第7話 決闘ですけど、注文が多すぎます?!
「いいぜ、かかってきな!」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
おもむろに近くに落ちていたこぶし大の石を拾い上げ、手のひらの上に乗せた。
「ハッ、そんな石ころで何をするつもりだ?」
『ルミナさん、それは禁止です! すぐに石を捨てるように!』
ウーズが嘲笑った直後、さっそくシャルルからの横やりが入ってしまった。
「まだ何もしていないですけど」
「それって、前に見せてくれたものと同じですよね?」
「そうですけど、軽いジャブみたいなものですよ。そんなに威力もないですし」
『ダメです! 禁止です!』
「ハッ、石を手に乗せてるだけじゃねえか」
「大丈夫みたいですけど?」
スピーカーの方を見ながらウーズを指差して説得を試みる。しばらくの間、シャルルは押し黙っていたけど、大きくため息を吐いた。
『わかりましたよ。一度だけ実際に見てもらいましょう。いいですか? 絶対に当てちゃダメですからね!』
「わかりました。最善を尽くします」
「ハッ、ビビりすぎだぜ!」
手のひらの上に石を乗せ、魔力を時計回りに高速回転させる。フォンフォンという音が徐々に早く激しくなり、ピカッと光りを放った瞬間、石はウーズの左側20センチほどを通り抜けた。
「あばっ!」
「あっ!」
ソニックブームのことを忘れていた。石は当たらなかったが、超音速によって発生した衝撃波がウーズの体を吹き飛ばした。
「石が当たってなかったから、セーーフ!」
『――アウトです、ルミナさん』
「そんな!」
ちゃんと当たらないようにしたのに扱いが酷すぎる。受け身すら取らないウーズもウーズだけど。アウト判定をもらってしまったので、ウーズが回復するまで待つことにした。
水筒を取り出し、カップに熱々の紅茶を注ぐ。一口飲んで、「ほっ」と息を吐いた。
『ルミナさん、何を寛いでいるんですか!』
「いや、あれ。回復に時間かかりそうでしょ?」
『……』
待ちながら紅茶を飲んでくつろぐ。紅茶が残りわずかになっても、ウーズは復帰する気配がなかった。
「これを飲んでも復帰しなかったら帰るか」
「うおおお、ふざけるんじゃねえ!」
「おっ? 復活したみたい」
慌てて紅茶を飲み干し、臨戦態勢を整える。立ち上がったウーズの顔は怒りに歪んでいた。
「クズの分際でいい気になりやがって! ぶっ殺してやる!」
「ちょっと、相手殺す気で来てるんですけど! 私も本気出していいですか?」
『ダメです。手加減しながら何とかしてください』
「そんな無茶な!」
「うおおおおお! 死ねえええええ!」
本気出してはダメとなると、使える手は限られてしまう。どうしようかと考え、後ろに下がりながら、バランスを崩して尻餅をついた。
「きゃああああ!」
片手で後ずさりながら、もう片手をウーズの方へと向ける。誰が見ても、ウーズが圧倒的に有利な状況。油断と慢心、それに加えて少しずつ下がることで間合いを取りにくくする。
ウーズが剣を振りかぶった時、彼の口角がわずかに上がっているのに気付いた。勝利を確信している。人は勝てると思っている時、より確実にしようとするもの。わずかな驕りが致命傷になるとも知らずに。
「うわっ!」
突然、踏み込んだウーズの足がピンと伸びた。当然ながら前にかかっていた体重が伸びた足による反動で真上に向かい、当然ながら剣を振り下ろせなくなる。
加えて、走っていた勢いは止まらず、かといって足を前に出すこともできず、強風にあおられた壁のようにまっすぐ倒れた。
そのまま1メートルほど、地面を音を立てながら滑って止まる。
「くそっ、何をしやがった!」
「膝の関節を魔力で乗っ取って曲がらなくしただけだよ」
実際にやるのは言うほど簡単じゃない。異質な魔力に対して、人の体は抵抗するようにできているからだ。
「バカな! そんなことができるわけ――」
「いや実際に動かせなくなってるでしょ?」
「くそっ、立てねえ! 何でだよ、ふざけんな!」
実際にやってみるとわかるが、膝が曲がらない状態で立ち上がるのは非常に難しい。ウーズも立ち上がろうとして、何度も失敗していた。
