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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第四章

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墜ちた天使

 初撃はシュラーゲンによる一撃だった。

 紅いスパークが迸り、見るからに凶悪なフォルムの怪物兵器から凄絶な破壊力を宿らせた超速の弾丸が一直線に目標へと迫る。ティオのブレスすら正面から貫いた貫通特化の砲撃に、流石の銀翼でも分解する前に貫かれると判断したのかノイントは回避を選んだ。

 その場から身を捻りながら落下し、紅い閃光の真下を掻い潜りながら、恐るべき速度でハジメに突進する。

 しかし、それを読んでいたのか、そこには既にクロスビットが配置されており、炸裂スラッグ弾が回避不能の近さで轟音と共にぶっ放された。

「ッ!?」

 ノイントは、紅い波紋を広げる炸裂スラッグ弾を見て、銀翼での防御も間に合わないと見たのか、その手に持つ一之大剣で迎撃に打って出た。

 神速で振り抜かれた大剣は、まるでバターを切り取るようにスッと弾丸に入り込みそのまま縦に両断する。内包する魔力を分解された炸裂スラッグ弾だったが、大剣の一撃もその全てを散らすことは出来ず、ノイントの左右に分かれた弾丸が両側から衝撃波を放った。

 威力は減じているものの、衝撃をモロに浴びて動きが一瞬止まってしまうノイント。

 そんな彼女の懐に、意識の間隙を突くようにいつの間にか踏み込んできたのはハジメだ。“空力”を使った空中での震脚によって、踏み込みの力を余すことなく左腕に集束し、ギミックの“振動破砕”と“炸裂ショットガン”、そして“豪腕”と膨大な魔力を注ぎ込んだ“衝撃変換”による絶大な威力の拳撃を放った。

 ノイントは、咄嗟に、弐之大剣を盾にした。体と着弾寸前の拳との間に大剣を割り込ませる。その試みはギリギリのところで間に合い、ハジメの鋼鉄の拳をせき止めた。

 しかし、その威力までは止められず、ガァアアン! という金属同士が衝突する凄まじい音を轟かせながら、ノイントは猛烈な勢いで吹き飛された。

ドパァアアンッ! ドパァアアンッ!

 ハジメは追撃の手を緩めない。即座にドンナー・シュラークを抜くと最大威力で連射する。轟く炸裂音は二発分。夜闇を切り裂く紅い閃光も二条。されど、吹き飛びながらも双大剣をクロスさせて防御姿勢をとるノイントを襲ったのは十二回分の衝撃だった。

「くぅうううっ!!」

 ドンナー・シュラークそれぞれにつき、一発分しか聞こえない程の早撃ちと、全く同じ軌道を通り着弾地点も同じという超精密射撃。ノイントの呻き声と同時に、彼女の持つ大剣が衝撃に震え、僅かにピキッと嫌な音を立てる。

 ハジメ渾身の拳撃とレールガン十二発を受けて尚折れない双大剣の耐久力に呆れるべきか感心すべきか。

 更に吹き飛び、再び、背後にあった教会の荘厳な装飾が施された何らかの施設を破壊しながら埋もれるノイント。ハジメは、オルカンを“宝物庫”から取り出し、ダメ押しとばかりに全弾発射した。

バシュウウウウウッ!!

 火花の尾を引いて殺到した絶大な暴力の群れは崩れかけた建物に致命傷をプレゼントする。大爆発と共に完全に崩壊した建物は、そのままロケット弾に搭載されていた大量のタールによって摂氏三千度の業火に包まれた。

 夜空を赤く染め上げる大火を眺めながら、ハジメは追撃の手をまだ緩めない。“宝物庫”から取り出したミサイルをオルカンに装填すると、再度、燃え盛る瓦礫の山に向かって狙いを定めた。

