第6話 中途半端は嫌いなんですけど?!
「拾え」
放課後、フェイリアと寮に帰ろうと歩いていると、ウーズが立ちふさがって白い手袋を私の目の前に投げ捨てた。しかも片方だけ。
「片方しかないんだけど? ケチ臭いね」
「うるせえ、ほらよ! これで満足か?」
逆ギレしながら、もう一つの手袋も投げ捨てた。2つセットなら何かの役には立つだろうと拾うと、ウーズがドヤ顔で笑い出した。
「うははは、拾ったな?」
「拾ったけど、返さないからね」
「いらんわ! それを拾ったということは決闘を受けるということだ!」
「そうなの?」
信用できない男の話を真に受けるほど馬鹿じゃないので、フェイリアに訊ねる。
「そうよ。もっとも学園内の決闘は命を賭けることはありませんけど……」
「なるほどね。やりたいならやってもいいけど」
「うははは、魔力3の分際で粋がりやがって! たっぷり痛めつけてやるぜ!」
ウーズは豪快に笑いながら去っていった。左袖が引っ張られていることに気付いて、左側を見るとフェイリアが私の袖を掴んでいた。
「ルミナさん、大丈夫なんですの?」
「大丈夫ですよ。一度は痛い目見ないと分からないタイプみたいですからね」
フェイリアは不安そうな表情を浮かべていたが、気にしない素振りを見せていたおかげで、寮で別れるときには笑顔が戻っていた。
翌日、教室で授業開始までの時間をフェイリアとお喋りしながら潰していると、シャルルが慌てた様子でやってきて私の襟首を掴んで引っ張り始めた。
「ちょ、ちょっと、何をしているんですか!」
「それはこっちのセリフです! 何ということをしてくれたんですか!」
シャルルはズルズルと私の体を引きずりながら生徒指導室へと入っていった。強引に椅子に座らせると、自分も向かいの椅子に座って腕を組んでふんぞり返る。この教師、態度が悪すぎじゃないだろうか。
「それで――何か用ですか? もうすぐ授業が始まるんですけど」
「ルミナさん、言いましたよね? 何かあったら私に相談しろと!」
「あーありましたね、そんな話。でも、私は捨てられた手袋を拾っただけですよ」
「それは決闘を受けるってことじゃないですか!」
「しょうがないでしょ、決闘付きの手袋だなんて思わなかったんだし。しかも、銀貨1枚にしかならない安物だったんですよ。酷いと思いません?」
肩をすくめて見せると、シャルルは頭を抱え込みだした。もしかして、手袋を返せと言うのだろうか。だが、手袋を売ったお金は、その日のうちにステーキとなって、お腹の中に入ってしまった。
「まさか、本気で戦うつもりじゃないでしょうね?!」
「いや、決闘は本気で戦うものでしょ。学生なんで命を賭けてって訳じゃないみたいですけど」
「ダメです! そんなことをしたら死んでしまいます!」
シャルルの言っている意味がわからなくて首をかしげた。さっき命を賭けてって訳じゃないと言ったのだけど、聞き取れなかったのかもしれない。
「だから、命を賭けるわけじゃ――」
「ルミナさんが本気で戦ったら、死人が出るって言ってるんですよ!」
「本気とは言っても、殺さない程度には手加減しますから。相手は頑丈そうですし、少しくらいなら問題ないと思いますけど」
「ちなみに聞きますけど、どのくらい頑丈だと思ってます?」
シャルルが恐る恐る聞いてくる。ウーズの外見を思い浮かべながら、およその強さを魔物に当てはめて考えてみた。
「うーん、アイアンゴーレムくらいかな?」
「はい、アウトォォォ! 決闘なんて絶対に認めません!」
「だいたい大きさいっしょだと思うんですけど」
「鉄と人体をいっしょにする時点でありえないです!」
ドヤ顔でダメ出ししてくるシャルルが腹立たしい。これでも教師なのでしぶしぶ従うしかないとあきらめかけたところで、部屋の扉が勢いよく開いた。扉の向こうから、決闘の相手であるウーズが堂々と入ってくる。
「ちょっと待ってもらおうか。これは聖女に仇なす魔女を成敗する絶好の機会。誰にも邪魔はさせん!」
