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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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黒い稲妻クロじい外伝・余生篇 ― 伝説、ふとんの上に眠る

かつて上尾中央商栄会に名を轟かせた雄猫がいた。

“黒い稲妻”と呼ばれ、

“上尾の火野正平”、

“和製フランク・シナトラ”とも称された――

伝説のプレーボーイ猫、クロである。


甘い声で雌猫も人間の女性も魅了し、

タヌキ軍団ともハクビシン野武士とも戦い、

猫侍七人衆を束ねたあの若き日のクロ。


だが、いかに強くとも、

寄る年波には勝てない。


クロはある日、

「もう恋も喧嘩もええニャ……」

と呟くように大宮ふとん店の軒先から姿を消した。


いや、消えたわけではない。

ふとんの上で寝ていただけである。


若い頃は屋根、路地裏、電柱の上を転々としていたクロも、

老境に入るとふとんの魅力に抗えなくなった。


特に、

大宮ふとん店の“昭和の綿ふとんゾーン”はお気に入りで、

麗奈祖母が

「そこは座布団置き場だよ」

と言っても動かない。


それほど快適らしい。


しかし静かな老後にも事件は起きる。


麗奈祖母が“いんすたバエ”と勘違いして設置したハエトリガミ。

これが曲者だった。


ある夕方、クロが縁側を通った瞬間――

ぺたっ。


額がくっついた。


「おやまぁ、クロじいが獲れたよ」

と祖母が言うと、家族は爆笑。

クロは大変不機嫌である。


それ以来、ハエトリガミの前を通るときだけ、

元伝説の戦士らしからぬ慎重さを見せる。



――いんすたバエ看板にも苦言を呈す


麗奈母は、猫のにゃん語を“何となく”理解できる特殊能力がある。

そのため、クロは店舗に関する意見もよく彼女に伝える。


最近の相談は――


「いんすたバエの看板、あそこだと逆光で見えんニャ。

もう少し東寄りに動かすニャ」


客目線か猫目線かは不明だが、

麗奈母はその都度、

「クロじいが言ってたよ」と祖母に伝えて調整している。


結果として店の集客が微妙に改善することもあり、

クロはほぼ顧問扱いとなった。


クロの影響力は店舗内だけではない。


地域猫たちの不定期集会――

正式名称 「上尾地域猫評議会」。


ここでクロは議長を務めている。


新入り猫を迎えるとき、クロはゆっくり歩み寄り、

尻尾を一振りして歓迎の意を示す。


若猫たちは興奮して言う。

「本物ニャ!」

「伝説のクロ兄だニャ!」

「耳の欠け、あれが本物の勲章ニャ……!」


クロは照れ隠しに毛づくろいをしながら、

昔日の自分をほんの少しだけ思い出す。


若き日の恋も、

戦いも、

七人の侍(猫)たちとの絆も、

今はすべて遠い記憶だ。


しかし、

ふとんの上で丸くなっているクロの姿を見れば誰でも気づく。


“彼はまだ生きる伝説”だと。


新入りの猫が

「クロ兄、若い頃すごかったんでしょ?」

と訊くと、

クロは目を細め、尻尾をゆっくり揺らしながら言う。


「……昔のことは、あまり覚えてないニャ」


その渋さとカッコよさに、

若猫たちはまた惚れるのであった。

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