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第一弾:Why did it become this?

 どうしてこうなった……。


 俺は、軽く現実逃避に陥りながら思った。


 俺の家の前の道路には、男と少女が向かい合うようにして立っていた。


 ただ、立っているだけならよかった……。しかし、何故か現実はそんなにも甘くない。


「はぁーっ!」


 少女の叫び声と共に、少女の両手に持たれていた二丁の薄紫の拳銃から銃弾が飛び出したのだ。


 拳銃の色以外はまるで小説のようである。いや、寧ろ拳銃の色の点で言えば、現実は小説より奇なりとはよく言ったものではないのだろうか。


 左右の拳銃から放たれた一対の銃弾は少女の向かいに立っていた男へと飛んでいった。たぶん。


 生憎だが、俺の動体視力には銃弾を見切れるほどのスペックはない。


 だが、しかし、銃弾が男へと向かっていったのは確かなのだ。


 なぜなら、


「この程度の武器で俺が倒せると思ったら大間違いだぜ、お嬢ちゃん」


 男は掴んだのだ。少女が放った銃弾を。


 いや、正確にいうと、二つの銃弾は男の目の前で急激に減速し、完全に停止してから男が構えた掌の上に落ちたのだった。


 現実とは思えない不思議な光景だった。


 なんだこれ……、こんなの、狂ってる!?


「ハハッ! だから言っただろ、お嬢ちゃん」


 男は手に持っていた銃弾を強く握った。


 そして、握られた拳が開かれたとき、そこには、どのような手品を使ったのかは分からないが、銃弾はおろか何も残っていなかった。


「能力使用の後は、手品か? ずいぶんと余裕だな」


 少女は、そんな男の行動を鼻で笑った。


「残念、これは手品じゃないぜ、お嬢ちゃん?」


「ほう。つまりは、それも能力ということか」


 能力? 先程から少女たちはそんなことを言っているが、一体なんのことなのだろう?


 少なくとも、日常会話ではあまり聞かない言葉だ。


「ご名答だ。利口なことだよ、お嬢ちゃん」


「貴様、先程からお嬢ちゃん、お嬢ちゃんと言っているが、私はもう十六だ。子供扱いしないで貰おう」


 今まで我慢していたのか、少女の拳は限界まで握られ、プルプルと震えていた。


 ってか、十六って……。それにしては、背も低くて、顔立ちも幼い。ハッキリ言って驚きだ。


 あれ? そういえば、彼女の着ている服はウチの女子の制服じゃないか?


 ハハッ、最近の女子っておっかねぇな……。


 この非現実的な状況に、俺の思考は完全に麻痺していた。


「そうか、そいつは悪かった。だかな、俺から見れば、お前なんかただの小娘でしかねぇんだよ!」


 その声と共に、男が動いた。


「今度はこっちの番だぜ!」


 男が声を出したその瞬間、男の背中から翼が生えた。


 それはまるで、透き通ったガラスのようで、俺は一瞬、その美しさに目を奪われた。


 しかし、よく見ると、その羽はガラスでも何でもなく、ただの氷であると分かった。


 なんなんだよ! いったい……。


 そうか、夢か? そうだ、こんなの夢に決まってる。こんなに狂った世界が現実な訳がない!


 少女が男の背中から生えた氷の翼を見て笑う。


「氷か……、貴様のように冷たい瞳を持った人間にはお似合いだな」


「それは、褒め言葉と受け取っておくぜ!」


 男は瞬間的に少女との距離を詰めた。


 まさに一瞬。そして、次の瞬間。男の振り上げられていた腕が少女へ下ろされようとしていた。


 何をしたのか分からないが、彼の手には既に氷柱があり、それで相手を貫こうとしているのは誰の目にも明らかだった。


「さよなら、お嬢ちゃん」


 無情にも、男の持った氷柱は少女を貫通した。


 少女は氷柱が胸に刺さった状態のまま膝から崩れ落ちた。


「なんだ……これ……」


 俺は、人殺しの現場に遭遇してしまった。


 頭がパニクって、思考が停止する。


 なんだ、なんだ、何なんだ!? 何が起きた? 何が起きている? どうすればいい? 次は何が起きる? 次は――俺?


