レオナードの憂鬱と希望
レオナードSide
今日一日俺は憂鬱というしかなかった。何故なら先日城内の騎士寮にてちょっとしたボヤがあり、火を消そうとした魔術師が新米だったからなのか。力の加減を誤り、燃えてない部屋にまで水(というよりあれは洪水だな)を起こさせ、寮の一部が半壊となったのは記憶にまだ新しい出来事だ。
そして、その事故はちょっとしたボヤ事件で収まるはずが、部屋の崩壊のおかげで、今日帰って来る騎士団の部屋の調達がまだ出来ていなかった。この事態を何とかする為に俺は朝早くから、その対処に追われていた。実家から通える者達は実家から。そうでない者たちでも近くの宿屋に話をつけて部屋を貸してもらい、通えるよう手筈を整えた。
しかし、あと残り少しというところでもう宛てがなく、途方に暮れていたところに懐かしい気配を自分の執務室のドアから感じ、思わずニヤリと笑い、次にノックがされた。
コンコン
「入れ」
「失礼する」
そう言って、部屋へ入って来たこの男は先の遠征に行っていた『黒騎士』の騎士団長。シエナルド・ドルテ・オーデンシュバンク(25歳)銀髪に赤紫の瞳をもつこの男は若くしてここまで上り詰めた本物の実力者だ。冷たく容赦なく敵を追いつめる姿に『氷結のシエナ』の異名までつけられている。
久々の(他の奴等からして)何を考えているのか分からない無表情を見やりながら、再会を喜ぶ。
「先での遠征お疲れ。どうだった。シレビアとの国境は」
「そうだな。少しの小競り合いはあったが、今のところシレビアとの間に大きな動きはない」
「そうか。まぁ、ホントお疲れ。ゆっくり休んでくれ。と言いたいところなんだが……」
「あぁ。先日の火事の事ならここに来てすぐ知らせが入った。軽いボヤだと聞いたが?」
そう、尋ねるシエナルドに苦い顔で俺は今迄のことを掻い摘んで聞かせた。
「と、言うわけで帰って来てそうそう悪いんだが、荷物を運びいれるのはもう少し待ってくれないか」
「それは、構わないが。あと、何人残っているんだ」
「あと、5人といったところか」
「では、俺を含め残りの4人を此方の団員から出そう」
「何言ってんだ!お前らは遠征から帰ってきたばかりだろう。そんな事させられるか!」
「だが、此方が動けば時間の短縮にはなる」
「確かに、そうだが。住むところはどうするつもりだ。もう近くの宿屋はないぞ」
「…そこは、こちらでもなんとかしよう」
「どの道時間がかかりそうだな」
「しかし、そう悠長に構えてもいられまい。明後日には城で夜会が行われる。警備を厳重にするためにも、こんなことに時間を割いてはいられない」
「はあ。そうなんだよなー。もう、いっその事どっかにでっかい屋敷かなにかに住まわせてくれるようなやさしいお貴族様はいないもんかねぇー」
「…何を馬鹿なことを」
「だよなー。そんな都合のいいこと聞いてくれる貴族なんて…」
言葉の途中で不自然に止まった俺をコイツは訝しげに見る。それを、見ながら俺はある人物を思い出していた。コイツも貴族だが、全然驕ることをしない。変わった奴だと思っていたが、それでも俺はコイツを認めていた。そして、コイツの他にも貴族らしからぬ奴を思い出したのだった。そいつは確か此処からそう遠くない森の中の屋敷に住んでいる。そう、思うと同時に俺は口元をあげた。そんな俺を見て奴はなおさら眉を潜める。
「シエナルド。どうやら、この問題も早々に解決しそうだ」
「どうゆうことだ」
「なに、まぁ。明日を待っていてくれ。どうにか説得してみっから」
その後、お互いに残っていた仕事を片付ける為にお開きとなった。そして、俺は明日の朝一番にあいつの処へと行き、どう説得するかを考えてその日を終えた。