大宮ふとん店 “恋愛成就のいんすたバエ”伝説 ―昭和の軒先に、なぜか恋の神様が棲んでいた件―
大宮ふとん店、軒先の“あのハエ取り紙”が恋愛成就の神アイテムと噂されている——
だが、この騒動の発端はもっとバカバカしい。
そもそもハエ取り紙が設置された理由は、
麗奈のダサいノボリを見た若者が「これインスタ映えするわ〜!」と言ったのを、
祖母が“いんすたバエ”という新種のハエのことだと勘違いしたからである。
祖母
「インスタばえ……? 新しいハエかい? そりゃ取らないとねぇ」
と言って、昭和式ハエトリガミを追加で2本ぶら下げた。
その翌日、軒先はすでに “ハエ取り紙の森” と化した。
そんな“いんすたバエ退治作戦”の真っ最中、
若者のSNSで奇妙な口コミが広がり始める。
「大宮ふとん店の軒先に触れると恋が叶う」
「店の前に立つと縁結びの波動が出てる」
いや、波動って何だ。
しかし、こういう噂は妙に燃える。
気付けば軒先には失恋中の学生、片思いの社会人、推し活帰りのオタクまで、
恋を求める者たちで大渋滞。
そして店番をしていた祖母に恋の相談が雪崩れ込む。
「告白したいんです!」
「うん、姿勢を良くするといいよ」
「彼の気持ちが分からないんです!」
「まずはちゃんと寝ることだよ」
「運命の出会いが……」
「外に出ないと、出会えないよ」
テキトー極まりない。
しかし、相談した若者が次々と恋に成功してしまう。
祖母はついに悪乗りした。
「もっと恋愛運を上げたい?
じゃあね、ベーカリー中村の“うぐいすパン”食べてごらん」
理由?
もちろんない。
ただ単に朝食にちょうど良いと思っただけ。
ところが、また成功事例が出てしまう。
翌日、ベーカリー中村には行列ができる。
修さん、パニックになりながら大量のうぐいすパンを焼く。
「なんで!? なんでうぐいすパンだけが!?
いや嬉しいけどなんでなんだ!?」
SNSのハッシュタグは
#大宮ふとん店
#いんすたバエ
#恋愛パワースポット
#うぐいすパンの奇跡
意味不明なカルテットが並び、修さんの頭が混乱する。
夕暮れ、みんなでお茶を飲む。
祖母、父、母、麗奈、そして何故か修さん。
修さん
「大宮さん、なんでこんなことになったんですか……?」
祖母は湯呑みを置いて、しみじみと言った。
「なんでって……
若い人が幸せになるなら、それでいいんだよ。
ハエだって、恋だって、寄ってくるものは拒まずさ」
父
「……おふくろ、深いんだか浅いんだかわかんねぇ」
母
「まぁ、悪いことじゃないしねぇ」
麗奈
「というか、おばあちゃん“いんすたバエ”まだ本物だと思ってるよね?」
祖母
「え? 違うのかい?」
全員(違うよ……)
こうして大宮ふとん店は——
“恋愛成就の軒先”という新たな称号を手に入れた。
昭和のハエ取り紙が、令和に恋をつなぐという前代未聞の奇跡。
そして、今日も祖母は“いんすたバエ”が来ないか見張っている。