 と、その瞬間、

「っ、下かっ」

 ハジメが眼下に視線を向け直すと同時に直下の地面が爆発したように弾け飛び、その中から銀翼をはためかせたノイントが飛び出てきた。どうやら、魔法を使って地中に退避し、そのまま強襲を掛けてきたらしい。

 おびただしい数の銀羽が掃射され、銀の砲撃が撃ち放たれる。ハジメは、それらを風に吹かれる木の葉のようにゆらりゆらりと揺れながらかわし、交差する一瞬で振り抜かれた双大剣をレールガンによって受け流しつつ僅かな剣撃の隙間を側宙するように通りぬけた。そして、通り過ぎるノイントに向かってミサイルを発射する。

 オルカンの威力をその身で理解したノイントは、銀の光を弾きながら高速飛行し、追尾してくるミサイルから距離をとる。そして背後に向けて銀羽を飛ばして迎撃しつつ、作り出した魔法陣から怒涛の魔法攻撃をハジメに向けて放った。

 夜天に撃墜されたミサイル群の爆炎が無数に咲き誇っているのを尻目に、ハジメは、オルカンをしまうと、再びドンナー・シュラークを抜いた。そして、急迫する魔法の核を撃ち抜き、ノイント同様に全て迎撃する。

 壮絶な空中戦の合間に訪れた僅かな静寂。空中でノイントとハジメが対峙する。

「なぁ、ちょっと聞きたいんだが俺に構っていていいのか?」
「……何のことです?」

 教会関係者が地上で起きている魔人族による王都侵攻を知らないわけがない。問答無用に襲われていたので聞く暇もなかったのだが、一時の間が出来た上に、ノイントが会話に乗ってきたので、ハジメは、ちょうどいいと話を続ける。

「下で起きていることだ。このままじゃ王国は滅びるぞ? 次は当然、この【神山】だ。俺なんかに構ってないで、魔人族達と戦った方がいいんじゃないのか?」

 言い直されたハジメのもっともな質問に、しかし、ノイントはくだらない事を聞かれたとでも言うような素振りで鼻を鳴らす。

「そうなったのなら、それがこの時代の結末という事になるのでしょう」
「結末ねぇ。……やっぱり、エヒト様とやらにとって“人”は所詮“人”でしかなく、暇つぶしの駒でしかないということか。……この時代は、たまたま人間族側についてみただけってわけだ? この分じゃ、魔人族側の神とやらもエヒト本人か、あるいは配下ってところか」
「……だったら何だというのです?」
「いや、“解放者”達から聞かされた話の信憑性を、一応、確かめてみようかと思ってな?ほら、俺にとっちゃあ、どっちも唯の不審者だし」

 主を不審者呼ばわりされたせいか眉がピクリと反応するノイント。しかし、ハジメは気にした風もなくにこやかに告げる。

「なぁ、俺が邪魔なら元の世界に帰してくれてもいいんじゃないか? あと、勇者達も、王国が滅びたら大して機能しなかった残念な駒として終わるわけだし、ついでにさ?」
「却下です、イレギュラー」
「理由を聞いても?」
「主がそれをお望みだからです。イレギュラー、主はあなたの死をお望みです。あらゆる困難を撥ね退け、巨大な力と心強い仲間を手に入れて……そして、目標半ばで潰える。主は、あなたのそういう死をお望みなのです。ですから、なるべく苦しんで、嘆いて、後悔と絶望を味わいながら果てて下さい。あなたが主に対して出来る最大の楽しませ方はそれだけです。ああ、それと勇者達は……中々面白い趣向を凝らしているとのことで、主は大変興味を持たれております。故に、まだまだ主を楽しませる駒として踊って頂きます」

 ハジメは、概ね予想通りの回答だったので特に気にした風もなく肩を竦めると、かつて聞いたミレディ・ライセンの言葉に、内心で深く同意した。すなわち、「確かに、クソ野郎共だ」と。

