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微熱の道化師  作者: だぶまん
微熱の道化師(異世界帰還編)
39/50

K.15「眠り姫」(AIが要約)

オトギゾウシが残した不吉な予言は、重く冷たい沈黙となって戦場に満ちていた。やがて、上空から一条の光が差し、母艦である飛行艇が降下してくる。乙女の棺は、まるで傷ついた雛鳥を巣に戻すかのように、慎重に回収された。

格納庫に機体が固定されても、コックピットのハッチは開かない。

「おい、Q!どうしたんじゃ!」

「キュービー!返事をしろ!」

しびれを切らしたゼン・ニン兄弟が操縦席の外部ハッチをこじ開け、中を覗き込んだ。そこに広がっていたのは、彼らが最も恐れていた光景だった。

パイロットシートにぐったりと身を預け、浅い呼吸を繰り返すQの姿。その顔は青白く、額には脂汗が滲んでいる。

「Q!」

兄弟は慌てて彼女を抱きかかえ、コックピットから引きずり出した。医務室のベッドに横たえ、必死に呼びかける。

「大丈夫か」「しっかりしろ!」

しかし、Qの瞼は固く閉ざされたまま、意識が戻る気配は一向になかった。

途方に暮れる兄弟を見かねてか、背後から静かだが、棘を含んだ重い声がかかった。

「ワシの最高傑作を叩き壊しておいて何を騒いでおるか、元弟子ども」

腕を組み、壁に寄りかかっていたデ・キールが、苦虫を噛み潰したような顔で現れた。彼の目には職人としての光はなく、自身の傑作を弟子に破壊されたことへの深い失意が影を落としている。

「師匠!それどころじゃないんです、Qが!」

「…ふむ」

デ・キールはベッドのQを一瞥すると、鼻を鳴らした。「なるほどのう。乗り手の命を削って力を引き出すか…ワシの『戦の城』とは似て非なる、粗雑な仕組みじゃな。魔力の使いすぎじゃ」

彼によると、Qは自身が本来持つ許容量を遥かに超えた魔力を、強制的に引き出されている状態にあるという。生命維持に必要な力すら、どこかへ吸い上げられているのだと。

「その魔力は、一体どこで使われているんですか!」

ゼン・ニン(弟)が問う。デ・キールは、顎でくいとある一点を示した。その先にあるのは、Qの傍らに置かれた一本のペンライト――キュービーだった。

「てめぇこらぁッ!!」

「この朴念仁ぽくねんじんライトがァ!」

ゼン・ニン兄弟の怒りが爆発した。ペンライトに向かって、ありとあらゆる罵詈雑言が浴びせられる。

『いや、待て、これには深い訳が……!』

キュービーは必死に弁明しようとするが、今の彼に声はない。ただ明滅する光が、彼の焦燥を虚しく伝えているだけだった。

(ああ、オトギゾウシにも勝てず、少女一人も守れんとは。微熱を帯びた光を放つだけの道化師ピエロ……ここで終わりか)

キュービーが己の無力さを嘆いた、その時だった。

「まあ待て。彼女を起こすには、一つだけ方法がある」

デ・キールが、兄弟の罵倒を制するように口を開いた。その言葉に、二人はピタリと動きを止める。

「そ、それはどちらの愛のキスですか、師匠ッ!」

「兄者か!?それともワシか!?」

ゼン・ニン兄弟は、先程までの怒りはどこへやら、食い入るような真剣な眼差しでデ・キールに迫った。

「早まるでないわ、この朴念仁どもが」

デ・キールは若干引き気味に二人を諭すと、咳払いをして本題に戻った。

「この魔族の領地には、かつて人間、魔族にかかわらず、葬られた者の魂が集う場所がある。……終わりとはじまりの場所じゃ。そこへ行けば、彼女の魂を蝕む魔力の流れを断ち切り、助けられるやもしれん」

「それでは、その場所はどこに!」

デ・キールはゆっくりと、飛行艇の窓の外、地平線の彼方を指差した。

「それではすぐに向かいましょう!」

ゼン・ニン(兄)が、悲しみに暮れる暇もなく、即座に操縦室へ駆け出そうとする。過去の戦いの結果に囚われず、ただひたすらに今為すべきことを見据えるその前向きな姿に、デ・キールはハッとさせられた。

(…ふん。過去の敗北に打ちひしがれているワシとは大違いじゃな…)

彼は「待った」をかけた。

「飛行艇では目立つ。数を絞れ。最小限の人数で、密かに向かうのじゃ」

どうすれば良いのか。兄弟が再び頭を悩ませる。するとデ・キールは、ベッド脇のペンライトを指さした。

「そこに、出来の悪い勇者がおるじゃろう。乙女の棺を動かし、あの場所へ向かうのじゃ」

「しかし、それではQがまた魔力を消費してしまいます!」

当然の懸念だった。だが、デ・キールの顔には、もはや失意の影はなかった。彼はニヤリと口の端を吊り上げ、その目にはかつての天才技術者としての自信と、元師匠としてのプライドが満ち溢れていた。

「元弟子よ。ワシを誰だと思っておる。お前たちがそうまでして未来を掴もうというのなら、力を貸さぬ訳にはいくまい。その程度の問題、この元師匠であるワシが、見事に解決して見せようぞ」

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