港町の攻防戦
一人前の情報屋となるため、世界各地をレポートすることになり、私、助針は指定された港町に行き、盗賊団を観察することとなったんですが…どうも争いに巻き込まれてしまいました…。
『クップルング団』の女頭、紫羅さんは、行方不明になっていた赤粘土さんを敵の盗賊から救いだしたものの、赤粘土さんは傷を負い手当を必要としていました。
「ったくもうファーロ(敵の盗賊団)の奴。玉の肌に傷つけるなんて信じらんない」
紫羅さんは、赤粘土さんの傷を見て言っているけども、私は、かわいらしい少女の外見を持つ紫羅さんが、ここのボスなのが信じられません…。
赤粘土さん(女性)の傷は、腕と脚(胴体に近い方)なので、シーツをカーテン代りにして、男たちの目から見えないようにしています。
「あの~。よろしければ、家からもらってきたぬり薬がありますけど、どうですか?」
「じゃあ、ちょうだい」
布ごしから手が現れたので、助針は自分のバックから取り出しそれを渡した。
「頭…」
同室にいた青年、細虫から助針を信用して良いのかという不満があがったものの、紫羅はさらりと、不満を製した。
「大丈夫よ。助針から証明できるものをもらったんだからね。薬に変な物が入ってるわけないでしょ」
「身元を証明するものって何なのですか?」
「ここにいる『平和ボケの青年は、これでも情報の町の町長、上集の息子です』っていう手紙。上集さんっていう人のサイン付きで」
「かしら~。そのどこが信用できるんっていうんですか。そもそも情報の町すら存在するのか、怪しいって言うのに」
「細虫。安心しさなさい。女頭の勘は、結構当るから」
「…結局。そっちにたよった上の決定、なんですね」
細虫の言葉は、どこかトゲがあって、助針は苦笑するしかなかった。
「細虫さん…。この部屋に入った以上、信用してくださったと思ってたのに」
と、助針がつぶやくのも無理はない。ここは助針が借りた宿の部屋なのだから」。
「ええ。信じなければ、あなたを入れませんよ。俺は、ただ頭の真意を確かめたかっただけです」
『信用なさっているのに、どうして冷たいんでしょう』と、助針は悲しく思うものの、細虫の真意は、わからなかった。
「頭、連絡がとれたよ」
人形のような小さな体と、透明な羽根を持つ青年…しかも人間サイズの細虫の兄でもある丸虫は、窓から姿を表わした。
華奢な体格に赤い服と短い髪をした黒目の青年。その名前の由来は、想像できるだろう。
「丸虫でも、こっちに来たら、ただじゃ済まさないからね」
「わかっているよ。じゃあ、ここで報告するよ。
襲撃にあった留守組以外、皆、アジトの近くで待機状態になっている。頭、あとは、あんたの命令次第だ」
「わかった。奴らに気づかれることなく見張るように、連絡して、ただし」
カーテンから出てきた紫羅は、飛んでいる丸虫に近づくと。その小さな肩を軽くつかんだ。
「く…」
短い呻き声があかがる中、歩き出した女頭は、後ろを振り返って命令した。
「連絡は『影』がすること。丸虫は、細虫の監視付きで、その肩の傷を治してからよ」
「相変わらず、目のいいことで」
顔を歪ませながら言う丸虫に紫羅は、にやっと笑った。
「じゃあ、助針行くわよ」
「へ?私?」
反論を唱えようとした助針よりも早く口を開いたのは、細虫だった。
「頭。助針は団の人間じゃないんですよ。それに…」
「ここにいる以上、使うのは当然よ。それに、気になることがあるし」
紫羅は黒いローブを着ながら、細虫の口を閉ざさせた。
「まあ、頭の意見には賛成だな」
「兄さんまで…」
「気にならないのか、細虫。
なぜ…あの襲撃が起きたとき、敵のまっただ中にいた助針が、今、こうして元気にしていられるのか」
「それは…」
「単なる偶然ですよ」
「記憶のない人間に言われても、納得できないわよ。とにかく細虫、副ボス(丸虫)も賛成しているの。異論はないわね」
「…はい」
「私も細虫さんの意見に、賛成だったのですが」
闇に包まれた町中を歩く助針は、横にいる紫羅に言った。
「君の場合は、自分の身が危険になるからでしょ」