 しかし、自分の事はともかく、最後の言葉はハジメとしても気になるところだ。

「……面白い趣向?」
「これから死ぬあなたにとって知る必要のないことです」

 話は終わりだと、ノイントは、無数の魔法と銀羽を放ち戦闘再開を行動で示す。

 もっとも、先程までとは威力も桁も別次元だった。銀羽の一枚一枚がレールガンに迫ろうかという威力を持ち、放たれる魔法は全て限りなく最上級に近いレベルである。よく見れば、ノイントの体全体が銀色の魔力で覆われており、感じる威圧感が跳ね上がっていた。まるで、ハジメや光輝が使う“限界突破”のような姿だ。

「ッ!」

 その圧倒的な物量からなる怒涛の攻撃に息を呑みながら、ハジメは右手にメツェライを、左手にシュラーゲンを持って応戦する。メツェライが咆哮を上げ、毎分一万二千発の破壊を撒き散らして銀羽と魔法を相殺し、シュラーゲンが射線上の全てを打ち砕いて直進しノイントを狙う。

 しかし、銀光を纏うノイントの動きもまた、先程までとは比べ物にならなかった。シュラーゲンの紅い砲撃が確かにノイントを撃ち抜いたと思われた瞬間、彼女の姿は霞のように消え去り、数メートルも離れた場所に現れたのだ。

 自らが放つ弾幕を追い超す勢いで進撃するノイントの姿は、余りの速度に残像が発生し、常にその姿を二重三重にブレさせる。

 ハジメが“先読”で配置したクロスビットから炸裂スラッグ弾を放つが、やはり撃ち抜くのは残像のみ。フッと姿を消したノイントは、次の瞬間にはズザザザザーと残像を引き連れてハジメの背後に回り込んでいた。そして、独楽のようにクルクルと物凄い勢いで回転しながら遠心力をたっぷり乗せた双大剣で振るった。

「ッ!?」

 ノイントの最後の動きは、ハジメの“瞬光”状態での知覚能力をも上回り、完全な不意打ちとなった。辛うじて身を仰け反らせ直撃を避けたものの、咄嗟に盾にしたシュラーゲンを真っ二つに両断されてしまう。内蔵されたエネルギーが暴発し、ハジメとノイントの間で大爆発が起こった。

 それが、ほんの一瞬ではあるがノイントの追撃を遅らせる。ハジメが反撃に出るための時間としてはそれで十分だった。ハジメの全身から紅色の魔力が噴き上がり体を覆っていく。“限界突破”だ。

 踏み込んできたノイントに対して、ハジメもまた一歩を踏み込む。その手には既にメツェライはなく、代わりにドンナー・シュラークが握られていた。そこからは超接近戦だ。

「つぁああッ!!」
「はぁああッ!!」

 一之大剣による唐竹の斬撃を半身になってかわしたハジメに、絶妙なタイミングで弐之大剣が胴を狙って横薙ぎに振るわれる。

 ハジメは、その一撃をシュラークの銃身でカチ上げながらレールガンの一撃を剣の腹に当てて上方に弾き飛ばし、右のドンナーでノイントの心臓を狙った。撃ち放たれた紅の閃光を、残像を残しながら回転することでかわしたノイントは、その勢いのまま一之大剣を下方より跳ね上げる。

 ハジメはシュラークに“金剛”の“集中強化”を大剣の刃が当たるほんの僅かな場所に通常時の数倍の密度でかけて分解に対抗し、大剣の勢いに逆らわずシュラークを跳ね上げて、その軌道だけを逸らした。

 そして、水平に切り込んできた弐之大剣も、同じく“金剛”の超“集中強化”をかけて銃口で刃を受けて、そのまま発砲する。炸裂音と共に放たれた閃光が弐之大剣を弾き飛ばした。

