地域猫評議会・上尾中央商栄会再建の乱 〜七猫侍、令和の商店街を斬る〜
夜九時。上尾中央商栄会の裏手にある、草が生え放題の空き地──通称「猫ヶ原」。
その中心に、妙に風格のある石の台が置かれ、その上にクロじいが鎮座していた。
「……では、これより《上尾中央商栄会復興大方針ニャー会議》を始める」
昭和の商店街組合も顔負けの仰々しさで、地域猫たちの集会が幕を開けた。
顔ぶれは豪華。シロばあ、茶トラのサブ、ハチワレのマサ、キジトラの銀二、ホクロのあるミケ姉、三毛太郎──
そして以前、麗奈を写真週刊誌の記者から救った伝説の“七猫侍”が今回も勢揃いしている。
その横に、新入りの地域猫たちが緊張した面持ちで並ぶ。
クロじいが低く鳴く。
「商栄会は……いま、麗奈人気一本足打法で成り立っておる。だがな、お嬢(麗奈)は脇が甘い」
シロばあがうなずく。
「甘いよ。こないだも店の前で転びかけてたしねぇ。人気急落の未来が見えるよぉ」
ハチワレのマサが言う。
「っていうか、観光客が増えすぎて危険だニャ。ワシ、この前キャリーケースに轢かれそうになったニャ」
新入りの小柄な黒猫が手を挙げる。
「ワ、ワタシも……“インスタ映え猫”とか勝手に写真撮られてバズってました……」
ミケ姉がバシッと尻尾を振った。
「なら、観光客の動線を見直させないとダメだよ。猫の通り道にカラーコーンでも置いてもらうとか!」
銀二も賛成の声をあげる。
「それと、商店街は今こそ“猫コンテンツ”を公式化すべきだニャ。ウチらも協力するから、ポスターくらい作れニャ」
三毛太郎がねっとりした声で言う。
「ただしギャラは焼きかつお三本ニャ」
どこまでも建設的。どこまでも現実的。
人間以上に商店街の未来を案じる猫たち。
クロじいが締めの言葉を発した。
「これらの総意……例の“にゃん語が理解できる”人間に託す」
もちろん指名されたのは──麗奈の母。
半ば都市伝説になっているが、実際は猫の鳴き方から大体の雰囲気を察するだけである。
翌朝。
麗奈母は地域猫の代表として、商店街組合理事長のところへ行き、猫たちの要望を丁寧に伝えた。
「観光客の導線を見直すこと、猫の安全確保、猫を公式マスコットに……だそうです」
理事長は腕を組んでうなる。
「むむ……麗奈人気が急落したあとを考えると確かに備えは必要だ」
こうして、地域猫の意見はまさかの正式採用となった。
数日後。
商店街には猫専用横断ゾーンができ、ポスターには“七猫侍”の勇姿が描かれ、
うぐいすパンの売り上げが急に伸びて修さんが泣きながら喜ぶという謎の相乗効果まで発生した。
猫たちは、夜の「猫ヶ原」で静かにうなずき合う。
「これで……商店街も、まあしばらくは安泰だニャ」
クロじいが満足そうに尾を振った。
地域猫が商店街を救う──
上尾中央商栄会復興の影に、七猫侍あり。
そして、いつか語り継がれるのである。
“令和の商店街を再建したのは、人間ではなく猫であった”と。




