ。頭を念入りに頼む!」と懇願したし、愛子先生は「ハジメくん、早まらないでっ。遠藤くんは、その、ちょっと疲れているだけなんです! 頭がっ」とハジメに縋りついたし、光輝や龍太郎、鈴は遠藤とハジメの間に入って、冷や汗をダラダラと流しながら決死の覚悟で浩介が逃げる時間を稼ごうとした。

 ハジメが、「お前等、俺を何だと思ってんだ……」と頬を引き攣らせていたが、自業自得なので、誰も慰めはしなかった。

 そんな混乱に満ちる現場で、浩介は友人達の制止をまるっと無視すると、その視線を、ラナへと転じ、その心に届けと言わんばかりの大声で宣言した。

「ラナさんっ。大好きっす! 貴女が出した条件――ボスに傷の一つでもつけられるなら、考えなくもないって言葉、信じてます! ラナさんの目の前で、南雲にめっきりくっきり、傷をつけてやりますっ!!!」

 その宣言で、ラナの条件というか照れ隠しの言葉を知らなかったクラスメイト達は、浩介の大迷宮攻略だとか、この場での自殺志願としか思えないハジメへの宣戦布告とかの理由を察し、思った。

――また、ハウリアかっ!!!!!

 全員が一斉に、ラナへ「なんてこと言ってくれたんだ!」と非難の眼差しを向け、それを受けたラナは、流石に冷や汗を流しながら視線を泳がせた。浩介の宣言に、ちょっと頬を染めつつ、周囲のハウリア女性達からニヤニヤ笑いと冷やかしを受けながら。

 さて、そんなこんなで宣戦布告を受けたハジメは、愛した女性のために強大な敵に挑む構図に何となくシンパシーを感じて、その挑戦を受けることにした。

 無論、そうそうしてやられるようなつもりはない。自分にも、愛している女はいるわけで、彼女達の前で無様な戦いなど、たとえどのような事情があろうとするわけにはいかないし、何より、浩介にとって“勝ちを恵んでもらった”などという事実は願い下げだろう。

 というわけで、決闘を行うことになったハジメと浩介だが、その結果は――

 現在、ラナが浩介の想いを受け入れているという事実が何よりの証拠だ。最強格の暗殺者、+全力のアビスゲート卿状態は伊達ではなかったということである。

 いろんな意味で、壮絶な戦いだったのだが……それはまた別の機会に。

 【ライセン大迷宮】の単独攻略、および神殺しの魔王に一撃入れるという偉業を成した浩介は、見事、その命懸けの挑戦により、ラナのハートを射止めた。

 だが、当然、たとえ浩介に心を許したとしても、ラナがハウリアであることに変わりはなく、一緒に過ごす時間も、一族として迎えてくれたカム達との時間も、基本的には全て厨二だった。必然、アビスゲート卿な時間も増えるわけで……

「南雲ぉ、俺はもう、戻れないかもしれない……。いっそ、このまま行くところまで行っちまおうか」
『追い詰められてんなぁ。別に、ラナの奴は、お前がアビ――厨二止めても、愛想を尽かしたりはしないと思うぞ? 事実として、あいつの適当な鬼畜条件を、お前は正面から突破したんだ。他の誰にだって出来ないようなことだぞ? お前が厨二だろうがそうでなかろうが、自分のためにあそこまでやってくれたお前を、今更、見放したりしねぇって』
「そう、かもしれないけどさ。逆に考えてみろよ。俺はこれからも身内として、ハウリア族と過ごすんだ。その中で、俺一人だけ普通だったら……それはそれでアウェー感がやばくないか? ほら、ファンタジー系のゲームをしているときとかににさ、『物理的にこんなことはあり得ない』とか現実的なツッコミを入れる空気の読めない奴、みたいな」
『な、難儀な奴だな……。まぁ、分かりやすい例えだが。確かに、あれは白けるな』
「だろ? こいつ、白けるなぁとか、ノリ悪いなぁとか、面白くない男だなぁとか……ラナにそんなことを思われて、それでも生きていく自信は、俺にはない」
『断言するなよ。つか、結局、どうしようもないっていうか、遠藤の中で、答えはもう出てるってことだろ? だからな、俺も適当に流そうと……』
「聞いてくれよ! 自分でもただの愚痴だって分かってるけど! 聞いて欲しいんだよぉ! 最近は、重吾も健太郎も、また言ってら~みたいな態度で全然相手にしてくれないし! 同じ痛みを知る、心の友だろ!?」
『あぁ、分かった、分かった。だから電話口で大声だすなって』

 結局のところ、浩介の羞恥心とか、精神的ダメージは、浩介自身背負っていく(?)覚悟があるらしく、要はハジメに愚痴を聞いて欲しいだけのようだった。それが分かっているから、ハジメも最初から流そうとしていたのだが、浩介的にはストレス発散に付き合って欲しかったようだ。

