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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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全国共通語になった魔法の三語──「麗奈ちゃん案件にて」拡散事件

国会で官房長官の口から放たれた一言は、法律でも政令でもなく、なぜか生活語として日本中に降りてきた。


緊急。即断。説明省略。

それらすべてを三秒で片づける便利な合言葉。

人々はそれを、親しみと畏怖を込めてこう呼び始めた。


——麗奈ちゃん案件。


最初に変化が現れたのは、市民生活のど真ん中だった。

役所の窓口で「すみません今日中にどうしても…」と小声で言うと、職員が周囲を見渡してから囁く。


「……それ、麗奈ちゃん案件ですか?」


頷いた瞬間、奥からベテラン職員が現れ、書類は三段飛ばしで処理される。

説明はない。理由も聞かれない。

だが、なぜか全員が納得している。


やがてこの言葉は、上尾中央商栄会にも流れ着いた。


月一の寄合。

いつもは三十分かけて決まらないティッシュ配布の色が、ある日突然五秒で決まった。


「これは……麗奈ちゃん案件でいこう」


誰が言い出したのか分からない。

だがその瞬間、全員が頷き、反対意見が蒸発した。


結果、意思決定は爆速。

会議は十分で終了。

残った時間で雑談が始まり、なぜか皆満足そうだった。


「便利だなぁ」

「説明しなくていいのが最高だ」

「責任の所在は?」

「麗奈ちゃんだろ」


誰も深く考えなかった。


さらにこの言葉は、人間界だけに留まらなかった。


上尾の裏路地。

空き地の片隅で不定期に開かれる上尾地域猫評議会。


若い地域猫たちが騒ぐ中、議長席のクロじいが、静かに前足を上げる。


「……この件は、麗奈ちゃん案件にゃ」


その瞬間、若い猫たちは一斉に散った。

説明不要。役割分担完了。

ゴミ袋の見回り、観光客のキャリーケース警戒、ハトの牽制まで、完璧な動きだった。


「さすがだ」

「クロじいの一声は違う」

「麗奈ちゃん案件、強すぎる」


クロじいは目を細め、ひとことだけ呟いた。


「便利な言葉は、使いすぎるとクセになるにゃ」


その頃、本人の麗奈は遠くでくしゃみをしていた。

理由は分からない。

だが日本のどこかで、また一つ、説明が省略された意思決定が成立したことだけは確かだった。


こうして——

「麗奈ちゃん案件」は、

日本最速で話が通る言葉として、

静かに、しかし確実に定着していった。

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