第8話 新たな火種ができてるようです?!
翌日、教室に向かって歩いていると、シャルル先生に呼び止められて、学園長室に来るように、とのことだった。
そのまま引きずられるようにして学園長室に連れ込まれると、中には四角いテーブルを中心にして、奥に学園長、向かって左側に魔術師団長フォーキャスト卿、右側に騎士団長フィフスブレイド卿と、その息子であるウーズが座っていた。
「まずは、そこに座りなさい」
剣呑とした雰囲気の中、学園長に促されるまま手前側のソファに座る。開口一番に騎士団長が昨日の決闘に対して異議を申し立ててきた。
「決闘で魔法を使うのはいかがなものか?」
「それは僕たちに対する侮辱ですか?」
詰め寄ってくる騎士団長に、横槍を入れる形で青筋を浮かべた魔術師団長が問いかける。そのまま、当事者である私をウーズを差し置いて、騎士団長と魔術師団長がにらみ合いを始めた。噂では聞いたことがあるけど、ここまで険悪な雰囲気になるとは正直言って予想外だった。
「まあまあ、落ち着いて。騎士団長の言い分もわかりますが、ここは魔法学園です。魔法での戦いも認めねば公平とは言えないでしょう」
「しかしながら――」
「ふん、剣を振るうことしか能がないから、そんなことを言いだすんだろ?」
「何だと?!」
そんな中、学園長が仲裁に入ると二人の気勢が削がれていく。しかし、それも一瞬のこと。ふたたび魔術師団長が煽ると、言い争いが再燃した。
当事者を先ほどから蚊帳の外に置いたまま、二人の口論がヒートアップしていく。そろそろ付き合いきれないのだけど。
「帰っていいですかね?」
「「「ダメだ!」」」
めんどくさい男たちである。このまま水掛け論を繰り返されても時間の無駄なので、一番論破しやすそうな騎士団長を潰すことにした。
「魔法はどうか、と仰いますけど、身体強化も決闘では禁止ということですか?」
「それは遠くからチマチマ撃つ魔法じゃないから問題ないだろう。当然じゃないか」
騎士団長なら、そう答えるだろうと思っていた模範解答。勝利を確信して思わず頬が緩んでしまう。
「それなら、騎士団長は昨日の決闘に異議を申し立てる資格はありませんよ。何しろ、使ったのは身体強化の応用だけですからね」
「そんなバカな!」
「そもそも、私の魔力量は3ですよ。まともな魔法を使えるわけないじゃありませんか」
「それはそうだが……」
「身体強化の基本。それは魔力操作に他なりません。昨日は、それを体の外で行っただけですよ」
「そ、そんなことができるわけないだろうが!」
私の説明を聞いた騎士団長が激昂する。それもそのはず、魔力そのものは体外に出ると霧散してしまうからだ。
「お疑いでしたら、自分の身をもって経験します? 正直、くだらない水掛け論ばかりで飽き飽きしてましたからね」
騎士団長に近づいて、肩に軽く触れた。それだけで、騎士団長は跳ねるように立ち上がり、直立不動の姿勢のまま固まった。
「さすがは騎士団長。これで倒れないなんて、体幹を鍛えてますね」
普通なら立ち上がった勢いで、バランスを崩して倒れてしまう。しかし、騎士団長はまっすぐ天に向かって聳え立っていた。
「貴様! どういうつもりだ!」
「言ったじゃないですか。身をもって体験すれば、とね」
「ふざけるな。早く解除しろ!」
「先ほども言いましたけど、これって身体強化の応用なんですよ。私よりも身体強化が得意なら自力で解除できますよ」
「小娘が舐めおって! ふんぬ、ぐぬぬ……」
必死で身体強化を使って解除を試みるも、まったく解ける気配はない。何しろ、魔法を見下していることもあって、魔力操作の技術が稚拙すぎる。
「これで騎士団長とはお笑いですね。それじゃあ、私は失礼させていただきます」
「おい、解除しろ! おい、おい、まてぇぇぇ!」
後ろで何やら叫んでいるが、もちろん解除するつもりはない。魔法を見下すのは構わないが、くだらない言い争いに巻き込んだのだから、立って反省してもらうことにした。
「ま、半日もあれば解けますよ」
「ふざけるなぁぁぁ!」
その後、教室に向かうと、クラスの話題は昨日の決闘の話でもちきりだった。
「ルミナ様、ホントに運がいい方ですわね」
「そうそう、あれは明らかにウーズ様が自滅しただけですわよ」
「結局、鍛え直すと騎士団長に言われて、しばらく休学になるみたいですわ」
決闘の話と言っても、最初の小石を放った魔法(と言っても手が光っただけにしか見えなかったらしい)と、その後のウーズの自滅についてだけ。本人は違うと反論したようだったが、信じてもらえずマヌケな男の烙印を押されていた。
私の手が光ったことに驚いて転倒。その後、ウーズが逆ギレして勢い余って転んで足を挫いたという筋書きになっていた。シャルルのダメ出しのせいではあったが、実力を隠したい私としては都合がいい。
決闘をするとなった時には、実は強いのではないかと話題に上がることもあった。しかし、運良く勝ちを拾っただけということで、今はおまけ程度の扱いになっている。
これなら目を付けられることもないだろうと安堵していると、フェイリアが声をかけてきた。噂の内容が納得いかないのか、少しだけ不機嫌そうに見える。
「おはようございます。どこもルミナさんの噂でもちきりですわね」
「おはよう、運が良かっただけだよ」
「みんな、ルミナさんの魔法を過小評価して――困ったものです」
「いや、逆に都合がいいよ。変な言いがかりつけられるよりは。それより、フェイリアさんは、私の魔法が見えていたの?」
「あ、はい。小さい頃から感覚が鋭いので。それで大変なこともありましたけど……」
鋭敏な感覚――それだけなら常人でも持ちうるものだけど、超音速の小石に気付くとしたら相当なものだ。何らかのユニークスキルが絡んでいるに違いない。ただ問題は、ユニークスキルは本人が認識する以外に知る方法がないということだろう。
「ところで、魔力量が3というのは本当なのでしょうか?」
「そうだね」
「ちなみにフェイリアさんは?」
「えっと、あまり人には言うなといわれてますが、72800です」
「マジか」
かなり多いだろうと思っていたけど、想像より10倍は多かった。普通は100からせいぜい1000くらい。10000を超えれば化け物と言っても過言ではない。
「もしかして、あっちの聖女より多いんじゃない?」
「そうですね。でも、私は光属性が得意ではありませんので、聖女の代わりには……」
「そんなはずは……」
聖女のことを詳しいわけではない。しかし、聖女と得意属性は関係なかったはず。
そんなことを考えていると、ふと視線を感じて顔を上げ、視線の感じた方を見る。そこには例の聖女がいて、こちらをにらみつけていた。
「うーん、聖女がにらんでいるような気がするんですけど」
「それは、おそらくウーズさんを決闘で負かしたからではないでしょうか? 取り巻きの一人ですし……」
気にしない方が良いのかもしれないけど、明らかに憎悪のこめられた視線は不快感しかない。
「鬱陶しいんだけど」
「ビシッと言えばいいのではないですか?」
「そんなことしたら、ますます目を付けられるわ。特に、あの取り巻き連中に」
「しばらくの辛抱ですよ。そのうちウーズも戻ってくるでしょうし」
当事者しか分からない不快感しかない視線に辟易しつつ、心の中でため息を吐いた。




