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サラ様の趣味の一つ。Ⅲ

文章長かったので2つにわけました!今更ですが、すみません(´ω`;)

 あの変哲な人形の用途が分かったところで。私の隣でウキウキと一人期待をしているルドルフが、今度は俺の番だというように自分の目の前にあるモノを彼女の近くまで寄せ、説明を促した。


「今度は俺なぁー。嬢ちゃん。これは何に使うんだ?」

「…ルドルフさんが持ってきたモノは『酒器』の一種ですね」


 ルドルフの厚かましい態度にも目もくれずにさらっと応えた彼女の答えにまたも疑問が浮かぶ。今机の中央には、入口の細い花瓶にでもなりそうなモノと幼い女の子がおままごとにでも使いそうなほどに小さいお椀形のモノが置かれていた。


「シュキ?」

「はい。『酒器』とはお酒を飲む時に使う道具のことです」

「へー。じゃあ、このでかいのに酒を入れて、このちっこいのはどうするんだ?」

「そのちっこいのにそっちに注いだお酒を入れて飲むんですよ」

「このちっこいので飲むのか?なんか、物足りなさを感じるなぁ」


 確かに、あの大きさでお酒を飲むには小さすぎるように感じる。だが、これにもそれなりの理由があっての事と彼女の説明は続けられた。


「まぁ、そうかもしれませんが、特にその道具を使う時のお酒は度数の高いお酒に限られます」

「そうなのか?」

「はい。度数の高いお酒は一気にあおれませんから、その小さい杯に注いで少しづつ飲むのが主流です。ちなみに、ストレートとお湯割りにしか使用できません。使用法は大きいそれにお酒を入れて、鍋の沸騰したお湯に器ごと浸します。もちろん中にお湯が入らないように注意してください。好みの温度より少し高い位になったらお湯の中から出して、あとはその小さい杯に入れて飲むだけです。これは、月を見ながら『月見酒』をするのにもってこいの代物ですね」

「………嬢ちゃん。…お嬢ちゃんの年齢にしちゃあ、お酒に詳しすぎやしないか?」


 さらさらと続けられる説明に、まだ15歳である彼女にしては詳しすぎる、とルドルフならではの疑問を彼女にぶつける。ルドルフは見た目の通り、それなりに女遊びが激しい。そんな場での色事は勿論だがその席で並べられる酒だとて様々だ。そして酒好きのルドルフにその疑問は最もなのだろう。


「……そうでしょうか?一般常識だと思っておりました」

「「「「「……………」」」」」


 そして、痛い指摘を受けた彼女は一瞬の沈黙のあと、平然と嘘と分かる嘘を吐いてきたのだ。それも、笑顔で。それに私たちは無言で「(そんな一般常識あるわけないだろう!)」と返す。しかし…



「さて、次に行きましょうか―ニッコリ」

((((サラッと流した!?))))


 そんな空気を無視してさっさと次へと移ろうとした彼女は、シエナルドの方へとチラッと視線を寄こしたあと、何故か私の方へと視線を戻し、ニッコリと微笑みながら彼女は思ってもみなかった事を私へと告げた。


「次はシエナルドさん。っと言いたいところなんですが、…実はクラウドさんのさっきの壺にも少し仕掛けがあります」

「えっ!そうなのですか?」


 私は言われた言葉に先ほどまでの彼女への疑問を忘れ、飾るだけの壺ではなかったのか、とただただ驚きを露わにした。一体どのような仕掛けがあるのか。そして、そのまま彼女の説明は続けられた。


「実は、それには『透かし彫り』の技法を用いてありまして。一見ただの壺なんですが、実は3重構造になっています。外と内に挟まれるようにして『青龍』という東の方角を守る水の守護獣が描かれています。ですので、室内のこのような光では普通の壺と同じなのですが。ある事をすると壺の表面にその龍神様が出てこられます」


「……ある事とは?」

「ふふ。さて、ここで問題です。壺は基本どのように使用しますか?」


 説明された内容に驚きを隠せず、説明の続きが気になり、その先を促すと、彼女はまるで答えを焦らすように逆に質問を交えてきた。どうやら答えはそう簡単に与えてはくれない事を悟り、悶々としながら考える私たちを彼女はどこか楽しそうにみていた。そこで、いち早く手をあげたのがマリックだった。


