第3話 魔力がなくても工夫で何とかなるものです!
「次は魔力制御です。パネルに手を置いて、魔力を操作して迷路の出口まで魔力を送ってください」
どうやら目の前にあるパネルから魔力を流して、流した魔力を操って迷路を突破しろ、ということらしい。子供だましのような装置ではあるが、しょせんは学生レベルが実力を測るためのもの。意図的に簡単にしているに違いない。
「これなら何とかなりそうです」
「言っておくけど、普通のタイムだったら落とすからね。せめて1分は切ってもらうわ」
「えっ? 1分ですか?!」
大して複雑でもない迷路を攻略するのに1分というのは、ちょっと馬鹿にしすぎじゃないか?
「あきらめるなら今のうちだぞ」
「いや、やりますけど。それじゃあ、やりますよ」
「私がはい、と言ったらパネルに手を置いてください――はい」
パネルに手を置くと、一瞬で途中の小さいランプとゴールの大きいランプが光る。ゴールのランプまで光ったのを確認して、ルミナは手を離した。
「どうでしょうか?」
「光った、ように見えたけど――気のせいかもしれないわね」
「気のせいって――」
「もう一回、お願いします――はい」
「ちゃんと光っただろう。お前の目は節穴か!」と言いたいのをグッと堪えて、もう一度、合図にしたがってパネルに手を乗せる。先ほどと同じように一瞬でランプが点灯した。
「そ、そんなバカな――」
試験官は呆然とランプを見つめる。そして私の顔とランプを交互に見ながら、腕を組んで考え込んだ。
「うーん、機器の故障ですかね?」
「機器の故障っていうのは、口癖か何かですか?」
「そういうわけでは――どう見ても明らかに挙動がおかしいですよね?」
おかしいのは、何でも機器の故障に結び付ける頭の方じゃないだろうか。全く光らないならわかるけど、ちゃんとルートに沿って光っているし、ゴールも光っている。どう見ても正常だろう。
「うーん、ちょっと私がやってみますね」
代わりに試験官がパネルの前に立って手を乗せた。ゆっくりと入口からランプが点灯し、1分ほどかけて出口のランプを光らせた。
どう見てもスピードが違うだけでおかしいところがあるようには見えない。試験官は首をかしげているから、意味がわからなかった。
「おかしいな。別に壊れてはいないな」
「そうですね。何の問題もないようにみえますけど」
「あ、いやいや、すまない。最後にもう一回、しっかり測るからやってみてくれ」
「はい、わかりました」
みたび、試験官の合図に合わせてパネルに手を置いてみる。当然のことながら、一瞬でゴールまでのランプが点灯した。
「0.15秒?! わけわからないんだけど!」
「私もわけがわかりませんが?」
わけがわからないと困惑する試験官がわけがわからなくて私まで困惑してしまう。あきらめの境地に達したのか、試験官は左右に激しく首を振った。
「ああああ! もう気にしてもしかたないわ! 結果は結果だもの。次よ次!」
ヤケになった試験官は勢いよく記録紙に0.15秒と書いて、次の試験場へと向かう。その後をついていくと、今度は射的場のような場所にたどり着いた。
「今度は魔力行使よ。どんな形でもいいから、的に当てればOK。威力はなくてもいいけど、魔力量3なら大した威力も出ないか」
「当てればいいんですよね?」
「そうだな」
指先に魔力を集中させて的に向ける。細長い糸のような魔力線を出して、的にグルグルと巻き付けた。
「これでいいですか?」
「何もないじゃない。誤魔化そうったって、そうはいかないんだから!」
どうやら試験官には魔力が見えないらしく、いくらグルグル巻きにしても首を縦に振らなかった。魔力量3だと、普通に魔法を使うのが難しい。
「うーん、道具は使ってもいいですか? そう、この小石とか……」
「それくらいなら問題ないわ。念動力系の魔法もあるし。でも、手で投げるのはダメよ」
それなら問題ない。手に取った小石を左の手に乗せ、魔力を時計回りに回転させていく。徐々にスピードを上げていくと、フォンフォンという音が鳴り始める。
「この世界の全ての物は魔力を含んでいる。こうして魔力を高速で流せば――」
フォンフォンという音が大きくなり左手がピカッと光った瞬間、手のひらから小石が超音速で的に向かって発射された。
小石は真っ直ぐ的を貫いて、的に大きな穴を開ける。それだけにとどまらず、超音速により発生したソニックブームによって、残りの部分も粉々に砕け散った。
「えっ、えっ?! どういうこと? いったい何をしたの?!」
