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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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返品理由:夢見が悪かったため──世界一あいまいな承認フロー

大宮ふとん店には、

返品カウンターがない。

あるのは、祖母の気分だけだ。


ある日、客がやって来た。

腕に抱えているのは、昨日買ったばかりのふとん。


「展示してたのと、なんか違うんです」


祖母は即座に言った。


「気にしない、気にしない」


それで話は終わった。

展示品と違う?

色味が違う?

厚みが違う?


気にしない、気にしない。


この言葉が出た瞬間、

返品の可能性は雲散霧消する。


ところが次の日、

別の客が同じようにふとんを抱えて現れた。


「この布団……夢が変だったんです」


祖母は一瞬、真顔になった。


「……それは合わなかったねぇ」


その場で返品成立。


レジも書類も不要。

理由はただ一行。


「夢が変だった」


父は新聞を畳みながら言う。


「夢は大事だな」


母も頷く。


「寝具は夢まで含めて相性だから」


どこにも書いていないが、

これが大宮ふとん店の

返品ポリシー第零条だ。


返品理由は、曖昧でいい。

ただし、順番がある。


・サイズが合わない → 気にしない

・色が違う → 気にしない

・家族に反対された → 気にしない

・夢が変だった → 即、通過


祖母の判断は、

理屈ではない。


天気、湿度、

朝ドラの展開、

父の競輪の結果。


すべてが複合的に絡み合う。


晴れの日は寛容。

雨の日は渋い。

父が的中した日は、

何でも通る。


外れた日は――

だいたい「気にしない」。


ある客が聞いた。


「返品の基準は、何ですか?」


祖母は笑った。


「今日は寒いねぇ」


答えになっていないが、

それが答えだった。


もしこの店の対応を、

神戸の港の人工島に鎮座する

国家規模の超高速計算機に

入力したとしよう。


気温、気圧、

湿度、祖母の睡眠時間、

父の配当、

クロじいの機嫌。


全パラメータを与えても、

今日の営業時間が

何時に終わるかすら

予測できない。


ましてや、

返品が通るかどうかなど、

計算不能。


科学は敗北する。


ある日、

理屈っぽい客が来た。


「夢って、

 具体的にどんな内容なら

 返品対象ですか?」


祖母は考えた。


「……色がうるさかったら」


夢に色味の概念が

導入された瞬間だった。


父は言う。


「俺は夢見ないから

 返品できないな」


母は言う。


「私はだいたい夢が続編」


クロじいは、

ふとんの上で一言。


「にゃ」


――訳すと、

「夢は布団が選ぶ」


大宮ふとん店には、

接客マニュアルが存在しない。


あるのは、

その日の空気と、

人の感覚だけ。


だから今日も、

誰かの返品は通り、

誰かの返品は

「気にしない」で終わる。


夢が変だったら、

それは合わなかった。


理屈が通らなくても、

なぜか納得してしまう。


ここは、

上尾のトワイライトゾーン。


そして祖母は今日も、

あいまいな世界を

完璧に運営している。

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