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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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200キロ歩いた先で眠る──試し寝OKが本気だった店

その観光客は、疲れていた。


上尾中央商栄会に足を踏み入れた時点では、

まだ元気だったのだ。


「麗奈ちゃん通り →」


その矢印を信じ、

巡礼者は歩いた。

写真を撮り、

迷い、

同じ八百屋を三度見て、

喫茶店でコーヒーを飲み、

再び歩いた。


途中で目に入った看板が、

決定打だった。


大宮ふとん店 → 200km


「……200km?」


一瞬首を傾げたが、

ここまで来たのだから、

もう引き返せなかった。


結果、

心理的に200km歩いた巡礼者は、

夕方、ようやく大宮ふとん店に辿り着いた。


扉を開けると、

昭和の空気が流れ込む。


布団。

布団。

布団。


そして貼り紙。


「試し寝OK」


巡礼者は正直に言った。


「買うかどうかは、まだ……」


祖母は即答した。


「いいよ」


理由は聞かれなかった。


巡礼者は布団に横になった。

最初は、様子見だった。

だが足の疲れ、

頭の重さ、

歩き続けた200km(気分)。


気づけば、

本気で寝ていた。


店内に、

静かな寝息が響く。


祖母はそれを見て、

少し考えたあと、



そっと毛布を掛けた。


「冷えるからねぇ」


それだけだった。


30分後、

巡礼者は目を覚ました。


「あ……すみません……!」


祖母はにこりと笑う。


「よく寝てたよ」


「……すごく、気持ちよかったです」


「そうかい」


結局、

巡礼者は布団を買わなかった。


だが、

深々と頭を下げて言った。


「ここまで来てよかったです」


祖母は頷いた。


「それなら、いいよ」


その夜、

SNSに一枚の写真が上がった。


《大宮ふとん店

試し寝したら本気で寝た》


コメントはこうだ。


「これはもう宿」

「200km歩いた後なら当然」

「布団屋の本気を見た」


翌日、

同じように疲れた巡礼者が増えた。


試し寝。

熟睡。

毛布。


いつの間にか、

口コミが変わっていた。


「買わなくても、寝ていい店」


麗奈がその話を聞いて、

呆れ半分、笑い半分で言った。


「……それ、ふとん屋としてどうなん?」


祖母は即答した。


「寝られたなら、十分でしょ」


店の奥では、

クロじいが布団の上で丸くなっていた。


「……にゃ」


――訳すと、

**「200km歩いたなら、寝ていけ」**である。



買わなくてもいい。

眠れれば、それでいい。


こうして今日も、

大宮ふとん店はたぶん営業している。

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