大宮ふとん店 “昭和マネータワー騒動” ―レジを開けたら歴史資料館だった件―
大宮ふとん店のレジは、平成どころか昭和で時間が止まっている。
いや、正確に言うと——
数年前に壊れているのに“金庫代わり”として使われているだけである。
「お釣りはここからねぇ」
と祖母が引き出しをガラッと開けると、
今日も巡礼者の視線が吸い寄せられる。
普通の店なら、小銭・紙幣がきちんと並んでいる。
しかし、この店のレジの中から出てくるのは——
ギザ10
「おぉ、平成の若者が見たことないやつ!」
板チョコみたいな五十円玉(穴が小さい旧タイプ)
「これ本物? 記念コインじゃなくて?」
茶色く変色した古い五円玉
「これ冗談抜きで戦前じゃ……?」
そして極めつけは——
伊藤博文の千円札
聖徳太子の一万円札
岩倉具視の五百円札
祖母
「おや、こんなのあったかい?」
父
「昔の財布から出てきたんじゃねぇか?」
母
「使えるならいいんじゃない?」
巡礼者
「いやいやいや!! 価値あるやつ!!」
大宮ふとん店ではよくある光景だ。
客「1,200円ですね」
祖母「はい、800円のお返しねぇ」
ガラッ……
岩倉具視の五百円札+茶色い百円玉+昭和30年代の十円玉
客「ちょ、ちょっと!! これ使えないですよね!?」
祖母「あらそう? でもお金だよ〜」
客「そうなんですけど——価値が……!!」
祖母はまったく気にしない。
父も同じ調子。
父
「うちでは普通だよ? なんなら太子の一万円も出るし」
客
「それお釣りに出てきたら事件ですよ!!」
SNSで“レジの中が昭和の古銭博物館”とバズったことで、
今度は古銭マニアたちがピンポイントで巡礼に来る。
古銭ファン
「すみません、今日も太子札あります?」
祖母
「あるのかねぇ……開けてみるよ。えーと……あったあった」
古銭ファン
「え……本当に出てくるんだ……」
別のファン
「ギザ10、まだ流通してるんですか?」
父
「そこら中に落ちてるよ」
※落ちていません
古銭ファンが増えるにつれ、
大宮ふとん店は布団屋なのか骨董品屋なのか判別不能になっていく。
麗奈が久しぶりに帰って来た日、レジを開けて絶句。
麗奈
「おばあちゃん……これ全部、現行じゃないお金だよ!!
どうして普通に使ってるの!?」
祖母
「だって、使えるんだよ?」
麗奈
「もう……なんで時代を超えてるの……」
父
「むしろ太子さんの札は喜ばれてるぞ」
麗奈
「そういう問題じゃない!!」
しかし巡礼者は写真を撮りまくり、SNSでもバズり続ける。
店内には相変わらず、
昭和の音、昭和の布団、昭和の猫、
そして——昭和の紙幣。
古銭ファン
「すみません、今日の“当たり”はありますか?」
祖母
「うーん、見てみるねぇ……」
ガラッ
(太子札、登場)
古銭ファン
「まさかのSSR(超スーパーレア)!!」
麗奈
「……うち、本当に布団屋なんだよね?」
祖母
「そうだよ〜。お金は、たまたま古いのがあるだけだよ〜」
客
「いや、たまたまの量じゃない!!」
こうして大宮ふとん店は、
“令和に現役の昭和貨幣ガチャ店” として伝説的存在になった。
そして今日もレジの引き出しには、
歴史がぎゅっと詰まっている——
いや、詰まりすぎている。




