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微熱の道化師  作者: だぶまん
微熱の道化師(異世界帰還編)
38/50

K.14「魔王は笑う」(AIが要約)

雷鳴斬の爆炎が晴れ、戦場には重い静寂が満ちていた。右腕を天に突き上げたまま沈黙する乙女の棺。その足元には、かつて勇者だった男、センキの乗機「戦の城」の残骸が黒い煙を上げていた。一つの戦いが、確かに終わったのだ。だが、安堵の息をつく間もなく、その静寂は不意に破られた。

「センキがやられたか」

声は、どこからともなく響いてきた。冷たく、感情の起伏を感じさせない、それでいて世界のすべてを見下しているかのような響き。乙女の棺――その実質的な操縦者であるキュービーは、弾かれたように声のした方へ機体を振り向かせた。

破壊された大地の上に、その存在はいた。

ぽつんと佇む、小さい人型の何か。夕暮れの逆光でシルエットになっているが、その輪郭は驚くほど華奢で、まるで子供のようにも見えた。

「誰だ」

キュービーが問いかける。その声には、最大級の警戒が滲んでいた。すると、その人型の何かは音もなくスッと動き出し、グッとこちらへ距離を詰めてきた。

その姿が、はっきりと露わになる。

悠久の時を生きてきたかのような深い闇を湛えていた。

「思ってたよりずっと小さいな。お前が私、オトギゾウシの最大の抵抗勢力というわけだ」

その存在は、自らを「オトギゾウシ」と名乗った。キュービーは状況を完全にはつかめなかったが、全身のセンサーが警鐘を鳴らすのとは別に、彼の魂が直感していた。このオトギゾウシという者から放たれるプレッシャーは、かつて対峙したQの父、魔族コ・イカゲと通じるものがある。だが、質が違う。コ・イカゲが抱いていた信念や葛藤といった人間的な揺らぎが、この存在からは一切感じられない。ただ純粋な、絶対者としてのオーラだけがそこにあった。

「お前が、魔族の親玉か」

キュービーの問いに、オトギゾウシは「いかにも」とこともなげに肯定した。その返事を聞くや否や、キュービーは思考より先に身体を動かしていた。咄嗟に乙女の棺から、最大出力の拳がオトギゾウシめがけて叩きつけられる。

しかし、その一撃が目標に届くことはなかった。

オトギゾウシは、ふわりと風船のように優雅にその攻撃を避けてみせる。凄まじい風圧が彼の衣服を揺らすのみで、その表情には一片の動揺すらない。力の次元が違うことを悟らせる、あまりに軽やかな動きだった。

「以前よりも弱い。なぜセンキが倒されてしまったのか」

オトギゾウシは、乙女の棺の動きを見切り、心底不思議そうにつぶやいた。その言葉はキュービーの核心を突く。今の乙女の棺は、パイロットであるQが意識を失っているため、機体が本来の性能を全く発揮できていない。機体の力は、搭乗者の心と深く繋がっているのだ。この目の前の敵は、それすらも見抜いている。

「人間界の平和を犯すのはやめろ」

焦りを押し殺し、キュービーは魔族の王に要求する。だが、返ってきたのは、慈悲もなければ交渉の余地もない、絶望的な宣言だった。

「これから魔族のための新世界が来る。いずれ人間はそのための糧になるだろう」

何のことかわからない。だが、その言葉が揺るぎない真実であることだけは理解できた。このままでは人間が滅んでしまう。そうはさせまいと、キュービーは乙女の棺の全機能を使ってオトギゾウシを捕獲しようと試みる。だが、またもオトギゾウシはふわりと攻撃を避け、その掌中に収まることはない。圧倒的な実力差は、埋めようがなかった。

オトギゾウシは、キュービーの必死の抵抗をまるで意に介さず、乙女の棺の内部――気を失ったままの謎の少女Qの存在を正確に感知していた。そして、彼女について、愉悦を滲ませた声で不吉な言葉を残す。

「その娘、もうすぐ魔族になるぞ。楽しみだ」

それは、Qが魔族コ・イカゲの血を引くという出自に深く関わる、呪いのような予言だった。彼女の身体や心に、今後、抗いがたい魔族としての変化が訪れることを暗示していた。

その言葉を最後に、オトギゾウシは空間に溶けるように、忽然と姿を消した。

戦場には、再び静寂が戻る。

しかし、先程までのそれとは全く違う、底知れない絶望の気配をはらんだ静寂だった。沈黙した乙女の棺と、その中で気を失ったままのQだけが、そこに残された。最強の敵の出現と、Qの身に迫る異変の予兆が、一行の未来に、あまりにも濃い影を落としていた。


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