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第3歩 強引な師

 第3話目です。相変わらず慣れないファンタジーに四苦八苦していたのであまりクオリティはよくありません。

 駿が美剣のところにお持ち帰り、もとい保護されて数日が経った。


「おら! もっと速くだ!!」


「そんな滅茶苦茶な事ができるもんか!!」


 駿はそう叫び、風を切って繰り出される美剣の斬撃を辛うじて回避する。が、容赦の二文字を知らない美剣はすぐさま返す刃で追撃を繰り出してきた。


「――!!」


 回避で崩れた態勢から、無理やり木刀を目の前に持ってきて美剣の攻撃を防ぐ。あまりの威力に木刀から伝わった振動で武器を持つ手が痺れた。


「この馬鹿弟子が!! 防ぐなっつたろうが!!」


 攻撃は全部避けろと命じていた美剣が、鋭い視線でなじる。しかし、つい数日まで普通の高校生だった駿からすれば無理難題である。


「アンタの修行が滅茶苦茶なんだ!! 俺はこんなこと今までやったことないって言ったろうが!!」


 なぜこんなことになったのか? それは駿が美剣と出会った次の日にまで遡る。






「若造。アンタ、どうやってその刀抜いた?」


 事の発端は美剣のこの一言だった。彼女からすれば当然の質問だろう。今まで幾人もの屈強な冒険者達がその刀を我が物にしようと試み、そして失敗してきた伝承に残されているらしい刀を抜いて死獣(アンデッド)と戦っていたのだから。

 しかし、聞かれた駿のほうは困った。刀を抜いた方法など聞かれてもそこに刀があって周りには敵だらけだったため、生き残るために感情に任せて抜いただけなのである。本能だけでやったと言い換えてもいい。

それを聞いた美剣は、何を思ったか不敵に笑うと駿にこう命令した。


「アンタ、今日からあたしの弟子になれ」


 勧誘ではない。命令である。当然駿はそれに反発し、美剣の家を飛び出したのだが彼女の相棒である月光狼に襟首を咥えられてあっさりと連れ帰されてしまった。

 その日のうちに何度か逃亡を試みるも、美剣自身に見つかるかそうでなくても番犬よろしく家の周りを徘徊している月光狼に連れ戻され、ことごとく失敗した。

結局、美剣の弟子になるという道しか駿には残されていなかったのである。最も、駿はこのとき知る由もなかったが、仮に月光狼(ばんけん)を振り切れたとしても道を知らないものが森をうろつけば良くて遭難、最悪魔獣(モンスター)に襲われて命を落とすのが関の山だった。それを考えれば、彼はかなり幸運だったのだろう。……本人がどう思っているかは別としてだが。






 そんなこんなで、自称世界有数の実力を持つ冒険者『美剣』にこの世界で生きるための必要事項のひとつである剣術を習得するための修行(ごうもん)を受けることになったのである。


「ふん!」


「っ!!? うわぁぁ!!」


 自分の置かれている境遇に疑問を抱いて、駿が気を緩めた隙を逃さず美剣は容赦なく鍔迫り合いになっていた状態から力任せに木刀を振りぬく。当然、駿は相手の刃を捌いたり、受身をとる技術を持っているわけでもないのでそのまま吹き飛ばされ盛大に背中から地面に叩きつけられる。


「ぐっ……!! いってぇ……何で俺がこんな目に……!?」


 愚痴をこぼす暇すら与えるつもりはないのか、美剣が地面に仰向けになっていた駿目掛けて刀を振り上げていた。それに気づき、慌てて横に転がる。

わずか数ミリ単位の差で駿の顔の真横を木刀が通過して行き、地面をわずかに抉った。もし食らっていたら場所によっては絶命してもおかしくない威力である。


「こっ……殺す気かアンタは!?」


 急いで立ち上がった駿は抑えきれないといった様子で美剣に怒鳴りつける。ところが当の本人はそれがどうしたといった表情で、さも当たり前のように再び攻撃を仕掛けてきた。


「チッ!!」


 再び駿の急所をつくように繰り出された刺突技を美剣の右半身側に大きく左足を踏み出しすれすれで回避する。それと同時に、左足に全体重をかけて身体を沈ませた。その直後、駿の頭上数ミリを美剣の斬撃が通り過ぎる。実は、この修行を行う前日に左に避けただけだった駿はこめかみに強烈な横斬りを食らっていたのである。


(二度も同じ手は食わない!!)


 武術や武道の心得がひとつもない駿は、それと引き換えに膨大なゲームの知識を有していた。その中から、自分でもできそうな動きを再現してみる。無論、ゲームほどカッコよく強くはできないが。

それでもいいと、左足にかけていた体重を今度は右足にかける。そして木刀を振り向きの勢いのまま振りぬく。スタイル的には抜刀術のそれに似ていた。


「ぉぉおおおおお!!」


 知らず、雄たけびを上げながら木刀を振るう。そこにいるであろう美剣に向けて、今自分の出し得る全力で。これを食らえば、さすがに多少のダメージは入れられるだろうと思いながら駿は木刀を振りぬいた。


 しかし、そこに美剣は居らず木刀はむなしく空を切るだけに留まった。振りぬいたときの遠心力に逆らえずその場で態勢を崩す駿。そんな絶好の機会を美剣が見逃すはずもなく……


