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第五弾:Practice makes perfect.

「お前が突然笑いだすから忘れてたんだけど、俺、質問の最中だったわ」


 俺は、ソファーで横たわり、テレビをボーッと眺めている観月に言った。


 テレビの画面の角では午後三時を示していた。時が経つのは思いの外早い。


 学校の方もそろそろ終わる頃だろう。


「おぉ、そういえばそうだったな。忘れていた」


 今まで、完全にソファーに横になっていた観月は少し身体を上げた。


 ちなみに、俺は、床にずっと座ったり、寝そべったりしている。


 カーペットがあるからいくらかマシだが、マジ肘が痛い。


 次こそは絶対にソファーの占有権を獲得してやろうと強く心に誓う。


 おっと、そうそう、今の内にあの事を聞いておかなくちゃな。


「あぁ、それなんだが、今の現状について詳しく説明して欲しいんだ」


「なるほど。確かに朝から忙しかったからな。平和ボケしきった貴様にとっては超展開だったに違いない」


 観月がソファーに腰掛け、腕を組んだ。


「なんか、カチンとくる言い方だな……」


 俺も床に座り直し、反論する。


「まぁまぁ、気にするな。


 よし! それでは、この私が特別に分かりやすく教えてやろう」


 完璧にソファーから立ち上がり、観月は偉そうに宣言した。


 ……なぜにここでエバる。


 そもそも、現状説明って護衛される側の人間が要求することじゃねぇだろ。


 明らかに、観月の不手際だ。


「あ~、はいはい。お願いしまーす」


 俺はめんどくさくなって投げやりに返事をする。


「こら、せっかくこの私自ら現状説明をしてやるのだから、それなりの礼儀ってものがあるだろう」


 観月が不満そうに頬を膨らます。


 うわぁ、面倒臭ぇ。


「…………よろしくお願いいたします。観月サン。


 これでいいか?」


「ふむ、色々と言いたいことはあるが、今は現状説明の方が先だからそちらを優先しよう」


 観月は若干不満そうだが、そのまま話を続けた。


「ということで、まず、図で説明したいと思う」


 おもむろに立ち上がり、観月は手頃な空間を見つけると、魔法使いが杖を振るようにその空間に指を向けた。


 ポンッ!


 軽快な破裂音がして、ホワイトボードが出現した。


 さすがに、見慣れてきたせいか、俺はあまり驚かなかった。


「どうやら、慣れてきたようだな」


 観月もそれに気づいたらしく、ニヤニヤしていた。


「うるせぇな、さっさと説明しろよ」


 俺はなんだか気恥ずかしくなって言った。


「言われなくてもそのつもりだ」


 キュポッ。と、観月がホワイトボードと一緒に出てきた水性マジックのキャップを開けた。


 ってか、いつの間にか服装がスーツに変わってるし。


 だが俺は、どうせ幻影だからと驚かない。


 やっぱり、使役者に慣れ始めている。


 自分の適応力に感心すべきなのか、コロコロと思考が変わる自分に呆れるべきなのか、微妙なところだ。


 今は、完全に呆れてるけど……。


 ってか、幻影使うなら、まず、俺の部屋を直せ。


 まぁ、分かりやすく説明しようとして、やってくれてるわけだから、直接は言えないか。


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、観月は鼻歌混じりにホワイトボードへ図形を書き込んでいた。


 いや、きっと観月は俺の気持ちには気づいていないだろう。


「よし、書けた」


 満足そうに振り向く観月。


 ホワイトボードに目を向けると、二つの円が少し間を開けて、横並びに描かれていた。


「はい、まずこっち」


 カツン。


 軽快な音が響く。


 観月が右側の円をキャップを閉じたマジックの先で叩いたのだ。


 すると、水面下から物が浮かんでくるかのように、黒色の文字が現れる。


 『穏健派』と達筆に書かれた――と言えるのかは定かではない文字はマジックで書いたような太さだった。


「こっちが、私たち、穏健派だ」


 クルクルと今度は穏健派の円の周りを軽くなぞった。


 そして、円に矢印を引っ張り、「私」「白亜」と書いた。


 かなり、達筆だ。


 さらに、観月はもう片方の円の内側に『過激派』と書いた。


 そして、トントンと過激派の方の円を叩く。


 すると、矢印と「三態使い」「男女(おとこおんな)」という文字が現れた。


 うーん。


 分かりやすくしようとしてくれるのはありがたいんだが……。


 正直、手で書くか幻影を使うかハッキリしてほしい。


 コンコンコン!


 観月がホワイトボードを三回ゲンコツで軽くノックした。


 おそらく、注目という意味だろう。


「さて、いくらボケな貴様でも、このくらいなら分かるだろう」


「わお、平和という言葉を抜くだけで、すんげぇイラつく」


「まぁ、貴様が平和ボケか真性のボケかは置いておいてだな」


「お前はどうしても俺をボケ扱いしたいらしいな」


「いいか、白亜。


 護衛において、双方に重要なのは信頼だということは先程言った。だが、もうひとつ必要なことがある。


 それは、上下関係だ」


「一番要らねぇだろ!」


「むぅ。貴様もウチのリーダーと同じことを言うのだな」


 観月が口をすぼめる。


「いや、知らねぇよ。ってか、リーダー?」


 そういえば、朝も似たようなこと言ってたな。


 つまり、リーダーというのは、穏健派のリーダーということだろうか?


