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微熱の道化師  作者: だぶまん
微熱の道化師(異世界帰還編)
26/48

K.2「迷い」(AIが要約)

あの壮絶な戦いから数日、少女Qの心は深い霧に覆われていた。

「英雄様だ」「あの乙女の棺があれば百人力だな」

母艦のクルーたちが向ける賞賛と期待の声が、ガラスの破片となってQの心を深く傷つける。英雄?この私が?あの街を瓦礫に変えた私が?守ったはずの民の笑顔は思い出せず、ただ自分が破壊した残骸の光景だけが、悪夢のように瞼の裏に焼き付いて離れない。

「私、みんなを救ったんだよね…?」

その問いに答える者はなく、自分を肯定してくれるものがこの世界には何もないように思えた。

その夜、Qは決意を固めた。

誰にも告げず格納庫へ向かうと、純白の巨体『乙女の棺』だけが静かに彼女を待っていた。微かな起動音と共に、Qは操縦桿を握る。眼下に広がる闇夜の空へ、乙女の棺は音もなく滑り出した。母艦に響き渡る警報を背に、彼女はもう振り返らなかった。

当てもなく飛び続け、夜が明けた頃、原生林に抱かれた宝石のような湖が眼下に現れた。まるでこの世の汚れを知らないエメラルドグリーンの水面。Qは吸い寄せられるように湖畔に降り立ち、祈るようにそっと身を浸した。ひんやりとした水が、燃えるように熱い罪悪感をわずかに和らげてくれる気がした。

「……きれい」

束の間、彼女はただの少女に戻っていた。だが、その儚い平穏は、獣の咆哮によって無残に引き裂かれる。

「見つけたぞ!『魔具人形』の乗り手だ!」

茂みから躍り出た魔族の部隊に、Qは抵抗する間もなく捕らえられた。乙女の棺も強力な電磁パルスによって沈黙させられ、鹵獲されていく。薄れゆく意識の中、Qは深い絶望に沈んでいった。

次にQが目を覚ましたのは、湿った石造りの牢獄だった。冷たい枷で壁に拘束され、目の前には禍々しいオーラを放つ魔族のリーダーが歪んだ笑みを浮かべている。

「さあ、貴様の知る情報を根こそぎ引きずり出してやろう。まずは、その美しい顔から皮を剥ぐのがよさそうだな」

鉄の焼ける匂いと、剥き出しの悪意。恐怖で凍り付いたQの心が、完全に闇に飲み込まれようとした、その時だった。

ドゴォォォン!!

凄まじい破壊音と共に、牢の壁が内側から突き破られた。粉塵の向こうに現れたのは、沈黙したはずの『乙女の棺』。その赤いモノアイは、怒りの炎で燃え盛っているように見えた。

「な、なぜ動く!?」

魔族たちの驚愕を意にも介さず、乙女の棺は明確な「意志」を持ってアームを振るい、敵を薙ぎ倒す。それはプログラムによる動きではない、魂の咆哮だった。

乙女の棺は枷をいとも簡単に引きちぎると、その巨大な掌で、壊れ物を扱うように優しくQを包み込む。コックピットに収容されたQの脳内に、直接、温かく力強い意志が流れ込んできた。

『…ダイジョウブ…?』

『キミヲ…マモル…』

どんな言葉よりも雄弁に、彼女の心に響いた。自分を無条件に肯定し、守ろうとしてくれる存在。孤独な戦場で、Qは初めて絶対的な味方を見つけたのだ。

「ありがとう……」

涙が、とめどなく溢れた。

アジトを脱出した直後、駆け付けたゼン・ニン兄弟に救助され、母艦に連れ戻されたQを待っていたのは、ゼン・ニン兄弟の雷だった。

「この大馬鹿者がァッ!」

ゴツン、と痛みのない拳骨が落ちる。「どれだけ心配したと思っとる!勝手な真似をしおって!」

だが、その怒声の奥にある声の震えと安堵の色に、Qは気づいていた。まるで迷子の娘を叱る父親のような、不器用で温かい感情だった。

叱責が終わり、俯いていたQはぽつりと呟く。

「……ごめんなさい」

そして、ゆっくりと顔を上げた。その口元には、瓦礫の街で失って以来、誰も見たことのなかった微笑みが、ほんの少しだけ浮かんでいた。

Qの孤独な戦いは、終わった。これからは、一人じゃない。無骨な巨人と、不器用な兄弟と共に、彼女は再び前を向く。

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