第14話 こいつまで脳筋だとは予想外でした?!
寮に戻ったシャーリーは、今日の魔法実技の授業で完膚なきまでにスーフェンが叩き潰された姿を思い出し、心の中で大きなため息を吐いた。
前世の記憶のあるシャーリーにとって、魔法を得意、イコール知力が高い、イコール頭がいいという先入観があった。
ウーズはあまりに脳筋すぎた。そのせいで、あっさりと敗北した。だからこそ、今回はスーフェンを焚きつけた。ウーズのように真正面からぶつかるのではなく、徐々にルミナたちの評判を落として居場所を奪っていくような謀略的な何かを期待して。
だが、蓋を開けてみればどうだ。初手こそ学園長に匿名で告発文書を送ったが、それはウーズの剣がペンに変わったというだけのこと。内容はウーズと同じ、自分勝手な主張を書きなぐっただけ。
しかも、匿名にしたせいで学園長からは信用に値しないとされ、その後の振る舞いで匿名であるにも関わらず誰が告発したのかバレバレだった。
告発が不発に終わった後は、もうメチャクチャだ。魔法実技の授業で煽った挙句、ルミナに対人練習で戦いを挑み、おちょくられた挙句、コテンパンにやられた。
さらにはルミナを敵対視しているベテラン教師を巻き込んだ挙句、学園から追い出されることになってしまった。
そして、今日。散々バカにしたフェイリアに挑んで返り討ち。その内容も、ただバカみたいに強力な魔法を使うというスーフェンに対して、繊細な技術を使って翻弄した上で勝利したフェイリア。どちらが上かなど考えるまでもない。
「まさか剣が魔法に替わっただけの脳筋だとは思わなかったわ」
しかし、それを差し引いてもフェイリアの成長ぶりは異常だった。先週までの状態ではまともに魔法を使うことすらできなかったフェイリアを狙うという方向性は間違ってはいない。
しかし、たった一週間で魔法を使いこなすことなどありえない話だった。シャーリーの知っているゲームでは、魔力量という素質の高いキャラが魔法を使うことで熟練度を上げていくことで、より強力な魔法を使いこなせるようになる。
「たった一週間であんなに熟練度を稼げるわけないっての!」
ゲームでは午前午後放課後の3枠を7日で21枠。全部魔法の練習にあてても大して熟練度は上がらないはず。
「やはり、あのルミナっていう女が原因か――クソ、あいつのせいで、何もかもがおかしくなっているんだけど!」
枕をひっつかんで壁に向かって投げる。当然ながら、ポフッという気の抜けた音を出して、ベッドの上に落ちただけだった。ルミナを排除するのが正解だということはわかっている。
だが、圧倒的な実力を見せつつ、ことごとくシャーリーの手を潰してくるルミナを排除する方法が全くといって良いほど思いつかなかった。
「やられっぱなしはムカつくけど、あのルミナって女に手を出して被害を増やすわけにはいかない。予定通り、あの悪役令嬢を追放する流れに持っていくしかないわね」
取り巻きの男たちは地位があっても、頭は良くないのかもしれない。シャーリーは、自ら動いてお膳立てをしつつ、最後の最後で取り巻きをけしかけるように方針転換を決めた。
◇
「いったいどういうことですかな?」
フェイリアがスーフェンを降した魔法実技の授業の翌日、スーフェンと親であるフォーキャスト卿、フェイリア、そして、なぜか私まで学園長室に呼ばれていた。
「どういうことと言われましても」
「息子から話は聞きました。落ちこぼれだった学生にやられたと」
「それは誤解です。フェイリア君は非常に優秀な学生ですよ」
「ですが先週まで、まったく魔法が使えなかったと聞いておりますが」
「そういう話はあるみたいですが、練習を続ける中でコツを掴んだ可能性もあります。これといっておかしい点はありませんが」
左右にくるんと巻かれた口ひげが鼻の下から伸びているフォーキャスト卿は腕を組んでしかめっ面をしていた。一方の学園長は一見すると微笑んでいるように見えるが、目が全く笑っていなかった。口ぶりからすると、鬱陶しいモンスターペアレンツが来た、くらいの感想だろう。
