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サラ様の趣味の一つ。Ⅳ

ルドルフside


「そういや。シエナルドが持っているこれはなんなんだ」

「ああ。説明が途中でしたね。…………よくこれを選びましたね。一見タダの長細い棒にか見えないでしょうに」

「……これがあった部屋で、一番興味をそそられたのでな。色々ある中でこれだけが陳腐に置かれていた。見るからに細い棒のようにしか見えないが、こちらに何か引っかける金具のようなモノが付いている。恐らくこれも何らかの道具かと思ったのだが」

「えぇ。これがこの中で一番実用的なモノでしょうね。………これは、書類や手紙などに文字を書く為の道具『ボールペン』ですね。構造がめんどくさいので滅多につくりません。この中では一番希少価値が高いものです」

「……どの様に使う」

「そうですね。ちょっと待ってください」


 そう言うや嬢ちゃんは棚の引き出しの中から何か紙を取り出した。だが、机の上に出された紙は俺達が普段見ている紙とは違うようで、色とりどりな紙が並べられた。しかも、なにやら複雑な柄も付いている。その出来栄えに感嘆しながらも、黙って嬢ちゃんの行動を静かに見ていたが、ランドールからの質問が飛んだ。


「この紙はなんですか?色々な色がありますが………しかも、柄が綺麗でもありますね。」

「ありがとうございます。普通の紙が近くに無かったものですから、これを代用しようかと。……これは『和紙』という紙の一種です。草や花の繊維を取って作ったものなんですよ」

「へー。……………あの、もしや、これも」

「私が造りましたが?」

「「「「「………………」」」」」

「………器用だな。嬢ちゃん」


 紙まで作れるのか。周りの皆は何度めかの放心状態だ。しかし、嬢ちゃんは構うことなく説明の続きをする。


「それで、この『ボールペン』なんですが、普段皆さんが使うのは羽ペンですよね」

「まぁ、そうだな」

「羽ペンは一回一回インクの瓶に浸さなくてはいけませんが、これはその必要がありません」

「インク瓶なくしてどうやって書く」

「この中にすでにインクを詰め込んだ筒が仕込んであります。勿論空気に触れて凝固しないように工夫をしてますので、すぐに使えなくなるということはないでしょう。書けなくなった時は中のインクが凝固したか、インク切れのどちらかでしょうから。インクが無くなれば中のインクの取り換えが必要になります。……とりあえず書いてみましょう」


 そう言って嬢ちゃんはその細い棒の金具がついた方を引っ張った。キュポッ

そんな音と共に出てきたのは先端がさらに細くなったモノだった。そして、そのまま嬢ちゃんは紙の上にスラスラと文字を書いて行く。


「これは、凄い。ホントにインク瓶いらないんですね」


 何を書いたのかさっぱり分からない字だが。確かにインク瓶はいらないようだ。インク瓶いらないなんてどういう構造になってるんだ。嬢ちゃんは少し書いたあと、先ほどの金具がついた蓋をしてシエナルドに向かって差し出しながら


「ああ。ちなみにこの金具の部分ですが、これはポケットや紙にこのように刺しておく事が出来ます」


 シエナルドの手を通り過ぎ、胸ポケットに金具を引っかけて中に『ボールペン』とやらを入れる。皆その行動に少し唖然としながら、嬢ちゃんは気にした風でもなく説明を続ける。


「持ち運びにも便利で、何時でも何処でもその場で、書類にサインや手紙やメモを残しておくことができますよ。注意事項としては、使ったらすぐにその蓋で閉めていただくことですね。蓋もせず長時間使用しなかった場合、中のインクの凝固の原因になりますので。あとは、書いている時の癖でインク瓶に間違っても浸したりしないでください。壊れやすくなりますから。 まぁ、こんなもんでしょうか。あとはどうぞ、好きに書いみてください。」


 そう言いながら嬢ちゃんはテーブルの上の紙をシエナルドに向かって渡す。差し出された紙を素直に受け取り、何やら色々書いて行く。しばらく書き続け紙一杯に書き終わった時、ようやく書く手を止めた。


「凄いな。本当にインク瓶がいらない上に羽ペンよりずっと書きやすい」


 目を見開いてそう評価すると、皆の視線はシエナルドの持つペンに注がれる。その視線には「使ってみたい。」といった好奇心がありありと浮かんでいた。それに苦笑を浮かべると、他の者に紙とペンを差し出し。書かせてやる。その誰もがこのペンに対して感嘆の声をあげた。


