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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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95/110

保証書は脳内保管──覚えてるうちは、だいたい新品

大宮ふとん店で、

一年に数回だけ起こる重大イベントがある。


**「ふとんが売れる日」**だ。


その日、

珍しく理路整然とした客が現れた。


素材、厚み、産地、

すべてを確認し、最後にこう聞いた。


「保証期間は、どれくらいですか?」


店内の空気が、

一瞬止まる。


祖母は、

ふとんを撫でながら言った。


「保証?

……覚えてるうちは、だねぇ」


客は聞き返す。


「……何年、でしょうか?」


祖母は即答した。


「年じゃない」


どうやら

単位が違うらしい。


「私が覚えてるうちは、

 何かあったら言いな」


客の脳内で、

法律が崩壊した。


祖母は続ける。


「忘れたら、

 それは寿命だね」


保証期間=

祖母の記憶力次第。


これが、

大宮ふとん店の

公式アフターサービスである。


母も補足する。


「私が覚えてたら、

 それも保証ってことで」


父は新聞を見たまま言う。


「俺はだいたい覚えてない」


三者三様だが、

全員あいまい。


別の日。


別の客が聞く。


「このふとん、

 何年保証ですか?」


祖母は少し考えて言った。


「これはねぇ……

 平成の終わり頃に入ったやつ」


保証期間が

元号ベースになった。


「じゃあ、

 もう保証切れてます?」


「いやいや」


祖母は首を振る。


「昨日も覚えてた」


記憶があれば、延長。


数日後、

別の客が同じふとんを見て聞く。


「保証は?」


祖母は首をかしげる。


「……あれ?

 これ、誰のだっけ?」


その瞬間、

保証は終了した。


まさに、

保証期間ガチャ。


SSR:十年以上覚えてる

R:なんとなく覚えてる

N:もう忘れた


客は運試しだ。


父に聞くと、

さらに雑になる。


「壊れたら持ってくりゃいい」


「直りますか?」


「覚えてたらな」


全員、

記憶基準。


ある客は言った。


「保証書は、ありますか?」


祖母は胸を張る。


「あるよ」


そう言って、

自分のこめかみを指差した。


「ここ」


脳内クラウド。


しかも、

バックアップなし。


母は言う。


「メモ?

 そんなの、風情がない」


父は言う。


「保証書なくても、

 競輪は当たる」


意味は不明だ。


だが不思議なことに、

この保証制度、

クレームがほぼない。


なぜなら、

客もだんだん

適応してくる。


「覚えてます?」


と、

祖母に確認するようになる。


祖母は笑う。


「今日は覚えてるよ」


それで安心する。


ある意味、

世界一人間的な保証制度。


クロじいは、

ふとんの上で丸まりながら

聞いている。


「……にゃ」


――訳すと、

「忘れた頃が買い替え時」。


大宮ふとん店では、

保証は紙に書かれない。


記憶に残っている限り、

ふとんは新品扱い。


そして今日も、

誰かの保証が、

静かに延長された。

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