第10話 魔法実技の授業で軽率な判断は命取りです?!
翌朝、登校すると聖女の取り巻きであるスーフェン・フォーキャストがニヤニヤと笑いながら、私の方を見てきた。
スーフェンの元々の顔は悪くない。しかし、いやらしそうな笑顔はひたすら気持ち悪いものだった。
「朝から最悪だわ」
朝からゲテモノを見せつけられて吐き気がしそうになるのを耐えていると、余計にスーフェンの笑顔が気持ち悪くなっていく。まさに不快感の高速増殖炉と言っても過言ではない。
「あー、無視無視。気にしないに越したことないわ」
これ以上、不快感が増殖すると胃の中のものがメルトダウンしそうなので、頑張って意識から外した。それでも不躾な視線は視界の外から感じられるが、まだマシというもの。
少し遅れてフェイリアがやってきて席に座った。挨拶を交わして、スーフェンの視線から隠れるように移動する。
「何をなさっているのですか?」
「えっと、フェイリアガード? バリア?」
「ああ、あれですか。あれって、自分から犯人だって言ってるようなものですよね?」
昨日の話を聞いていたフェイリアは当然のように気付いていた。もっとも、あそこまであからさまに『ざまぁしてやったぜ』感を出されると、気付かない方がおかしい。
彼の中では、自分の告発によって近日中に退学処分にされると考えているに違いない。その告発が丸めてゴミ箱に捨てられていることなど知らずに。
その後、ホームルームで担任のシャルルが告発について何も触れずに終えたことで、スーフェンの表情が変わる。何か言いたそうにしていながら、何も言えない。言ったら自分が告発したと自白するようなものだから。
その後も、平和に授業が進んでいく。どの教師も告発について触れないことで、しだいにスーフェンが焦り始めた。
このまま終わればいいのに、と思っていた。
午後の最後の授業は魔法実技の授業だった。この日の授業は、シャルルではなくベテランの別の教師が担当している。
「それじゃあ。各自、好きな魔法を使って的に当てるように」
教師の指示に従って、2名から4名のグループに分かれて的当てを始めた。特に指導もなく、魔法を当てるだけ――期待していたルミナにとっては拍子抜けもいいところだった。
「ええっ、これだけなの?」
「そうですね。こうして魔法を的に当てる練習をひたすら繰り返すだけです」
「それじゃあ、当てられない人は?」
「当てるまでやれと1000回でダメなら1万回やれという感じですね。私たちもやりましょうか。先にやりますね」
周りを見回してみると、みんな杖を片手に炎や水の球、風の刃、石つぶてなどを作り出して的を狙って、ひたすら撃っていた。
ちゃんと的に当てられるのが1割、魔法として形作れるのが3割といったところ。多くは魔法を作ることすらできずに悪戦苦闘していた。
「きゃああああ!」
フェイリアの悲鳴が聞こえたので慌てて振り返ると、的に向かって立っていたフェイリアがびしょ濡れになっていた。
「もしかして、魔法が暴走した?」
「はい、皆さんと同じようにやっているつもりなんですけど、いつもこんな感じで。才能はあると言われたこともあるんですけど……」
そう言ってフェイリアは唇を噛んでうつむいてしまった。魔力量という意味では、たしかに才能の塊といえる。
しかし、魔力が大きければ相応に制御が難しくなる。今のフェイリアはちょうど自分の力に振り回されているような感じだった。
「ふん、優秀だと言われていたが、そんなものか!」
フェイリアの失敗をスーフェンが嘲笑う。目測だが、スーフェンの魔力量も平均から見れば高いのかもしれない。しかし、しょせんは常識の範囲内。フェイリアとはわけが違う。
「魔力量3の無能と失敗作。いいコンビじゃないか!」
言っていることも大概だけど、それよりも気持ち悪い笑顔の方がつらい。ここは早めに立ち去ってもらわないと、お昼に食べた牛肉チーズ丼がメルトダウンしそう。
「はいはい、わかったから。自分の場所に戻って」
「なんだと? 魔力量3の分際で指図するつもりか?」
