通りの名前は誰が決めた──上尾中央商栄会、ついにやらかす
上尾中央商栄会は、ただの悪ノリ集団ではなかった。
彼らは――一応、考えていた。
「最近さ、みんな大宮ふとん店に一直線だろ?」
「商店街、素通りされてるよな」
「じゃあさ……」
こうして誕生したのが、
**《麗奈ちゃん通り》**である。
ただし、この通り、
大宮ふとん店とは逆方向に伸びていた。
理由は単純明快だった。
「回遊性ってやつだよ」
「一回、商店街をぐるっと歩いてもらってからが本番」
つまり――
わざと迷わせる作戦である。
初見の巡礼者は看板を見る。
「麗奈ちゃん通り →」
そして素直に進む。
すると、古本屋、八百屋、喫茶店、文房具店。
・古本屋の軒先に「麗奈ちゃん通り協賛店」
・八百屋の値札に「麗奈ちゃん通り名物・深谷ねぎ」
・喫茶店の黒板に「麗奈ちゃん通りで一番落ち着く席」
「お、雰囲気いい」
「全部麗奈ちゃん関係?」
商店主は満面の笑みで言う。
「大宮ふとん店?そのうち着きますよ」
「だいたい、この先」
また“だいたい”。
だが、どれだけ進んでも、
大宮ふとん店は出てこない。
気づけば巡礼者は、
「……あれ?」
「さっきここ通った気がする」
「同じ八百屋を三回見た」
商店街は、
意図せず迷路と化していた。
夕方になると、
喫茶店に避難する巡礼者が増える。
「ホットコーヒーください……」
「足が……」
ついには商店街の掲示板に、
こんな貼り紙が出た。
《麗奈ちゃん通りご利用の方へ
大宮ふとん店は反対方向です》
しかし時すでに遅し。
SNSでは、
「上尾で遭難した」
「麗奈ちゃん通り、出口がない」
「これは回遊性じゃなくて試練」
という声が噴出。
商栄会の寄合は紛糾した。
「ちょっと迷わせるつもりだった」
「まさか辿り着けないとは」
「でも滞在時間は伸びてる」
そこへ一言。
「……遭難者、出てます」
全員が黙った。
結果、
商店街の回遊性は確かに向上した。
だが同時に、
“大宮ふとん店に辿り着けない巡礼者”という
新しい名物が誕生した。
そして当の本人はというと。
「え、麗奈ちゃん通り?」
「ウチとは逆方向じゃない?」
麗奈は地図を見て、深くため息をついた。
「……これはもう、
麗奈ちゃん案件じゃなくて
商店街案件ですね」
なにはともあれ、上尾中央商栄会の回遊性は高まったとさ。 めでたしめでたし。