 男が少女の亡骸の前に立っているのを見て、俺は戦慄する。


 逃げなきゃ……。


 しかし、頭が叩き出した結論に、身体が反応できなかった。


 ――いや、違う。


 俺の足がこの場から動かなかったのだ。


 足が地面に埋まっているから……。


 どう考えても逃げられない。


 つまり、詰んだ。


「おい、神田白亜」


 男は氷の翼を畳み、倒れたままの少女の方を向いて、俺の名前を呼んだ。


「は、はい!?」


 思いがけない言葉に、俺は声を裏返らせながら返答する。


「さっきは、すまなかったな」


 恐怖に怯えた俺に掛けられたのは、予想に反して、労りの籠った言葉だった。


 何なんだ、こいつは!? いきなり態度が一変した。


 何なんだ、何なんだよいったい! あんなことできる奴ら、絶対人間じゃないに決まってる!!


「いったい…………あんたたちは何なんだ?」


 自分に敵意が無いと感じたせいか、気がついたらそんなことを聞いていた。


「『何なんだ?』か。面白いことを言うな、お前は」


 男は軽く苦笑しながら言った。


「俺は人間だぜ? お前とと同じな」


「人間だと? お前らが?」


 俺の言葉に、男は少し顔を歪める。


「チッ、任務だから見逃してやるが、次に同じことを言ったら、殺すぞ、貴様」


 男は、俺の人生の中で今まで見たことの無いような、憎しみの籠った目で俺のことを睨み付けた。


「……ッ」


 俺が一瞬怯えたのを見て、満足に思ったのか、男は再び普通の口調で話し出した。


「さて、質問の続きを答える前に、お前にこの事を謝っておかなくちゃな」


 男は、俺から視線を外し、俺の後方にある建物の残骸を見ながら言った。


 そこにあるのは――いや、あったのは、間違いなく俺の家。


 しかし、現在はただの廃墟と化している。


 こいつらに。この、狂った奴らに、壊されたのだ。


 ■ ■ ■ ■


 今から約三十分前。


 ドカーンッ!!


 とてつもない爆音によって、俺はまどろみから強制的に目覚めさせられた。


 俺は急いでベッドから飛び出す。


 何があったのか、と辺りを見回してみる。


 右、左……うん、いつも通り、散らかった部屋だ。


 ということは、どこかの工事現場で、何か起きたのだろうか?


 そんな結論に達したときだ。僕の頬を、冷たい風が撫でた。


「うぉ、寒い寒い」


 思わず呟いてしまった。


 俺は、こんなに寒いなら、もう一眠りしておこうと思い、壁に掛かっている時計を見た。


 ――しかし、時計がない。


 それどころか、もっと大事なものがない。


「天井どこ行った!?」


 俺の頭上にあったのは、白い天井ではなく、冬の陽気で晴れ晴れとした青空だった。


 続いて俺は家の構造を思い出す。


 丁度、俺の部屋は一階にあって、その真上の二階にはリビングが――。


 そこまで考えて、俺は急いで家の外に出た。


「な、なんじゃこりゃ!?」


 外では、案の定というか、なんだか予感のままであって欲しかった光景が広がっていた。


 家の二階部分がまるまる、吹っ飛んでいたのだ。


「いったい、誰がこんな酷いことを……」


 俺は呆然と呟き、辺りを見渡した。


 すると、そこには、未だ銃口から煙が立ち上りつつある薄紫のロケットランチャーを手にした少女と、その反対側に、上下を水色のスーツ、その上に同色のコートを羽織った男が立っていた。


「………………」


 コイツらか。


 一瞬で、理解した。


 だが、この状況、俺にどうしろと言うのか……。


 相手は、完全な武器持ち。対する俺は、完璧に手ぶら。力の差は歴然だった。


「おい、貴様」


 少女のほうが俺に声を掛けてきた。


「な、何だよ……」


 少女に対して、俺は無意味な虚勢を張る。


「言っておくが、その家を破壊したのは奴だ」


 少女は後ろ指で、男を指す。


「でも、それ……」


 あまりにも無茶苦茶な言い訳だったので、思わず、彼女の持っているロケットランチャーを指差してしまった。ちなみに、未だに煙が上がっている。


「アイツが私の攻撃を弾いて、貴様の家へぶつけたのだ。つまり、直接的には私は関係ない。責めるなら、あの男を責めろ」


 なんと自分本意な考え方だろうか。


 いや、それよりも、聞き逃してはいけない単語を聞いた気がする。


 弾いた? ロケランを?