「ただ魔法が使えるようになった。というだけなら、何の問題もありません。ですが、無詠唱で、しかも無数の魔法を使っていたとのことです。いやはや、ありえないでしょう? たった一週間ですよ!」
フォーキャスト卿の言い分としては、先週まで圧倒的な実力差で上にいたはずが、わずか一週間で逆転されるどころか、圧倒的な実力差で下になっていたという結果は何か不正が行われていたに違いないということだった。
自分たちは完全な被害者であり、主張は正義に則ったものであると。そういうことにしたいらしい。学園側も主張を認められない、ということではなく、この場で主張を認めているのを避けているように見えた。
話が始まってから、学園長はしきりに私の顔色をうかがっているのだから。明らかに迂闊に不正があると認めた結果、私が何かツッコんで問題が大きくなるのを警戒している。
それじゃあ、私が不正を認めればいい、というわけでもない。学園長と同様に、私の発言からフェイリアが何か余計なことを言い出さないか警戒していた。
フォーサイス卿は不正があったという事実によって息子の敗北をなかったことにしたいだけ。でも、学園長は私を警戒して認められない。私はフェイリアを警戒して何も言わない。フェイリアも何も言わない。という膠着状態に陥っていた。
「そうだ。ルミナ君は、今回の件についてどう思うかね?」
押し問答を続けていた学園長が、なぜかこっちに話題を振ってきた。全員の視線が一斉に私の方へと向けられた。
しかし、視線の意味はそれぞれ異なっていた。事情を知らないフォーキャスト卿のように「なぜ無関係な人間に?」であったり、フェイリアの「どう話すのか」といったものはマシ。
スーフェンの「魔力量3の分際が余計なことを言うな」であったり、学園長の「お前が何かをしたんだろう? はよ吐け」的な視線を向けてくるのはあり得ない。
「私見ですが、不正はあったと確信しています。特に私やフェイリアさんは魔法実技の授業では調子が良いことが多いのです。私もフェイリアさんもやけに調子がいいと話し合ってましたので、不思議には思っていました。しかし、授業で手を抜くわけにはいきませんよね? 状況を考えれば、学園側ぐるみで何かをしていたんじゃないかと思います」
私があっさり不正を認めたことに、その場の全員が驚いていた。自分たちがおかしいと気付いていたことで、無関係であることを強調しながら、さりげなく学園側の責任に持っていく。焦った学園長はシャルルの責任に持っていこうと言い訳を始めた。
「も、もしかしたら、授業を担当するシャルル君が優秀でない君たちに――」
「学園長、それはあり得ないんですよ。今週はシャルル先生でしたけど、先週は別のベテランの先生でしたので」
「そ、それは――」
「私が調子が良かったのは先週の話です。授業の担当でもないシャルル先生が何かするとは思えないんですよね」
畳みかけた私に、学園長は反論の言葉を捻り出せず、押し黙ってしまった。一方、フォーキャスト卿はタダならぬ雰囲気を感じ取って、おもむろに口を開く。
「い、いや。不正があったことがわかり、我々は追及するつもりはない。私が確認したいのはただ一つ。息子が負けたという不名誉な事実は撤回してもらえるのだろうな?」
「そ、それはもちろんです!」
「では、そういうことで。こちらは息子とも話し合いをいたしますので、本日はこれで失礼させていただきます」
学園長の言葉を聞いて、藪をつつく必要がないと判断したフォーキャスト卿は、スーフェンを連れて学園長室から出ていった。
「よかったですね。学園長。軽率に丸投げしたのに丸く収まって。それじゃあ、私たちも授業があるので失礼しますね!」
私はフェイリアを連れて、有無を言わせず学園長室を後にした。




