第11話 最大の防御は攻撃です?!
怒り狂ったシャルルの前に、ベテラン教師もスーフェンも完全に無力だった。
シャルルはスーフェンをあっさりと治し、事情聴取をすると職員室に呼び出した。それだけじゃなく、無関係を主張していたにも関わらず、私なんて引きずって連れていかれたのだけど。
「さて、何がどうなったのか説明してもらおうか?」
「私は何もしていません。ちょっと対人練習に参加しただけですよ」
無実を主張するも、まるで私が主犯であるかのようににらまれる。少し扱いが理不尽じゃないかな。
「そもそも。絡まれたら私に連絡するように言いましたよね?」
「もちろん。シャルル先生を呼んでもらおうとしたんですけど、スーフェンが呼ぶ必要はないって……」
「そんなバカの言葉を真に受けるんじゃありません!」
当の本人を前にバカ呼ばわりするのは、いかがなものかと思う。だが、それを指摘する人は誰もいない。火に油を注ぐことがわかっているのか、当のスーフェンすらもうつむいて大人しくしていた。
「それに生きてるじゃないですか。ちゃんと手加減したんですよ。だから、そんなに心配しなくても……」
「手加減って、十分やりすぎだっての!」
「それは――まさか、あんな紙装甲の防御魔法だとは……」
手加減は完璧とは言えなかった。思ったよりもベテラン教師の使った防御魔法の質が悪く、あっさりと破壊してしまったからだ。
その言葉を聞いて、今度は矛先がベテラン教師へと向かう。年齢的にもベテラン教師の方が立場は上だろう。しかし、シャルルの殺気と事故を起こした罪悪感から、恐怖に震えあがるだけ。
今まで矢面に立たされたけど、今回は授業中のこと。最初からベテラン教師を詰めるべきで、私は無関係なはず。
「もしかして……手を抜きました?」
「ひっ! そ、そんなことは、断じて、断じて、してないぞ! 本当だ! 俺の教師としてのプライドに誓って!」
ベテラン教師を詰めるシャルルを、もっとやれと応援しつつ、断罪劇を楽しみ――成り行きを見守っていた。
しかし、シャルルは防御魔法について追及しただけで、すぐに矛先を私の方へと戻してきた。手ぬるい。
「ちゃんと防御魔法は使ったみたいですが、それを破壊しておいて手加減したと?」
「もちろんです。私の知っている人たちは、あの程度では防御魔法に傷ひとつ付きませんよ」
「お前! 俺をバカにしているのか?」
師匠も、アレクシスも、もう一人も。あの程度では容易く防いでしまう。それが普通だと思っていた。よもや、こんなあっさり壊れるとは……。
その程度なのに、私の言葉にベテラン教師が噛みついてきた。何もかも、この教師のせいなのに、責任逃れをする態度に苛立った私は、少しだけお灸を据えてやることにした。
「そこまで言うなら、何か撃ってきてくださいよ。こっちが防御するんで」
「ふん、魔力量3の分際で思い知らせてやるわ!」
「こら、二人とも待ちなさい!」
まるっきり悪役のようなセリフを吐いて、ベテラン教師が校庭へと向かう。もちろん、私も後についていった。おかげで、なし崩し的にシャルルの説教を回避することができた。
「くらえ!」
ベテラン教師はそこそこ大きな火球を私に向かって放ってきた。しかし、火球は私の目の前であっさりと消滅する。
「な、な、な……」
「ほら、こんな感じでね。それとも手加減しすぎた?」
「くそっ、バカにしやがって! これならどうだ!」
ベテラン教師は、先ほどのものとは比べ物にならないほどの巨大な炎の槍を作り出し、私に向かって撃ってきた。だが無意味だ。私の防御魔法はスーフェンにやったものと同じ原理――魔法自体をハッキングして制御を奪うものだからだ。
「あ、あ、あ……」
かなり自信があったのだろう。私の目の前であっさりと消滅していく炎の槍を呆然と見つめながら言葉を失っていた。
「ち、ち、ちくしょぉぉぉ!」
杖を取り出して長々と詠唱を始める。ようやく本気を出した、というところだけど、こんな魔法実戦で使えなんじゃないだろうか。
「俺の全てを賭けた魔法を食らえ! エターナル・フォース・ブリザード!」
「ださっ」
そもそも詠唱はイメージの補助であって必須ではない。それは魔法の名前についても同じ。ベテラン教師の唱えた魔法の名前は、アレクシスに匹敵するほどダサい名前だった。
ベテラン教師の魔力が私を取り囲む。魔力が冷気に変わり、厳しい残暑から一転して涼しくて快適な空間へと変わった。
「まだまだ暑いから、こういうのはありがたいな」
「な、なんだと……」
