黒い稲妻とパン屋の修さん ― 腐れ縁ノワール上尾篇
上尾中央商栄会に“昭和の香りを残す二大遺産”がある。
ひとつは 大宮ふとん店。
もうひとつは ベーカリー中村。
そしてこの二つを結ぶ黒い影。
その名も――クロじい。
若き日は“黒い稲妻”。
今は“半分寝てる稲妻”。
地域猫のレジェンドであり、商店街の裏番長(自称)でもある。
クロじいがまだ若く、
「ニャアアアッ!」と甘い声で鳴けば
雌猫が遠くから走って来た黄金時代。
その頃から、
ふとん屋の先代とパン屋の先代は
ケンカと仲直りを年中繰り返していた。
店先で大声を張り上げてケンカし、
その横でクロじいはのんきに
パンの耳を盗み食いし、
ふとんの上で昼寝していた。
代替わりした今――
ふとん店は麗奈の祖母と父が継ぎ、
パン屋は修さんが継いだ。
が、腐れ縁だけは昭和からそのままタイムスリップして来た。
ふとん店に問題が起これば修さんが巻き込まれ、
パン屋で何かあるとふとん店が首を突っ込み、
その横でクロじいが
「ニャ(めんどくさい奴らだニャ)」
と、すべてを達観している。
ある日の昼下がり。
修さんが配達の帰りにふとん店の前を通りかかった瞬間、
クロじいが道に飛び出した。
「うおっと!? クロじい!? 危ねぇって!」
その瞬間、ふとん店の祖母が叫ぶ。
「あぁ修さん、ちょうどよかった!
FAXがまた紙詰まりで動かなくてねぇ!」
「えっ?またぁ~!?」
返事を聞いていない祖母は修さんの腕をつかみ、
半ば強引に店内へと連れ込む。
そこにはいつも通りの地獄絵図。
父は競輪新聞をFAXに挟んで詰まらせ、
母は得体の知れないボタンを押してエラーを増やし、
クロじいは棚の上から全てを俯瞰。
「どうしてこうなる……?
どうしてオレがこうなる……?」
なんとかFAXを復旧させた修さんが店を出ると、
背後からクロじいがついて来る。
「ニャァ(修さん、運命だニャ)」
「運命じゃねぇよ! 巻き込まれてるだけだよ!」
クロじいは肩(?)をすくめ、
パン屋方向へスタスタ歩く。
「ニャ(まぁ今日もパンくれ)」
「結局それかぁ!?」
夕暮れの商店街に、
修さんの嘆きと、クロじいの甘い鳴き声が混ざって響く。
のちに商店街の誰かが言う。
「クロじいは、ふとん店とパン屋をつなぐ最後の絆なんだよ」
そして今日も、
ふとん店とパン屋の間を
黒い影がゆるりと行き来する。
なぜか毎回事件に巻き込まれる修さんを連れて。
腐れ縁は続く。
そして疑問も続く。
「なんでオレなんだ……?」
クロじいは答えない。
ただ目を細めるだけ。
商店街の伝説は今日も更新される。
パン屋とふとん屋、
そしてその黒い稲妻――
妙にしっくりくる三角関係だった。