「チェックメイトだ」


いつの間にか駿の喉下に木刀を押し付けていたのだった。





 修行を終えた駿は、家の中に戻ることなくその場に倒れこんだ。駿からすれば久方ぶりの運動であったし、にもかかわらず持たされた木刀は下手したら真剣よりも重いんじゃないかと疑いたくなるくらいに重たかったのだ。こんなんでよくもまぁ、あの時真剣を振りませたものだと駿は勝手に自画自賛をしていたりする。


「ほら、いつまでそこで寝てるんだ? さっさと飯の準備をしな!!」


 仰向けに倒れて空を眺めていた駿の顔の真横にナイフが突き刺さる。一歩間違えれば大惨事になり得る師の行動に戦慄を禁じえない駿。これ以上ここで油を売っていると次は当てられそうなので、体中にたっぷり溜まった乳酸のおかげでだるい身体を無理やりに起こして家の中へと戻っていった。


「んじゃ、風呂掃除と服の洗濯と飯の用意よろしく」


「はぁ!? 風呂掃除と飯はともかく服の洗濯くらい自分でやってくれよ!!」


 家に入るや否やいきなりびっくり発言をする師に、声を上げて抗議する駿。確かに、美剣がいくらボーイッシュな性格だったとしても彼女は立派な女性である。年頃の男子に、まだまだ若い女性(24歳だと、駿は聞いた)の下着も洗えなどと命じるのはいささか刺激が強すぎるだろう。

が、美剣はそんなことはお構いなしに


「なんだい、別にあたしの下着を触ったからっていちいち騒いだりしないよ。むしろちゃんと洗わなくて汚いままだったほうが罰を与えるね」


と言い放った。なんとも無遠慮な師である。この後、駿はさらに衝撃的なものを見せられることになるのだが……


 とにかく、命じられたことをこなさないと朝日を拝めるかどうかも怪しいと感じた駿は美剣を刺激しないように命令に従うことにした。

が、これまたここ最近選択をサボっていたのか美剣がかごに入れたい服の量が尋常ではなかった。げんなりする駿をよそに棚から酒を取り出して一人で勝手に楽しみ始める美剣。そんな身勝手で強引な師を横目で睨みながら、自分が着てきたジャージと貸してもらっている服をかごに入れ井戸に向かう。

 時刻は既に夕暮れに差し掛かっており、西の空がオレンジ色に染まっていた。そろそろ夜になり、家の周りでも死獣(アンデッド)が沸き始める時間帯だ。だが、どうやらこの家の周りには魔よけの結界のようなものが張り巡らされており、死獣や魔獣は寄ってこないらしいのでこの辺りは安全地帯らしい。

 とはいえ、あまり暗い外を動き回るのはあまり得策ではないので日が落ちきる前に松明に明かりを灯す。本当は家の回りすべてをやらなければならないのだろうが、この後も雑用がたくさん残っている駿としては最低限の動きのみで済ませたいところだ。なので、玄関の近くから井戸、そして風呂場の裏手辺りだけつけることにして、後は放置した。


「さて……さっさと終わらせるか……」


 自分自身に言い聞かせるようにそう呟いて、駿はまず大量にある洗濯物を片付けることにした。






 一方、その頃美剣はといえば一人酒盛りをしながら自らが強引に弟子にした少年について考えていた。彼は『天川 駿』と名乗り少なくともこの国の人間ではないことだけはわかった。本人は『ニホンで生まれ育った』と言っていたが、その『ニホン』とやらは一体この世界のどこにある国なのか、世界を一通り見て回った美剣にすらわからなかった。

ただ、弟子にしてから数日経ち剣術修行をする中で間違いなく駿には素質があることを美剣は見抜いていた。彼自身は殴り合いのひとつもしたことがないらしいが、いくらパワーを抑えた美剣とはいえそれなりの力で毎日組み手をしている中でなかなか目を見張る動きをすることがあるのだ。

 例えば今日の組み手の、美剣の刺突からの横斬りへの連続攻撃に対する反撃はなかなかのものだったと美剣は率直に評価していた。もし駿が美剣と同じ側で動けたのなら間違いなくクリーンヒットさせられていた攻撃なのだから。


「ふふっ……あたしも焼きが回ったかね……」


 かつての美剣は、ただひたすらに他人を拒絶して冒険者ギルドで依頼を受注してはこなし、また受注して……という日々を送っておりとても誰かと一緒に過ごす等これっぽっちも考えなかった。それは今でもあまり変わっていない。だから、わざわざこんな魔獣や死獣が跳梁闊歩する森の奥に一人で暮らしているのだ。それなのに、駿を見たとき美剣はどうしてか連れて帰って強くしたいと思った。弟子など決して取るものかと思っていたはずが、むしろ駿を弟子にしたくてしょうがなくなっていたのだ。

 それは、彼が美剣と同じ目をしていたからかもしれない。他人(ひと)を拒み、一人でひっそりと生き、人知れず果てようとしている孤独な人間の目を……


「……おい! 馬鹿弟子、まだ終わらんのか!?」


 しんみりとしてしまった考えを振り払うかのように、師は弟子に向かって野次を飛ばした。

 明日も、みっちりしごいてやるかと若干ニヤつきながら。


感想等ありましたらお待ちしております。

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