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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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本日の売上ゼロ──それでも日誌は埋まっている店

今でこそ、

麗奈ファンがふらりと立ち寄り、

写真を撮り、

迷い、

時々寝ていく大宮ふとん店だが――


昔は違った。


普通に、

売上ゼロの日があった。


しかも、

たまにではない。

割とあった。


その日もそうだった。


朝、祖母は店を開け、

布団を軽く整え、

クロじいに声をかけた。


「今日はどうかねぇ」


クロじいは返事をしない。

ただ、布団の上で丸くなった。


昼。

誰も来ない。


午後。

誰も来ない。


夕方。

風だけが通る。


祖母は、

ため息をつくでもなく、

帳簿を開いた。


そこに書かれていたのは、

売上ではない。


本日

クロじい、昼頃から機嫌よし

天気は曇り

八百屋の人と世間話


金額欄は、

空白。


あるいは、

小さくこう書いてある。


売上なし


それだけだ。


気にする様子は、

一切ない。


父が夕方に顔を出して言った。


「今日はどうだった?」


祖母は即答した。


「静かだったよ」


それで会話は終わった。


母が奥から出てきて言う。


「クロじい、今日はよく寝てたね」


「そうだねぇ」


売上の話は出ない。


なぜなら、

大宮ふとん店において

売上は「話題の優先順位が低い」からだ。


ある日の営業日誌には、

こうも書かれていた。


本日

クロじい、知らない猫とにらみ合う

午後から雨

売上は…まあいい


別の日はこうだ。


本日

クロじい、ずっと奥

世間は忙しそう

何も起きず


帳簿なのか、

日記なのか、

誰にも分からない。


だが、

毎日きちんと埋まっている。


売上がゼロでも、

書くことはある。


クロじいのこと。

天気のこと。

商店街の噂話。


そして、

なぜかそれで問題が起きたことはない。


なぜなら、

誰も売上を確認しないからだ。


今では、

麗奈ファンが来て、

売上ゼロの日は減った。


だが、

営業日誌の書き方は変わらない。


今日のページにも、

こう書かれている。


本日

人が多かった

クロじい、落ち着かず

写真撮られすぎ


金額欄は、

やはり控えめだ。


夜、

帳簿の横でクロじいが伸びをする。


「……にゃ」


――訳すと、

「売れなくても、生きている」。


大宮ふとん店は、

今日もたぶん営業している。

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