K.8「駆け引き」(AIが要約)
──誰のために戦うのか。誰の痛みに応えるのか。
「……あなたは、人間に利用されているのです」
メロメルの声は静かで、どこか切なげだった。
その言葉は、確かに少女Qの心の奥を揺らす。
「乙女の棺はただの“魂の器”に過ぎない。自分の意思で動けるわけじゃない。
でも、あなたは違う。あなたはこの器に“魂”を与えられる特別な存在。
その力は魔族にも人間にも、そしてこの戦争そのものにとっても――決定的な意味があるのです」
「私たち魔族と手を組みましょう。
あなたが戻ってきても、誰も責めない。
共存なんて幻想のために、自分を壊すのはもうやめましょう。」
──共存は幻想。人間は私を利用しているだけ。
メロメルの言葉が、Qの胸にひそんでいた不安を容赦なく暴き出す。
「……っ!」
Qは拳を握りしめるが、力はすぐに抜けていった。
立ち尽くし、思考は混乱する。
自分は何のために戦っているのか。何を信じればいいのか。
心が、崩れそうだった。
その時、乙女の棺のディスプレイに文字がぽつりと浮かぶ。
『メロメルの話は、半分は事実で、半分は嘘だ』
「……!」
淡い光が文字を照らす。
『僕の名は弱者太郎、通称キュービー。
コ・イカゲは僕が葬った。でも彼は立派だった。
人間と魔族の共存――馬鹿げた挑戦に真剣に挑んでいたんだ』
Qは眉をひそめ、そっと画面に指をのばす。
「……この文字、まさか……」
乙女の棺のインターフェースは無機質に輝く。
最初は“棺”自身の自己対話だと思っていた。
けれど——
《違うよ、Q》
脳内に優しくてどこか抜けた、懐かしい声が響いた。
「……!」
Qは息を呑む。
《これは僕の言葉。乙女の棺じゃない、僕――弱者太郎、通称キュービーの声だよ》
思い出す。ピンク色の消しゴムみたいな、でもどこか強かったあの姿。
《僕は今、この兵器のシステムにいる。だからディスプレイを通して話してるんだ》
光がまた文字を映し出す。
『君はまだ気づいてないかもしれないけど――この戦いは、君だけのものじゃない。
僕も、ここにちゃんといる。』
Qの胸の奥に、小さな温もりが灯った。
そうか。この声は、あの弱くて強かった“誰か”の声だ。
「……やっと話したのね」
懺悔のような、告白のような、静かな声。
だけどその響きは確かだった。
Qは問いかけた。
「じゃあ、何が違ったの?あなたと彼では」
キュービーは少し間を置き、静かに答えた。
「誰かの犠牲の上にしか平和は成り立たない。
だとしても、その痛みを理解しようとしない者が作る平和は、どこか空っぽだ。
コ・イカゲは、君と君の母だけが平和な世界を作ろうとしていた」
Qは息を飲む。まるで心の奥を見透かされた気がした。
そしてキュービーは続けた。
「Q。君は仲間を裏切ったあと――笑顔でいられそうか?」
試すように、でも優しく問いかけるその言葉が、
Qの胸にずっしりと重くのしかかる。
メロメルの誘いとキュービーの問いかけ。
信じていた世界が揺れ、選ぶべき道が見えなくなる。
──Qは悩んだ。深く、深く。
やがて彼女は、静かに口を開いた。
「……まだ、答えは出せない。
でも、今はここにいたい」
その決断は、「保留」。
だが、それは逃げではない。
自分の心で選ぶための、
大切な時間を求める少女なりの精一杯の答えだった。




