発祥してないのに発祥の地──大宮ふとん店・麗奈ちゃん案件最終形態
大宮ふとん店の朝は、だいたいいつも静かだ。
だが、その日は違った。
軒先に、見覚えのない看板が立っていた。
「麗奈ちゃん発祥の地」
文字は力強く、どこか丸みがあり、
妙に愛嬌のある“麗奈ちゃん”のイラスト付き。
しかも場所は、あの問題児――
「いんすたバエ」看板の真横。
やったのはもちろん、
店主にして悪ノリの権化、祖母である。
「最近よく聞くでしょ。麗奈ちゃん案件とか。
だったら、発祥の地もあった方が分かりやすいと思ってね」
分かりやすさの方向が完全に間違っていた。
通りがかりの巡礼者が足を止める。
「ここが…発祥の地ですか?」
「うん、この辺から始まったねぇ」
この辺。
範囲が半径三メートルほどである。
だが、問題はそこではなかった。
祖母の描いた「麗奈ちゃん」が、
異様に可愛いのだ。
昭和の香りをまとった丸い目、
なぜかセーラー服、
なぜか背景に星と布団。
「これは…エモい」
「昭和妖精って感じがする」
「ここで写真撮ろ」
気がつけば、
新たな“いんすた映え”スポットが誕生していた。
巡礼者は口々に言う。
「説明が適当なのが逆に良い」
「“この辺から始まった”って最高」
「公式じゃない感じが公式」
昼過ぎ、
麗奈本人が現場を目撃する。
「……え?」
「発祥の地?」
祖母は悪びれもせず言った。
「だって、あんたここで生まれたでしょ」
「それはそうだけど……
“麗奈ちゃん”って私じゃなくて……」
少し考えて、麗奈は首を傾げた。
「……私をモデルにした、
昭和の妖精ってことなら……
まあ、ここ発祥でもいいのかな……?」
納得したような、
していないような顔で、
結局そのまま放置された。
こうして大宮ふとん店の軒先には、
・いんすたバエ
・麗奈ちゃん発祥の地
・意味不明な説明
・可愛いイラスト
という、
情報量が多すぎる昭和スポットが完成した。
誰かがつぶやく。
「これ……完全に麗奈ちゃん案件だな」
説明不要、即納得、
ツッコむ気力は奪われる。
発祥していないのに発祥の地。
公式ではないのに聖地。
そして今日も、
祖母は看板の文字をなぞりながら言う。
「そのうち辞書にも載るかもしれないねぇ」
疑惑は深まり、
看板は増え、
麗奈ちゃん案件は、また一歩、現実を侵食した。