「小石の周りに魔力を高速で回転させただけですよ。いわゆる右ねじの法則ですね」
「何それ?! そんな法則聞いたこともないんだけど!」
細かく説明をするのは問題ない。しかし、理解するのは難しいのではないだろうか。目的は編入試験なので、この場での説明はしないでおくことにする。
「実際、小石によって的は破壊しましたよね。それで十分だと思いますけど」
「それはそうだけど――あああ! 気になって眠れなくなるじゃない!」
「無事に学園に入れたら教えますよ。でも、さっき編入は難しいっていってたからなぁ。残念だなぁ」
チラチラと試験官の方を見ながら残念そうに大声でつぶやいていると、意味を理解した試験官がうつむいてプルプルと震え出した。
「わかりましたよ。ええ、絶対に合格させてやろうじゃないですか! 他の教員たちなんて説き伏せてやりますよ!」
「頼もしいです。よろしくお願いしますね!」
試験の結果は教員会議を経て決めるらしく、試験官は闘志を燃やしていた。わざとらしくニッコリと微笑むと、試験官が人差し指を震わせながら突きつけてきた。
「その代わり、合格したらきっちり教えてもらうからね!」
「かまいませんよ。では、明日の結果期待していますね」
笑顔でそう言うと、試験官はお腹を押さえて頬を引きつらせていた。あとは彼女の頑張りに期待するしかないだろう。
試験が終わって宿に戻ろうと校門を目指していると、話し声が聞こえてきた。
「こっちの方から声が聞こえるな」
気配を殺して声の方へと歩いていくと、黒髪黒目の美少女が二人の少女に詰め寄られていた。
「フェイリア様、あの泥棒猫に注意してくださいまし!」
「そうです。私の婚約者も、あの女にデレデレと!」
「皆様、落ち着いてください。確かに学園の風紀を考えれば、好ましいとは言えません。ですが、貴族の婚約は家同士で決めたもの。一時の迷いはあれど、騒ぎ立てるには時期尚早ですわ」
話の内容からして、二人の少女が聖女の振る舞いについて文句を言っていると言ったところ。おそらくはフェイリアが三人の中では最も身分が高いのだろう。フェイリアに、自分たちの代わりに注意をしてもらいたいに違いない。
「甘いですわ! フェイリア様の婚約者だって、あの女にベタベタとすり寄っているじゃありませんか」
「あの方は、平民の身分で学園に来ることになった聖女様をサポートするように指示されておりますから、心配いりません」
「そんな悠長な! すでに婚約を撤回、あるいは破棄された方もいらっしゃるのです!」
「とにかく、安易な決めつけで手を出すのは控えてください」
期待通りに動いてくれないフェイリアに彼女たちは苛立ちをぶつけ始める。それでも、フェイリアは何とかなだめて穏便に済まそうとしているように見えた。
穏便にということを強調しながら、フェイリアは校舎の中に消えていった。彼女がいなくなった途端、二人はフェイリアの悪口を言い始める。
「まったく、あの方にも困ったものですわ」
「ホントに。公爵令嬢でなければ関わりたくもありませんわ、あんな女」
「あの黒い髪と黒い瞳――闇の申し子でしょう? 同じ人間とは思えませんわ」
「クローネル公爵家も、後継があれでは先行き暗いでしょうね」
「そうね。公爵家といっても沈みかけた泥船。他の家も手を切る算段を進めているようですが、早くしてもらいたいものですわ」
その後も聖女だけでなく、フェイリアや彼女の実家であるクローネル公爵家の悪口に花を咲かせていた。
しかし闇の申し子なんて、まだ言っている人がいるなんて驚きだった。
由来は魔王が黒髪黒目だったと誰かが言い出したことがきっかけだった。魔族の王なのに、魔族の特徴である銀髪紅眼と異なるため、信憑性に欠ける。
それでも信じる人が一定数いた。しかし文献のどこにもそんな記述などなく、間違いだと公式見解が出された。そのため、信じている人などほとんどいないと思っていた。
「そんなこと信じてるなんて、本当に優秀な魔術師を輩出している学校なのかな」
学園が輩出している魔術師はほとんどが優秀だとされ、宮廷魔術師や魔術師団の幹部を務めている人が多い。その実績から教育内容が素晴らしいという噂だったが、魔法技術は日進月歩。旧態依然の思想が蔓延しているようなところで、素晴らしい教育など受けられるのだろうか。
「それにしても、あのフェイリアって少女――まあ、気にしてもしかたないか」
何よりも、まずは編入試験に合格することだ。全力は尽くしたし、後は祈るだけ。とりあえず、今日は繁華街で遊んでから帰ろうと足取り軽く学園を後にした。




