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サン*タクロー

俺の名前は サン*タクロー。

毎年12月は憂鬱でしかたねー。

何が楽しくて知らない人にプレゼントやんなきゃなんねんだ?

今年はなんつってサボるかな。

去年はトナカイと計画交通事故で休んだし、おまけにガッポリ保険金も入ったからホクホクな年末を楽しんだ。

一昨年はおらおら計画詐欺

プレゼントを全部持ってかれたという設定で、トナカイと飲んだくれ年越しパーティーをハワイでやった。

その前は、、、


「タクローさんよ、ほんと面倒くせーんだけども」

トナカイが一服吹かした。

「タクローはやめろと言ってんだろが!」

トナカイの真っ赤な鼻を指で弾いた。

「鼻をやったら嗅覚が渋るからダメですよ!」

「あ?おめーかれこれ何年も配達もしないで遊び呆けてんだから、効かなくてもモーマンタイだろ」


ほじった鼻くそをトナカイに投げつけた。


「そろそろ今年も配達区域のお伝えがあるころですよ」


トナカイは飛んできた鼻くそを前足で叩き落とした。


「かったりーにもほどがあるぜ」


タクローは畳に寝っころがってエロ雑誌を読み始めた。


「世界中のお子様が見たら泣きますよ、それは」


トナカイはそんなタクローを、からすにつつかれたごみ袋を見る目で見た。


「サンタクロースは居間に集合!」


部屋中に響くドン*サンタの声。

タクローとトナカイはウィンドブレーカーを着こんで居間に出向いた。

居間には様々なサンタクロースが大集合していて、本場フィンランドから来ているサンタは皆様が想像している「あの」サンタで間違いなかろう。

アメリカから来ているサンタは日焼けマッチョに真っ白い歯、サングラスは必須アイテムだ。

インドから来ているサンタのレンタルサンタ服は、カレー色だ。香辛料を香水に使っているため、カレー臭は否めない。

オーストラリアから来ているサンタは、太りすぎて服が破れかけていた。


そして、我が日本からはこのペアだ。


居酒屋の店先に置かれているあのタヌキの置物のようなデカっ腹のおっさんサンタに、秋田犬に角をつけたようなトナカイだ。


「あーあーあー」

「只今マイクのテスト中。ワンツーワンツー」

「アテンションプリー」


ドン*サンタの有り難くない演説の始まりだ。

真っ赤なシャツに星柄の短パンに、ゴールドのアクセサリーを全身にこれでもかと付けまくったヤクザなおっさん。


それが、サンタクロース新興協会の会長、ドン*サンタだ。


ドンに逆らうと、配達区域は必ず網走になるので、みな、イェスマンに撤するのが遠い昔からの習わしになっていた。


「あー、今年の行先は昨年の売り上げにより決まっている」


星柄の短パンからおもむろに紙を取り出した。


「タクローさん、昨年は計画事故を起こしたから、わたしたちはカウントには入らないっすよね?」

「、、、いや、あのドンすることだ。わからねーな」


嫌な空気が二人の周りをくるくると回り始めた。


昨年一番の売り上げを上げたスイスのサンタには、スイスチョコレートのプレゼントが贈られたが、自分の国のチョコを貰っても・・・と、スイスのサンタは目を細くしてドンを見やった。

その目は完全に嬉しくないと言っている。

全サンタがやる気を無くしたところで、今年のサプライズを発表。


今年一番の売り上げを上げたものには、、、、、



「・・・・・フィリピンに招待する」



ぅおーーーー!!!(サンタの雄叫び)



全サンタの下半身に力がみなぎり、各々配達区域へと気合いを入れて前進して行った。が、タクローだけ持ち場がなかった。


「ドン、すいませんが、俺の持ち場がないんですけど」

「ん?おまえたちは去年計画詐欺を働いただろう?俺が見逃すとでも思ってんのか?これを見ろ」


おもむろに取り出したのは領収書だった。


「これはおまえたちが俺に送りつけてきたキャバクラの領収書だ。こんなもんがまかり通るとでも思ってんのか?こら」


タクローはトナカイのけつを蹴っ飛ばした。


「おまえたちは網走行きだ」

「えー!!!」

「ばかトナカイ!どこに領収書送ったんだよ!タコが!」


タクローは容赦なくプロレス技をかけ、トナカイをこらしめた。


そんなこんなで仕方なくタクローとトナカイは網走へと出向する運びとなった。


「いやーしかし寒いっすね」

トナカイが鼻を赤くして白い息を吐いた。


「こんなとこになにがあんだっつんだよ」

タクローは網走湾を細い目で見ながら葉巻をくゆらせた。


「てかよ、プレゼントって何があんだ?」

「えーと、『ザ・脱獄計画』『HOW TO 堀り方』『スプーンの役割』『ホールハイド』『壁のふしぎ』とかですかね」

「決まりだな」

「え?」

「26日にちゃちゃっと配るべ」

「ドンに見つかったらやばいっすよ。ちゃんと仕事しましょうよ」

「明日でいい」


タクローのこの一言で網走地区のクリスマスは26日に変わり、24日の夜中から25日のクリスマスの日にかけてそれは、サンタを生業としている者が一番忙しく稼ぎまくる日にタクローとトナカイは、昭和の香りのぷんぷんする網走の廃れた飲み屋街へと繰り出し、朝までへべれけになって飲み続け、豪快に金を使い、酔いつぶれた。