 互いに至近距離で、相手の武器をかわし、逸らし、弾きながら致命の一撃を与えんと呼吸も忘れて攻撃を繰り出し続ける。

「おぉおおおおおおおっ!!!」
「はぁあああああああっ!!!」

 ハジメとノイントは何時しか互いに雄叫びを上げていた。

 筋一本、神経一筋、扱いを間違えただけで、次の瞬間には死が確定する。互いの攻撃を判断する時間などあるわけもなく、ただ本能と経験だけを頼りに神速の剣撃と銃撃が互いの命を僅かでも削り取ろうと飛び交った。

 銀色の剣線が夜の闇に幾条もの軌跡を残し、紅の閃光が血飛沫のように四方八方へと飛び散る。銀と紅に輝く二人を太陽に例えるなら、二人が放つ攻撃の嵐はさながらフレアだろう。一秒、一手を掻い潜り互いが生き残る度に、際限なく速度は上がっていく。

 比例して、僅かにヒットする攻撃が互いを血染めに変えていった。ハジメはいたるところを浅く切り裂かれ、ノイントは抉るように穿たれた箇所から血を滴らせる。

 ハジメとノイントの技量は互角。このまま、永遠に続くかと思われた攻防だが、実際に追い詰められているのはハジメの方だった。いや、正確に言うなら、追い詰められる事になるのは、だ。

 それはハジメも理解していた。なぜなら、ノイントの魔力が開戦してから全く消費されていないからだ。

 言うまでもなく、ハジメの“限界突破”は制限時間付きだ。それを過ぎれば強制的に解除され、暫くの間弱体化を余儀なくされる。ハジメの魔力が膨大であるとは言え、いつまでも発動し続けられる訳ではないのだ。

 それに対してノイントの場合、どうやら何処からか魔力の供給を常に受けているようで実質無制限に強化状態を維持できるらしい。ハジメの魔眼石は、やたらと強く輝き、全く衰える様子のない魔石に似た何かがノイントの心臓部分にあるのを捉えていた。

 ハジメは、このままではジリ貧だと勝負をかける決断をする。

「吹き飛べっ!!」

ドドドドドドッ!!!!

 雄叫びと同時に、クロスビットからハジメ自身をも巻き込む最大威力の炸裂スラッグ弾が一斉に掃射された。

「血迷いましたかっ」

 ノイントの無機質な瞳が、僅かに見開かれる。その瞳には、ハジメの正気を疑う色が宿っていた。

 六機のクロスビットから一瞬で数十発の炸裂スラッグ弾を放たれ、ハジメとノイントを中心に無数の波紋を作った。咄嗟に、ノイントは銀翼で体を包み、ハジメも“金剛”を最大出力で発動する。

ズドォオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!

 直後、夜天に紅の光華が満開に咲き乱れた。絶大な威力の衝撃波が、問答無用にハジメとノイントを吹き飛ばす。

 凄まじい衝撃は、“金剛”を貫いてハジメの肉体にも軽くないダメージを与えた。その証拠にハジメが盛大に血飛沫を撒き散らす。見た目は満身創痍だ。

 対するノイントも全く無傷とはいかず、銀翼の防御が完全には間に合わなかったようで傷口から更に血を吹き出しながら、僅かに吐血した。どうやら内臓にも衝撃が通ったようだ。

「……心中でもする気ですか?」
「ハァハァ……お前と心中? ハッ、冗談キツいぞ。そんなセリフは、俺の恋人くらいいい女になってから言え」

 無茶な攻撃に、思わず、自棄でも起こしたのかと疑いの眼差しを送るノイントに、ハジメは荒い息を吐きながら軽口で返す。お前ごときが誰かと最後を共に出来ると思うなという嘲笑混じりで。

 ハジメは、“宝物庫”から新たな武器を手元に取り出した。そして、トランプでも飛ばすようにスナップを効かせて高速でそれを投擲する。

 音もなく、そこに有るはずなのに意識しないと直ぐに見失ってしまいそうなそれを、しかし、ノイントは何でもないように双大剣で弾き飛ばした。

 カキンッ! カキンッ! と硬質な音を立てて弾かれ、空中をくるくると回るそれは、直径十五センチ程のドーナツ型の円盤――俗に言う円月輪、あるいはチャクラムと呼ばれる投擲武器だった。