長身の助針を見上げるものの、盗賊団の女ボスは深くかぶっているフードのせいで表情はわからなかったけど、どういう顔で言っているのか想像できた。
「当然です」
助針はさらに、反論を唱えようとしたが、紫羅は別の話を出した。
「副ボスが丸虫だなんて、想像つかなかったでしょう」
「外見からすれば、ですが…」
『紫羅さんが頭である以上…』と心の中で付け加えた。
「丸虫とは、同じ館から手を取り合って脱走してきた仲なのよ。クップルングも私と丸虫で作ったしね」
「へえ、そうなんですか」
助針は相槌をうったもののの、紫羅の話はそこで終わってしまった。
「しら…さん?」
「え。なに?」
フードのせいで見ることはできないけども、何か考えていたようだ。
「あぁ。そうね、ありがとう」
「私は、何も言っていませんけど」
「あら、警戒の言葉をかけてくれたんじゃなかったの」
語尾を高めて、第三者に聞こえるように言い放っていた。
紫羅は辺りを見回し、緊張の空気が張りつめていることを感じ取った。
それを表わすかのように2人、3人と…計5人の男たちが、2人の前方を塞ぐ。
「いい機会ね」
「?何かです」
「君の力よ。というけで頼んだわよ」
フードの中で笑みを浮かべた紫羅は、どんと助針の背中を押して、男たちの前にたたせた。
「え…ちょっとって、…さ…わっ」
反論しようと紫羅に振り返ろうとしたときにはもう、戦闘は始まっていた。
助針は顔に向かってきた刃を慌てて避けたものの、敵の攻撃は休むことはなく、大きく振り上げた。
「ちょーっと、助針。そいつ、一番下っ端よ。なのにどうして、てこずるのよ」
高みの見物と決め込んでいる紫羅は、呑気に言ったが、腕を組み苛立ちと不満を表わしていた。
「当たり前…です。私は」
相手の攻撃をかわし、途切れながら言おうとしたものの、できなくなってしまった。
たまたま落ちていたゴミの塊につまづき、見事に転んでしまったのだから。
相手もそのチャンスを見逃すことはなかった。刃こぼれのある安い長剣をうつ伏せに倒れている助針の背中へ、突き刺した。
「……?」
助針は、背中に嫌な感触を微かに感じ取ったものの、痛みのないことに気づき、おそるおそる見上げると…
自分を刺した男は、攻撃を加えた瞬間のまま、時が止まっていた。
その体は動くことはなく。
「まったく」
男の後ろにいた紫羅は、男を蹴り、地面に倒れさせた。
どさっと音が聞こえた以外に音はなく、5人現れて始まったはずの戦闘は終了していた。
「服以外何ともないよね。坊ちゃまだから、新しい服を新調するんでしょうね」
「ええ、まあ…」
「じゃあ、恩人の分も頼むのが当然よね」
「え…ええ。まあ、ところで紫羅さん。一体、何があったんですか」
何事もなかったかのように、スタスタと歩き出す紫羅の後を追い、助針は倒れている男を通り過ぎた。
「君がのんびり逃げている間に、片づけちゃったわよ。といっても私と影で1人ずつね。残りの3人は逃がしちゃったけど」
「影さんって?」
裏路地に入り込んだ助針は、首筋に冷たいものを感じた。
「動くと、切れる」
「彼が影よ」
人の気配を察知できない助針でも背後に人がいる事を、はっきりと感じ取ることができた。
「助針。この間はどうも」
「この間って?」
「君が捕まる理由になった瞬間よ。道を訪ねるふりして、影の肩に触ったじゃない」
「あれは、ふりじゃなくて、本当に訪ねたんです」
「堂々と裏集団の事を?ましてや、見られず、触らせずをモットーにする影を?」
紫羅は一度口を閉じてから、影について語り始めた。
「影は、その名の通り、人前に姿を見せないのよ。仲間でも、彼の姿を目にした子はいないわ」
「え、そんなにすごい方何ですか」
「なのに君は、影の姿を見つけ、彼に触れた」
紫羅はくるりと振り返り、助針を身上げた。
フードに隠れて分からないが、その気配は獲物を見つけ、見続ける猫と変わらない気がした。
「でも、それは、偶然ですよ」
「偶然ねぇ…」
「………」