「あっちはやる気満々みたいですよ?」
「ダメです! 絶対に認められません! 死んでからじゃ遅いんですからね!」
断固とした姿勢を崩さないシャルルに、ウーズは呆れかえったような口調でなだめようとする。
「おいおい先生よ。いくら俺だって女子供相手に手加減くらいはする。少し痛い目を見てもらうくらいだから心配すんな」
「死ぬのはあなただって言ってるでしょうが!」
「もちろん、私も手加減くらいはしますよ」
「それが信用できないって言ってんのよ!」
「まあ、待ちたまえ」
ヒステリックになるシャルルになぜか二人揃って責められる。脳筋男と同列に扱われるのは不本意だが、それよりも先にシャルルを説得する必要があった。そんな時、学園長が間に入り、シャルルの説得に加わる。
「そんなに心配なら、シャルル君が審判をやって、危なそうなら止めればいいじゃないかね。学生同士がやりたいと言っていることだ。できる限りやらせてあげるのが教育者の務めではないかね」
もっともなことを言っているように見えて、内容は結構えげつない。しかし、シャルルは気付かずに目を輝かせて学園長に向かってうなずいていた。
「そ、そうですよね! わかりました。私が審判をしっかり務めさせていただきます!」
「そうかそうか。それじゃあ頼んだよ」
そう言って学園長は去っていった。残ったのは先ほどとは一転してやる気に満ちたシャルルと、その変わりようについていけない私とウーズ。
「それじゃあ、今日の放課後、決闘ということで。私が審判を務めます!」
「シャルル先生、体よく責任を押し付けられたんじゃないですか?」
そこまで教えてあげてようやく気付いたらしい。滝のような冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべていた。
「あははは、大丈夫。私ならできる! それじゃあ、放課後に!」
ふらふらと生徒指導室から出て行ったシャルルに続いて、私も教室へと戻ることにした。
放課後、ルミナとウーズは誰一人いない運動場で向かい合っていた。
「逃げずに来やがったか!」
「別に逃げる理由なんてないし」
「魔力3のゴミが聖女であるシャーリーを見下しやがって。今日はたっぷり反省してもらうからな!」
「こっちは銀貨1枚のゴミを反省してもらうからね」
『コラッ、始まる前から口喧嘩をするんじゃない!』
ウーズと言い争っていると、スピーカーからシャルルの声が聞こえてきた。なんでスピーカーから聞こえてくるのか意味不明なんだけど。
「シャルル先生はどこに? それに校舎にも誰の気配もしないんだけど」
『当たり前です。私たちは危険なので、研究棟に避難しています』
「意味がわからないんですけど」
研究棟は魔法研究のために用意された施設で、魔法が暴走しても問題ないように離れた場所に建てられているだけでなく、建物自体も頑丈に作られているらしい。
しかし、たかが学生同士の決闘で避難とは大げさじゃないかな。
『それは自分の胸に手を当てて考えてください! ということで、本日の決闘は私が審判を務めさせていただきます。私が禁止したら、速やかに攻撃を中断してください! いいですね?』
「それって決闘なの?」
「ふん、俺は手加減してやるが、お前は全力でやってもいいぞ。魔力量3の女の攻撃など恐れるに足りんからな」
「それはいいですね!」
『コラッ! 煽るんじゃありません!』
やる気になってきたところに、シャルルは容赦なく冷や水を浴びせてくる。
『くれぐれも過剰な攻撃は禁止です。節度を持って戦ってください!』
この様子だと、少しでも本気を出したら容赦なく止めてきそうな気がして、気が滅入る。対戦相手であるウーズはやる気満々で手加減する様子すら見えない。これは少しばかり不公平ではないだろうか。
『さて、それじゃあ始めてください!』
シャルルの開始の合図と共に、私とウーズは互いににらみ合った。