 そんな浩介に律儀に付き合うハジメも、トータスにいた頃とは随分と異なり、丸くなったというべきか。単に、浩介の言う通り、同じ心の痛みをしる者同士というシンパシーを感じているというのもあるのだろうが。

 その後、しばらく間、浩介の愚痴がつらつらと述べられ、合間合間に、ラナとの中を進展させるいい方法など恋愛相談(?)みたいなこともして、ようやく浩介の精神が回復したころ、ようやくハジメが電話した本題――オカルト集団ヒュドラの顛末の話になった。

『んで? お前がミスるとは思わないが、連中に対する処置は上手くいったのか?』
「ああ、それは問題ない。あいつらの中で、ヒュドラは慈善団体になったよ。今度、結社の資金は、恵まれない子供達に流れていくと思うぞ。あの場にいなかった連中には、なんもしてないけど」
『それは構わない。でかい組織だからな。あちこちに構成員がいるようだし、その辺りはこっちで処理していくさ。まぁ、今回みたいに、お前が私用で目標拠点の近くにいるときは、また頼むかもしれないが』
「いや、大して近くないからな? 俺がいたの北アフリカだぞ? お前、ゲートが使えるからって距離感おかしいからな?」

 浩介が、ハジメには見えていないと分かっていながらジト目になった。それもそのはず。そもそも浩介が日本を出ているのは、わざわざハジメの依頼に応えるためではない。それなら、いくらハジメが多忙を極めているとは言っても、自分でゲートを開いて直接乗り込んだ方が早いのだ。

 今回、ハジメが浩介に敵対組織への処置を依頼したのは、ちょうど冬休みを利用しての私用で浩介が海外に出ていたから。そして、浩介の私用とは、ずばり戦場医療の実際を目にすること。故に、浩介の目的地は医療体制が不十分な国であり、そこで現場を学んで、さぁそろそろ帰国しようかな? と考えていたところで、魔王様からの勅命が下ったというわけなのである。

 ちなみに、一応医大志望の受験生である浩介だが、異世界で頑張ったご褒美というべきか、技能の“言語理解”は地球のあらゆる言語にも対応していて、外国語科目については最初からネイティブ状態という、他の受験生涙目な状態だったりするので、割と余裕がある。

 また、浩介としては、なにも医師免許が欲しいわけでも、エリート医師になりたいわけでもなく、いずれトータスで役立てるための知識と技術が欲しいだけなので、そこまで偏差値の高い大学である必要はないということもあり、時折、こうして息抜きがてら医療の現場巡りをしているのだ。

 オカルト集団ヒュドラの拠点であるオルグレイ邸はイギリスであるから、常識的に考えれば、今回、浩介が訪れていた場所からは全く近いとは言えない。浩介はゲートを所持しているわけではないので、普通に一般の航空機を利用(ハジメから依頼料がたんまり振り込まれているが)しての移動であるから尚更だ。

『お前になら劣化版クリスタルキーくらい作ってやるって言っただろ?』
「……自重してるんだよ。南雲のアーティファクトは便利すぎる。頼るのが当たり前になったら、普段の生活からして不便に感じそうでさ、恐いんだよ。旅をするなら、自分の足と公共交通機関に限る」
『お前って、影薄いくせに、時々含蓄のあること言うよなぁ』
「影が薄いは余計だっ。お前から振り込まれる依頼料だけでも十分ビビってるんだ。小心者の俺には、これくらいがちょうどいいんだよ」

 浩介の言葉に、電話口の向こうでハジメが苦笑いする気配が伝わった。生来の影の薄さで、余り周囲から高い評価を受けない浩介は、基本的に自己評価が低い。“気がつけば”、いつだってとんでもない成果を叩き出しているくせに、評価されないから、それが凄いことだという認識にならないのだ。

『まぁ、なんにせよ、助かったよ。いずれ潰すつもりだったが、最近、マジで忙しくてな。奴等が本格的に動き出すと色々と面倒だったが、そうなる前に頭を潰せたから、しばらくは動けないだろう。時間が出来た分、やりたいことに専念できる』
「そりゃ良かった。確か、トータスとのゲートをもっと簡単に開けるよう、いろいろやってんだろ? そうなれば、俺もラナともっと気軽に会えるしな」

 浩介の低い自己評価はさておき、ハジメは聞きたい報告は聞けたと話を締めくくった。浩介は、ハジメに、こういう雑用的な協力ならするから、くれぐれもトータスとの行き来をもっと簡単にする方法の確立を急いでくれと念押しをして、通話を切ろうとする。

