第5話 脳筋キャラが噛ませ犬になるのはお約束ですか?!
「ふわぁぁ、眠い……早起きなんて滅多にしないからなぁ」
研究をしていると、どうしても生活リズムが夜型になってしまう。そのせいか、朝はどうしても眠くてしょうがない。今日から学園の授業が始まるため、イヤでも期待が高まる。
職員室に行くと担任のシャルルが出迎えてくれた。彼女について教室へと向かう。
「ここが1年Aクラスになるわ。1年でも特に優秀な学生が集められているの」
シャルルの言葉を聞いて、緊張のあまり唾をごくりと呑み込んだ。自分など敵わない学生がいるのだろうな、という期待と同時に不安が膨れ上がっていく。
一足先に教室に入ったシャルルの後について教室入る。一斉に見定めるような学生の視線が向けられた。編入生の洗礼とはいえ、思わず頬が引きつってしまうのはしかたないことだろう。
それでも髪や瞳の色を目立たないように偽装していたおかげで、すぐに見定めるような視線ではなくなった。それに加えて、今日は伊達メガネとそばかすも追加している。どうみても地味な女の子でしかない。
落ち着いてきたところで、逆に教室の中を見回す。魔法学園と言っても、ほとんどの学生は他の学校とそれほど変わらない。
しかし左手前側の一角だけは、一目見て分かるほど異様だった。ピンクブロンドの髪をツインテールにした少女にイケメンが取り囲んでいて、ここだけ顔面偏差値が異様に高い。
「こら、君たち! 勝手に他人の席に座るんじゃない!」
「俺は王族として聖女を守る義務があるんですよ、先生」
「俺たちは殿下の側近。離れることなどありえません」
「当然、守るべき主から離れるなど騎士の名折れ」
「こんな脳筋は役に立たない。僕の魔法なら完璧に守れる」
「俺の居場所は俺が決める……」
シャルルが彼らを怒鳴りつける。しかし、それぞれが好き勝手な主張をして聞く耳を持たない。ここって特に優秀な学生が集まっていると聞いた気がするんだけど、底辺の間違いじゃないか?
しかも不良学生に押し負けたシャルルはため息を吐いただけだし、学級崩壊と言ってもおかしくレベルじゃないかな。
「新しくAクラスに編入されることになったルミナ・ムーングロウさん。仲良くするように」
「隣国にあるムーングロウ男爵家のルミナです。皆様、よろしくお願いしますわ」
魔法学園は学生のほとんどが令息あるいは令嬢であると聞いていたため、付け焼刃のカーテシーを披露した。それなりに貴族としての振る舞いもできるから、変なところはないはず。そう思っていたら、なぜかクラス全員が私の方を呆然と見つめていた。
「私、何かやっちゃいました?」
「うん? 特に問題はないと思うが」
不安になってシャルルに聞いてみたけれど、大丈夫らしい。本当に大丈夫なのか、それともシャルルが詳しくないのかは分からないけれども。
「えっと、ルミナさんの席は向かって左端の最後尾だ」
「はい」
示された席を見ると、隣の席にいるのがフェイリアだった。まさか、いきなり聖女の隣に座れるとは思っていなかったので幸先がいい。
「初めまして、フェイリア様。ルミナと申します」
「フェイリアですわ。先ほどの挨拶、完璧でしたわ。この年齢だと、あそこまでできる方はなかなかいませんのよ」
「そうなのですね」
「ああ、学園は身分を気にしませんから、肩の力を抜いていいですよ」
そう言って、フェイリアはニコリと微笑んだ。その柔らかい表情に、先ほどまでの緊張もだいぶ和らいでいた。
シャルルの話が終わり、すぐに1限目の授業に入った。1年だと、そこまで高度なことは教わらないらしく、授業内容に真新しいものはなかった。
知っていることばかりの内容に退屈を持て余しながらボーっと聞いていると、フェイリアが机を寄せてきて、教科書を机の間に置いた。
「今、この辺りをやってますのよ」
「あ、ありがとうございます」
フェイリアには教科書を忘れたように思われたらしい。実際にはアレクシスの用意した教科書があるのだが、せっかくの厚意を無下にするのも悪いと思って教科書を見せてもらうことにした。
「今日はありがとうございました」
「いえ、どういたしまして。困った時はお互い様ですから」
