潰れぬふとん屋、噂の公安支部説
上尾中央商栄会の七不思議のひとつ――
「なぜ大宮ふとん店は潰れないのか?」
レジは壊れ、釣り銭は不足し、在庫は時空の彼方。
営業時間は天気次第。
これでどうやって経営が成り立つのか、
商店街の誰もが首をかしげている。
その謎の答えとして、最近囁かれているのが**“公安隠れ蓑説”。
噂の発端は、麗奈の父の不審な行動だ。
彼は大宮ふとん店のロゴが色あせたワゴン車(※「大宮 とん店」に見える)で、
週に何度も埼玉県警本部**に出入りしている。
「見たことあるぞ。県警の裏口から入ってた!」
「いや、正面から入って幹部と握手してた!」
「まさか公安関係じゃないか?」
――噂は瞬く間に商店街を駆け巡った。
ある日の午後、県警本部の会議室。
麗奈の父と県警幹部が机を挟んで向かい合う。
部屋の外では、職員たちがひそひそと囁く。
「また大宮ふとん店の人が来てる…今日も機密会議だ」
だが、実際の中身は――
「昨日の最終12R、◎のライン切れたのが痛かったなぁ」
「いやぁ、オレは単騎の△狙ってたんだよ」
「おっ、それ渋いねぇ!」
――ただの競輪トーク90分である。
一応、最初の2分だけは商談がある。
父が台本のように言う。
「貸し布団、次の警察学校の研修で20組よろしくね」
「はいはい、じゃあ次のレース、2車単で3-7どう思う?」
そこからは国家機密よりも車券作戦。
商店街では噂が噂を呼び、都市伝説化。
「大宮ふとん店は公安の出先機関」
「麗奈の父は公安のエージェント」
「布団の中に盗聴器が仕込まれている」
――そのどれもが嘘だが、当の父は否定しない。
「まあ、言いたい人には言わせとけばいい」
とニヤリと笑うその顔が、また疑惑を深めている。
――今日も大宮ふとん店は、のんきに店を開けたり閉めたり。
潰れない理由? それはたぶん、
布団の神様が「この店は面白い」と思っているからだろう。