「そんじゃ、またな。なぐ――」

 その時だった。

 突然、ギャギャギャギャッ!! という激しいスリップ音が響き渡ったのは。

「な、なんだぁ!?」
『おい、遠藤、どうし――』

 ギョッとした遠藤が、スリップ音と人々の悲鳴が響いてくるストリートへ視線を向けた直後、ハジメの言葉を塗り消すほどの轟音を立てて、一台の自動車が曲がり角をドリフトしながら飛び出してきた。

 轟音は、路上駐車していた自動車に、その暴走車が接触した音だ。当てられた路駐自動車はミラーが吹き飛び、テールランプが弾け飛んでいる。しかし、そんな明確な事故を引き起こしていながら、そのドリフト登場した自動車は一切止まる気配を見せず、それどころ更に加速して突っ込んできた。

 浩介がいる喫茶店のテラスへ。

「ちょっ、まっ――!?」

 同じテラスにいたカップルや、ビジネスマン、そして美人なウエイトレスが悲鳴を上げながら転げるようにして店内へと逃げていく。次の瞬間、黒塗りの頑丈そうな車は、テラスに突っ込む直前で急ハンドルを切り、豪快に振った後部でテラスを薙ぎ払った。

 宙を舞うテラスの残骸、そして食器や料理……

「うおっ。もったいねぇ!!」

 浩介は、側宙しながらテラスの残骸を避けつつ、宙を舞った未だ手つかずのサンドイッチを、ヒュパパパッとキャッチしていく! その手には、いつの間にか確保されていたお皿があり、サンドイッチは浩介の妙技によって吹き飛ばされる前と変わらず綺麗に盛り付けられた。ついでに、吹っ飛んだ飲み物も、いつの間にかスマートフォンをポケットにしまって、代わりに確保したグラスを使い、器用に操ってきっちり中身まである程度確保している。

 そして、サンドイッチの最後の一切れを空中で口キャッチし、シュタッと歩道脇に置かれていた店の看板の上に降り立った。

「むぐむぐっ、ぷはっ。まったく、いきなり車が突っ込んで来るとか、いったいどうなって――」

 口でキャッチしたサンドイッチを呑み込み、両手に皿とグラスを持った状態で文句を垂れた浩介は、そこでハタと視線が合った。

 テラスにぶつかったまま一時停止していた黒塗りの自動車。その助手席の窓から、何か信じられないものを見た! といった様子で口をポカン空けつつ、浩介を凝視する金髪の女の子を。

 猫を彷彿とさせる勝気そうな釣り目に、綺麗な金髪をサイドテールにしたその女の子の奥には、この暴走運転の犯人であるベリーショートな髪型のキリッとした美人もいる。そのベリーショートさんも、マジマジと浩介を見つめていた。

「あ、あ~、ど、どうも? お怪我はありません、か?」

 浩介が、余りに真っ直ぐな二人の視線に、ちょっと気まずそうな表情をしつつ、一応、そんなことを言ってみる。それに反応してか、猫目サイドテールの女の子が、何かを言おうと口を開きかけるが、

「え、ちょっ、またか!?」

 不意に聞こえてきた激しいスリップ音に、浩介は頬を引き攣らせながら視線を転じる。その視線の先には、同じような黒塗りの自動車が二台、三台とドリフトしながら通りの角から飛び出してくる光景があった。

 ベリーショートの女性もそれに気がついたようで、浩介の非常識な動きに止まっていた時間を取り戻した。すぐさまハンドルを切り、アクセルを吹かして一気に急発進する。猫目サイドテールの女の子が、遠心力でサイドガラスに「むぎゅぅ!?」と熱いキスをした。

 二人の女性を乗せた黒塗りの自動車は、そのまま後からやって来た自動車から逃げるように、否、実際に逃げているのだろうが、再び危険な運転をしながら通りの向こうへと消えていった。その後を、三台もの黒塗りの自動車が追走していく。

 騒然とする現場。間一髪、喫茶店の店内に逃げ込んでいたテラスのカップルやビジネスマンが恐る恐る顔を覗かせる中、浩介はズコッーーと音をさせながら飲み物を飲み干す。

『お~い、遠藤。どうしたんだ?』

 実は、ずっと通話が繋がっていたスマートフォンから、ハジメの声が響いた。

 浩介は、看板から飛び降りると、飲み干したグラスをそっとその上に置いて、視線を自動車が消えていった通りの向こうへやりながらスマートフォンを取り出し、しみじみとした様子で答えた。

「南雲、やっぱ、外国ってこえぇわ」
『……お前、なに言ってんの?』

 ハジメのツッコミは、ひゅるりと吹いた風に紛れて消えてしまうのだった。


いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

さて、恒例(?)のヒロイン属性ですが、
金髪サイドテール+白衣ッ娘+勝気釣り目+○○+○○
○○には何が入るでしょう。良かったら、想像してみてください。

ちなみに、モデルは亞北ネルだったりします。Tda式は女神。

次の更新も、土曜日の18時の予定です。

+注意+
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