一日の授業が終わってフェイリアにお礼を言うと、少し戸惑った様子で苦笑いを浮かべた。今日一日で、フェイリアとは少しだけ打ち解けたように感じたので、視界に映る異様な光景について聞いてみることにした。
「そういえば、あちらはどういった方々なのでしょうか?」
「あちらの真ん中におりますのが、聖女であるシャーリーさん。彼女の隣におりますのが、私の婚約者である王太子のイースレイです。あとは彼の取り巻きのような方々です」
「えっ?!」
フェイリアの言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。シャーリーが聖女に見えるのか、さっぱり理解できない。
「えっと、聖女って神聖な女性のことですよね?」
「そうですけど、それ以外になにか?」
「いえ、何でもないです……」
やはり、あれが聖女らしい。どう見ても聖女の要素が欠片も見当たらないんだけど。まだ、不思議そうに首をかしげて聞き返してくるフェイリアの方がよっぽど聖女に見えてしまう。
「教会が偶然、平民に紛れていたところを見つけたらしいですよ。属性も光属性で魔力も膨大なので、間違いはないという話です」
「どっちも聖女とは全く関係ないですけど」
「そんなことありません。初代の聖女は膨大な光属性の魔力を持つ方で、我が国では代々、光属性の中から選ばれます」
そんなバカな、と言いかけて口をつぐんだ。さすがに初日から目立つのは得策とは言えないだろう。とはいえ、少し詳しく聞くくらいなら大丈夫なはず。
「そもそも、誰がそんなことを?」
「教会ですわ。初代聖女が光属性だったのだから、聖女は光属性に違いない、と」
魔法について進んでいる王国の学園だから、もっと最先端を行っているのかと思いきや、思想は100年以上前のままだったと知って呆れてしまった。何より、聖女と言う特性について、まったく研究されていないことが驚きである。
「フェイリアの方がよっぽど聖女だと思うんだけどね」
「わ、私はダメですよ。水属性ですし、しかも闇の申し子ですから――」
まことしやかな迷信が信じられていることは珍しいことではない。だけど、ここまでひどいと妄想と変わらない。ふと、アレクシスの顔が脳裏に浮かんだ。
そんなことを考えていると、「キャハハハ」という下品な笑い声が聞こえてきた。視線を向けると、シャーリーが取り巻きからチヤホヤされて、満足そうに笑っている。
「まるで娼――」
「それ以上はいけません。誰かに聞かれたら教会ににらまれますわ」
「教会ね」
聖女の後ろ盾でもある教会。場合によっては、聖女を介して王国を操っているのかもしれない。そう考えると、あえてシャーリーを聖女に選んだのかもしれない。
「それにしても、もう少し考えた方がいいんじゃないかな」
「その点に関しては同意です。先進的とか仰る方もおりますが、単純に品がないだけですもの。ホントに頭が痛くなりますわ」
そんな下らないところで先進的にするよりも先に、魔法の方を先進的にすべきだろう。今のところ、まったく期待外れもいいところだ。
呆れた目でシャーリーの方を見ていると、取り巻きの一人であるウーズ・フィフスブレイドが、鬼のような形相でにらみつけながら、こちらに向かって歩いてきた。
「おい! 何で、こっちを見てやがるんだよ!」
「それはバカみたいに目立ってるからに決まってるじゃない」
「なんだと?!」
「静かになさいませ。あまり目に余るようですと、お父様に報告いたしますわ」
初っ端からケンカ腰のウーズをまともに相手するのも面倒で、適当にあしらっていたら青筋を浮かべて殴りかかろうとする。しかし、フェイリアが父親に報告することをほのめかすと、振り上げた拳をゆっくりと下ろした。
「くそっ、この魔王が!」
ウーズは顔を真っ赤にして捨て台詞を吐きながら自分の席へと戻って行った。
「面倒事に巻き込まないで欲しいんだけどなぁ」
「巻き込むどころか、自分から首を突っ込んでますわよ」
「それは違うよ。あっちが勝手に絡んできてるだけだし」
自分は絡まれた側だと主張したら、フェイリアは残念そうにため息を吐いた。