「今さら、このような。万策尽きましッ!?」

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 原始的な武器に、ノイントが唯の悪足掻きかとより冷めた眼差しをハジメに向けた瞬間、ハジメが自分の左右に(・・・)向かってレールガンを連射した。

 その直後、その紅き閃光はハジメと向かい合うノイントの左右から(・・・・)出現し、彼女の頭部を粉砕せんと強襲した。

 ノイントが、有り得ない事態に思わず言葉を詰まらせ、咄嗟に双大剣を両サイドに掲げて盾にする。ドンナー・シュラークから吐き出された合計十二発の弾丸は全て炸裂弾。そして最初と同じくピンポイント射撃だ。

 なぜ、全く明後日の方向に撃った弾丸が、ノイントを挟撃したのか。

 それは、先程、ハジメが投擲した円月輪が原因である。この円月輪、“気配遮断”と“風爪”を生成魔法で付与した鉱石で作成されており、極めて隠密性と殺傷性の高い投擲武器なのだが、それ以上に、特殊な効果をもったアーティファクトなのだ。

 それは、【メルジーネ海底遺跡】で巨大クリオネに止めを刺した時に使ったゲート機能である。つまり、円月輪の真ん中に空いた穴は、他の円月輪と空間的に繋がっており、そこに弾丸を撃ち込めば、空間を跳び超えて別の円月輪の穴から弾丸が飛び出すのである。もちろん、クロスビットと同様に感応石で自在に動かす事も出来る。

 頭部の位置、大剣の大きさ、ノイントの反応速度など全てが計算されて空間を飛び越えた炸裂弾は、全弾、寸分のずれもなく狙った場所に着弾し、凄まじい衝撃を迸らせた。

 次の瞬間、

バキンッ!!
バキンッ!!

 そんな音を響かせて、ノイントの攻防一体だった双大剣は半ばからへし折れた。

「なっ! この程度で、なぜ……」

 感情がないと言っていたにも関わらず、随分と驚きをあらわにするノイント。

 彼女は気が付いていなかったのだろう。ハジメが、最初のピンポント射撃のあと、ずっと、あの近接戦闘の最中でさえ、ノイント本人よりも双大剣に入った亀裂を狙って衝撃を与え続けていたということを。実力が拮抗しているからこそ、武器破壊によって出来るであろう一瞬の隙を狙っていたということを。

 ハジメは、確かにできたノイントの隙を逃さず、新たなアーティファクトを“宝物庫”から取り出し、それを連続して投擲した。高速で投擲された十の影をノイントは隙を突かれたがために回避する事も出来ず、咄嗟に、折れた大剣で振り払おうとする。

 しかし、このアーティファクトにそれは悪手だった。投擲されたそれは、両サイドに丸い鉱石の重りが付いたワイヤーだった。

 俗に言うボーラと呼ばれる捕獲道具ないし投擲武器だ。通常は、回転させて遠心力をたっぷり乗せてから放つものだが、感応石内蔵なので、即投擲しても十分な速度を出せる。そして、当然、ハジメの作り出したものが唯のボーラなわけがなく……

「ッ! これはっ、動けない!?」

 ノイントの双大剣の柄、両腕、腰、両足に絡みついたボーラは、その両サイドに付いた球状の鉱石から波紋を出しながら空中に留まった。それは、生成魔法により空間魔法が付与された効果だ。二つの錘が空間そのものに固定され、捕縛対象も合わせて固定してしまうのである。

 もっとも、ノイントには分解能力があるので、如何に空間そのものに固定するという反則じみた効果を持っていたとしても十秒も持たないだろう。しかも、銀翼自体は、拘束されても魔法の構成を解いて再展開すればいいだけなので実質拘束は不可能だ。今まで通りの接近をしても銀翼が拘束を解くまでの時間をあっさり稼いでしまうだろう。

 だが、その数十秒を稼ぐことがハジメの狙いだ。一撃必殺――この僅かな時間に最大最強の一発を放つのだ!