「はい!」

「はい。マリック」

「壺には食べ物や飲みモノなどの食糧を入れます」

「はい。正解。では、この壺の龍神様を見るにはどうしたらいいでしょう」



「「「「「………………」」」」」


 やっと出た答えは正解したが、彼女は更にその上をいく質問を私たちに浴びせた。そして、その問題に永遠と悩む私たちはどれだけ考えてもその答えが分からずにいた。それに業を煮やしたのか、今迄見守る体制を崩さなかったシエナルドが見かねたようにため息を吐いた。

 …勿論そんな事は長年の付き合いだから分かることで、普通の人からは何考えているのか分からない表情にしか見えないことだろう。そんなシエナルドが彼女の方に視線を向けながら、淡々とした声で答えをあげた。



「………水か」

「正解。……流石ですね。それが、どうしてだか分かりますか?」


 彼女も予想外の人から答えがあがったのに驚いたのか少しだけ目を見開いたが、その後すぐに表情をただすと、その答えの理由を求めた。理由を求められたシエナルドはそれにも平然と答える。


「…貴方が言う龍神様とやらは水が守護だ。なら壺の用途に従って水を入れればいい。そして、貴方はこうも言った。『室内のこのような光では普通の壺』だと。ならばその壺に水を満たし、外の太陽の光にでも当てれば、貴方の言う龍神様は出てくるのではないか?」


 シエナルドの淡々とした説明に、目をどんどん見開いて行き、最後には口までポカンと開けたアルメリア嬢がいた。そして、説明が終わると同時に喜ばしいとも苦々しいともとれる顔をしていたが、最後には完敗したと笑いながら応えた。


「………お見事です。……まさか全てを言い当てられるなんて。出てきても壺に水を入れるくらいだと。まさか私の言葉尻をとって全ての答えを見つけられるとは。-クスクスクス」

「……貴方もよくこのようなモノを作られたな。どれも一級品と言ってもいいものばかりだろう。それを、こうも簡単に他人に渡すのか?」


 シエナルドのその言葉に、先ほどまで笑っていたはずの彼女は表情を皆に気付かれない程度に一変させた。無表情に近いそれにゾクリッと少しの恐怖を感じたが、それは一瞬の出来事だったようで、いつの間にか彼女の表情も元に戻っており、言葉柔らかくシエナルドの問いに答えていた。その姿は先ほどまでの彼女が幻だったのかと思わせる程に……。

 そして、どうやらあの表情を見たのは私だけだったようで、さり気無く周りを見渡す私は皆がたいして反応していない事でそれを感じ取った。その間にも彼女の話は進む。


「…先ほども言いましたが、これらは私が趣味の一つとして作ったもの。私一人では全てを使うことはできません。ならば、きちんとその用途にしたがって、飾りではなくちゃんとした用法で使ってくれる方にお渡ししたいと思う事は自然ではございませんか?使って欲しくて私はこれらを作ったのです。使わないなど、正に『宝の持ち腐れ』ではありませんか」


「……まぁ、確かにそうかもしれんが、貴方が作るモノはす全て使うには惜しまれる作品ばかりだと、そう想っただけに過ぎん。不快に思ったのならば謝ろう。……すまなかった。」

「いいえ。私は特に不快などと思ってはいませんので、その謝罪は受けとれません。むしろ、褒めてくださったではありませんか。貴方の言葉で私は何一つとして不快に思ったものはありませんよ。」


 初めて聞くであろうシエナルドの謝罪の言葉と共に彼女の対応は完璧という他なかった。相手の謝罪にたいして、尊厳やプライドといったモノを壊すことなく、謝罪の有無を行う。中々15の少女に出来る芸当ではない。幾つか不審な点と疑問に思う処もあるが、今は素直に良かったと思える。長年の付き合いで中々人に心開かないシエナルドではあるが、こうも彼女の言葉に素直な彼をみて不快な気持にはならない。むしろ好ましくさえ思う。


 そんな姿に、今後のシエナルドと彼女との会話が大変楽しみだと大きな期待をのせ、会話を続ける2人を当時私は暖かく見守っていた。先ほどのアルメリア嬢の表情のことも忘れ、私は友人の思わぬ進歩に喜びを隠せずにいたのだ。しかし、私はそう遠くない未来に知ることになる。この日浮かべていた彼女の表情と、これから起きる数々の出来事での彼女たちの奇行のわけを………。


 



end


クラウド終了!!

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