リリネット事件
今朝頼みごとに来たレオナードが帰ってから、すぐに後ろの扉から執事が表れる。執事に今回の事情を話し、急ぎ準備整えるよう指示を出した。
「サラ様。では、どれほどの者が何時頃来られるのでしょうか」
「…確か5・6人と言っていたような気がするわ。取りあえず、7つほど用意していれば問題ないでしょう。彼らはお昼前には来るそうですよ。昼食の支度をお願いね。セバス」
「賜りました」
「あぁ。きっとレオン殿も昼食はこちらになるでしょうから。用意を」
「はい」
そういって下がる有能な執事は我が家に古くから仕えてくれる執事長のセバレス・トワーレ(40歳)セバスはこの屋敷においても素晴らしく有能だ。何でもそつなくこなしてしまう。あと、もう一人有能なメイド長がいる。イザベラ・ナイーヴ。(40歳)こちらも両親の代から仕えてきている。2人にも勿論帰省を促したが、どうあっても私に仕えて行くと言うのでありがたいことだと思いながらこの5年を過ごしてきた。
「サラ様。お茶のおかわりはいかがですか」
「いいえ、もういいわ。ありがとう。イザベラ。私はこれから残りの原稿を仕上げます。昼食の用意が出来たら呼んでちょうだい」
「畏まりました」
イザベラを下がらせ、自室へと踵を返した。原稿というのは私が今手がけている小説の続編だ。内容はぶっちゃけ現世の『ル○ン○世』。だったり『コ○ン』だったりをこの時代に置き換えて書いている。ジャンルも様々だが、主に書いているのは、推理小説と恋愛小説の2つだ。どの作品もかなりのヒット作になっていて、おかげで今のところ両親の財産を使わずとも暮らしていけるくらいの収入がある。そんなこんなで、今書いている作品を仕上げていると。突然イザベラともう一人のメイド。アンナの悲鳴が響き渡った。
「「きゃーーー!!!」」
私は声がする外へと急いで駆け付けると、そこにはセバスもいて少し青ざめた顔をしている。
「一体どうしたの」
「サラ様。リリネットが……」
リリネットというのは私のメイドの一人で今年13歳になる可愛らしい女の子だ。メイドのアンナとロゼッタというもう一人の執事の娘だ。セバスの様子から事態は深刻だと判断し、状況を尋ねた。
「リリーがどうした」
「上を……サラ様」
セバスに言われて視線を上へ向けると、そこには今にも屋根から落ちてしまいそうなリリネットが見受けられた。それを見て、私もセバス同様青ざめる。
「リリー!!一体どうしてそんなところに」
そう叫んだと同時にリリネットの掴んでいた両方のうち片手が外れた。
「いやあぁああ!!リリネット!!」
母親のアンナが悲鳴を上げる。早くなんとかしなければそのうちリリネットが落ちてしまう。落ちたらただでは済まない。上に行って引き上げる時間はあの様子だとない。どうする。
その時サラの目に一羽の鳥が目に入り、その鳥は高く跳びあがっていった。それと、同時に大声をあげ、リリネットを見つめた。
「リリー!もう少し頑張ってちょうだい。今助けるから、私がくるまで頑張るのよ!!」
「サラ様。一体なにを……」
「皆はそこをどいてちょうだい。そして、私から少し離れて」
皆はリリネットに目を向けながら、すばやく場所を譲り、少しの距離をとった。サラはそれを確認すると、魔力を練り、集中する。十分な魔力を練り込んだら、久々に使う日本語で『翼』と空中に書き発動させた。サラの周りが一瞬光が強くなったかと思うと。次の瞬間サラの背中には純白の羽が2対ついており、それに呆然としている執事やメイドを放り、リリネットのところまで一気に飛び上がる。
「リリー!!」
「サラさま~~~」