渾身の魔法によって、凍り付くどころか涼し気に(実際に涼しいけど)している姿にベテラン教師はプライドを粉々にされて立ち尽くしていた。
「こらぁぁぁ、逃げて何をやって――す、涼しい?!」
慌てて追いかけてきたシャルルもベテラン教師の魔法の涼しさに驚いていた。それがまた、彼のプライドをへし折っていく。
「これが全力ですか。大したことありませんね」
「くそ、お前のようなヤツなど退学だ! 学園から出ていけ!」
追い詰めすぎて逆ギレしたベテラン教師が、退学を突きつけてきた。しかし、勝ち誇る彼の背後から、学園長が静かに近づいてくる。
「いつから、学生を退学にできるようになったのかね?」
「えっ? が、学園長……こ、これは!」
ベテラン教師は慌てて取り繕う。ヘラヘラと気持ちの悪い笑みを浮かべながら。
「この学生が、俺のことを侮辱してきたんですよ。それで――」
「見境なく学生に魔法を撃ったと?」
「えっ?! ですが、なぜか効かないんですよ。絶対に何か不正を――」
「この学園は優秀な魔術師を養成するためのものだと思っていたが?」
「も、もちろんですよ。だから、魔力量が3しかない学生の不正を訴えているのです」
ベテラン教師の弁解を聞いて、学園長は大きくため息を吐いた。そして、険しい顔になってベテラン教師をにらみつける。
「魔力量3だから何だというのかね? 不正? 現にお前の魔法は全く効いていないだろうが」
「ですから、それは不正をしているんです。魔道具とか……」
「ただの学生が国宝級の魔道具を持っていると言いたいのかね?」
「そ、それは……」
ベテラン教師が何か言えば言うほど墓穴を掘っていく。先ほどのように魔法を消す程度なら魔道具など必要ない。そもそも魔道具は決められた魔法回路に沿った動きしかできないから、先ほどのようなことは不可能だろう。
「もうよい。どうやら学園に相応しくないのはお前のようだな」
「なっ、学園長! 俺は学園のために――」
「実際に学生に負けたではないか。しかも、見下している学生に。負けるのがダメとは言わん。だが、負けたのを認めず、自らを高めるのではなく、相手を貶めるような者に務まるとは思えん」
ベテラン教師は何か言おうとして、ガックリと肩を落とした。学園長の言葉は事実を淡々と教えただけ。それに対して、どれほど言葉を尽くしたとしても覆すのは不可能だと悟ったようだ。
「まったく、あのような形で決着付けられるのなら、スーフェンの時にも同じようにすればよかったではないか」
「あれは授業の一環だからですよ。さっきのアレを見てお手本にしろとは言えないでしょう?」
決着がついて、シャルルが目の前までやってきて肩をすくめた。授業である以上、お手本となる、あるいは見る意味があるようにするのは必要だろう。だからこそ、手加減して魔力崩壊を実演してあげた。
「はぁぁぁ。わかりました。一応、筋は通っているので、今回はここまでで大目に見て差し上げます。でも、次は容赦しませんからね!」
そう言ってシャルルという災厄が去っていった。それと入れ違いに、フェイリアがこちらへと駆け寄ってくる。
「大丈夫でしたか? 先ほども何やら騒がしかったようですが……」
「問題ないよ。あっ、来週から魔法実技の先生が代わるみたい」
「何か問題でもあったのでしょうか?」
「うーん、かなり調子が悪かったみたいだからね」
「それは心配ですわ」
「あんな先生ならいなくてもいいんじゃないの? フェイリアも散々バカにされてきたでしょ」
「それとこれとは話が別ですわ」
フェイリアの待遇を考えれば、あのベテラン教師を心配するなどありえないことだった。しかし、フェイリアは当たり前のように別だと言い張る。
あまりにもお人好し過ぎて呆れてしまうが、フェイリアが気にしていないのなら受け入れるしかなかった。
「それより、ルミナさん。私に魔法を教えてもらえませんか? ご存知の通り、魔法が下手なのを何とかしたいんです」
フェイリアの申し出を頭の中で反芻する。おそらく、スーフェンやベテラン教師とのやり取りを見て実力差に気付いたのだろう。そして、学園の授業では解決できないと気付いている。
視野は悪くない。あとは本人のやる気次第だけど。
「死ぬ気で頑張るつもりはある?」
「もちろんです」
「それじゃあ、明日から10日間。朝と放課後に練習しましょう」
「えっ、それだけでいいんですか?」
「もちろん、その代わり厳しくいくからね」
「ふふ、望むところです。それじゃあ、明日からよろしくお願いしますね」
授業の時に見せた憂鬱な表情が霧散して、晴れ渡る空のような笑顔で教室へと戻って行った。