「負けを認めるなら解除してもいいけど」
「ふざけるな、こんな卑怯なやり方で勝ったと思うんじゃねえ!」
「卑怯って……私は魔法が得意だから、魔法で戦っただけなんだけど」
決闘だから負けを認めない限り終わらない。かといって、素直に負けを認めそうもないとなると、素直になってもらうしかないか――。
小石を拾って手のひらに乗せてみる。もちろん撃つつもりはないけど、それを見ただけでウーズは「ひぃぃ!」と叫んで怯えだした。当たっていないのに、さっきのことがトラウマになっているみたい。
「ストォォォップ!」
「あれ、先生?」
もう少し脅せば素直になるかなと思っていたら、シャルルが走ってこちらへと向かってきた。
「勝負は決しました。ルミナさんの勝利です――それより、何をしようとしてました?」
「イヤだなぁ、別に本気で撃つわけないでしょ。すこーしだけ素直になってもらおうと思ってただけだよ」
シャルルがジッと私の目を見る。見透かすような視線は不快でしかないけど、咎めて厄介なことを言われるのも気に入らない。やましいことなどないのだから。
「まあいいでしょう。言っておきますけど、今回は特別ですからね。次からは、絶対に勝手に決闘など受けないように。何かあったら、必ず私に連絡すること。いいですね?」
「やれやれ、しかたないなぁ。でも、その場で対応しないといけないこともあるのでは?」
「そんなバカなことを言ってくるような人間は学園に相応しくありませんから、辞めていただきます」
言い換えれば、過剰に絡んで来たら退学にするということ。一介の教師の独断でできるようなことでもないと思うけれど、もしかして学園を裏で支配しているのだろうか。
その後も延々と勝手な行動をするなと説教され、解放された時には優に1時間が過ぎていた。身も心も疲れ果てた体に鞭打って寮へと戻ると、フェイリアが心配そうな表情で出迎えてくれた。
「ルミナさん、無事でよかったです。私の見た目のせいで巻き込んでしまって、ごめんなさい」
「気にしなくてもいいですよ。あの程度、相手にならないから。疲れているのは主に担任のせいだからね」
「なるほど。ところで最初の魔法――小石を凄いスピードで放ったのは凄かったですけど、私にもできますか?」
あの魔法は、誰にでもできると言えばできる。それは理屈の上での話で、おそらく実際にできるのは私以外にはいないだろう。そもそも魔力が潤沢にあるのなら、普通に魔法を使えば済む話。
どう答えようか考えて、正直に言うことにした。別にはぐらかしてもいいのだけど、真摯に接してくれるフェイリアに、あまり嘘はつきたくなかった。
「誰でもできますよ。並外れた努力が必要になるから、おすすめはしないですけども」
「そうですか……」
「魔力量が高いなら、普通に魔法を使った方が効率いいですしね」
おすすめしないと言われてショックを受けていたフェイリアだったが、普通に魔法を使った方が良いという言葉を聞いて納得してくれたようだ。あらかじめ、私の魔力量が3しかないというのを聞いていたのもあるのかもしれない。
「その後は冷静さを失ったウーズが自滅した感じでしたけど、あれもルミナさんの仕業ですよね?」
「あはは、バレてたか」
「いえ、気付いたのはごくわずか、ルミナさんの仕業だと気付いたのは、私とシャルル先生くらいではないでしょうか」
大半の学生は彼が自滅したように見えたようで、マヌケだと嘲笑っていたらしい。自滅でないと気付いていたけど私の仕業でないと思っている人がいるのが気になり、知らずのうちに難しい顔をしていたらしい。
「ああ、大丈夫ですわ。自滅じゃないと言っても、運が良かったとか、そんなところですから」
「なるほど、それなら問題ないかな」
「それより、スイーツショップに寄っていきませんか? 新作のお菓子でプチ祝勝会でもしましょう」
「お、いいですね!」
あまり目立って面倒事を増やしたくないため、状況は悪くない。少しだけ安心した私は、フェイリアの誘いに乗ってスイーツショップへと向かった。