あと少しでリリーを捕まえられるというところで、リリーが限界を迎え、もう片方の指先が屋根から外れてしまった。真っ逆さまに落ちて行くリリーに緊張が走る。
「きゃっ」
「リリー!!」
「リリネット!!」
いそいで私はスピードを上げ、落ちてくるリリネットの身体を空中でなんとか受け止めた。腕の中のリリネットは青ざめた様子で、だが衝撃が来ないのを感じ、そっと目を開ける。その様子を見て、なんとか無事であったことに安堵した。
リリネットside
屋敷の屋根から落ちた瞬間。落下の衝撃に耐える為に思わず目を閉じていたが、何時までも来ない衝撃を不思議に思い、覚悟を決めて目を開けた時、目に入ったのは純白の羽をはやした尊敬してやまないサラ様の安堵した顔だった。一瞬なんの夢もしくはお迎えが来たのかと思うくらいにそれはそれは美しかった。今の状況をしばし忘れ、見惚れてしまうくらいに。
「何処も怪我はない?リリー」
そう、やさしく声をかけてくださるだけで、リリネットは感激の極み!!!そんなやさしくてお強いサラ様に今日は存分なご迷惑をおかけしてしまいました。このリリー!!一生の不覚!!敬愛するサラ様の妨げになるなど、サラ様のメイドとしてなんたること!!そう申し上げれば、サラ様は綺麗に頬笑みながら
「リリーはよく頑張ってくれているわ。これからも、私の側に居てちょうだい」
あぁ!!なんたる殺し文句!!メイド殺しですわ!!もう、一生お仕えいたします!!サラ様ーーー!!
しかも今の今まで気付かなかったのですが、私サラ様の腕の中にいます?……あぁ!!神様。今日はなんて素晴らしい日なのでしょう。サラ様に、サラ様にお、お姫様だっこしていただけるなんてーーーーーー。
そして、私は興奮のあまりそのままサラ様の腕の中で気を失ってしまった。
end
腕の中で気絶してしまった。リリーを抱えながら静かに地上へと戻ると皆が急いで駆け寄ってくる。
「リリー!!!」
そう叫ぶ男の声はリリネットの父ロゼッタの声。ロゼッタは顔色を変えながら、こちらに駆け寄ってくると、私の腕の中のリリネットの様子を見て安堵のため息を吐いた。それに母親も加わり、涙ながらに御礼を言われる。
「うっうっう。サラ様。ありがとうございます。娘を助けていただいて」
「これくらい大した事ではないわ。リリネットに怪我がなくて良かった」
「サラ様~~~」
「あぁ~。ほらほらそんなに泣いては、瞳が腫れてしまうわ。アンナ。泣き顔も素敵ではあるけど、私は貴女の笑った顔の方が好きよ」
「……はい///」
照れるアンナに笑いかけ、今度はロゼッタに視線を向ける。
「リリネットをあまり叱らないでやって、ロゼ」
「しかし!!サラ様。このようにサラ様のお手を煩わせるなど…」
「先ほど気絶する前に、謝罪は受けたわ。もう十分よ。それより、早くリリーを部屋へ、ロゼはリリーを運んで。アンナ、リリーについていなさい」
「しかし、サラ様。まだ仕事が…」
「今日はいいわ。それより、こんな状態のリリーでは起きた時に不安がるかもしれない。側に居てあげなさい」
そう言って、二人を屋敷へと戻し、羽を消してセバス達に仕事に戻るように指示をだす。しかし、セバス一人が残り、どうしたのかを聞くと。
「サラ様。あちらのお客様の案内をいたしますので」
セバスが示す方へ視線をやるとレオンを中心に、言われていた人数よりも若干多いのに気付き、少し眉を潜めたが、すぐに表情を戻しセバスへ向き直る。
「セバス。ここは私が案内をしておくわ。貴方は増えた人数分の部屋の用意をお願い」
「しかし……」
「心配はいらないわ。広間にお通しするからお茶の用意だけお願い出来るかしら」
「…畏まりました」
そうやって、踵を返すセバスを見送り、改めて今日から世話をしなくてはならない騎士たちへ向き直おった。