「もしかして、穏健派のか」


「そのとおり」


「よかった、なんか発言的にマトモそうだ」


「あの方こそ、我らが穏健派のトップに君臨する。


 石ちゃんだ」


「むっちゃフレンドリー!?」


 まいう~、と笑顔でステーキを食べる姿が思い浮かんだ。


「いや、石ちゃんって、本名は?」


「いや、誰も知らない」


「知らないの!? リーダーなのに?」


「いや、たぶん、私が覚えてないだけだ」


「無礼者だな!」


 こんな状態で「まいう~」とか言ってられる神経が分からなかった。


 ……イメージだけど。


「まぁ、石ちゃんがそう呼んでくれって言ってるからな。別に構わないだろう」


「あ、いいんだ」


「それに、私たちは皆、あの人を尊敬している。だから、いいのだ」


「そうか、まぁ、本人が許しているならそれでいいか」


「それに、ご飯を食べるときの顔がなんとも言えないくらいかわいいのだ。『まいう~』とか言うしな」


「言うのかよ!」


 なんか、想像通り過ぎてビビった。


「まぁ、そんなことはどうでもいい」


 石ちゃんの扱い軽っ!?


 顔も見たことないけど、同情してしまった。


「話を元に戻そう。


 私と貴様では私の方が上だ」


「そこに戻るのか?」


「……すまん。ふざけすぎた」


「そうだな。ちょっとやり過ぎたな。じゃあ、早く話そうか」


 俺はテレビの時計を眺めた。


 そろそろ、4時になってしまいそうだ。


 学校は完全に終わっただろうな……。


 と、どうでもいいことを考える。


「よし、それでは話に戻る。まずは、我々の派閥の成り立ちから説明しよう。


 先程言ったように、使役者には過激派と穏健派という二つの派閥がある。名前から分かるように、過激派というのは過激な集団だ。どんなふうに過激なのかと言うと、


『自分達には力があるのだから、自分達で世界をまとめた方がいいに決まっている』


 そんな感じで、酷く自己中心的な考えを持つ輩の集まりだ。


 コイツらに対抗するために集まった集団が、私たち、穏健派だ。穏健派の考えは、


『我々、使役者の力は強大すぎる。ゆえに、私たちは世界の表舞台に立つべきではない。裏から世界を守っていくべきだ』


 つまり、世界を平和に、均衡に保つために、穏健派は組織されたのだ」


 観月が、どうだ。という表情で俺を見る。


 俺も、観月の言い分は理解できたので、軽く数回頷いた。


 ふうん、そうかそうか……。


 ――ってぇ、


「お前が真っ先に、俺の家を破壊したんじゃねぇか。全然、平和にできてないぞ」


「はて、なんのことか……」


「こら、目をそらすな」


「と、とにかく! これで穏健派と過激派についてわかっただろう。


 それでは、次の話題に入る」


「あ、話もそらした」


「あ~、きーこーえーなーいー」


 観月が両耳を手で押さえて首を振った。


 意地でも自分の非を認めようとしないつもりらしい。


 まぁ、俺としてもこれ以上責める気もないからこれくらいにしておこう。


「わかったわかった。じゃあ、続きを頼む」


「あぁ、そうだな。今はこんな下らないことに時間を割いてはいられない」


 俺にとっては、大問題なんだがな。


「と言っても」


 俺が思っていると、観月が言った。


「他に、何か言うことが思いつかないな。何か聞きたいことはあるか?」


「え、あぁ、そうだな」


 観月の言葉に俺は考え込む。


 聞きたいことは山ほどあるはずだった。


 でも今は、これといって聞かなければならないことが思い付かなかった。


「うん、どうしようか……」


 しばらく考えてみたが、やはり、全く思い付かない。


 シャンラン、シャラン…………。


 そのとき、鐘か何かの音を真似たような電子音がした。少しして、自宅のインターホンが鳴ったのだと理解する。


 ってか、音が変わってる。


 ウチのはあんな、無駄に豪華な音じゃない。


「私の趣味だ。悪いか?」


 思わず、観月を見つめていたらしい。


 悪びれもなく、観月は言った。


「まぁ、一から直してもらったわけだし、文句は言わないけどさ。もし、知り合いとかだったら、言い訳とか面倒だろ。しかも、長年この家に住んでた俺だから分かったけど、ところどころメルヘンチックにリフォームされてるし」


「知るか。早いとこ出たらどうだ?」


 俺の小言を全く聞きもせず、観月はインターホンの受話器を指差した。


「……知り合いだったらどうしよ」


 余りにも酷くあしらわれたので、若干胸を傷めながら、俺は受話器のモニターを覗き込んだ。


「…………」


 瞬間、俺はその場に立ち尽くす。


「おい、白亜?」


 俺の視線は、モニター越しの少女に釘付けになっていた。

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