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微熱の道化師  作者: だぶまん
微熱の道化師(異世界帰還編)
29/50

K.5「老いたる獅子の告白」

飛行艇の医務室には、重い沈黙が満ちていた。ベッドの上で、捕虜となった天才技術者デ・キール・ウ・デマエは、遠い目をして語り始めた。それは、ゼン・ニン兄弟が彼の元を去った後の、後悔に満ちた昔話だった。

「お前たちが、“スタバリス事件”でワシの元を去った後じゃ…」

デ・キールは苦々しげに口を開いた。

「残った弟子たちは、それはもう熱心にワシの技術を吸収していった。ワシも老い先短い身、後継者が育つことに満足しておった。じゃが……ワシの持つ技術の全てを継承し終えた時、奴らは本性を現した」

デ・キールの声が、悔しさに震える。

「奴らは……ワシの弟子たちは、皆、魔族じゃったのだ。人の姿に化け、ワシの技術を盗むためだけに、長年ワシを欺いておった」

その事実に、ゼン・ニン兄弟は息を呑んだ。

「人間の弟子も、僅かにおった。じゃが、ワシが真実に気付いた頃には、もう手遅れじゃった。口封じのためか、皆、綺麗に“消され”てしもうたわ……」

老人の肩が、小さく震えた。

「そして今や、奴らはワシの技術を継承するだけに飽き足らず、それを独自に“発展”させおった。奴らが造り上げた『真の魔具人形』は、もはや兵器という枠を超え、魔族の権力者たちが住まう巨大な『城』として、あの地に君臨しておる」

デ・キールは、深く刻まれた皺の奥で、己の無力さを噛み締めるように言った。

「ワシは……とんでもない過ちを犯してしまった。この手で、世界を脅かす災厄を生み出してしまったのじゃ……」

「だとしても、なぜあなたは魔族と共闘していたんですか!」

ゼンが、抑えきれない感情をぶつける。師が犯した過ちへの怒りか、それとも師を想う悲しみか。

デ・キールは、バツが悪そうに視線を逸らした。

「……それは、まあ、なんというか、偶然じゃ」

「「は?」」

兄弟の声が揃う。

「ワシは奴らから逃げ出した後、己の技術の粋を集めた巨大防具を試作しておった。すると、たまたま、そこに大魔族軍団が通りかかり……ワシの作った巨大防具を、強力な『魔具人形』と勘違いし……ワシを、たまたま、軍団長へと祭り上げてしまったのじゃ……」

あまりに間抜けな経緯に、医務室の緊張感が一気に弛緩する。どうやらこの老人は、天才的な技術力とは裏腹に、致命的に運が悪く、流されやすい性格らしい。

「……それで、師匠。これから、どうするおつもりですか」

ゼン・ニン(弟)が、呆れと同情の入り混じった声で問いかけた。すると、デ・キールは視線を床に落とし、もじもじとしながら、蚊の鳴くような声で呟いた。

「……たい」

「え?」

聞き取れなかった兄弟が、顔を近づけて聞き返す。デ・キールは、顔を真っ赤にしながら、腹の底から絞り出すように叫んだ。

「お、お前らと一緒に、戦いたいんじゃあっ!」

それは、素直になれない老人の、精一杯の懇願だった。弟子に裏切られ、孤独に苛まれた彼が、唯一信じられる元弟子たちに差し出した、助けを求める手。

そのツンデレな告白に、ゼン・ニン兄弟は顔を見合わせ、そしてふっと笑った。

「私たちは、一向にかまいませんよ。師匠」

ゼン・ニン(兄)が、きっぱりと言った。

「また一緒に、最高の“武具”を作りましょう、師匠!」

ゼン・ニン(弟)が、ニカッと笑う。

こうして、敵だったはずの天才技術者デ・キールは、心強い(そして少し面倒くさい)仲間として、一行に加わることになった。

その頃、Qの操縦席で回復に努めていたキュービーは、原因不明の悪寒に身を震わせていた。

それは、デ・キールという強敵と対峙した時の恐怖とは、また質の違う、もっと根源的で、冒涜的な何か。まるで、世界の理そのものが軋むような、不穏な感覚。

『……なんだ?この胸騒ぎは……』

キュービーの聖なる光が、不安げに揺らめいていた。彼の第六感が、デ・キールの語った『真の魔具人形』がもたらすであろう、本当の災厄の足音を、確かに感じ取っていたのだった。


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