その頃の昼食(シエナルドside)
シエナルドside
ルドルフと共に応接室を後にし、先に部屋へと出たクラウド達と廊下の途中で合流をすると、待っていたレオナードが私達の後ろを覗き込み。誰も居ないと分かると、こちらへ視線を向けて問いかけてきた。
「サラはどうした?」
「あぁ。嬢ちゃんなら何か用事が出来たとかで、「先にご飯食べててくれ」だそうですよ」
「用事?」
「ああ。そうらしい」
「…そうか」
レオナードは少し考えるような仕草をして、チラリと執事を見やったが、執事は見向きもせず平然と佇んでいる。
「まぁ、いいか。それより今日の昼飯はなんだろうな。ここの飯は上手いから期待していいぞー」
そう楽しそうに踵を返し、執事が案内するすぐそばの部屋へと入っていった。それに続くように皆が入り、準備の整ったテーブルへと着く。そこへ並べられる料理の数々。至ってどこにでもある昼食と変わらない。
「おいおい。今回はあの料理は出ないのか~?」
不満げに並べられる料理を見るレオナードは給仕をしていた執事と小さいメイドに問う。それに、2人は静かに応えた。
「……申し訳ありませんが、レオナード様が仰る『あの料理』は作ることが出来ません。あれはサラ様が気まぐれでいつの間にか作っておいでになるので、我々は作り方を存じ上げないのです」
「じゃあ、俺が来た時の昼食や夕食、今まで出てきていた料理はサラが全部作ってたって言うのか?」
「そうでございます。ちなみに…誤解がないように申し上げておきますが、此処での食事は普段他のところとそう変わりません。サラ様が気まぐれに作られた時に限って、図ったかのように来られるレオナード様の運が今迄よかっただけにございます」
若い執事が事務的に答えるのに対して、小さなメイドは言葉こそ丁寧だが、言葉の中に含まれる嫌味を愛らしい顔でニッコリと笑う姿は、本当に先ほどの言葉を吐いた者と同一人物なのかと疑いたくなるものだった。周囲は微妙な空気に包まれ、言われた本人も少し呆気に取られながらも、その顔は少し引き攣っていた。
「…『あの料理』って?」
そんな空気もなんのその。無邪気に食事をしながらマリックが問いかけた。この微妙な空気を打開せんとレオナードはすばやくその話題に飛びつく。
「『あの料理』っつうのはな。時々この家で食える『摩訶不思議な料理』の事だ」
「摩訶不思議?」
「あぁ。その料理はこの国。いや、どの国に行っても味わったことのない程の美味で不思議な料理をしているんだ」
さらにどんなモノかを説明していたレオナードは力説するように語り出した。それだけで、どれだけその料理が美味しいのかが理解出来る。話を聞いていた何人かがのどを鳴らす。想像するだけでも美味しそうな料理とは一体どんなものなのか。しばらく厄介になるのだ、その内堪能出来る機会があるかもしれない。
それにしても、アルメリア嬢はどれだけ多才なのか。使用人たちにも随分好かれているし、ここに来た時のあの魔術は見事な腕前だった。ああも、複雑な術式を一瞬のうちに出現させ扱うことが出来る者は滅多に居ないだろう。城にもかなりの実力者が居るとはいっても、今回のような力の使い方をする者がいるかどうか。
一時期噂になったアルメリア嬢の話は嘘ではなかったのだと、実際目にして思い知らされた。一瞬の出来事ではあったが、相手がどれだけの実力者であるかは理解しているつもりだ。国を守り戦が起これば何時でも戦場に命を置く身。死と隣り合わせだからこそわかる相手の力量を見破るのはそう難しいことではない。
そんな風に己の思考に耽っていると、またも部下の声が聞こえてきた。
「なあ。俺さっきから気になってたんだが、レオナード隊長って随分アルメリア嬢と仲が良いな。話きいてると何度かこの家にも来てるみたいじゃねぇか。アルメリア嬢の名前も呼び捨てだしよ」
「そう言えばそうだな。アルメリア嬢の方もレオナード隊長には俺達より気さくな感じがするしな」
食事に手をつけながらそう話すフラウとカーネルの会話に「確かに」と内心同意を示す。と同時に何やらそれが嫌だと想う気持ちが浮かび上がる。今までの会話でも時折そうだった。レオナードがアルメリア嬢を呼ぶだびに何かいい感情を抱かないのだ。胸あたりがもやもやと何か黒くて重い空気を含んだような重しか何かが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。だが、逆に彼だけに許されるその関係を何故か羨ましいとも思う。
そこまで考えてハッっと我に返ったシエナルドは皆に気付かれないように、小さくため息を吐くと自分でも聞こえるか聞こえないかの声量で呟やいた。
「はぁ。…一体どうしたというんだ。俺は」
今日という今日の自分は己でも理解しがたい感情ばかりで、正直どうすればよいのか分からない。浮かぶのは先ほどまでのアルメリア嬢の姿。ここには来ないと分かってはいても目の端で彼女の姿を探そうとしている自分がいる。そんな自分が無償に滑稽に思え、苦笑が浮かぶ。しかし、逆に何か胸の内で満たされる想いでもあった。……本当にどうしたというのか。そして、そんな自分の感情をまるで人事のようにどこか冷静に見つめる自分も居た。
やがてこれ以上考えてもラチが明かないと思考を切り上げ、もう少しで皆食べ終わるだろう頃にカチャっと静かにドアが開く音が響いた。
end
うん。自分の文才と知識の無さに呆れを通り越してもう泣けてきました(T-T)この先大丈夫かしら。