無言の影は明らかに納得できない様子だったが、場合が場合なので、それ以上追求することなく、助針から武器を離した。
「さて、助針。この先、何もない広い場所に出るわ。一気につっ走るわよ。私の後についてらっしゃい」
助針が問い返す暇もなく、紫羅の軽やかな足が起動した。
「ま、待ってください」
助針も慌てて駆け出し、裏路地から広い所に出た。
「ふえ…ここは…」
とまどうものの助針は、引き離されていく紫羅に追いつこうと必死で足を動かした。
助針の視界には、だだっ広い広場、船着き場ががあり、それから大きめの船が一艘、あった。
しかし、それ以外は何もなかった。
船に出し入れする荷物すら。
「ようこそ。ファーロのアジトへってことね」
走りながら紫羅は言葉を放ち、先の警戒を助針に教えた。
「え、でも紫羅さんの子分さん達が周りにいるんじゃなかったんですか?」
「…。いたはずなんたんけどね。影、見てきてくれない?丸虫が言ってたのと状況が違うわ」
影からの返事はなかった。
不安に助針に紫羅は『身を隠すところがないから、見えないだけよ。影はどこかにいて、ちゃんと聞こえているから』と、さらりと言った。
2人は、広い船着き場を駆け終わり、陸と船を繋ぐ橋、厚い板を軽やかに通り抜ける…もちろん、それは紫羅だけで、助針は、おっかなびっくり。さらに敵がどこからやってくるのか、気が気でなく、腰がひけていた。
「頭、気をつけてくれ」
船にたどり着いた紫羅に男の声が聞こえた。
「紫羅さん、何かいますっ」
板をたどたどしく進んでいた助針も、紫羅に襲いかかろうとする人の気配に気づき声をわあけだが‥
紫羅は、それよりも早く、腕と脚を動かし、敵2人を倒していた。
「2人とも、声かけるのが遅すぎるわ。それよりも、無事で何よりだわよ黒粘土」
倒した敵に片足を乗せて、パンパンと手を叩きて典型的なポーズを決めてから、男の方に向かった。
黒粘土。留守組でカードゲームをやっていた年長の男だった。
「残念ながら、俺、1人しかない」
ようやく板を渡り終えた助針は、明かりがほとんどない甲板を進み何とか、足を止めることができた。
「俺は、見せしめというか、頭に伝言するため、ここのマストに縛られている」
闇中の戦闘を難無くこなした紫羅は、黒粘土と呼ばれる男を見下ろし、子分の状態を調べた。
「船内にいるのは、間違いないわね」
「ああ。頭。奴からの伝言聞くか?胸くそ悪いが」
「聞いて上げるよ」
「トンバラズを我がファーロに渡せ。小猫は、大人しく家で丸くなってな」
「ふん。私が小猫だったら、そっちは猫に住み着こうとする蚤じゃないのよ。黒粘土、その傷じゃあ蚤退治は無理ね。丸虫たちと合流して。1人で歩ける?」
「ああ。でも、頭。その数で大丈夫なのか」
助針は目が向けられたのを確信することができた。
「あとから、影が来るわ。それより、私が来るとき、丸虫か、他の子の接触が、それらしい気配はなかった?どこかで、待機しているらしいんだけど」
「さあ?俺は船内からここに出されただけだし。ここは見ての通り、回りに何もないからな」
「そうね」
脇腹を押さえ立ち上がる黒粘土を見つめ、不安になりながらも見送った。
「さて、助針」
紫羅は黒ローブのフードを取り、助針を見上げた。
「残念ながら、この先は危険だから、どうなるかわからないわ。だから、助針の身に何が起きても助けられないくなる。それが嫌なら、情報の町に戻ってちょうだい」
「………」
私は…
紫羅さんの言葉に、うなづいて黒粘土さんの後を追おうかと思いました。
でも、この人を1人には、できなかった。
正確には影さんがいますが…小猫のように愛らしい姿をしているからかもしれないし。それなのにも、1人で立ち向かおうとする紫羅さんの姿に一人逃げ出す事が恥ずかしく思えたからもあるけど…この人をほったらかす事はできなかった。
でも、私の貧弱な力では守るどころか足を引っ張ってしまう…
「…着いていきます」
でも、本気で立ち向かえれば…何とかなるかもしれない。
それは甘い考えかもしれないけれども。私は同行することにしました。
「じゃあ。ついてらっしゃい」