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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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晴れたら行く、降ったらやめる──天気に支配された配送の王

大宮ふとん店の配送は、

一般的な物流の概念から大きく外れている。


まず、

日時指定という考え方がない。


あるのは、

天気だけだ。


その日、

布団を購入した客が、恐る恐る聞いた。


「配送は、いつ頃になりますか?」


祖母は即答しなかった。

代わりに、奥へ声をかける。


「今日はどうかね?」


呼ばれた父は、

競輪新聞から目を離さずに言った。


「……風、吹いてるな」


それで決まった。


「今日は無理だね」


理由は、

風が吹いているから。


配送担当である麗奈の父は、

配送において独自の哲学を持っている。


・風が強い → 遅刻

・雨が降る → 休み

・曇っている → 様子見

・晴れている → 行けるかもしれない


客は混乱する。


「……では、明日ですか?」


父は天気予報を見る。


「雨だな」


祖母が頷く。


「じゃあ無理だ」


配送は、

天候優先である。


この姿勢は、

どこかで聞いたことがある。


そう、

風が吹いたら遅刻して

 雨が降ったらお休みで

でおなじみの、

あの南国の王様だ。


まさに、

上尾のカメハメハ大王。


配送車はある。

ガソリンも入っている。

体調も悪くない。


だが、

空が荒れていれば、

一切動かない。


別の日。


快晴。


「今日は行けるね」


父はそう言って、

ゆっくり立ち上がる。


だが次の瞬間、

風が一吹き。


「……やっぱり遅れる」


理由は、

風向きが変わった気がしたから。


客から電話が来る。


「今日は来ますか?」


祖母が受話器を取る。


「天気しだいだねぇ」


それ以上の説明はない。


父は言う。


「雨の日は布団が濡れる」


一理ある。


「風の日は飛ぶ」


どこへかは不明。


「曇りは気分が乗らない」


完全に個人の感想だ。


だが、

誰も反論しない。


なぜなら、

この配送ルールは

昔からそうだったからだ。


営業日誌には、

こんな記録が残っている。


本日

配送予定あり

風あり

延期


別の日はこうだ。


本日

配送中止

クロじいも寝ていた


配送判断に、

猫の様子が含まれている。


ある日、

客が言った。


「急ぎなんですが……」


父は考えた。


空を見る。

風を見る。

新聞を見る。


「……無理だな」


「理由は……?」


「今日は競輪が荒れてる」


天候ですらない。


それでも、

不思議なことが起きる。


晴れ間が続いた日、

父は突然やる気を出す。


「今だな」


何の前触れもなく、

配送車が動く。


客は驚く。


「今日来るとは思ってませんでした」


父は言う。


「天気がいいからな」


結果、

布団は無事に届く。


客は最後にこう言う。


「……でも、

 ちゃんと届きましたね」


祖母は頷く。


「そうだろう」


配送は遅れる。

延期される。

休まれる。


だが、

消えない。


必ず、

晴れた日に、

何事もなかったように来る。


クロじいが、

配送車の影で伸びをする。


「……にゃ」


――訳すと、

「天気は逆らうものじゃない」。


大宮ふとん店の配送は、

今日も空を見上げている。


時間ではなく、

雲と風に従いながら。


晴れたら、

行くかもしれない。

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