「指図というか――グループ分けしているんだから、こっちは関係ないでしょ?」
「それを指図というんだ!」
勝手に絡んできて勝手に怒り出したスーフェンには、呆れしかない。
「ふん、そこまで言うなら格の差ってやつを見せてやる」
「何も言ってないけど」
「ちょうど、これから対人練習だ。俺が相手してやる!」
別に対人練習はいいのだけど、絡まれたらシャルルを呼び出すことになっているので、そっちの方が面倒で思わず顔をしかめてしまう。
「えっと、シャルル先生を呼んでもらえますか?」
「何を言いだすかと思えば、教師に庇ってもらうつもりか? だが、そんなことは認めない!」
認められなかった。言質はとったし、文句を言われたらスーフェンのせいにすればいいと思って、対人練習を受けることにした。
「えっと、杖を借りていいですか?」
「杖など使ったところで、大して変わらんだろうけどな!」
貸し出し用の杖を杖を取り、こっそりと魔石を外して入れ替える。先日作った1000個分の魔石――ではなく100個分の魔石だ。これより純度の高い魔石を使ったら、さすがに死ぬかもしれない。
「えっと、借りた杖は壊しても大丈夫ですか?」
「バカか? お前ごときの魔法で壊せるわけがないだろう!」
「じゃあ、壊れたら弁償してくださいね」
「望むところだ!」
魔法実技の講師であるベテラン教師が安全のために防御魔法をかけてもらう。ベテラン教師まで防御魔法をかけながら嘲笑っていた。
この教師、まともに審判する気があるのだろうか。個人的は勝負よりもシャルルが怒鳴り込んでくる方が怖い。しかし、ここで安全面に配慮していることをアピールすれば、シャルルの態度も軟化するに違いない。
「全力でこい!」
スーフェンが開始早々ふざけたことを言いだした。そんなことをしたら死んでしまう。スーフェンが死ぬだけならいいけど、シャルルの態度がさらに厳しくなるのは勘弁してほしい。
「来ないなら、こっちから行くぞ!」
「どうぞ」
スーフェンが火球を放つ。それは彼の手を離れると、まっすぐ上に飛んで大きく弾けた。ドーン、という音が胸の奥にまで響く。
「な、なんだこれは?!」
「えっ、花火でしょ。知らないの?」
この花火はスーフェンがやったもの――では、もちろんない。私が彼の作った魔法をハッキングして、花火の挙動に作り替えた。
そんなことも気付かず、スーフェンは青空にいくつもの大輪を咲かせる。「くそぉぉぉ!」と叫びながら、馬鹿の一つ覚えのように火球を放つだけだった。
いいかげん気付いてもいいはずだが、そんな気配はまったくない。どこまで頑張るのかと思ったけど、わずか10発ほどで息が上がっていた。
「はあはあ。くそっ、どうなっていやがる!」
「もう終わり? じゃあ、こっちから行くね」
杖の先の魔石に、ほんのわずか――魔力量にして1にも満たない魔力を当てる。想定通り反応が始まったのを確認して、杖を――投げた。投げた杖はスーフェンの手前の地面に突き刺さる。
「なっ、投げただと! だが、全然当たってないぞ! 杖がなくなった以上、お前は終わり――」
スーフェンが勝ち誇っていたその時、杖の先端についていた魔石が激しい光と熱を放って爆発した。魔力崩壊――高純度の魔石に対して、魔石の魔力が反応する魔力をわずかに当てる。それだけで連鎖的に反応を起こし、大爆発を起こす。
爆発が収まり、土煙が晴れてくる。大きなクレーターができ、その中心にはボロボロになったスーフェンが倒れていた。
「無茶しやがって……」
全員が呆然とする中、ベテラン教師が声を張り上げる。
「こんな魔法は無効だ!」
「でも、倒しましたよ」
「俺は認めん! こんなの魔法ではない!」
「そうですか……それじゃあ、後はお任せしますね」
ベテラン教師に笑顔で責任を押し付ける。意味がわからず呆然としていた彼を放置してフェイリアのところに戻った。
「何を言って――」
「こらぁぁぁぁ! 何をやってるんだぁぁぁ!」
口を開きかけたベテラン教師の言葉を遮るようにシャルルの怒声が響き渡る。怒り狂いながら向かってくる姿は、まさに鬼神のように見えた。