「ホントに凄いですね」


 これにはクラウドも小さい声で驚きを表現する。それを俺だけが聞きとがめ、俺は一人心の中で思う。



 あのシエナルドに「凄い」と素直に言わせるほどの技量をもつこの嬢ちゃんの方が凄いと。今日は一体全体どういう事なんだろうか。レオナード隊長が言ったようにこの嬢ちゃんはタダ者じゃない。最初に会った時からの言動、仕草や動作はどう考えても15歳の嬢ちゃんがするものじゃない。


 貴族は14で社交界デピューを果たす。それは大人になったという証でもある。だが、14・5などまだ子供の範囲だ。16になって少し大人びてきたか。というくらいなのに、なんだこの嬢ちゃんは。言葉、仕草、言動。どれをとっても完璧な大人の対応だ。数多くの女を相手にしてきたが、これには俺も驚いた。この嬢ちゃんは15にして、大人のなんたるかをキチンと理解してやがる。しかも、それにおける対処も把握してるようだしな。ホントこのお嬢ちゃんは………。


「クックック」


 面白くてつい小さい笑いが出てしまった。それを隣に居るクラウドに見られたが、コイツもたぶん俺の言わんとしている事や思惑も理解している。その証拠にクラウドの瞳も面白いといった風に、嬢ちゃんとシエナルドに視線が向けられている。今後がとっても楽しみだw俺はこの先お嬢ちゃんと関わっていく上で退屈するなんて事は無くなるんだろう。そんな予感が胸をよぎった。





(終)




 皆がペンに夢中になり、それが落ち着いてきた頃、レオナードが声をあげた。


「さてと、俺が最後になったか………。俺が持ってきたのはコレだ!」


 そう、自信満々にドンッ。と出されたそれは。


「…………『狸の置物』」

「で、これはどう使うんだ?」

「………………」

「サラ?」


 レオンが黙ったままのサラに訝し気に声を掛けると、突然うつむき身体を震わせはじめた。それを見たレオンは焦り戸惑ったようにもう一度声を掛ける。


「サ、サラ。どうした。どこか気分でも悪いのか?」

「…………クッ。よりによって………これを、持ってくるなんて………」

「お、おい。サラ?」

「ふふ。ぷっ。………クッ。はははっ。………クックック」


 口を押さえて笑うのを必死に我慢しているサラは、なんとか笑いを引っ込ませようと奮闘していると。皆が自分に注目して何がなんだか分からないという表情を浮かべているのを見て、更に笑いたくなるのを必死に押しとどめ、最後の説明をする。


「これは、………クックッ。………何の変哲もない『狸の置物』です」

「は?」


 レオナードは意味が分からないと言った表情を浮かべてサラを見る。サラもレオナードの目をしっかり見た上でもう一度先ほどのセリフを更に分かりやすく砕いて説明した。


「ですから。……この置物は狸という動物の形をした、ごく普通の『置物』なんです。……まぁ、ちょっとしたカラクリがあるとすれば、このように………」

 

 サラは狸の首に付いている小さな留め金を外すと、狸の頭をちょん。っと突っついた。すると、狸の頭は上、下と、上下に動き始め、それをひたすら繰り返している。


「っと、このように首が動く置物です」


 そう説明したあと、何処からともなく沈黙が流れ、「ぷっ」っという笑いが聞こえると、それを合図にレオナード以外の者がレオナードと置物からさり気無く視線を逸らし、肩を震わせながら必死に笑いを堪え始めた。それから、少ししてやっと現状が呑み込めたのか、途端に顔を紅く染めながら、レオナードは笑いを堪えて震えている者に鋭い視線を送る。それに、少しビクッっとす隊員たちだが、少しづつ落ち着きを取り戻し、その中でサラはレオナードをさり気無くフォローする。


「しかし、この大きさの置物ならば、大量になる書類の重しなんかにも使えると思いますよ。なにも、見て置いておくだけが、置物ではありません。種類によっては色々と使えるかもしれませんね。もちろん、部屋に飾って置くだけでもかまいませんよ。………でも、よくあの大量にあったモノからこれを選んできましたね。この手のモノはもうほとんど造らないので、どこに埋もれていたのかと思えば………ふふ」


 そういうサラの目は懐かしそうに目を細め微笑む。他のモノたちもそんなサラの頬笑みに釣られながら、もうすっかり冷めてしまったお茶に手を伸ばすのだった。















『サラ様の趣味の一つ』やっと書き終わりましたよー。


さて、次はどうしようw

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