 俺は軽く頭痛を覚えた。


「おいおい、そいつはないんじゃねぇか? 元々、俺は忠告しておいただろう。にも関わらず、攻撃を仕掛けてきたのはそっちだ」


 男がこちらに向かって歩きながら言ってきた。


「ふん、私は任務の遂行のために邪魔者を排除しようとしただけだ」


 平然と、さも当然のように、少女は言う。


 任務の遂行? 邪魔者を排除? 何を言っているんだ、この女は……。まともな人間とは思えない。


 そもそも、少女や男の服装を見れば、頭のおかしい奴等だというのは一目瞭然ではないか。


 少女はなんか変な色のロケランを装備してるし、男に関しては一昔前の芸人のような格好をしている。


「ほう、つまりは、この場を何らかの形で乗りきらなければ、俺達は先に進めないということか」


 男の方が、ニタニタと笑った。


「そういうことだっ!!」


 少女は男の言葉に返答すると同時にロケランの銃口付近の部分と持ち手の部分を掴んで、掲げるようにした。


 すると、ロケランは薄い紫色に光り、二丁の拳銃へと姿を変えた。


 すかさず少女は、男の足元へと銃弾を二発、威嚇射撃する。


 男はそれをバックステップでよけた。


「ちっ、面倒な相手と当たっちまったぜ」


 男は未だにニタニタと笑いながら悪態を吐いた。


「とりあえず、逃げられると困るからな、お前のことは足止めさせて貰ったぜ」


 続けて、男は俺のほうを見ながら、そう言った。


 今の言葉は誰に向けられたものだろう? 俺か?


 ……じゃあ、逃げられないって、


「あぁっ!? 嘘だろ」


 足が地面に埋まっていた。しかも、コンクリートに。


 どういうことだよ!? 土に足が埋まるのならまだしも、コンクリートって、絶対抜けないじゃん。


 ダメもとで足を動かしてみる。やはり、動かない。


 完全に、逃げられなくなった。

 こんなの……狂ってる!


 どうしてこうなった……。


 ■ ■ ■ ■


「すまなかった」


 男は頭を下げて謝罪した。


「………………」


 俺は返答に困ってしまった。


 この男に、家を壊された怒りをぶつけたとしても、壊れた家は直らない。


 それどころか、もし、俺の言葉が彼の逆鱗に触れてしまったら、先程の少女のように俺も串刺しになってしまうに違いない。


 反対に、別に大丈夫ですなんて言って、本当に家の修理についてをスルーされても困る。


 そもそも、こんな簡単に人を殺すようなぶっ飛んだ奴に、壊したものを直すという考えが通じるかが問題だ。


「では、質問の答えの続きだ」


 返答に迷っていたら、話が変わってしまった。


「あ、はい」


 またもや中途半端な返答になってしまった。


「まずは、ざっくりと説明しておこう」


 男は顎を触りながら空を見つつ言った。


「俺達は使役者だ」


「し、えきしゃ?」


「そう、使役者。個人の中にある特別な法則を操る者のことだ」


 男は真剣な表情で話す。だが、そのわりにどこか周りを気にしているのは俺の気のせいだろうか。


「細かい説明は後回しだ。とりあえず、単刀直入に言うぞ」


 突然、男の口調が早口になった。


「お前、世界が欲しくないか?」


「は?」


 あまりの話の壮大さに、俺は唖然とする。そして、こいつの考えが狂っていることを再確認した。


「世界を手に入れることくらい、俺達、使役者には造作もないことだ」


 男は、一旦、そこで言葉を切り、ニヤリと笑う。


「なぁ? 同類?」


「はぁ?」


 同類? どういうことだ?


 俺の反応を見て、さも嬉しそうに、男は笑いながらこう言った。


「気づいてないのか? 使役者なんだよ、お前も」



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