スタンプは芸術だ 〜押してナンボの人生劇場〜
上尾中央商栄会のもうひとつの名物、それが「スタンプカード」。
300円で1個押印、いっぱい貯めると豪華(?)景品と交換できる。
――ただし大宮ふとん店で押してもらう場合、その価値は未知数だ。
まず祖母。
この人の押印は、もはや芸術の域に達している。
「ほいっ」と勢いよく押したと思えば、スタンプが90度回転。
次に押したのは真っ逆さま。
そして3つ目はインクが薄すぎて判読不能。
もはやスタンプカードというより抽象画だ。
母は几帳面なようでそうでもない。
「300円で1個ね」と言いながら、
客が複雑な値段の商品を買うと暗算が追いつかず、
「ええい、面倒だから5個押しちゃえ!」とドン。
押印後に「あれ?うち損してる?」と気づくが、もう遅い。
そして父。
父はインクの補充をサボるので、スタンプは常に乾燥気味。
押してもかすれて何がなんだか分からない。
しかも酒気を帯びていると、スタンプが1cmずつズレて押されていく。
1列に押すはずが、ジグザグに登っていき、最終的に富士山の稜線みたいな形に。
「これも味ってもんだ」と本人はご満悦。
おまけに押す位置も自由奔放。
カードの裏面、端っこ、時には領収書の裏にまで押されている。
「ほら、押したでしょ?」
――確かに押した。場所が違うだけで。
商店街組合は当然のように何度も注意した。
「大宮さん、ちゃんと300円ごとに押してください」
祖母は満面の笑みで答える。
「はいはい、300円に1個ね。心を込めて押してますよ」
その“心”が強すぎて、次の日にはスタンプ台が真っ赤に洪水。
組合長が呆れ顔で言う。
「もう大宮さんのスタンプは芸術だから…」
今では**“上尾派抽象印章”**として密かにファンもいるという噂。
子どもたちは楽しそうに言う。
「大宮さんのとこで押してもらうと“レアスタンプ”になるんだ!」
――そう、もはやこれは収集アイテム。
今日も祖母は笑顔で言う。
「スタンプはね、まっすぐ押すより、心がこもってるほうがええのよ」
その瞬間、インクがはねてカードが真っ赤に染まる。
――大宮ふとん店のスタンプ、今日も愛と滲みでいっぱいである。




