サラの後悔先に立たず
昼食の席に顔を出したのは、ここの主であるサラ自身であった。それに、いち早く気付いたのは言わずものかな、シエナルド本人。シエナルドはサラの思いがけない登場に少し驚きながらも素早く立ち上がり、空いている席へとエスコートしようとする。サラはそんなシエナルドに一瞬驚きを露わにしたが、すぐに元の笑顔に戻り、差し出された手に静かに手を置き、自分の席へと着いた。
見た目だけなら貴族社会に慣れた騎士たちには普段の光景であろう。ここに居る騎士たちは主に宮廷騎士に近い立場に居るのだから。幾度となく女性たちをエスコートする場面は多い。
……しかし、サラの心情では慣れ親しんだとは言えなかった。表面はポーカーフェイスを保って微笑んではいるが、あまりに気障…いや、慣れない男性の優しさや気遣いに、思わず笑え…いや、戸惑いと羞恥心が浮かぶのだ。そして何より物語の中でしかありえないような事が自分に起こっていたら、もういっそ泣けてくるというものだ。
「(他人のを見るのが楽しいのに!!何故自分がこうなるっ!!)」
そう、サラは様々な場面で才能を発揮し、『秀才』だ『鬼才』だと言われてはいるが……そんな彼女には貴族出身であるが故に幾度となく苦手なものに遭遇しなければならない立場へと自然と追いやられていたのだ。それが……自身の『恋愛事』、に『レディーファースト』、そして『美男子』の3つ。
サラはどうしてもこの3つにはいつまで経っても慣れないでいた。といっても「慣れたくもない」というのがサラの意見なのだが。しかし、それも前世での環境が影響していることもサラ自身にはよく解っていることだった。だから尚更慣れようとも思わないし、正直お近づきにもなりたくないものだった。
その為、サラは15にして既に社交界デビューを済ませたといっても、あまり表舞台には立たない。周りもサラが『稀なる力』のせいで好奇の眼で見られる社交界に寄りつかないのを知っているが故に、あまり急かす人も居ない。お陰で今まで、のんびりとそれなりに平和に暮らして来たのだ。(多少の厄介事はあれど。)
しかし、そんな暮らしも今回のレオナードが持ってきた件でそうもいかなくなてしまった。(特に後ろ2つが……。)
この件を引き受けた当初、サラはそれなりに付き合いのあるレオナードだからと深く考えもせず、頼みを引き受けてしまったが、今日彼等を見てから今更ながらに後悔の念が次から次へとサラを襲った。(せめて、誰が来るのかを引き受ける前に知っておくべきだった。)
そう、サラは気付いていたのだ。最初彼等を目にした時から。全身黒の軍服を着る『黒の騎士団』。その名を聞いて知らぬ者など居ないのではないかというくらいにこの国や他国に知れ渡っている。この国最強の軍事力を誇る部隊。それが、この神秘的な銀糸の髪を持つ男。シエナルド・ドルテ・オーデンシュバンク率いる『黒の騎士団』。過酷な修羅場を幾度となく潜り抜け、厳しい訓練で生き残った本物の実力者だけが入ることを許された最強部隊。それが、この『黒の騎士団』である。
それ故、この『黒の騎士団』に入りたいと憧れを抱く者は多い。何せ筆頭はあの噂に名高い『氷結のシエナ』の異名を持つ男だ。カリスマ性もあれば実力、地位(彼は公爵家の三男)と申し分ない。女性ならば誰もが一度はお相手したいと思える相手だろう。
しかも、近年の『黒騎士団』は稀に見る実力者ばかりが揃っているのだ。その誰もが容姿、実力共に申し分ないのである。(これにより、『黒騎士』の評判が益々上がったのは言うまでないことだろう。)
さらに、実力さえあれば貴族・平民問わずにそれなりの地位まで上り詰めることの出来る部隊でもある。勿論その実力や功績から貴族からの尊敬や信頼も大きいが、何より民たちからの憧れがより大きいのも事実である。
そんな名だたる騎士団たちに不平はなく、普通の黒騎士の隊員たちがサラ宅に泊まるのであればまだ良いのである。だが、今回何故こうも後悔する羽目になったのか。……それは、ここに居るメンツ全てが『黒騎士団』の中でも上位に君臨する実力者ばかりだったからだ。
普通であれば喜ぶべきことなのだろう。なにせ今この場に国の軍事トップたちが勢ぞろいしているのだ。(ある意味壮観とも言える。)だが、今のサラにとって、それはあまりありがたくない事だった。……なぜなら
「(こっちとら最近少なくなったとはいえ、毎度の如く命を狙われて、その処理に追われているんだ。あまり表沙汰にしたくない此方としては、今軍に気付かれて、嗅ぎ回られるのは非常に困る!!)」
というのが理由である。『黒の騎士団』と言えど、まだ普通の隊員ならば一緒に暮らしていても、裏でどんなに此方が動こうともバレない自信はサラにはあった。ここに居る使用人たちは誰もが優秀で、この国の騎士たちにも負けない程の実力を持ち合わせている。
「(…だが、いくら優秀だとは言っても、こうも油断出来ない程の力を持つ者が居るとなると。……どうしたものか。)」
サラは思わず頭を抱えたくなった衝動を必死に堪え、『黒騎士』たちを前に淑女たる頬笑みを浮かべてみせるのであった。
あー。なんか一向に進展がなく(というより話が先に進まない;)
そんな状況にどうしようかと悩む日々でございます。
拙い文章ではありますが、今後とも暖かく見守りくださいヽ(´ー`)ノ