次の日には恒例の集会が催された。


「みんな集まったか?」


ドン*サンタがいつもの格好に赤いマフラーを蛇のとぐろのようにぐるぐるに巻き、ステージの上でポケットに手を突っ込んだまま仁王立ちしていた。


「まだ、網走組が帰ってきていません」


優秀なスイスのサンタが全サンタ代表で発言した。


「んあ?あいつら、またさぼってやがるな」


ドン*サンタがあからさまに舌打ちをした。


25日の昼、緊急集合がドン*サンタから入った。

全サンタは24日の夜中から朝にかけて一生懸命にプレゼントを配ったので、25日は疲れ果て一日家でのんびりして、夕方に集計に入っていた。


シャンシャンシャンシャン・・・・


トナカイの鈴の音をBGMにサンタクロース振興協会の会議室に集まる世界各国のサンタさん。


その頃、当のタクローとトナカイは温かい羽毛布団にくるまり、夢の中の住人となっていた。

網走地区の子どもたちの大泣きする声など聞こえるはずもなく、大人達の抗議の声もシャットアウトし、

夢の世界で楽しくやっていた。そして袋の中のプレゼントは届けられることはなかった。


「・・・・追放だな」


ドン*サンタはじーころじーころと黒電話を回しどこかへ電話をかけた。


「スイスサンタよ、すまぬが網走地区の子どもたちにプレゼントを配ってきてくれ」

「わかりました」

スイスサンタは優秀なトナカイと共に風のように去り、スイスサンタのおかげで一日遅れでプレゼントを貰った子ども達は、おまけのプレゼントに気をよくし、笑顔で二つのプレゼントを受け取った。両親などにもサプライズギフトを配り、一流サンタとダメサンタの格の違いを、まざまざと見せつけた。



その頃、ようやく眠りから現実の世界に引き戻されたダメ組は、プレゼントの袋が消えていることに気がついた。


「タクローさん、袋が盗まれましたよ」


寝起きで頭が回らないトナカイは自慢の嗅覚まで酒で犯されていた。


「あ?プレゼントに足が生えて歩くわけねーだろ」


タクローは朝一のたばこに火をつけ顔をしかめ、ふとちゃぶ台の上に一枚の紙が置かれているのに気が付いた。


「あ?あんだこれ」


タクローは大きくたばこの煙を肺いっぱいに吸い込むと、トナカイ目がけて煙を吐いた。



・・・・解雇状・・・・


お前達はクビだ。

              以上



「・・・・ドン*サンタ、ブチ切れてんぞ」


タクローはけつを掻きながらトナカイに紙を投げた。


「ってことは私たちこれからどうやって食ってくんですか?」


トナカイはタクローに詰め寄ったが、答えなんてあるわけもない。


「あ?そりゃ計画シリーズで行くしかねーだろ」

「それ以外の手を考えましょうよ。せっかくサンタとトナカイなんだから」

「じゃあれだな。来年からはよ、デパートのイベントに営業に行って稼ぐしかないな」

「・・・いいじゃないですかそれ!」

「そうか?」

「暖かいところで仕事できて、しかも重宝されるんですよ」

「なるほど。さすがだな」


「よし、来年はそれで稼ぐか。それで行こう」


タクローは一升瓶を戸棚から引っ張り出してきて、グラスにたぷたぷと酒を注ぐ。


「んじゃ、新仕事を祝して、かんぱーい」

「かんぱーい!」

「来年はデパート巡りか。旨い総菜も食べ放題だな」


わははははと笑いの祝杯を挙げ、解雇されたことなんか、まるで鼻くその勢いだ。


サンタクロース振興協会は、来年の冬は各デパートにアポイントを取り付け、協会所属のサンタを出張させる段取りを仕組んでいた。

そんなこととはつゆ知らず、タクローとトナカイは一升瓶を飲み干し、網走名産の珍味を肴に朗らかに歌を歌い、本能の赴くままにつっぱしって新年を祝い続けていた。


来年の仕事も安泰だとなめてかかるとろくな目に合わない。

ということを身をもって知ることになるのは、もう少ーし先のことになるのでした。




【おわり】









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