 ハジメは、“宝物庫”から全長二メートル半のアームが付いた大筒を取り出す。パイルバンカーだ。キィイイイイ!! という独特の音を響かせてスパークを迸らせながら紅い雷をチャージする。そして、一気にノイントへと踏み込んだ。

「くっ」

 苦さを含んだ声を漏らしたノイントは、銀翼を大きく広げ自らを繭のように包み込む。分解能力を秘めた銀色の魔力が燦然と輝き、まるでもう一つの月のようだ。

 ハジメは、そんな美しさすら感じる障壁に凄まじい衝撃と共にパイルバンカーを叩きつけた。直後、四本のアームに新たに付加された空間固定機能が、分解能力に抗いながらパイルバンカーを固定する。紅色のスパークは既に臨界状態を示すように激しく荒れ狂っている。

「耐えられるものなら耐えてみな」

 ハジメの口元が不敵に吊り上り、瞳が殺意にギラつく。“限界突破”の紅き魔力は益々輝き、銀月を紅月に染め上げていく。

 直後、パイルバンカーの射出口から不可視の衝撃が迸った。それは、射出口に内蔵された空間振動を起こす機能だ。空間魔法“震天”の簡易版であるそれは、対象に激烈な振動を与え、その結合を――耐久力を著しく弱らせる。

 そして、重力魔法によりインパクトの瞬間、その重さを二十トンにまで増加させる漆黒の杭が、落雷の如き轟音と共に解き放たれた。

ドゴォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 超圧縮された炸薬と衝撃変換された魔力、そして電磁誘導によって神速とも言うべき加速を得た螺旋を描くアザンチウム製の巨杭は、ゼロ距離で獲物を穿ち破壊する。

 紅いスパークを放つ漆黒の杭は、重ねられた銀翼二枚をあっさり貫き、その奥にあるノイントの心臓部分を貫通して尚止まらず、背中から抜けて片翼を根元から吹き飛ばした。そして、流星の如く紅色の尾を引きながら彼方へと飛んでいってしまった。

「――」
「……」

 後に残ったのは、魔力供給源であった場所に文字通り風穴を空けられたノイントの姿。“纏雷”により傷口を焼かれたためか血が噴き出すことはなく、ただポッカリと胸に穴を空けている姿は人間味を感じさせない。空気に溶け込むように霧散していく銀翼の中から覗く瞳は相変わらず機械的な冷たさをたたえたままだった。

 ただ、それでも、どことなく恨めしそうな雰囲気が混じっているように思えたのはハジメの気のせいか……

 そんなノイントの眼差しも、直ぐに光を失い虚ろとなり、グラリと体を傾けるとそのまま教会の建築物が密集する場所から少し離れた山腹に落下していった。黒ずんだ山肌に、ノイントの銀がやけに映える。

 ハジメは、その傍らに降り立つと、ドンナーを抜いて頭部に銃口を向けた。魔眼石や感知系能力はノイントが完全に死んでいると示していたが、何となく頭にも撃ち込んでおかないと落ち着かないのだ。嫌な習慣が出来たものである。

 ハジメが、いざ、ノイントの額に向けてドンナーの引き金を引こうとした、その瞬間、

ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!

 【神山】全体を激震させるような爆発音が轟いた。今度は何事かと振り返ったハジメの目に映った光景は……巨大なキノコ雲と轟音を立てながら崩壊していく大聖堂を含む聖教教会そのものだった。

「……うそん」

 思わず漏れたハジメの呟きが、やけに明瞭に木霊した。

いつも読んで下さり有難うございます
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次回は、水曜日の18時更新予定です。
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