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微熱の道化師  作者: だぶまん
微熱の道化師(異世界帰還編)
41/50

K.17「旅立ちの道中に見る魔物」(AIが要約)

『乙女の棺』は、静かに荒野を進んでいた。

目指すは、すべての始まりであり、そして終わりとなる場所。かつて師であったデ・キールが魔族に技術を盗まれたという、世界の歪みの中心。操縦席はゼン・ニン兄弟とデ・キールの手によって常に快適な状態が維持されており、コックピットに横たわる謎の少女Qの容態に悪化は見られなかった。彼女の穏やかな寝息だけが、鋼鉄の巨人の内部に響く唯一の生命の音だった。

(一応、デ・キールはゼン・ニン兄弟の師匠か……)

操縦桿を握るキュービー――かつて弱者太郎と呼ばれた男の魂は、ペンライトの姿で思考を巡らせていた。あの天才技術者と元弟子たちが再び手を取り合ったのだ。ならば、きっとQを救う手立ては見つかるはずだ。逸る心を抑え、彼は乙女の棺の歩みを少しだけ速めた。

だが、どれほど強大な機体であろうと、休息は必要だった。機体エネルギーの残量を示すゲージが警告色に染まるのを見て、キュービーは今日の寝床を探すことにした。荒野に点在する、風雨に削られた巨大な奇岩。その一つに身を寄せるようにして、乙女の棺はその動きを止めた。システムの大部分をスリープモードに移行させ、キュービーの意識もまた、浅い眠りへと落ちていく。

どれほどの時間が経っただろうか。

ふと、外部センサーが微かな振動を捉えた。敵襲か、とキュービーの意識が覚醒する。だが、アラートは鳴らない。代わりに聞こえてきたのは、コツン、コツンという軽い音と、甲高い、まるで子供のはしゃぐような鳴き声だった。

キュービーは外部カメラの映像をメインモニターに映し出し、そして息を呑んだ。

乙女の棺の巨大な肩や頭部に、複数の小さな魔物がよじ登り、まるでアスレチックジムのようにして遊んでいたのだ。体長は人間の子供ほど。丸い体に短い手足、そして大きな瞳を持つその姿は、およそ兵士とは呼べないほどに無邪気だった。彼らは装甲の上を滑り台のように滑り降りてはキャッキャと笑い声を上げ、仲間と追いかけっこをしていた。

(……やり過ごそう)

キュービーは機体を完全に沈黙させた。ここで下手に動けば、彼らを刺激し、親玉を呼び寄せることになるかもしれない。何より、あの無邪気な姿に、敵意を向ける気にはなれなかった。

じっと息を潜める鋼鉄の巨人の中で、キュービーはただ彼らが遊び疲れて去っていくのを待った。魔具人形越しに、小さな魔族たちが装甲の上を駆け回る振動が、くすぐったいように伝わってくる。その振動は、不思議と不快ではなかった。むしろ、どこか温かいもののように感じられた。

やがて夜が明け、陽の光を浴びて満足したのか、魔物たちは名残惜しそうに鳴き交わしながら、丘の向こうへと帰っていった。

完全に彼らの気配が消えたのを確認し、キュービーは乙女の棺のシステムを再起動させる。

(魔族も……こうして個別に見れば、人間と同じようなものなのかもしれないな)

彼は、昨夜の出来事を振り返って思った。

家族がいて、子供がいて、笑い、遊ぶ。自分たちが「魔族」と一括りにしてきた存在もまた、一つ一つはただ懸命に生きているだけの命なのかもしれない。コ・イカゲが抱いていた歪んだ家族愛、センキが守ろうとした魔族化した仲間たち。彼らの顔が脳裏をよぎる。正義とは、悪とは、一体何なのだろうか。世界の理そのものに思いを馳せ、キュービーの思考は哲学の海へと沈みかけていた。

その時、彼の視界の端に、静かに横たわるQの姿が映った。

白い髪、閉じられた瞼、そして、その魂の奥底に封じ込めたおぞましい呪い。

ハッと、キュービーは我に返った。

そうだ。世界の真理がどうであれ、魔族の生態がどうであれ、今、自分にはやるべきことがある。

この少女を救う。ただ、それだけのために自分はここにいるのだ。

壮大な思索の旅から帰還した彼の心に残っていたのは、驚くほどにシンプルで、そして何よりも強固な一つの決意だった。

「救わなければならない人がいる」

キュービーは、誰に言うでもなく、しかし確かな意志を込めて呟いた。

その言葉に応えるように、乙女の棺はゆっくりと立ち上がる。朝日を浴びて輝く純白の装甲は、まるで聖騎士の鎧のようだった。

彼の個人的な、しかし何よりも尊い使命を乗せて、鋼鉄の巨人は再び、終わりとはじまりの場所を目指し、力強く大地を踏みしめた。

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